06話 警鐘 前編 (改)
二階にある僕の部屋の窓から、朝を告げる光が流れ込んでくる。その光が顔に当たったことにより、僕は寝ぼけ眼を擦りながら目を覚ます。
「あさ……かぁ。今日は出かけるんだっけ……?」
まだ起きたばかりで、はっきりとしない頭を動かしながら今日の予定を再確認する。
今日は僕の八歳の誕生日で……教会に行く日……。今夜はごちそうかなぁ。
と、今夜のごちそうを思い浮かべ始めたところで、窓のほうから友人のノックの音が聞こえてくる。
「ごめん、今開けるから少し待って」
窓の外から嘴でノックを続ける友人へと声をかけた後、窓を開いてあげる。すると、小さな友人は僕の上空をくるくると回った後に、定位置である僕の左肩の上へと降り立った。
「やあ、おはよう」
僕が手を差し出しながら、あいさつをすると元気のいい挨拶が返ってくる。
「ぴぃぴぃーぴぃぃ」
友人は返事をしたあとに、僕の差し出した手へと頭をこすりつけてきた。僕からも指で頭を撫でてあげる。
そんなやりとりをした後に、今や日課と化した友人への朝ご飯を用意してあげる。
「さあ、食べていいよ」
「ぴー」
友人は一鳴きした後に、床に置いたお皿の下へと飛び立ち、入れてあげた小鳥用の餌を嬉しそうに食べ始めた。その様子をいつものように眺め続ける。
この癒される一時だけど、初めからという訳ではなかった。僕たちの出会いは庭先で傷ついた小鳥を見つけたことから始まったのだ。
僕が見つけた時には外敵に襲われたのか分からないけれど、翼が折れてしまっている状態で横たわっていた。
そんな小鳥を僕が力を使って癒してあげてからは懐いて毎日訪ねてくるようになったのだ。
友人が朝ご飯を食べ終える頃に、下から母の呼ぶ声が聞こえてくる。
「そろそろ起きて行く支度しないと、教会に間に合わないわよ」
母の声で僕はまだ着替えてもいないことに気づく。
「しまった! まだ着替えてすらいなかった。今日はこの後すぐに出かけないといけないんだよ。また明日ね」
僕は餌を食べ終わっていた友人に今日の予定を告げた後、掌の上に載せて窓の外へと解き放った。そして、急いで着替えを済ませたあとに父と母がいる下の階へと向かう。
「おはよう、お父さん、お母さん」
「お、本日の主役がやっときたな」
既に朝食を食べ終えていた父が、椅子に座りながら言ってきた。
「おはよう。今日はちゃんと寝癖を直してきたのね」
母は僕の分の朝食をテーブルへと置いた後に、僕の頭を見つめながら言った。
「うん。友人が帰った後にちゃんと直したよ」
「あら、あの小鳥また来てたのね。私も触りたかったわ」
「友人? ……小鳥って何のことだ?」
父は何のことだか分かっていなかったようで僕たちに尋ねてきた。
「僕が力を使って治してあげた小鳥のことだよ」
「ああ、以前言っていた鳥のことか。で、その鳥が帰ったってさっきまで来ていたのか?」
「そうだよ。あれから毎朝尋ねてくるんだよ」
「そうなのか。随分なつかれたんだな」
「もしかして、あなた知らなかったの?」
「ああ、今日初めて知った。それにしても、毎朝訪ねてくるとは余程お前のことが気に入ったんだな。まぁ、あの力を体感したのなら無理もないか。あれは傷だけでなく、心まで癒してくれるような温かさがあるからな」
「そうね。まるで、あなたの心の優しさが伝わってくるような感じなのよね」
父と母が褒めてくれた力だけれど、怪我や病気などを治せてしまうもので、生まれつき使えたものだった。そんな生まれ持ってのものだけれど、その力は前世の記憶があることに由来するんだと思う。前世の記憶と言っても、記憶自体は朧げなもので、力を使って誰かを治してあげていたという位のものだった。
そんな大した記憶でもないので、前世のことについては両親にも話してはいなかった。
「さて、話はこの位にしましょうか。食べる時間がなくなってしまうわ」
「うん、そうだね」
母に同意したあとに、用意してくれていた朝食を平らげた。すると、その機を見計らったかのように父が告げる。
「奉納金は……よし大丈夫だ」
父が本日、奉納する金額が間違っていないことを袋の中身を取り出して確認していた。
「ちゃんと今日の手順は覚えているかしら?」
父の言葉を聞いた母が僕に尋ねてきた。なので、自信満々に返事をする。
「大丈夫、ちゃんと覚えてるよ」
母の尋ねてきたことは勿論のこと、今日行う風習についてもちゃんと理解していた。
その風習とは、僕たちの住む町独特のもので、他の地域にはないものだった。その内容は、八歳になった日に親と共に教会へ訪れて、神父の祝詞を聞いた後に奉納金の入った袋を渡して帰るというものだった。
「そう、それならあとは行くだけね」
「そうだな。それでは今から向かうとするか」
「うん」
父の声に返事をしたあとに、僕ら親子三人は教会へと向かうために家の外へと繰り出した。
教会へと向かう中、今夜のごちそうについて話していたのだけれど、裏路地の辺りでキョロキョロと辺りを見回す女性を見かけたので、会話を中断し両親に尋ねる。
「迷っているのかな?」
「そうかもしれないな。この辺りは入り組んでいるし、初めて訪れた者ならば尚のことだろうな」
父が言うように、女性はこの町の人ではないらしく、ローブのフードを被っており、旅人の様な恰好をしていた。そんな女性をよく見ると、袋を抱えていたので買い物をしているうちに迷い込んでしまったというところだろうか。
「困ってそうだし、声をかけてあげましょう」
母がそう言うので、僕たちは女性へと歩み寄る。
「何かお困りですか?」
父が先陣を切って女性に声をかけた。すると、ローブの女性が『淡い水色の髪』を覗かせながら尋ねてくる。
「すみません。道に迷ってしまったようで……。この辺りに宿屋ってないですか?」
「ここは町の北側の方で教会しかないですよ。宿は反対側の南にありますよ」
「反対側だったんですね。教えて下さり、ありがとうございます」
父が教えてあげると、ローブの女性がお礼を言った後に一礼した。そこで、解散になると思った矢先に女性は、何かを思いついたように声を出す。
「あっ、そうだ!」
そう言うと、女性は袋から何かを取り出した。
「旅の道中で買った物だけれど、よかったらどうぞ」
女性は、紙に包まれた飴玉らしきものを数個ほど僕に向かって差し出してきた。
「飴玉かな?」
僕の問いに対して、女性は頷いた後に「美味しいよ」と言って微笑んで見せた。
「お姉さん、ありがとう。早速いただくね」
僕は早速、飴玉の紙を剥がして一つ頬張る。すると、口の中に甘い味が広がっていく。
「甘くて美味しいよ!」
「そうでしょ? 私の今のところの一押しなんだよ」
そう言って、女性は笑って見せた。僕も釣られて笑顔になってしまう。
女性に手を振って別れた後、両親に先ほどの感想を言ってみる。
「さっきのお姉さん。きれいな人だったね」
「そうね。この町でもそうそうお目にかかれないほどの奇麗さだったわね。誰かさんは思わず、鼻の下を伸ばしていたんじゃないかしらね」
母が父をちらっと見た後に言った。
「ん? ああ、確かに綺麗な人だったな。だけど、鼻の下など伸ばしてはいないぞ? 俺は母さん一筋だからな!」
父は、そう言って笑って見せた。その姿を見た母は、少しだけ顔が赤くなりながらも何かをぶつぶつと言っていた。
そんなやりとりをしながらも僕らは、教会へと向けて歩んでいく。