12. 子爵令嬢アマンダの聴取③
「う、嘘よ! そもそもユルグ辺境伯家の方々は、ほとんど領地から出てこないじゃない。出会う機会なんて無いはずだわ!」
情報通のアマンダはなおも食い下がる。
「んー、今までは確かにそうだが……先日グレゴール侯爵邸でちょっとした催しがあったのはご存じかな?」
それまでの丁重な物言いをやめ、人をくったような態度に転じたクルシュを、アマンダは鬼のような形相で睨み付けた。
「国境を守る要職として呼ばれ、我がユルグ辺境伯家も参加していたのだよ」
暴漢に襲われ、ちょうど邸内に引きこもっていた時期である。
王公貴族が招かれ、特別な夜会が開かれた話は、アマンダも耳にしていた。
よりによって、自分が参加できなかったその夜会で出会っていたとは!
「妹と話をしたという報告は受けていたが、その数日後、なんとジョバンニがユルグ辺境伯領に来訪されてね。ジョバン二から説明があったように、滞在中は妹と仲睦まじく過ごしていたようだ」
ユルグ辺境伯夫人からのご指名があったからだけれど。
宿を満室にして、無理やり滞在させたのだけれど。
実情は少し異なるが結果オーライ、家族公認の仲であることを匂わせる。
「そんな……!!」
呆然とするアマンダを、クルシュは鼻唄混じりで揶揄い始めた。
なお、同じことを妹達にやろうものなら一撃で沈められ、即終了である。
「うちのフレデリカは滅多に領地の外に出ないから、婚約者もおらず、そろそろ釣書を諸侯に送ろうかと思っていたところなんだが……まさかジョバンニが、我が妹を見初めるとは!」
大袈裟に喜びつつ婚約を匂わせると、アマンダはわなわなと震え始めた。
ああ、楽しい!
これまで聴取の度に、散々威張り散らされた仕返しである。
やられたらやり返す!
泣かさない程度にだ!!
どさくさに紛れてアマンダで遊び始めたクルシュに気付かず、ジョバンニは恥ずかしそうに続けた。
「ユルグ辺境伯領から帰った後もふとしたことで思い出し、こんなことは初めてで、俺自身もよく分からなかったんだが」
「そんな……」
「だがアマンダ嬢から、これからの人生を共に歩みたいという言葉を聞いた時、彼女の顔が思い浮かんだ。彼女が側にいてくれたら、どんなに楽しく幸せだろうと」
自分でも気付かなかったほどなのに、クルシュにバレていたとは恥ずかしい。
空気を読まない男ジョバンニは、アマンダを真っ直ぐに見つめ、居住まいを正した。
「実は今日、ここに来るのが嫌で堪らなかったんだ。婚約破棄後の君は、不遜な態度で他人を見下し、思い上がり、まるで人が変わったようだった。平民や身分の低いものを虐げ、地位を笠に着る君の姿はとても醜悪だった」
突如爆撃を投下し始めたジョバンニに、アマンダはヒュッと息を飲む。
先程のクルシュとは比にならない程の大型爆撃に、アマンダは勿論、クルシュと書記官もピシリと固まった。
そんな三人を気に留めることもなく、ジョバンニは頬を染め、アマンダにトドメの一撃を放つ。
「でも勇気を出して、ここに来て良かった……! ありがとう。君のおかげで自分の気持ちに気付く事が出来た」
笑顔で感謝を伝えるジョバンニ。
対して、クリティカルヒットを連続でくらったアマンダ。
ポキリと心が折れたようだ。
堪えきれず、顔を覆って項垂れる。
ここまでキッパリと断られたら、さすがに引き下がるしかないだろう。
聞きたい事もあらかた聞いたし、ここらが潮時だな。
……君に、幸あれ。
打って変わっておとなしくなったアマンダに、クルシュは本日の聴取終了を告げた。







