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つよつよ脳筋令嬢は押しに弱い ~空気を読まない騎士様が、所嫌わず迫ってくる件~  作者: 六花きい


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43/49

43. 人生初めての女子会は、無惨にも強制終了となりました


 パトリシアは怒っていた。


 骨折で行けなかった護衛任務の途中、なんとグレゴール侯爵邸で、それはそれは素敵なお食事会が開催されたらしい。


 しかもイケメン王太子までお忍び訪問した挙げ句、フレデリカが見染められ、口説かれるという楽しそうな追加イベントまであったらしい。


「いつもお姉様ばっかり、ズルい! 私なんて出会う機会もないし、緋の目を持つだけで敬遠されちゃうし、もう駄目です」


 夜の女子会を開催し、綺麗なお姉さん令嬢二人に囲まれて、パトリシアは旬の情報をもりもりゲットしていたのだが……。


 そんな楽しそうな事態になっていたとは!

 まったくもって羨ましい限りである。


「ぐぎぎ……」

「パトリシア様はまだまだお若いから、これからですよ!」


 まさかの情報にギリギリと涙目で歯噛みしていると、頭の良さそうなほうのお姉さん令嬢ラウラが、ギュッと抱きしめてくれた。


 甘えん坊で、暇さえあれば誰かに構って欲しい、末っ子気質。


 もちろんフレデリカにもギュッとされたことはあるのだが、こんなにフワフワじゃなく、筋肉質な上に力が強くて痛いだけだった。


 これはなかなかに良いモノだ、とパトリシアが内心ほくそ笑んでいると、続けてアマンダもフォローしてくれる。


「それにほら、可愛い上に『強いご令嬢』なんて滅多におりませんよ? パトリシア様を必要とする素敵な男性はきっといらっしゃいます!」


 手を握られ、力説しながら身を乗り出すアマンダから、なんだか良い匂いがする。


 すべすべとした滑らかな肌。

 フレデリカに手を握られた時は、硬くて剣ダコだらけの上に力任せに引っ張られ、腕がもげそうになったのに。


 ユルグ辺境伯家のメンバーに愚痴やワガママを言うと、大抵は気合と体力勝負の根性論で論破されるが、これはなかなかに素晴らしい。


「くふふ、我が世の春……」


 先ほどの怒りはどこへやら、ちやほやされ、幸せな気持ちでパトリシアは目を閉じる。


 今日は魔物も出ないし夜更かししちゃったから、このまま綺麗なお姉さん達に囲まれて、一緒に就寝タイムも悪くない。


 すっかりご機嫌でそんなことを考えていると、慌てた声が耳に届いた。


「え!? パトリシア様、お身体が……!」

「お身体?」


 ラウラの切羽詰まった声に、パトリシアは重くなってきた瞼を持ち上げる。


「きゃああ、大丈夫ですか!? こ、この光はなんなの!?」

「んん? 光?」


 今度はアマンダの驚愕する声。

 自分の掌を見ると、なにやら淡く光っている。


 ペタンと座るパトリシアの下には、見たことのある青白い揺らめきと魔法陣。


 思い当たる犯人は、一人である。


「お二人とも、巻き込まれますので私から離れてください」


 緊急事態ですね、お兄様。


 パトリシアは、ラウラとアマンダにベッドから離れるよう指示を出し――そして、立ち昇る煙と共に、魔法陣へと吸い込まれていった。



 ***



 クルシュとフレデリカの視線が、素早く交差する。


「お兄様、何を呼ぶ気ですか!? グリですか?」

「駄目だ。地下で暴れられたら制御しきれない。下手したら大男もろとも、生き埋めだ」


 斬りかかる衛兵を軽くいなしながら、フレデリカは矢継ぎ早にクルシュへと問いかけた。


 ジョバンニを助けに行きたいが、何かを召喚するつもりなら、迂闊に動かない方が良い。


 ハルフトとユルグ辺境伯は今日の夜当番。

 ノーラ夫人なら一撃だが、呼ぶにはクルシュの魔力が不足している。


 実はかなり腕が立つジョバンニ……正統派の騎士と言えば聞こえはいいが、綺麗に型にハマっているため、どう見ても実戦慣れしている大男とは相性が悪かった。


「迷っている時間が勿体ないので、魔術師を斬る許可をください。私がサポートに入ります!!」


 敵味方の判別が付かないのか、魔術師は見境なく攻撃を始めている。


「早く! 長引けば長引くほど、ジョバンニ様が危険です!!」

「そんなことは分かっている! だが召喚するなら、大男を攪乱できるほど変則的で、且つ力任せに戦える野生の猛獣みたいな……」

「なんですかその条件は!?」


 再びクルシュとフレデリカの視線が交差し、そしてユルグ兄妹は一人の少女を思い出す。


「いでよ、パトリシアァァーーッ!!」


 両手を天に掲げ、ヤケクソで叫ぶクルシュ。

 輝きを増した魔法陣から、寝間着に身を包んだ可愛らしい少女が浮かび上がる。


 素早く周囲を見回し、状況を把握した次の瞬間、クルシュの防護壁を割ろうと取り囲んでいた一人の衛兵を掴むと、大男に向かって放り投げた。


 ジョバンニと重ねていた剣を引き、大男は後退り警戒するようにパトリシアへと目を向ける。


「なんでお前達はすぐ人を放り投げるの……?」


 呆れ交じりのクルシュの言葉に、フレデリカはそっと目を逸らす。

 切羽詰まった状況を意にも介さず、パトリシアは脆くなっていたクルシュの防護壁を拳で割った。


 防御壁の割れ目から腕を突っ込み、クルシュの頭を鷲掴むと、グリグリと威嚇するように圧し潰す。


「なんかすごい悪口が聞こえた気がする」

「きッ、気のせいだパトリシア。ほら、あっちにジョバンニがいるだろう。来て早々すまないが、加勢してやってくれ」


 ジト目でクルシュを睨んだ後、パトリシアは落ちていた衛兵の剣を拾い上げ、大男の方へと走り出した。


 その間にフレデリカは周囲の衛兵を()ぎ払い、飛び掛かる魔術師の身体を投げ飛ばすように、思い切り地に打ち付ける。


 衝撃に気を失い、気絶した魔術師をそのままに、フレデリカは相対した衛兵達を次々に沈めていく。


 一方ジョバンニの身体を力任せに後ろに引いて、戦いに乱入したパトリシア。

 大丈夫かとフレデリカが様子を窺うと、鼻先スレスレを大男の剣がかすめたところだった。


「パトリシア危ないッ!! お兄様、私が行きますか!?」

「いや、パトリシアは実戦形式での対人戦に慣れたほうがいい。見守ろう」


 先ほどと同様、力任せに振り下ろした大男の剣を、パトリシアは拾った剣で受け止める。


 一瞬身体が沈むが、ぐぐぐ……とその剣を押し戻し始めた。


 その怪力は、ユルグ辺境伯夫人ノーラをも凌ぐ。


「んあ――ッ!!」


 パトリシアの叫び声と共に、大男の剣が弾かれ、そして懐に飛び込んだパトリシアはその腹部目がけて拳でキツイ一撃をお見舞いしたのである――。








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