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それはかつての幻想

私は森の中を駆けていた。

アブラゼミの大合唱から察するに夏の盛りだろうが、すぐ横を川が流れているおかげか暑さなどは感じない。

木漏れ日の中ただ前に進んでいると、いつの間にか三人の子供が私の先を走っている。

気づけば自分の姿も子供の頃に戻っていた。


「恭ちゃん」

「恭くん」

「恭二」


先を駆ける三人から名を呼ばれる。

それは随分前に捨てた名だ。


活発そうな女の子が私の手を取り笑いかける。

それはとても眩しく、私が守りたかった姿だ。


「恭ちゃん!私、先に行ってるね!!」


彼女は青いドレスとアルコトリの杖を携え離れていく。

呼び止めることなどできない。

それは私が守りきれなかった後悔そのものなのだから。


「恭くん」


振り返れば長い髪のおっとりとした女の子が私に微笑みかける。

一つ上のその子は私達をまとめるお姉さんのようだった。

そして親友の恋人だ。


「あの子は前に進むばかりで危なっかしいの。あの子の後ろを守ってあげてね」


そう言った彼女は緑の軽鎧と神鋼のレイピアをボロボロにして、どこかへ飛び込んでいった。

その後ろ姿はどうしようもないほどに無力感を掻き立てる。


「恭二」


残ったのは二人。

親友と私。

彼は私を睨みつけている。

裏切った私を、怨嗟に燃える瞳で睨みつけている。


「この世界で生きると決めたお前が憎い。

二人を奪っていながら醜く同族で争い続ける彼奴等を庇うお前が憎い」


だが次の瞬間には焦点が定まらなくなり、表情が緩む。


「だからこそ最期がお前でよかった」


気づけば私の手にはオリハルコンの剣があり、それは彼を貫いてあまりに鮮やかな朱に染まっている。

その身から流れる赤は世界を侵食していき、全てが染まりきってしまった。

真っ赤に染まる世界、地に伏す親友の亡骸の傍らで私は天に願った。


「 」


私が発したはずの言葉は、音を為さずに消える。


そして声が


墜ちた。

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