この世界について
この世界の自然環境は地球とよく似ている。
ただ、違いを挙げるとすれば、それは《魔法》という概念と異なる三つの人種の存在だろう。
すでに述べたようにこの世界の自然環境は地球とよく似ている。海と陸地の割合はもとより、地震や台風などの自然災害などのメカニズムは地球となんら変わりはない。ただ、この世界ではそのメカニズムに中に魔法や精霊という概念が組み込まれている。もちろん、それらは科学的──この世界に於ける科学、ということに留意すべきではあるが──に説明は出来るものばかりだ。迷信じみたものや非科学的なことは一切ない。
しかし、まあ、それについては別の項目で語るとして、この世界の大陸は六つ。そこに大小合わせて無数の島々が存在している。現在の国家数は約二〇ヵ国。総人口は約五億七九〇〇万人。もちろん、きちんとした統計が出来ていない場合もあるから必ずしも合っているとは言いがたい。
さて、魔法について簡単に触れておく。
この世界の人々は等しく全ての魔法が使えるわけではない。後述する三つの人種それぞれ使える魔法が決まっているからだ。
なぜ、そうなっているかというと、それは神様が決めたからだ。もちろん、科学的な理由はちゃんとある。ただ、誰もその理由を解明しようとしない。それだけの話だ。
では、次は国の話だ。
現在、この世界は三つの勢力圏に分かれている。
まず一つは、科学技術と魔法を融合させた魔術と呼ばれる技術によって近代化を果たした《青灰色の国々》と呼ばれる勢力圏で、主な国はエラローリア法王国、フルビルタス王国、グロム王国の三カ国だ。これらの国はゲセブ教という宗教の勢力圏でもある。
次に、魔法や魔術を否定し、科学のみで近代化を果たした《灰色の国》と呼ばれる勢力圏だ。これは、ルネベネリア共和国、オルキス帝国の二カ国だ。ちなみにこの国は数十年前に勃発した世界大戦の戦勝国でもある。
そして、もう一つは魔法のみを使い昔ながらの生活を送っている勢力圏で、これらの国は《古い国》と呼ばれている。主な国はギディ王国、ギバー公国、ソラタス国の三カ国だ。
最後に人種だ。
この世界の人種は全部で三つ。もちろん、地域差はあるが、それらは細分化されずにひとまとまりで数えられる。本来なら骨格や皮膚の色などで分類されるが、この世界ではちょっと違っていて、使える魔法によって分類されている。
もちろん、魔法を否定した《灰色の国》では、骨格や皮膚の色、さらには種族固有の特徴を持って分類しているが、この世界の大部分は魔法を肯定し、その恩恵を受けている。
ここでは、魔法の種類で分類させてもらう。
◯ヒマルス
世界人口の約八割を占める人種のことで、創世神話に登場するアルセムとエハンという番の人間を祖先に持つとされ、回復魔法を使うことができる。
だけど、回復魔法は万能じゃない。かすり傷程度なら治せるが、古い傷や病気には効果はないからだ。もちろん、死人を復活させることも出来ない。だから、ヒマルスの医学は回復魔法の欠点を補う形で発展してきたという歴史がある。
外見や肌、それに髪の色は多様であり、暮らしている地域によって差異がある。
元々は、エラローリア大陸に住んでいたとされており、気候変動に伴う寒冷化で南下していき、約五〇〇〇年前にルネベリア大陸に於いて最初の文明であるミルカ文明を築いたとされる。
ミルカ文明は非常に高度な文明であったが、今から約二千年前に崩壊しており、その技術などは後の文明には引き継がれなかった。
その後、人々はいくつかの集団に分かれ、その一部が代弁者ゲセブに率いられてエラローリア大陸に渡り、エラローリア法王国の前身であるローリ王国を建国している。
◯ロアルス
世界人口の一割を占める人種。なお、ゲセブ教の高位聖職者である大伝言師、または大伝言師長たちは、ヲサンクと呼んでいる。
強靭な肉体と高い身体能力を持ち合わせている人種だが、基本的にはヒマルスと同じ外見をしている。
創世神話に登場するクラムスとマハンという番の人間を祖先に持つとされており、風や土の魔法を使うことができ、神話によれば、彼らの俊敏な動きやしなやかな身のこなしは風や大地の精霊の加護を受けているためだといわれている。
また、彼らは古くからその能力を生かして有力者に雇われる形で諜報や暗殺などといった表沙汰には出来ない裏の仕事を担ってきていたという歴史があり、それは今でも続いている。
ヲサンクとは「呪われた者」という意味の古代語で、それによると、悪戯が過ぎたために最高神から罰として『夜になると鳥の羽を持つ獣の姿になる呪い』を掛けられた、とされている。その真偽の程は定かではないが、事実、ロアルスは《月の無い夜》に鳥の羽を持つ狼の姿に変身することができ、彼らはこの姿の時に仕事をする。
ロアルスは、その体に宿す魔素の量に応じて毛色が異なっている。最も多くの魔素を持つ者は艶やかな黒い毛を持ち、黒毛と呼ばれ、次に魔素の多い者は青黒毛で、以下、青毛、青鹿毛、鹿毛と続く。色は黒ければ黒いほど魔素が高く、特に純色の毛色が尊ばれる。
黒毛と青黒毛の者は諜報や暗殺の任に就き、以外の者は農業や毛織などの一般的な産業に従事することになる。また、特別な許可を得た者以外は山を下りることを禁じられており、破った者は容赦なく始末されたという。(一部の集落を除く)
また、これらとは別に赤色の毛を持つ一族がいる。彼らは風や土ではなく火の魔法を操ることができる。彼らは山から下りる事はなく、ロアルス達の墓地である風の谷に暮らしながら葬送を司っている。
ロアルス達はアキハール山脈にある三つ峰に集落を作って暮らしている。集落ごとに仕える主人は決まっており、一番高い峰にゲセブ教に仕える者達が、次に高い峰に王侯貴族に仕える者達(現在は暗殺や諜報ではなく、フェンゲと呼ばれる怪物を狩るのに従事している)が、一番低い峰に商人や成金に仕えるか庶民に寄り添う者達が暮らしている。
また、これらの集落は立ち入り禁止となっており、許可なくして入った場合、命の保証は無いといわれている。
◯ギムウェリア
基本的にはヒマルスと外見上の差はないが、ごく稀に雪のように白い肌と銀色に輝く髪を持った者が生まれることがある。火と水の魔法を使う事ができる。
創世神話に登場するラピルリオとクハンヌという番いの男女を祖先に持つとされている。
なお、使用する魔法の多くは力の弱いものばかりである。ギムウェリアとはアルストゥリア語で「銀髪の人」という意味であり、これは最初に接触した者の外見に起因すると言われている。(ギム=銀、ウェ=髪、リア=人)