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つよつよ脳筋令嬢は押しに弱い ~空気を読まない騎士様が、所嫌わず迫ってくる件~  作者: 六花きい


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22. ユルグ辺境伯領の有識者会議


 ユルグ辺境伯邸、応接室のとある一角。

 本日夜番の夫妻に加え、クルシュとハルフト、長年家政を取り仕切っている執事トーマスの計五名による有識者会議が、深夜密やかに開かれていた。


 お題は勿論、保護対象である二人の令嬢についてである。


 内部犯の可能性が濃厚なため、王都から侍女や騎士は同行させず、すべてユルグ辺境伯領内から人員配置をするように、とのお達しであった。


 また、移送途中、()()()として襲撃犯を誘い出し、捕縛したいとのことで、護衛は三名までという厳しい条件まで付けられてしまった。


「襲撃されるとしたら、王都を出てすぐか、我がユルグ辺境伯領の手前でしょうね」

「順当にいけば、フレデリカが適任なんだがなぁ……」


 ユルグ辺境伯の言葉に、皆は顔を見合せた。

 冬が近いため頻度は落ちてきたが、それでも魔物は襲来する。


 さらに山から降りてくる可能性もあるため、領内の護りを手厚くし、令嬢達に付く手練れの護衛は二名までに留めたい。


 出来ればフレデリカを護衛に付けたいところだが、先日ジョバンニの一件でアマンダの名前を呟きながら目を血走らせていたため、一抹の不安が残る。


 下手をすれば自ら始末しかねないため、やむを得ず今回は護衛から除外した。


「となると、パトリシアとあともう一人か……」


 昼間、王都行きを熱望していたのはパトリシア。

 前回グレゴール侯爵家の夜会に行けなかったのが相当悔しかったらしく、絶対に行くと言い張り譲らなかった。


 パトリシアは遠距離戦で絶大な威力を発揮するが、接近戦はどうも心許ない。


 背中を守るのに相性がいいのはハルフトだが、興奮したパトリシアが敵を深追いしてしまうと、最悪一人で令嬢二人を護らなければならず、正直厳しいかもしれない。


「クルシュ、行けるか?」


 ユルグ辺境伯が問いかける。

 もう一人は、パトリシアを上手く扱いつつ、補佐できるクルシュが適任だろう。


 ……自信がなければ断ってもいい。


 ユルグ辺境伯家の人間はいつも死と隣り合わせのため、自身を過大評価せず、自分の力量を正確に推し測ることを、幼い頃から求められる。


 出来ない事を出来ないというのは、決して恥ずかしい事ではない。


「少々お待ち下さい」


 そう言って、クルシュは目を閉じた。

 前回の襲撃はリーダー格を含め五名。


 拐った後で全員が逃げ切る算段を付けているならば、前回以上の手練れを送ってくるかもしれない。


 クルシュは、パトリシアが戦線を離脱し一人になった時の状況を思い浮かべる。


「……そうですね、僕とパトリシア、二人で行きます」


 ただ移送すればよいのではなく、囮役もこなし、一つでも多くの情報を得なければならない。


「一般兵士用の弓と遠距離用の強弓を、各々ニ張。矢は二束ずつ、座席の下にお願いします」


 執事のトーマスが頷き、記録する。


「加えて、女性用の短剣を三本御用意ください。一本はパトリシアに。残りは御令嬢に一本ずつお渡しし、いざという時は戦っていただきます」


 クルシュの言葉に緊張が走る。

 だが最悪の場合を想定することが、いつだって彼らを助けてきた。


「王都の宿だと何が起こるか分からないので、一日早く王都へ向かい、グレゴール侯爵邸にお世話になるつもりです」


 ジョバンニなら快く受け入れてくれるだろう。

 彼なら何をもってしても、力になってくれるはずだ。


 今回、信頼できる中央貴族に出会えたことは幸運だった。


「よし、ではそれでいこう。トーマス、グレゴール侯爵邸に使いを出し、馬車と物資の手配を頼む」


 ユルグ辺境伯の指示に、トーマスは「承知しました」と一礼する。


 遠くで魔物襲来の警報音が鳴り響き、本日の夜番である夫人が顔を上げた。


 飾り紐を手繰り寄せ、椅子に立て掛けていた剣を手に取ると、そのまま窓から飛び降り、兵士達が騒がしく動き始めた方へ勢いよく駆けて行く。


 危険も死も、いつだって隣りあわせ。


 これが、自分達の日常なのだ。



 ***



 その数日後、クルシュ達の来訪を快く承諾する手紙と先日の御礼、そしてグレゴール侯爵領の名産品である織物がユルグ辺境伯宛に届いた。


「まぁ、なんて立派な……」


 織り込まれた美しい紋様に夫人のみならず、興味深々で集まってきた娘二人も、感嘆の声を漏らす。


 織物を手に取ると、何やら下にも包みのようなものがある。


 夫人は手に取り、口元を綻ばせてフレデリカに手渡した。


「フレデリカ! グレゴール卿からお手紙とプレゼントが届いているわよ」


 そういえば手紙を書くと言っていた。

 フレデリカは夫人の手から素早くもぎ取ると、こっそりと自室に向かう。


「あら? これはパトリシア宛ね?」

「私のもあるの!?」


 嬉しそうに眼を輝かせ、パトリシアが小包を開けると、木苺のジャムと瓶詰めのチョコレートが入っていた。


「やったぁぁぁ――!」


 喜びでピョンピョン跳ねるパトリシアを、自室に入り様ちらりと振り返り、フレデリカはドアの鍵をかける。


 果たし状的な矢文ならもらった事があるが、家族以外の男性からまともな手紙をもらうのは、生まれて初めてである。


 小包には剣につける可愛い飾り紐と、赤い宝石が嵌め込まれた髪留めが入っていた。


「わぁ、可愛い……」


 机の引き出しに大事にしまい、そのまま寝台へとジャンプする。


 緊張しながら封を開くと、男らしいゴツゴツした文字で、丁寧に綴られていた。


 一枚目は滞在中の御礼が。

 そして二枚目は、シンプルに一言だけ。


『君に、会いたい』


「~~ッ!?」


 なによもう、なんなのよ!?


 ベッドの上でのたうち回るフレデリカ。

 手紙を持つ手に力が入り、グシャリと音を立てた。






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