【最終話】48. 人目をはばからない恋人同士
「――と、言う訳で、ジョバンニ様は我がユルグ辺境伯領にいらっしゃいます!」
「まぁ! フレデリカ様、おめでとうございます!!」
女子会再び……だが前回とは打って変わってご機嫌なフレデリカに、ラウラ以外の二人はつまらなそうに髪の毛をいじっている。
「立候補しようと思っていたのに……」
「ふふふ、残念だったわね、パトリシア。貴女だけの男性を探してちょうだい! ジョバンニ様はあげられないわ!!」
得意気なフレデリカに少々苛立ち、アマンダが口を尖らせた。
「背中を押してあげたのだから、ジョバンニ様の同僚を私に紹介してください」
「しょ、紹介!? でもジョバンニ様はこれから、ユルグ辺境伯領で働くわけだから……紹介可能な新たな同僚……独身男性で強い男といえば……ハルフト?」
夜番もこなし、グリフォンに単騎で応戦可能なハルフト。
浮いた話を聞いたこともなく、まさに質実剛健。
未だ独身を守っている。
「ハルフトって、あの筋肉まみれの男でしょう!? 嫌よ、もっとジョバンニ様みたいな貴公子っぽい方にしてちょうだい!」
「アマンダ様、残念ですがそんな男性は我が領にはおりません。というより、先程から何ですか!? もっとお祝いしてくれても良いのでは!?」
フレデリカが反論すると、またしてもアマンダとパトリシアが面白くなさそうにプイッと顔を背ける。
「お祝いしたい気持ちはあるのですが、その余裕の表情に腹が立ってしまって……」
「アマンダ様、分かります! お姉様の勝ち誇った顔に、私も苛立ちを隠せません」
妙に意気投合している二人。
その横で、「私は心からお祝いしますよ! フレデリカ様、おめでとうございます!!」と微笑むラウラが天使に見えて仕方ない。
「ラウラ様……ありがとうございます」
どさくさに紛れてギュッと抱きしめると、その柔らかい感触にフレデリカは幸せいっぱい……だがなおも外野がうるさく騒いでいる。
「二人とも、そういうところよ! この可愛らしいラウラ様を、少しは見習ってください」
「可愛いだなんて……フレデリカ様ったら」
「お姉様より私のほうが、女子力は高いはずなのに!」
「ジョバンニ様の趣味が残念だった、というわけですね。逃した魚が悔やまれる……」
自業自得のアマンダはともかく、わいわいと大騒ぎの四人。
この後、コトのあらましを包み隠さず話すよう強要され、さらに賑やかな女子会になったことは、言うまでもない――。
***
それから一週間後。
颯爽と馬車から降りる姿を目にするや否や、女性陣から溜息が漏れる。
その視線の先には日差しを浴び、きらめく笑顔を振りまくフレデリカの想い人……白銀の貴公子の姿があった。
「ジョバンニ様、ユルグ辺境伯領へようこそ!!」
ユルグ辺境伯家と使用人に加え、視察に訪れた際に仲良くなった街の人々まで、勢揃いで出迎えてくれる。
「これから、よろしくお願いいたします」
「堅苦しい挨拶は不要だ!」
頭を下げるジョバンニの肩を嬉しそうにクルシュが叩き、ユルグ辺境伯夫妻とにこやかに挨拶を交わした。
「……フレデリカ、やっと会えた」
挨拶を終え、使用人の後ろに隠れていたフレデリカを見付けてジョバンニが歩み寄ると、恥ずかしそうにちょこんと顔をのぞかせる。
「お元気そうで、なによりです」
俯きがちに挨拶をするフレデリカを、ジョバンニはしばらく無言で見つめ、目の高さを合わせるようにして少し身を屈めた。
「あれからずっと、会いたくてたまらなかった」
優しく頭を撫でられ、フレデリカは俯きがちに頬を染める。
あのフレデリカがこんなに大人しく!?
ユルグ辺境伯家の皆が驚愕する中、「フレデリカは、どうだった?」とジョバンニは優しく問いかけた。
フレデリカはそろそろと視線を向け……小さくコクリと頷くと、ジョバンニが破顔する。
「ああもう、可愛いな君は!」
フレデリカの腕を引き、ジョバンニがギュッと抱き締めると、フレデリカは恥ずかしそうに身動いだ。
「好きだよ、フレデリカ」
突如始まるジョバンニからの猛攻に、腕の中でピシリとフレデリカが固まる。
会えた嬉しさも相まって我慢出来なくなったジョバンニは、フレデリカの頭に口付けた。
「……ずっと、君だけだ」
落ちてくる柔らかな声にフレデリカが顔を上向かせると、二人の視線が交差する。
「君が頷いてくれる日を、ずっと待っているよ」
着いて早々のプロポーズ。
そう告げるなり、愛おしそうに抱きしめるジョバンニの腕の中で、フレデリカは小さく「はい」と答えた。
「わ、私も、ジョバンニ様だけです……」
その言葉に、ジョバンニは一瞬驚いたように目を見開き……嬉しさを噛みしめるように、頬に力が入る。
顔を見合わせ、照れくさそうに微笑む二人。
ついに押し負けて、心を奪われた脳筋令嬢フレデリカと、迫る騎士ジョバンニ。
人目をはばからない恋人同士に、ユルグ辺境伯領は喜びに湧き立ち、祝福の声が二人を包み込んだ。
この後、ユルグ辺境伯でメキメキと鍛えられたジョバンニは、ついに夜番を任せられるほどに成長する。
戦う姿が堪らないと、ジョバンニが夜番に出るたびに領地の女性達が見学に訪れ、ご機嫌斜めのフレデリカが猛烈な勢いで討伐をするものだから、ユルグ辺境伯領の魔物は驚くべきスピードでその数を減らしていった。
魔物の襲来回数も激減し、穏やかな夜が増えていく。
相変わらずのジョバンニが隙あらば愛を語り、いつまで経っても慣れないフレデリカが逃げる素振りを見せつつ、その腕に閉じ込められて嬉しそうにしているのは――。
もう少し、あとのお話。
-- fin --
これにて完結です。
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