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04話 暗闇の箱庭 前編 (改)

 最近私の町では美容製品が流行っていた。肌が美しくなる食べ物やしわが出来にくくなる塗り薬など種類は様々だった。


 そんな製品を全て網羅している私は、新たなる製品を求めて町へと繰り出していた。


「いらっしゃいませ。あら、また来てくれたのね」


 もはや、顔なじみと化した店員の女性が声をかけてきた。


「何か新しいものは入ってないかしら?」


「今のところは入ってないわね」


「それなら、髪の保護液を頂くわ」


 私が買い物を終えて立ち去ろうとすると、店員が何かを思い出したらしく呼び止める。


「あっ! そういえば美容に関する噂があったわね」


「うわさ? それはどんなものなのかしら?」


「何でも服用するだけで綺麗になれる薬があるんだとか言ってたわね」


「服用するだけで綺麗になれる薬?」


「やっぱ、怪しいと思うわよね。そんな品こっちまで出回ったことないし」


「ぜひ、その噂の詳細を聞かせて下さいな!」


 私は前のめりになりながら店員に詳細を尋ねた。


 どうやら、薬は薬師が処方している物で、農村の隣町に店があるらしいことが分かった。また、その町までは乗合馬車を乗り継いで二日半ほどで着くらしい。


 幸いなことにも明日からは長期休暇に入るところだったので、早速明日から行ってみようかと思っていると店員に疑問を投げかけられる。


「前々から思っていたのだけれど、既に綺麗なのに更に上を目指そうとするのは何故かしら? 良かったら教えてもらえない?」


「最高の状態で意中の男性に告白する為よ」


「告白……なるほど……。これは新商品が閃きそうだわ!」


「新商品が出たらまた来るわね」


 何かブツブツと独り言を始めた店員を置いて私は店を後にした。店を出た後は、旅の準備のための品を買いに各店を回り歩く。


 まず初めに購入したのは、食料などを入れておくための大きめの鞄。次で外套を購入しておいた。移動は乗合馬車を活用するとはいえ、寒い可能性もあるからだ。


 帰宅後は、先ほど購入した鞄に必需品を詰め込んでおく。


「旅の準備はこんなものかしらね。あとは……」


 何か忘れていることはないかと再確認する。そこで、誰にも旅に出ることを告げていないことに気づく。


「手紙を書いておけばいいわね」


 万が一があった場合を考えて私は手紙を書き、テーブルの上に置いておいた。その後、明日のことも考えて早めに眠りについた。



 翌日、私は早朝から乗合所にて馬車を待った。しばらく待っていると馬車が到着し、中へと乗り込む。そこには、話好きそうな中高年の女性が既に乗っていた。私は、一番離れた場所へと座り目をつむる。お陰でその日は話しかけられることはなかった。


 しかし、翌朝になり馬車を乗り継いでいると、その女性に話しかけられてしまう。


「あら、あなたも乗るのね」


 どうやら彼女も乗るらしい。


「ええ、まぁ……」


「どちらまで行くのかしら?」


 乗り継いだ後も仕方なく会話に付き合ったが、いつまでも話し続けそうだったので疲れているので眠ることを伝えて目をつぶった。


 目をつぶるだけのはずが、本当に寝てしまい気づけば農村まで来ていた。朝日が出始めていることから、どうも相当長い時間寝ていたらしい。


 馬車が農村で止まると少女が乗り込んでくる。その少女は無垢であるのか、話好きな女性の横へと座ってしまった。案の定、少女は女性の餌食になってしまう。


「あら、あなたも次の町へ行くのかしら?」


「はい、母の薬を買いに行くつもりです」


「そうなの。偉いわね。ところで娘に聞いた話なんだけど、何でもあの町には腕のいい薬師がいるそうよ」


 やはり、あの町には腕のいい薬師がいることは間違いないようだ。私は起きていることを感づかれない様にしながら聞き耳を立てる。


「腕のいい薬師……。場所って分かりますか?」


「いえ、そこまでは聞いていないわ」


「そうですか……」


 少女は気落ちしたような声色になった。もちろん、私も内心がっかりしていた。


 そんな私たちを他所に婦人は喋り足りないのか会話を続ける。


「そうそう。さっき話した娘だけど、あの町へ出稼ぎに行っているのよ。そこで何でもいい人を見つけたらしいのよ」


「はぁ、そうなんですか」


「交際がうまくいっているとか頻繁に連絡が来ていたのだけれど、ここ最近連絡が来なくなってしまってね」


「それは心配ですね」


「そう、そうなのよ。それで直接会いに来てるわけなのよ」


「そうだったんですね」


「最近何処かの領主が突然姿を消したとかいう噂もある位だし、念のためにね」


「そんなことがあったんですか」


「まぁ、その領主に関しては悪い噂ばかりだったから暗殺されたんじゃないかって言われてるわね」


 少女は新しいことを聞いたかのように驚いていたが、この手の話はよく聞く話だったので驚くことはなかった。


 その後も女性は延々と語り続けていた。しかも、どれもこれも眉唾物の話ばかりだった。月が二つあっただとか、誰もいないはずなのに声が聞こえるだとかそんな物ばかり……。


 そんな話を仕入れるくらいなら、美容に関する噂話を仕入れてほしいものだわ。


 お昼前には、目的の町へと着くことが出来たのだが、目の前の少女は酷く疲れ切っていた。馬車の中でずっと話しかけられていたのだから無理もなかった。


 元凶の女性が離れると「はぁ、やっと解放された」と小さく愚痴を漏らすくらいなのだから疲労は相当なものに違いない。


 そんな少女に目的の場所が同じだから一緒に探さないかと声をかけようとした時、一人の女性に目を奪われてしまった。

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