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最終話 複色花

 小山の麓にある、のどかな村の入り口には今しがた辿り着いたばかりの青年が立っていた。その青年は、赤い髪が炎のように逆立っており、装いは一目で冒険者だと分かる物であった。


「俺が冒険者になる為に旅立って以来か。それにしても、相変わらずこの村は平和そのものだな」


 数々の魔物を討伐したことのある青年は、改めて己の故郷の平和さを認識した。だが、それとともに異常さも感じていた。


「いや、平和すぎる……な」


 元々魔物の目撃例が極端に少ない地域ではあるのだが、それにしては獰猛な生物の痕跡すらないのは明らかに不自然だった。青年は訝しげに思いながらも門番へと声をかける。


「なあ、最近おかしなこととかなかったか?」


「特にこれと言ってないな。なんだ、こんなところで仕事でも探しに……ってその髪は!? そうか、立派な冒険者になったんだな」


 青年は軽く門番と話をした後に、懐かしき実家へ赴いた。


「ただいま! ってなんだ。家にいるのは姉さんだけか」


「何よ! 居ては悪いわけ?」


「いや、悪くはないけどさ。それより、親父とおふくろは?」


「父さんは狩りに出かけてるわよ。母さんは、多分どこかで話し込んでいると思うわ」


「そうなのか。おふくろは、そのうち帰ってくるとして、親父はいつくらいに帰ってくるんだ?」


「多分夕方頃には帰ってくると思うけど……。それにしても、あんた本当に冒険者になったのね」


 青年の姉は、立派な冒険者になった弟の風貌を軽く確認したあとに述べた。


「ああ、今じゃそれなりに有名なんだぜ」


「有名ねぇ。兄さんに続いて弟まで戦闘の道を突き進んでいるとは。どんだけ私の家系は戦闘好きなのかしらね」


「それは今更じゃないか? うちの家宝だって剣だった訳だしさ」


「それもそうね」


「そういや、さっき兄さんに続いてと言ってたけど、兄さんはどうしているんだ?」


「最後に会ったのは、ラジルの結婚式の時だけど元気そうにしてたわよ。その時には昇給したなんて言ってたわね。最近だと、手紙から女の気配がするのよね」


「手紙から気配って感じるものなのか!? いや、それよりもラジルさんって結婚してたのか」


「あんたが冒険者になるとか言って村を出て行ってから一年後のことだから七年前になるわね」


「そんな前だったのか。で、相手の人は? この村の人なのか?」


「この村の人ではないわ。でも、おかしな話なんだけど、この村のことをよく知っているのよね。何故かうちの家宝のことまで知っていたし」


「それは村に訪れたことがあったんじゃないか? 家宝についてはきっとラジルさんにでも聞いたんだろ」


「それもそうね。そうそう、家宝で思い出したけど、その背にある剣は何? 見た感じうちの家宝より凄そうなんだけど」


 青年の姉は、好奇心に満ちた瞳で青年の背中にある剣を見つめた。


「ああ、これか。これは魔剣ってやつだ」


 青年は、八重歯を覗かせながら得意げに答えた。そして、背負っていた剣を下ろし紅き刀身を見せつけながら語りだす。



 ◇ ◇ ◇



 一方その頃。同じ村の中にある一軒家の庭先では、美しい花々に囲われながら一人の女性が二人の子供たちに話を聞かせ終えたところだった。


「お話はどうだったかな?」


 淡い水色の髪の女性は、子供たちに優しい声色で尋ねた。


「綺麗な竜に乗ってみたいな」


 双子の片割れの少女が、無邪気にそう言ってみせた。


「僕は、ちょっと怖かったよ」


 今度は、少年が少しだけ怯えながら感想を述べた。


「どうして怖いと思ったのかな?」


 女性は、怖がっていた子供に優しく問いかける。


「月が二つある日は怖い人が出るから……」


「そうね……。確かに双月の晩には悪い人たちが必ずいるわね」


「うん……」


「月が二つある日は気を付ければいいんだよ。そうだよね、お母さん」


 少女は得意げに言ってのけた後に、母へと同意を求めた。


「そうね。それも大事なことよね。でもね、そんな晩には必ず悪い人たちを倒してくれる人がいるから怖がらなくても大丈夫なのよ」


「倒してくれる人?」


「ええ、だから安心してね」


 女性は、そう告げたあと人知れずに戦う男を思いながら、天を見上げた。そんな女性に対して、暖かな日差しは彼女たちを照らし続けた。


 ― Fin ―

最後までお読み頂きありがとうございました。

『あとがき』を投稿した後に、完結処理をさせて頂こうかと思っております。


ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございました。

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