40. そして、扉が閉じられた
陽が落ちる頃、ゴルドッド商会の敷地に、王都からの荷馬車が乗り入れる。
認識阻害の魔術により外から姿が見えなくなった三人は、荷馬車からそっと降り、ジョバンニを先頭に急ぎ足で倉庫へと向かった。
すべての積み荷が倉庫へ運ばれ、その後仕分けされて地下貯蔵庫へと格納されるらしく、作業員達が忙しなく行き来をしている。
(二人とも、ここで待っていてくれ)
倉庫の南側に回り、ジョバンニは立ち止まるよう二人に示唆した。
貯蔵庫の鍵は厳重に管理されており、事前入手ができなかったため、内部に潜入している者と落ち合い、鍵を開けてもらう必要がある。
老朽化しサビついた窓縁に、ジョバンニが小石を六個積み上げた。
それが合図だったのだろう。
気付いた一人の作業員が歩み寄ると、積み上げた石を崩し、三個ずつの小さな山を二つ形作る。
(彼が内通者だ。ついて来てくれ)
台車を引く作業員の後に続き、建物内部へと潜入する。
受付を経て、しんと静まり閑散するホールに到着した。
(最奥の部屋は立ち入り禁止となっています)
姿の見えぬ三人へ、作業員がささやくように告げる。
(王都からの荷物量が多く、仕分けに時間がかかるため、あと半日は誰も来ないはずです)
地下へつながる階段の扉を開け、作業員が扉のドアノブに細い糸をくくりつけた。
(鍵は開けておきます。閉められると中から扉を開けることができません)
(なるほど……それは気を付けねばならないな)
(問題なく脱出できた場合は、糸を外してください)
作業員に続いて三人は階段を降り、地下貯蔵庫へと進んでいく。
陽の光が入らず閉めきりとなっているからか、ジトリと湿った空気が肌にまとわりついた。
(ジョバンニ、認識阻害を解いて防音壁に切り替えたいんだけど、いいかな?)
(確かにそうだな。足音が響きそうだ)
誰もいないため見られる心配はないが、音が反響して外に漏れ聞こえる可能性がある。
クルシュがパチンと指を鳴らすと、ジョバンニを起点に皆を囲む形で、防音壁が四方へ広がった。
(それでは、私はこれにて失礼いたします。また後ほど伺います)
(ありがとう。とても助かった)
持ってきた荷物を地下貯蔵庫へと格納し、作業員は地上階へと帰って行く。
ロウソクを燃やすと蝋の匂いが残るため、扉が閉まる音を合図に、クルシュが再度指を鳴らした。
突如現れた青白い炎は陽炎のように揺らめき、地下の暗闇を照らしだす。
(相変わらずクルシュはすごいな)
(いやぁ、そんな嬉しいことを言ってくれるのは、ジョバンニだけだ)
(お兄様もう少し明るくなりませんか?)
(ほらな、うちの妹達はいつもこんな感じだ)
密やかに笑いを漏らしたジョバンニにクルシュは愚痴を言いながら、三人は慎重に辺りを調べ始めたのである。
***
(これといって怪しい物はありませんね……)
手分けして半刻程探したのだが何も見つからず、フレデリカは困ったように口を開いた。
一時間以内に連絡がなければ待機部隊が突入するため、早めの判断が必要となる。
(ジョバンニ、立ち入り禁止となっている最奥の部屋もできれば入りたい)
(一般の作業員は入れない場所のようだが、行ってみて、無理そうならすぐ引き返そう)
考えられるとしたら、残るは最奥の部屋。
重厚な扉に、頑丈そうな錠前がかかっている。
(クルシュ、どうだ開けられるか?)
(可能だが……待て、静かに)
遠くに足男が聞こえ、人の気配を察知したクルシュが炎を消した。
負担が大きいが止むを得ず、認識阻害の魔術を重ね掛けする。
「なんだ? 鍵の閉め忘れか?」
じっと身を潜めると、地下通路へ続く階段から二つの足音が聞こえる。
貯蔵庫へと降りてきたのは、先日第一ポイントで襲撃をしてきたリーダー格の大男。
腕にはぐったりとした若い女性を抱いている。
そしてもう一つの足音は、ローブを身に纏った小柄な男だった。
貯蔵庫の荷物には目もくれず、まっすぐに最奥の部屋へと歩いてくる。
ガチャリと錠前が開き、ギィ……と鈍い音を立て、ゆっくりと扉が動く。
(まずい、中に入ってしまうぞ!?)
慌てたクルシュの横で、フレデリカが脇にあった荷物を蹴飛ばすと、ガラガラと音を立てて崩れた。
突然の物音に警戒し、大男は女性を腕に抱えたまま、剣を抜いて荷物のほうに近付いて来る。
(お兄様、ジョバンニ様、今です!)
その隙にさささと移動し、フレデリカ達は扉の隙間から滑り込むようにして、侵入した。
「気のせいか……?」
「作業員が乱雑に積んでいたため、崩れたのでしょう」
大男は訝しそうに首を傾げながら、最奥の部屋に戻り――、そして、扉が閉じられた。
(荷馬車に乗り込む前)
ジョ「また会えたな。嬉しい限りだ」
フレ「……はい」
ジョ「元気にしていたか?」
フレ「……はい」
クルシュの陰に隠れて、「……はい」だけで会話をするフレデリカ。
対して押せ押せのジョバンニ……。
クル「ジョバンニ、たまには引いてみろ」
そっと耳打ちし、さてどうなることかと、クルシュは楽しげに荷馬車へと乗り込んだ。







