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つよつよ脳筋令嬢は押しに弱い ~空気を読まない騎士様が、所嫌わず迫ってくる件~  作者: 六花きい


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41. 際限なく魔力を取り込む『大きな器』


 貯蔵庫の奥にある鍵のかかった部屋の中。

 雨上がりの腐葉土に、獣を思わせる生臭さが交じったような、不快な臭いが辺りに充満する。


 リーダー格の大男は横抱きにしていた女性を、中央にある祭壇らしき大理石の上へと降ろした。


「さっさと始めろ」


 仰向けに寝かせた女性の、鎖骨の間辺りだろうか。

 こぶし大の赤黒い魔石をそっと乗せる。


 ぐったりとして動かない女性をそのままに、指示を出した大男は祭壇を離れ、腕を組んで壁にもたれた。


(お兄様、もしかしてあの女性は魔力の器がある『依代』ですか?)

(恐らくな。祭壇の周りに薄っすらと魔法陣が見える。魔石に宿る魔力を、あの女性に取り込む気だろう)


 クルシュ、フレデリカ、ジョバンニの三人は、少し距離を置いた柱の陰でヒソヒソと言葉を交わす。


 認識阻害と防音壁……クルシュの魔力消費量は二倍だが、この二つが正常に起動していれば、余程のことがない限り気付かれないだろう。


(どうしますか? 攻撃しますか?)

(待てフレデリカ、まだ早い。ジョバンニ、状況によっては認識阻害と防音壁を解くが、それでも大丈夫だな?)

(大丈夫だ、問題ない)


 魔術師と思われる小柄な男が、祭壇を囲む魔法陣に向かいゆっくりと両手を広げ、小さく何かを唱え始める。


 薄暗い地下室で、魔法陣からゆらゆらと陽炎のように、赤紫色の煙が立ち昇った。


(お兄様、もう止めに入るべきでは!?)

(まだだ。後で検証するためにも、魔法陣の起動方法を確認したい)

(そんなことを言って、手遅れになったらどうする気ですか!?)


 赤紫色の煙がとぐろを巻くように祭壇に絡み付き、女性の上にある魔石へと吸い込まれていく。


 魔法陣が完全に起動し、床に書かれた文字が浮かび上がるように女性を取り囲んだ。


(ダメです、もう待っていられません!! 間に合わなくなりますよ!?)


 何が起きているのかは分からないが、飛び跳ねるように女性の身体がビクリと動く。


 女性の身の安全よりも、魔法陣の解明を優先しようとする男性陣に痺れを切らし、フレデリカは背中の大剣を抜き、魔術師に向かって飛び出した。


「ここは助ける一択でしょう!!」

(あの馬鹿、また考え無しに!!)


 慌てたクルシュの集中力が途切れ、認識阻害と防音壁が解ける。

 赤紫色に照らされて、フレデリカの姿が露わになってしまった。


「誰だ、侵入者かッ!?」


 大男が叫び、瞬時に剣を抜きフレデリカへと斬りかかる。


 フレデリカは一瞬打ち合う素振りを見せたが、横凪ぎにされた剣をかいくぐり、魔法陣に向かって走り出した。


 後を追おうとする大男の前に立ち塞がるようにジョバンニが走り込み、邪魔だとばかりに振り下ろされる重い剣を受け止める。


 硬質の鉄が激しく打ち合い、薄ぼんやりとした地下に火花が散った。


 周囲の喧騒をものともせず、なおも魔術師は一心不乱に何かを唱え続ける。

 その時、魔石が天井高く浮かびあがり、真下にある女性の胸元に向かい一筋の光を発した。


「駄目だ、間に合わない!」


 祭壇に横たわる女性の身体が、下から何かに押されるように大きく弓なりに()()()始める。


 フレデリカは何かないかと辺りを見回し、進行方向にいる魔術師に目を留め――そして、全速力で突っ込んだ。


「う、うわぁぁぁあああ――ッ!?」


 猛スピードで迫り来るフレデリカが突如視界に飛び込み、魔術師は恐怖に叫ぶ。


 フレデリカはその襟首をつかみ、祭壇の上にいる女性に向かって、スライドさせるように魔術師を投げ飛ばした。


「うおおおおッ!?」


 ドガッと音を立てて、女性が魔法陣の外へと弾き飛ばされる。


 入れ替わるように魔術師が祭壇の上をスライドし、その瞬間、浮かび上がっていた魔石が激しく光を放った。


 先ほどの女性とは比にならないくらい……人の身体とはこんなにも弧を描くのかと疑問に思うくらい、魔術師の身体がビクビクと震え、激しく()()()


 そして、吸い込まれるように魔石は消え、魔術師は祭壇の上でぐったりと動かなくなった。


「おいおい、ちょっとマズい雰囲気だぞ」


 魔法陣を起動できるほどの大きな器が『依代』となった場合、魔法陣自体を無効化しない限り、魔石に宿る魔力は際限なくその体内へと流れ込む。


 ぐったりと横たわる女性と自分自身に防御壁を張った後、クルシュは魔法陣がはっきりと見える場所まで近付いた。


 シュウゥゥゥ……と空気が抜けるような音が魔術師から聞こえる。


 嫌な予感に目を向けた次の瞬間、倒れていたはずの魔術師が跳躍し、瞬きほどの時間で部屋の隅へと移動した。


「フレデリカ、僕はこの魔法陣を無効化するから、お前はアイツを何とかしろ」


 四本脚の獣の如く両手両足を床につき、毛を逆立て警戒する猫のように、フレデリカの様子を窺っている。


 クルシュは深く息を吸い込み、宙に浮きあがった赤紫色の魔法陣に向かって手を伸ばした。


「くそ……ッ、随分と()り組んでいるな」


 魔法陣の内部に組み込まれた大量の術式が、浮かび上がっては消えていく。


 かなり古いもののようで、難解な方程式がさらに幾重にも絡み合い、わずか数十秒でクルシュの息があがってくる。


 じわりと汗がにじみ、魔力が抜けるたびに身体が鉛のように重くなっていった。


 それでもひとつひとつ丁寧に紐解き、上書きをしていかなければ相殺できない。


「フレデリカ! 相殺するまで自力で頑張ってくれ!」


 目にも留まらぬ速さで飛び掛かり、剣を避けながら攻撃してくる魔術師に、フレデリカは瞬時に応戦する。


 やはりフレデリカを連れて来て良かった。

 魔物慣れしているフレデリカにとっては、そこまで難しい相手ではないだろう。


 心配なのは大男……チラリと横目で確認をすると、少し押されてはいるが、ジョバン二もほぼ対等に打ち合えている。


 死ぬ気で鍛えろと言ったのが功を奏したのだろうか。


 しばらくは問題なさそうだ。

 さて集中するかと再び魔法陣に向き直ると、騒がしい音が地上にまで届いたらしく、バタバタと複数の足音が階段を駆け下りてくる。


 面倒臭いことになったなと溜息を吐いた視界の端に、ゴルドッド商会の衛兵達の姿が飛び込んできた。







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