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ゲセブ教

◎ゲセブ教(一神教)

 ソーラルド最大の宗教で、根源神アメノヌス・ヌ・ミルを崇拝対象とする。教義では、他の神々全てはアメノヌス・ヌ・ミルが地上に降り立つ際の仮の姿であると説く。

 教団の歴史は二〇五〇年前のミル・カ・サール古王国滅亡時にまで遡る。

 農村に暮らすケセフという農夫が突如、神懸かり、自らに降りた宇宙の誕生と万物の根源を司る創造神アメノヌス・ヌ・ミルの言葉を地面に書き始めた。これが『オキサア(エラローリア語で啓示の意味)』と呼ばれるものであり、後にこれを纏めたものがゲセブ教の根本経典である『聖典』で、オキサアに意味を当て嵌め解釈したものがゲセブ教の教典となっている『神言書』である。

 彼の噂を聞きつけたクルエン教の神官ラミカスと王家に仕えていた騎士ライアスは王都からはるばるケセフの住まう村に赴き、彼と対面した。ラミカスはケセフが文字を知らないと知ると、彼の記した言葉を神の奇跡と讃え、二人はケセフに帰依し、正当な神の代弁者であるとして王に引き合わせた。(しかし、クルエン教の歴史書では、聖ゲセブは王と会っていない、となっている。いづれにせよ、ゲセブ教はクルエン教を批判する過程で誕生したと考えられている)しかし、クルエン教の権威主義的な態度を批判したり、王国が滅びるという趣旨の発言を繰り返したことで不敬罪に問われて牢に幽閉された。

 彼は獄中でもオキサアを書き続け、やがて、洪水の発生を予言すると、周囲の態度が一変し、彼を慕う人々が集まっていき、やがて、小規模な信者団を結成した。

 しかし、そのことが原因でクルエン教から異端視されたケセフは、啓示に従って名をゲセブに改め、信者を連れてエラローリア大陸へと渡り、当てのない放浪を続け、最終的に現在の聖都ゲセブリアに辿り着き、取り憑かれたように数多くのオキサアを書き残して息を引き取ったとされる。

 ゲセブの死後、彼が書き残したオキサアや手紙はラミカスら信者の手によって編纂され、やがて、聖典として一冊の本に纏められた。それと同時に聖典を教典とした教団へと発展していった。

 なお、聖都ゲセブリアに保管されている『創世記』と『神系譜』と『戒めの書』の三枚のオキサアは、ゲセブ教の教義と後の布教政策に多大な影響を与えたとして、現在、エラローリア法王国の国宝に指定されている。

 総本山はエラローリア法王国の首都の一つでもある聖都ゲセブリア。

 神言書に記された神の言葉を重要視しており、崇拝対象は代弁者聖ゲセブの自筆とされるオキサアである。そのため、拝言教とも呼ばれている。

 オキサアは、各教区の拝言堂及び各地の拝言所にある厨子の中に安置されており、年二回、聖ゲセブが誕生した降誕の日と死去した昇天の日に開帳される。普段は、厨子の前に置かれたオミガリワと呼ばれる模本を拝んでいる。

 各地にあるオキサアはいづれも板に書かれており、大きさは様々で、この大きさでその地域の力がどの程度なのかを測ることが出来るとも云われている。

 オキサアの中でも最大のものは聖都ゲセブリアの大拝言堂に安置されている『大オキサア』とも呼ばれる『昇天の御言葉』である。大きさは幅三メートル、高さ二メートル三〇センチで、複数枚の杉板を組み合わせたものの上に顔料を用いて書かれている。元々は聖ゲセブの住居の板壁であったといわれており、伝承では昇天する直前に書いたと言われており、聖ゲセブの昇天からその後二千年の間に起こるとされる天災や事件などが書かれているとされている。

 ゲセブ教に於いて『昇天の御言葉』は、予言書であると同時に今なお、人々を照らし続ける神の生の声であり、神と人を繋ぐ窓でもある。

 それ故に『昇天の御言葉』は十二年に一度、或いは予言が的中した時にしか公開されず、普段は内陣中央に置かれた宮殿の中に安置されている。

 また、『昇天の御言葉』はオミガリワが存在せず、『神系譜』と『創世記』の二枚のオキサアをその代わりとしている。これら二枚のオキサアは、内陣手前の内々陣の宮殿に安置されており、その手前にはオミガリワが置かれている。また、内々陣の宮殿は、内陣へと続く入り口に掛けられた緞帳を挟むようにして置かれている。

 ゲセブ教徒は、一生に一度はゲセブリアを訪れるとされており、『昇天の御言葉』の開帳の際にはゲセブリアを目指して国内外から信徒がやって来るという。

  

 最高指導者は法王であり、その下に護法騎士団と呼ばれる政治の実権を握る軍事貴族の長である護法騎士団長と、法王の補佐役でゲセブ教内部の職務全般と重要な儀式の進行を担う三人の大伝言師長がいる。また、大伝言師長には、その下には補佐役として大伝言師が一人につき四人から六人配されている。

 法王を含むゲセブ教の聖職者達には、任期や定年は存在せず、基本的には終身制である。

 また、護法騎士団長とその下にいる副団長、及び全ての護法騎士にも任期や定年は存在せず、その地位は当主の第一子、或いはそれに準ずる者が継ぐ世襲制となっている。

 大伝言師長に就けるのは小伝言師長を勤めた者か、特に優秀な者の中から選挙によって選ばれる。また、補佐役である大伝言師の任期は五年で、五年に一回行われる選挙で落選した場合は、その任が解かれる。

 大伝言師を長く務めた者や特に優秀な者には小伝言師長の地位が与えられ、教区長、或いは幹部として地方教区に配属される。また、各教区内に置かれた拝言所には責任者として伝言師長が置かれている。

 エラローリア派に於ける地位は、法王>護法騎士団長、大伝言師長>護法騎士副団長、小伝言師長>護法騎士、大伝言師>伝言師長、卯下の猟犬>伝言師、一般兵の順である。

 現在の法王はグレイシア一五〇世で、史上最年少の一一歳で即位しており、身分を問わず分け隔てなく接することから信者から崇敬を集めている。

 宗教施設の呼称は、各教区に於ける布教活動の中心的な役割を担う施設を拝言堂(中央教区のみ聖堂)と呼び、それ以外の各地に点在する小規模な施設を拝言所と呼ぶ。また、拝言堂には各教区を統括する支部が存在する。

 

【ゲセブ教の変遷】

 元来、ゲセブ教は単一神教であり、偶像崇拝を否定していた。これは、多神教であったクルエン教に対する反発としてそうなったわけだが、ゲセブ暦四八六年に教主グレイシア一二世の実弟であるアトモスによって、ゲセブ教がエラローリア王国の国教に定められると、徐々に柔軟な態度をとるようになり、神像も作られるようになっていった。これは、布教活動の効率化と王国側の植民地政策によるもので、アメノヌス・ヌ・ミルは姿なき神であったことから初期の聖像や宗教画には象徴として兎の姿が用いられるようになった。これはゲセブが傷ついた兎を助けたことをきっかけに神懸かりを起こしたという逸話に基づいており、後に兎は神の遣いであると解釈されるようになったからである。

 やがて、神学者スジャク・ホルチによって、他の宗教の神は全て創造神アメノヌス・ヌ・ミルの仮の姿であるというホルチ神論(異神同一論)が著されると、ゲセブ教は習合神教として急速に勢力を拡大していった。ホルチ神論では全ての神はアメノヌス・ヌ・ミルの仮の姿であると定義されており、他の神を拝むことがアメノヌス・ヌ・ミルを拝むことと同じ意味を持つとされた。また、この頃から他宗教の神の姿を借りた神像や宗教画が数多く作られるようになった。このような考えの背景には、ゲセブ教の勢力拡大を狙う教団側と植民地化を容易に進めようとする王国(のちに帝国)側の思惑があり、異教を弾圧するのではなく、それを利用しようという意図があったためであり、事実、この政策以降、植民地化に伴う戦が激減し、短期間で人類史上類を見ない大帝国が成立している。

 しかし、帝国側は強大な権力を持った教団を警戒し始め、やがて、小さな対立が起き始めた。ゲセブ暦一四〇〇年にエラローリア帝国内で内乱が起きるとそれに乗じて当時の護法騎士団長であったフリック・アスターが教主を担ぎ上げ、教主を中心とするエラローリア教主国の建国を宣言。その後、暗黒時代とも呼ばれる一二五年にも及ぶ混迷の時代を経て、ゲセブ暦一五二五年にエラローリア法王国が成立。同時に最高指導者の呼称は法王へと変わった。

 同時に教団側は護法騎士団の力が強まることを恐れ、当時エラローリアに滞在していた魔法学者アレッサンドロ・メル・ヌーリスを庇護し、彼の開発した『魔術』を神からの贈り物である『ギフト』と定め、ゲセブ教の宗教行事に取り入れた。これは護法騎士団に対抗しうる戦力を得ようとした結果だったが、残念ながら失敗に終わった。

 これをきっかけにエラローリアでも魔法学が盛んになり、今日の青色圏の礎を築くに至ったのである。 

 エラローリア法王国成立によりホルチ神論に基づく神像や宗教画が作られなくなったが、その代わりに登場したのが、法王や護法騎士団の正統性と権威を高めるためのプロパガンダとしての絵画や彫刻であった。(これらは諸国に伝播し、後にアルストゥリア王国からもたらされた最新科学と結びつき、ギルスで人文主義が花開くことになる)

 また、崇拝対象がオキサアと定められたのもこの頃で、これは、崇拝対象を統一することで宗教国家としての基盤を盤石なものにするという狙いと偶像からゲセブが残した神の言葉、すなわち姿なき神の崇拝への転換があった。これ以降、他の神の姿を借りた神像や宗教画は姿を消し、代わりにゲセブリア聖堂で保管されていたオキサアが各宗教施設に安置されるようになり、各地の宗教施設名も拝言堂や拝言所に統一された。また、一般信徒の間に神言書を重視する動きが広まっていったのもこの頃である。

 ゲセブ教に魔術が取り入れられてから数年後、突如として、魔術師と呼ばれる強い力を持つ者達が現れるようになった。

 その強大な力故に迫害も検討されたというが、他国に流れてしまっては脅威になり得ると判断され、魔術師で構成された法王直属の部隊である卯下の猟犬が結成された。これをより組織的に編成し直したのが教義警備隊である。

 

【ゲセブ教教義】

 アメノヌス・ヌ・ミルは、万物の始まりであり、その中心である。この世のあらゆる神々は、アメノヌス・ヌ・ミルが地上に降臨された時の仮の姿であり、その真なる御身は直視すら許されぬ尊きお姿であり、我々は、代弁者聖ゲセブが残された御言葉をと仮の御姿を通じて神を知覚し、伝えられた数多くの言葉を戒めとして日々、祈り、暮らさなければならない。

 

【戒律】

【リアス(厳格な戒律)】

1.生き物を殺めてはならない。また、そう思ってもならない。

2.人を傷つけてはならない。また、傷つける言葉を発してもならない。

3.物を盗むなかれ。

4.嘘をついてはならない。

5.神の言葉に背いてはならないし、それを疑ってもならない。

6.神の存在を疑ってはならない。

7.神を騙ってはならない

8.人の物を欲しがってはならない。

9.朝起きた時、神に感謝し、祈りを捧げなければならない。

10.食事の時、神に感謝し、祈りを捧げなければならない。

11.酒を飲んではならない

12.偶像を拝んではならない

13.人を騙してはならない


【礼拝の仕方】

 ゲセブ教の礼拝は、一日の始まりである起床後に一回行うことになっている。

 そのやり方は、まず、神言書を額に当てながら神への祈りの言葉を唱えた後に神言書を開き、一番最初に目にした言葉を口にするというものである。

 

【宗教儀式】

 月の初めに当たる日と、年始に教会で大規模な集団礼拝がある。これは、その月、その年を表す言葉を神から授かる儀式である。また、年末には神への祈りと感謝を示す感謝祭が開催される。

 この他に生まれたばかりの子供に名前と共に魔結晶を与える祝福の儀や三歳と五歳と七歳に段階的に大きくした魔結晶を与えて健やかな成長を願うシイゴサと呼ばれる儀式が存在する。

 結婚式は伝言師立ち合いのもと、神への祈りと誓いの言葉を述べたあと、親族や友人などの近しい人達に料理を振る舞い、彼らの前で結婚式が終わった事を報告する。と、いうものである。

 また、葬儀は遺体を神言書と共に棺に納めた後、教会に運んで、伝言師による弔いの言葉が述べられ、神と故人に祈りの言葉を捧げる。最初は、伝言師のみで行い、その後に参列者全員で神と故人に祈りの言葉を捧げたあと、細かくした香木を額に当てて祈りの言葉を唱えたあと、香炉に入れて焚き、魂を天に送り届けた後、遺体を墓地まで運び埋葬する。(香を焚くのは魂をあの世に送るための道標を作るためである)

 

【教理】

 そして、代弁者聖ゲセブがこの世に書き残したオキサアに目に見えぬ神の御姿を見出し、それを崇め奉ることによって魂の救済と安寧を得ることができるのである。


【宗教施設】

 ゲセブ教の礼拝所は「拝言所」と言い、規模の大きなものを「拝言堂」と言います。前者は各市町村に一つづつ(都市部は地域ごと)あり、後者は首都や大都市、或いはゲセブ教の聖地にあります。

 また「聖堂」は聖ゲセブが昇天された地に立つ建物を意味し、一ヶ所しかありません。


【補足説明】

 ミル・カ・サール古王国は、王と神官で構成された支配階級が知識を独占しており、庶民は読み書きは出来ましたが、虐げられた生活を余儀なくされていました。

 そんな中、登場したのがゲセブ教の開祖とされる代弁者聖ゲセブでした。彼が書いたオキサアのうち、初期に書かれたものは当時の支配階級やクルエン教を批判する内容のものだったと伝えられています。そのため投獄されてしまいますが、洪水の予言を的中させたことにより注目されるようになり、クルエン教に不満を抱いていた神官ラミカスによってクルエン教に取って代わる新たな宗教勢力の象徴に祭り上げられてしまいます。

 これによりゲセブとその信者達は厳しく弾圧されることとなり、やがて、エラローリア大陸へと逃げることになります。

 また、この頃になるとゲセブは度々、神の姿を見たり、神の言葉を話したとされています。

 エラローリア大陸を当てもなく放浪した末にゲセブ達は今の聖都ゲセブリアに辿り着きます。そこでゲセブは亡くなる前に数百枚にも上るオキサアを書き上げます。その大半はいかようにも解釈可能で、意味の無い文字列だと云われていますが、後にこれに意味を当て嵌めたのが聖典であり、神言書です。

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