アキハール山脈特別自治区
◯概要
エラローリア大陸の最高峰であるアキハール山脈に点在するロアルス達の集落や祭祀場などを纏めた総称である。ゲセブ教圏にありながら独自の宗教が認められており、便宜上はフルビルタス王国に属している。
ロアルス達は、コターナ、ハリト、リキガーの三つの峰に集落を作って暮らしている。これらの集落は独立したコミュニティであり、それぞれに独自のルールが存在している。また、最も高いアキハールと呼ばれる峰には、鳥葬地と墓守りの一族が暮らす集落がある。
◯文化
アキハール山脈は、ロアルス達が風の精霊アキハールから与えられた約束の地であり、故郷であり、信仰の対象でもある。
彼らは、精霊信仰を基盤とした山岳信仰を持っており、亡くなるとその遺体はアキハール峰にある風の谷と呼ばれる一年中風が吹き荒ぶ荒涼とした地に運ばれ、鳥葬に臥される。
この場所が選ばれた理由は、彼らにとって風は魂を運ぶ天上の川であり、遺体を啄む烏は肉体と魂を運ぶ神の御遣いとされているからである。なお、鳥葬された遺体は火葬され、副葬品と共に風の谷の奥にある神殿に納められることになっている。この時に火葬を行うのはアキハールと呼ばれる墓守の一族であり、彼らは他のロアルスとは違い、赤い髪を持ち炎を操る。
風の谷は聖地であるため、よそ者の立ち入りが禁じられている。かつては無許可で立ち入ったよそ者は誰であれ、例外なく殺害される決まりになっていたが、現在は見せしめ程度の痛めつけに緩和されている。
また、風の谷に生息する鳥は、ロアルス達にとって魂を運ぶ聖なる鳥であるため、彼らの服にはお守りとしてその烏の羽の意匠が施されている。
◎暗殺者としての側面
ロアルスは古来より風魔法とその身体能力を生かして暗殺などの荒事を生業としてきた。
彼らは四、五歳の頃から暗殺者としての修行を始め、一五、六歳で最初の任務として暗殺を命じられる。これが無事に達成できれば、晴れて一人前と認められる。
仕える主君は集落ごとに異なっている。
この内、ハリトはフルビルタス王家や王国内の貴族を主君とし、コターナはゲセブ教の伝言師や護法騎士を主君としている。一方、リキガーは仕えるべき主君を持たず、ギルドと呼ばれる仲介業者を通じて仕事を受けている。依頼主とは直接会わず、依頼完了の報告や金銭のやり取りはギルドを通じて行われる。ただし、ギルドの取り分である手数料が上乗せされるため依頼料は、やや割高となっている。
また、ハリトは咎人病の蔓延とフェンゲの出現により、王国の依頼を受けて集落総出でフェンゲ討伐の任についており、現在では暗殺は行っていない。
◎生活
山に暮らすロアルス達は集団で出産、子育てを行うため、親兄弟の区別がない。また、ロアルスは、体に宿した魔素の量によって毛色が異なっている。この内、多くの魔素を持つ黒毛と青黒毛の者は山に残って暗殺者となるべく修行を行い、それ以外の者は山を降りるか、修行のための実験台として育てられることになる。
高地で暮らしているため、毛皮や羊毛で作られた隙間の少ない服や帽子を着て暮らしており、靴は滑り止めの鋲が打たれたブーツを履いている。
また、彼らは普段、農作業や毛糸織物などに従事しており、フルビルタス王国から行ける入り口では、街で売る特産品を商人や街で暮らすロアルス達に卸したり、商談が行われている他、部外者が集落に立ち入らないように監視している。
風が強いため農業や畜産は煉瓦造りの小屋の中で行っており、家畜の糞は燃料や肥料として再利用されている。
◯その他
暗殺、或いは諜報活動に従事するロアルスは、風魔法を応用した「変化の術」と呼ばれる魔法で変装することが通例となっている。これは、任務に支障が出るのを防ぐための手段であり、彼らが本当の毛色を見せるのは、仲間か、標的、或いは契約を結んだ者だけである。
契約とは、ロアルスとの間に主従関係を結ぶ特別な行為のことである。主に王位継承者や法王を含む高位の聖職者、或いは護法騎士を含む貴族やその子女の間で結ばれる事が多い。また、稀ではあるが、庶民や異世界であるイファラルドの住人と結ばれることもある。
契約を結んだ者は主君と呼ばれ、ロアルスを養う義務(契約の不履行が生じた場合には始末される)が生じるが、その対価として契約を結んだロアルスを自由に使えるようになる。
また、ロアルスは任務遂行時、他人に姿を見られてはいけない決まりになっており、姿を見た者はその場で口を封じられる。