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つよつよ脳筋令嬢は押しに弱い ~空気を読まない騎士様が、所嫌わず迫ってくる件~  作者: 六花きい


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16. ユルグ辺境伯領のベルセルク


 城内のとある一角、魔物の解体所から青白い光が柱のように立ち上り、ドンと音を立てて揺れた。


「うわっ」


 魔物を解体していた作業チームは、慌てて机にしがみつく。


 地震とは違う魔力の圧が作業所を覆い、続けざまにズズ……と引きずるような音と共に青白い模様が浮かび上がり、何かが少しずつ姿を現していく。


「熊……?」


 二メートルを超えようかという大熊だが、頸部以外に損傷がなく、一突きで絶命したのが分かる。


 少し間が空き、続いてアルミラージ、バジリスク……ときて、また熊?


 青白い光は一層輝きを増すばかりで、止む気配がない。

 今日は、あと一体で業務終了のはずだったのに。


(もうこれ絶対フレデリカ様だよ)

(どれもこれも、急所一突きだし)


 作業チームの面々が、目線だけで会話をする。


「――深夜残業、確定だな」


 こんもりと山のように積みあがった魔物達(熊も含む)を目の前に、一同は溜め息をついた。



 ***



 都度起動すると時間がかかって効率が悪いから、転移用の魔法陣は開いたままにしておいて!


 可愛い妹に頼まれて、かれこれ半刻ほど解体所と魔法陣を繋げているが、絶え間なく魔力を送り続ける必要があるため、実は重労働である。


「フレデリカ、そろそろキツイ」

「ん?」

「いやだから、そろそろ」

「ん? ……駄目ね、雑音が五月蠅くて、全然聞こえないわ」

「お、おま、おまえぇぇ。絶対聞こえているだろうがぁッ」


 フレデリカは限界が近付いてきたクルシュにそう言い放ち、短剣の血を(ぬぐ)い、大剣に持ち替えた。


 量をさばくなら、大剣一択。

 トランス状態で愉しくなってきたのか、笑みを浮かべながら急所に剣を突き立て、次々と襲いかかる魔物をしとめては、魔法陣の中に投げ入れる。


 一方、参戦しようと剣を構えたジョバンニだったが、フレデリカの邪魔になりそうだと考えを改め、小型の魔物に的を絞って粛々と片付けていく。


 思っていたよりも実戦慣れしているジョバンニの様子に、感心感心とクルシュはすっかり親目線である。


 魔物も出尽くし、そろそろ終わりかと一息ついたところで、メキメキと木が砕ける音と共に巨大なオーガが現れた。


 オーガは皮膚や筋肉が厚く、矢が刺さっても致命傷になりにくい。

 かといって、頭を狙おうにも高さがあるので難しい。


「うおお、どうするんだフレデリカ!」

「やっと大物が来たわね!!」


 叫ぶクルシュを無視して、フレデリカは木々を飛び移りながら、オーガの顔まで一気に飛んだ。


 一閃、そのまま大剣を横凪にし、オーガの目を潰して視界を奪う。


「ギャアアアァ……ッ 」


 森中に響き渡るような咆哮を上げるオーガに怯む様子もなく、フレデリカは落ちざま、その右手首目掛けて、大剣を叩きつけるように振り下ろした。


 ゴッ、と音がして、オーガの右手首が地に落ちる。


「グガガアアァァアアッツ!!」


 怒りのあまり唾液を撒き散らしながら、ビリビリと空気を揺らし、くぐもった声で叫ぶオーガ。


 視界を奪われ怒り狂い、オーガは腕を振り回して周囲の木々を薙ぎ倒していく。


「ジョバンニ、僕達がいると邪魔になる。一旦離れよう」


 クルシュがジョバンニに駆け寄り、数十メートル離れた場所に転移した。


「だがしかし、彼女に何かあったら……」

「何かあってもそれは本人の責任だ。最優先すべきはジョバンニの安全。いざとなったら僕が参戦するから、ひとまず距離を取ろう」


 フレデリカを心配し臨戦態勢をとったジョバンニに、クルシュはきっぱりと言い切った。


 遠距離攻撃が出来る武器が、あるわけではない。

 戦おうにも、あの巨体ではさして役に立たない。


 自分の力不足に歯噛みするが、クルシュの言うとおりだ。


 悔しくて情けなくて、血が滲むほど拳を握りしめながら、ジョバンニはフレデリカの戦いを見つめた。


 薙ぎ倒される木々を避けながら、フレデリカはオーガの横に回り込み、地面に剣を突き立てる。


 そのまま走り抜け、足の指を切り落とした。

 腕を振り回していたオーガは重心を崩し、低い地響きを立てながら、地面に倒れこむ。


 地に沈むオーガの身体を駆け上がり、今度は左手首を切り落とすと、両手を失ったオーガは立ち上がれず、身体を起こそうとしては揉んどりうって倒れこむ。


 高さを奪い、視界を奪い、手を奪った。


 あとは、止めを刺すだけ。

 次の瞬間、息もつかせぬ速さでオーガの喉元に走り込む。


「終わりよ」


 小さく呟き、柔らかい喉を大剣で貫いた。

 頸動脈が切れたのだろう。

 血飛沫が噴水のように吹き上がる。


 舞い上がる土埃の中、大剣を手に佇むフレデリカはまるで狂戦士。


「さあ、これで片付いたわね」


 ユルグ辺境伯の狂戦士(ベルセルク)は、うっそりと微笑みながら、血飛沫に濡れた頬を拭ったのである――。



 ***



 城内の一角にある魔物の解体所から、またしても青白い光が立ち昇り、音を立てて揺れる。


 解体チームは、またかと顔を見合わせた。

 急ピッチで解体をしているが、それを上回るスピードで魔物が転送されてくる。


「うわぁあ――ッ」


 先週入ったばかりの新人が、転送されてきたモノを見て絶叫し、尻餅をついた。


「どうした!?」

「手が! 巨大な手がッ……あ、指? 指もッ」


 ああ、はいはい……。


 叫ぶ新人を尻目に、古参の作業員達は目配せし合い、いそいそと周囲を片付け、スペースを作り始める。


 オーガだ。

 オーガだな……。


 四メートル級だと?

 次は多分、本体が来るぞ……。


 またしても光の帯が立ち昇り、ズズ、と音を立てて、今度は喉を掻き切られた血塗れのオーガが、頭から浮き上がるように出てくる。


 ほらやっぱりね――!!


 古参の作業員達は、予想どおりの展開にガクリと肩を落とす。


「……ッ!? ………」


 長い舌を出して絶命しているオーガを真正面から見てしまった新人は、声にならない叫びをあげ――泡を吹いて、気を失った。




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