表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
つよつよ脳筋令嬢は押しに弱い ~空気を読まない騎士様が、所嫌わず迫ってくる件~  作者: 六花きい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/49

47. またしても少女は逃げ出した


 森に!

 一刻も早く森に帰りたい!!

 慣れた大自然の中で思う存分走って、このモヤモヤを解消したい……!!


 だが都合良く森などあるわけもなく、それではせめて自然に近い場所、と考えたところで、式場から走ってニ十分の距離にある、グレゴール侯爵邸の庭園を思い出した。


 あそこなら、木がいっぱいあったはずだ。

 もはや小さな森と言っても、過言ではない。


 そう自分を納得させてグレゴール侯爵邸にお邪魔し、「ジョバンニ様が、庭園に向かえと仰せです」とうそぶいて台車を小さく揺らすと、ほんのり白目を剥いたジョバンニが、まるで頷いているかのようにガクガクと首を縦に振った。


「ご覧ください、その通りだと頷いておられます」

「ほ、本当に!?」


 屋敷の者達は訝しみ、しばらく遠巻きにしていたが、いずれも納得してくれたようで庭園へと通してもらえた。


 実のところ、アルクトドゥスと単騎で戦ったフレデリカに恐れをなし、またジョバンニの想い人であることを知っているからなのだが――。


 心配そうに後ろを付いてくる使用人達を気にも留めず、庭園の奥に向かう途中で先程の一幕を思い出してしまう。


 すべてを無かったことにしてしまいたい……!

 フレデリカは半ばパニック状態で、膝を抱えてうずくまった。


「ど、どうしよう……!」


 右斜め三十度の角度で、大きな木に台車を立てかける。

 その上に座る形で、ジョバンニは気を失っていた。


 しばらくは目が覚めないだろう。

 そう思って安心していると、ギシリと台車が揺れた。


「フレデリカ」

「!? きゃああああああッ!!」


 目覚めたジョバンニが台車から降りると、フレデリカは弾かれたように後ろへ飛びすさる。


「あああの、じょ、ジョバンニ様、いつから気付いて……!?」


 ジョバンニが一歩近付くたび、フレデリカも呼応するように一歩後ろへと下がっていく。


「さ、先ほどは申し訳ありませんでした。その、つい手が出てしまって……」


 動揺し、あわあわと落ち着きを失くす姿は、不審者そのもの。

 ジョバンニは首を傾げ、ゆっくりとフレデリカに歩み寄った。


「もし良かったら、少し話をしないか?」


 一歩、また一歩近付くジョバンニの貴公子オーラに耐え兼ね、思わず逃げ出したくなったところで優しく腕に触れられる。


 そして、今――。

 少し座ろうと言われ、フレデリカは木の根元に膝を抱えて座っていた。


「なかなか連絡ができなくて、すまなかった」

「……」

「ゴルドッド商会での潜入調査で、パトリシア嬢の助けを借りてしまったことが情けなく……王太子殿下と父上に相談をして決めたことだ」


 一体何を決めたのだろう。

 フレデリカは緊張にゴクリと唾を呑み込んだ。


「正式に継承権を弟に譲ったんだ。王太子殿下の意向もあり、半年後に予定していた弟の結婚式を急遽切り上げ、このような運びとなった」

「継承権を譲った!?」

「手続き等で忙しく、連絡ができず申し訳なかった」


 フレデリカの驚きようが意外だったのか、ジョバンニはクスリと微笑んだ。


「どうせすぐに会えるのだから、驚かせたいと思う気持ちもあったんだ」

「すぐに会える?」

「うん、両親の承諾も得て、やっとすべての準備が整った。迷惑かもしれないが、この先ユルグ辺境伯領で暮らすことを許してほしい」

「そんな、許すだなんて……え? ユルグ辺境伯領で、暮らす!?」


 ジョバンニが辺境伯領で暮らすとは、どういうことだろうか。


「ユルグ辺境伯領は、実戦経験を積むにはうってつけだろう? クルシュから、『本気でフレデリカが欲しいなら、死ぬ気で鍛えろ』と言われたんだ」

「ええ!? お待ちください、ユルグ辺境伯領の騎士として転職するということですか!?」


 突然の移住計画に、動揺を隠せないフレデリカ。

 思わず身を乗り出して詰め寄ると、ジョバンニはすかさずフレデリカの肩を抱き、自分のもとへと引き寄せた。


「君を口説くには、うってつけだろう?」

「ひぃぃ、一体何を言って!? 私が他の方と結婚したら、どうされるおつもりですか!?」

「そうならないように、努力しよう」


 そう告げて、フレデリカの顔を手のひらで包むように上向かせる。


 柔らかな光を宿した白銀の瞳。

 大きく映り込む自分の姿を見ていると、フレデリカの胸の奥で、何かが温かく溶けていくようだった。


「君は意外と周りを気にするからな。憂いを取り除いた状態で、改めて申し込みたかったんだ。ユルグ辺境伯領での暮らしは慣れるまで大変かもしれないが、少しでも君の傍で過ごしたい」

「そ、そうですか……」

「ああ、そういえば連れ去られる前、何か嬉しいことを言ってもらった気がする。……よく聞こえなかったから、もう一度聞かせてもらえないか?」


 思い出すように告げ、ジョバンニがフレデリカを覗きこむように顔を近付けると、大人の色気が溢れ出す。


 本人を前に叫んだ先程の告白を思い出し、どうしようもなく恥ずかしくなったフレデリカは、火照った頬を両手で押さえた。


「いえいえ絶対に聞こえていました! だって赤い顔をしたジョバンニ様と、目が合ったもの!!」

「ん? そうだったかな?」

「そうですよッ!!」


 嬉しそうなジョバン二と、少し指先を伸ばせば触れそうなほどに近い距離。


「来てくれて嬉しかった。君にあんなことを言ってもらえるなんて、夢のようだ」

「ひぃぃ、やっぱり聞こえているじゃないですか!」


 優しく告げられ、腕の中でわたわたと慌てるフレデリカの頬に、ジョバンニがそっと口付ける。


 声も出せずに固まるその姿に、ジョバンニはプッと小さく吹き出した。


「例え駄目でも、少しでも君の傍にいたかったんだ」


 どうしても君を諦めたくなかったんだと囁かれ、フレデリカは嬉しさに目頭が熱くなる。


「駄目なわけ、ないじゃないですか……」


 もう、自分の気持ちを誤魔化せない。

 必死でそれだけ口にすると、ジョバンニに力いっぱい抱きしめられた。


 だめだ、恥ずかしい……。

 いつもの強気が嘘のように、握りしめた指先が恥ずかしさに震える。


 ジョバンニはそんなフレデリカに気付き、フレデリカの指先を解くように指を絡めると、手の甲に優しく口付けた。


 そのまま、ゆっくりと二人の距離が縮まっていき――。


 フレデリカの目が、何かを捉えた。


「?」


 台車で運ばれたジョバンニを案じ、息を殺して見守っていた使用人達の身体の一部が、茂みからはみ出している。


 皆一様にゴクリと息を呑み、身を乗り出して嫡男の恋の行方を見守っていた。


「ジョバンニ様、ちょっと待、お待ちください。人が……」


 一連のやり取りをすべて見られていたのかと、フレデリカは顔から火を噴き出しそうになる。


「気にする必要はない」

「いや、気にします! 私が気にしますから!!」


 相変わらず空気を読まない男ジョバンニ。

 本日もまた、人がいても気にもせず、所嫌(ところかま)わず迫りくる。


「ちょっと待……ッ!! ええい、待てと言ってるでしょう!!」


 気にも留めず、続行しようとするジョバン二を拒むように腕でグイっと押すと、フレデリカはそのまま全速力で逃げ出した。


「フレデリカ! すぐに会いに行くから!」


 とても追いつけない思ったのだろう、後ろからジョバンニが声を掛けてくる。


 顔を赤らめつつ頬が緩みっぱなしのフレデリカは、グレゴール侯爵邸の高い外壁を駆け上り、そのまま飛び越えるように姿を消したのであった。






(こぼれ話)

結婚式が終わり、人がまばらになった式場に戻って、クルシュを探すフレデリカ。


フレ「お兄様! 帰りも転移魔法で送ってください!」

父「クルシュは先程帰らせた。……お前は馬車だ」

フレ「えっ?(嫌な予感)」

父「色々と積もる話を聞かせてもらおうか……」


馬車に乗る父娘。


父「で、話はまとまったのか?」

フレ「はい、もちろんです!」

父「……そうか」


ユルグ辺境伯はゆっくりと目を瞑り、そして嬉しそうに口元を綻ばせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ