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39話 真紅の花 後編

 ◇


 一体どれだけの速度が出ているのだろうか。休み休みであるはずなのに、わずか三日ほどで赤髪の彼と訪れた町の上空まで来てしまった。


「ねえ、無理してない? もう少しゆっくりでも大丈夫だよ」


 私のために無理をしているかもしれない竜へと語りかける。


「これで通常の速度だ……。無理をしていたならば一日で辿り着いている……」


「そうなんだ」


「それよりも、身だしなみはそれでいいのか……?」


「えっ!?」


 私は慌てて水鏡を作り確認する。


「うん、問題ないかな」


「そうか……」


 元ローブ男とのやりとりをしている間にどうやら生まれ故郷であるはずの村が見える付近へと来てしまっていた。


「もう、ここまで来ていたのね」


 一度深呼吸をした後、遠目に見える村を見つめる。徐々に村の細部が見えてきて、私が知っている村の配置とは若干異なっていることが分かってしまった。


「ここも変わってしまったんだね」


 寂しく思ったのも一瞬のことで、次の瞬間には私の心は喜びに満ち溢れていた。それは嬉しい意味で変わってしまっている箇所を見つけたからだった。


「あの時植えた花がこんなに……」


 村外れの場所に、再会の目印にと植えておいた花が一面に咲き乱れていたのだ。それも植えたはずの赤色の花だけではなく、青や白など様々な色の花まで咲いていた。


 そんな花畑の中心に一つの影が見えた。その場所は、棒を立てた場所でもあり赤髪の彼と再会を誓い合った場所でもあった。


 竜がその人影の遥か上空に辿り着いた瞬間に、私は居ても立っても居られずに竜の背から飛び降りる。急加速で落ちていき、地面にぶつかる直前で魔法を使用して緩やかに降り立つ。そして、満面の笑みで告げる。


「おかえり、ラジル」


「ただいま、リアナ」


 彼も満面の笑みで答えてくれた。


「……あっ! もしかして、転生したから名前も変わってたりする?」


「名前は変わってはいるけど、以前と同じラジルのままで大丈夫だよ。本当はラージニルって名前になったけど、村の皆も長いからってラジルって呼んでいるからね」


「そうなんだ。それならこれからもラジルって呼ばせてもらうね」


「了解、聖女様」


 彼が悪戯な笑みを浮かべながら言った。


「聖女さま? ……それって私のこと?」


 何故聖女と呼ばれたのか理解出来ずにいると、彼が優しい声色で言う。


「俺が消えてから旅先で色々とあったみたいだね」


「そうだけど、それが何か関係しているの?」


「大ありだよ。とある里で人を癒したりしなかった?」


「えっ!? それって竜神様がいた村のこと?」


「やっぱり心当たりがあるんだね」


「でも、あれは傷を癒せる飴を渡してあげただけだよ。聖女と呼ばれるまでのことはしてないよ」


「それでも、その里では奇跡の人とともに聖女として崇められているみたいだよ」


「奇跡の人? それって……」


 私は上空で待機している竜の背に立つ人物を見つめる。


「多分彼のことだろうね。彼については他にも逸話(いつわ)があるんだよ」


 ラジルも同じく、上空を見つめながら言った。


「逸話?」


「特に有名なのが、聖人様を助けた御使(みつか)い様の話かな? これも心当たりがあったりする?」


 ラジルは私のほうに向き直しながら尋ねてきた。


「聖人様……。会ったことはないけどその町には立ち寄ったことはあるよ。そっか、あの時の月は聖人様を助けていた時のものだったのね」


「リアナは彼とともに歴史的瞬間に立ち会っていたんだね。っと言っても、その歴史を作り出しているのが彼なんだろうけど」


 一体私は、ローブ男と旅をしたことでどれだけの歴史的瞬間に立ち会っていたのだろうか。少なくとも二つはあるようだけど……。


「私からすれば、双月の晩の出来事がまさか歴史的瞬間になるとは想像も出来なかったよ。助けられた人にとってだけだと思ってたし」


「そうだね。俺たちに取っても歴史的瞬間だったね」


 彼が過去を懐かしむように言った後、何かを思い出したように続ける。


「そうそう、月の晩自体が噂話になってるんだよ」


「月の晩自体?」


「双月の晩には人が消えるから気をつけろってね」


「えっ!? それって……」


 彼から聞かされた言葉はどうみてもローブ男に消される立場にある者の言い分だった。私が言い終える前に彼が代弁する。


「うん。リアナが言おうとしてる通り、これは主に素行が悪い者たちが噂をしているみたいだよ」


「やっぱりそうなのね。他の人たちもその噂で怖がっていたりするのかな?」


 彼は私の問いに対して、首を横に振ったあと微笑みながら告げる。


「安心していいよ。その噂に怯えているのは素行が悪い者たちだけだから。ただ他の人たちは別の噂を信じているんだけどね」


「別のうわさ?」


「双月の晩は、御使い様が各地をまわられているって話をね」


「御使い様の話の影響力って凄いのね」


 そんな話を聞いていたら本当に御使い様なのではなんて思えてしまう。だけど私は知っている。彼はただの人間であり、得体のしれない何かと戦うために力の研究をしていたことを。そして、これからも人知れず戦っていくことも知っている。だからこそ――。


「――彼の噂は聞くけど、リアナの話は聖女の話だけだから、よかったら今度聞かせてくれないかな?」


「そういえば、どうして私が聖女と呼ばれているかもしれないって分かったの?」


 先ほども聖女と呼ばれた時に疑問に感じたことを投げかけてみた。


「ああ、それはあの白い竜を見てもしやと思ったからだよ」


 ラジルが上空の白い竜を見つめながら言った。


「そうだったのね」


 私が言い終えると同時に上空の白き竜が鳴いたので、私も晴れ渡る空を見上げる。すると、竜は円を描くように私たちの上を回った後にいずこかへと飛び去って行く。


 またしても、別れの挨拶は不要というのだろうか。なら、こちらから言うしかない。


「ありがとー。以前にも言ったけど、もし助けが必要な時は呼んでね!」


(どうせ、一人で戦った結果少年になってしまったんだろうし……)


「でないと、勝手にこちらから押しかけに行くからねー!」


 大きな声で叫んでみたけど、聞こえているのかな? いえ、例え聞こえていなくとも異変を感じたら、今度こそ駆けつけてやりますとも!


「行ってしまったね……」


「ええ……」


 私たちは竜の姿が見えなくなってしまっても空を見つめ続けた。そんな中で彼が遠き日を振り返るように告げる。


「随分と長い婚前旅行になってしまったね」


「そうだね……」


 空を見つめたまま、これまでの出来事を振り返る。


 彼との死別、ローブ男との出会い。その後、もう会えることはないと思っていた彼との約束。そして、旅路での出会いと別れ――。


「――本当に長かったよ」


「そう……だよね……」


 ラジルは少しだけ押し黙った後に、こちらへと向き直す。


「改めて言わせてくれないか?」


「ええ……」


 私も真剣な表情の彼と向き合う。


「長いこと待たせてしまってすまない。結婚しよう、リアナ」


「はい!」


 そうして、私たちは花々が見守る中、再会を誓い合った場所で口づけを交わした。

次回にて、『双月の晩に気をつけて』は、最終話となります。投稿は11/17(金)の午後17時頃を予定しております。


最後まで拙作にお付き合いいただけると幸いです。

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