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35話 黄昏る里 後編

 ◆ ◇ ◆


 武装した六人の男たちは、女性と少女の二人を引き連れて山の頂上付近にある神殿へときていた。


「ここが神殿か。りっぱな作りじゃないか。さぞ、素晴らしいお宝が眠っているんだろうな」


 男たちは興奮しながら神殿の入り口を眺めた。元は洞穴の入り口であるそこには、装飾をほどこされた石柱が左右に建てられており神秘さが醸し出されていた。


「そんな宝などありません。ここには竜神様が住まわれていただけです……」


 女性は悲しそうな表情を浮かべながら男たちに告げた。


「ふん、どうだかな。中に入れば分かる話だ」


 そう言うと、男たちは女性と少女を引き連れて中へと入っていく。


「なんだこりゃ? 中はただの洞穴じゃないか」


 男の言う通り、中は洞穴のままになっており、入り口から見て中央部の壁際には少女とトカゲの絵が描かれている石碑があるのみだった。それを見た男たちは次々に落胆の声を上げていく。


「何もないと言ったではないですか……」


「……え? なんで? どうして竜神様がおられないの……?」


 少女が本来いるはずのものがいないことに動揺した。


「あ? なんだ? 巫女様と違って巫女見習いってのは鈍いのかよ」


 男たちの一人が小ばかにしたように言った。


「どういうこと? 竜神様はどうしたの?」


「プッ! アハハハハハ。おいおい、この鈍いやつに誰か説明してやれよ」


 先ほどの男が腹を抱えながら笑い始めた。


「あー、めんどくせえな。普通ここまでくれば分かるだろ。俺たちが殺したんだよ」


「竜神様をころした……? 嘘よ! 竜神様はお強いもの! あなたたちなんかに負けるはずがないわ!!」


「彼らの言っていることは本当のはずです……」


 女性は愁いを帯びた瞳で少女を見つめながら諭した。


「そんな……竜神様が殺されるなんて……。でも、どうやったらそんなことになってしまうのですか?」


 女性は少女からそっと目を背ける。代わりに笑っている男が答える。


「お前は面白いやつだな。いいぜ、笑わせてくれた礼に答えてやるよ。お前の親父を使って殺したんだよ」


「お父さんを使って……?」


「ああ、そうだ。お前の親父を人質にしたら、あの竜のやつ手も足もでないでやんの。笑えるよな。いくら切り刻んでも無抵抗なんだからな。お陰で楽だったけどな」


「そんな……酷い……酷すぎるよ……」


 少女の目から涙が零れていく。


「……もういいでしょう。ここには、あの石碑が残るのみです」


 女性の言葉に反応して、男たちが石碑を見つめる。


「そういや、石碑があったな。念のため調べてみるか」


 男たちは、女性たちを引き連れて石碑へと近づいていく。


「なんだこのトカゲは?」


「ただの石のようだな」


「ただの石ではありませんよ。私たちの大切な物なんですから。決してヒビは入れないで下さいよ?」


 女性は、男たちを見渡すように見つめた後、項垂れてしまった少女を見た。


「……ヒビ? ヒビ!」


 少女は何かを思い出したように呟いた。そこへ女性が少女に同意を得るような言い方をする。


「そうですよね? 見習い巫女さん?」


 少女は女性の意味をくみ取り、続けて言う。


「はい! ですから決して割ろうだなんてしないで下さい」


「割るなだと? ってことはこの中にお宝が入っているんじゃないか?」


 金属で出来たハンマーを担いでいた男が前へと出る。


「どけっ! 俺がやる!」


「ばかやろう! そんなハンマーで砕いたらお宝まで……」


 仲間の制止も聞かずに男が勢いよくハンマーを振り下ろした。暴走した男によって石碑は粉々に砕けてしまった。男たちが砕けた石を一斉に見つめる中、女性と少女は反撃に出る。


 少女を掴んでいた男は、少女によって急所に強烈な蹴りを入れられ悶絶してしまう。片や女性を掴んでいた男は、女性の突進により転倒した上に腰に携えていた剣まで奪われてしまう。


 少女は何故か隅の方に置かれていた卵を急いで回収し女性の方を振り向く。女性は剣を構えた状態で男たちと対峙していた。


「巫女様!」


「私には構わずに行ってください!」


「そんな……わかり……」


 少女が覚悟を口にしかけたその時、飛んできた剣が女性の腹部に突き刺さる。


「えっ!?」


 女性は何が起きたのか分からないまま崩れ落ちる。


「巫女様? みこさまあああ!」


 少女は動揺し卵を抱えたまま立ち止まってしまう。


「バカやろう! 何てことをしてくれたんだ! あとで楽しもうと思っていたのによ!」


 男の一人が、地面に座ったままの仲間を窘めた。先ほどの剣は、この(たしな)められている男によるもので、少女に攻撃された男でもあった。その男の眉間には青筋が立っていた。


「そんなことより、あれを見ろよ! あのガキ何かを大事そうに抱えているぞ!」


 少女のことを散々笑っていた男が卵に向かって指をさす。皆が一斉にそちらを見る。だが、そこにいたのはローブを目深く被った不気味な男だった。


「なんだあいつは? いつの間にきたんだ?」


「まあ、なんだっていいさ。あいつを蹴散らして後ろのガキからお宝を奪うぞ!」


 その言葉を合図に男たちは、一斉にローブ男に襲い掛かり始めた。



 少女には訳が分からなかった。女性が倒れたことに動揺した次の瞬間、見ず知らずのローブ男が目の前に現れたからだ。

 そして、今目の前で起きていることも理解が出来ずにいた。飛び掛かったはずの男たちが次々に光となって消えていくからだ。


 そんな少女にも一つだけ理解出来ることがあった。それは――。


「夢と同じ……光……」



 ◇ ◇ ◇



 村の広場には光り輝く竜を中心にして、村人たちが集まっていた。その中央部では卵を抱えた少女と巫女が輝く竜を見つめている。


「亡骸の状態から近い未来に生まれ変わることが出来るがどうする……?」


 ローブ男が輝く竜に向かって尋ねた。


 《いえ、私はそれを望みません。未来は、この子に託します》


 輝く竜がそう告げると少女の抱えていた卵にヒビが入っていき、中から小さな竜が生まれた。


「生まれたの!? 夢と同じ……。それに私が想像していた通りの見た目だね。かわいいなぁ」


 少女は生まれたばかりの竜をギュッと抱きしめた。抱きしめられた竜も嬉しそうに鳴く。


「か、かわいい!!」


 遠巻きに様子を窺っていた一人の女性が声をあげた。周りの村人たちも歓喜の声を漏らしていく。


 《次代の巫女、わが子のこと頼みましたよ》


 輝く竜は慈愛に満ちた瞳で少女を見つめる。


「はい! 任せてください!!」


 少女は輝く竜をまっすぐに見据えながら答えた。


 《さて、先ほどの話に戻りますが私は転生を望みません。ですが、この子たちを守る力は望みます》


「そうか……」


 《あなたなら出来るのでしょう?》


 まるで出来ることを知っているかのように輝く竜は言ってみせた。


「可能だ……」


 《では、さっそくお願いします》


「分かった……」


 ローブ男は、そう言うと卵の殻に触れた。すると、殻は光り輝いていき元の卵くらいの大きさの宝玉へと変化した。


 《これは……宝玉ですか?》


「おまけだ……」


「おまけって……それじゃ分からないよ」


 先ほど声をあげていた女性が、ローブ男に突っ込みを入れた。


「結界の核となる物だ……」


「あっ! 結界ってそんな感じに……」


 突っ込みを入れた女性は、話を聞いて何やら思い当たる節があったらしく納得した。


「さて、次だ……」


 ローブ男は、輝く竜へと手を触れる。すると、輝く竜は光そのものになっていき、その姿を杖へと変化していく。光が収まると、そこには元の竜と同じ色の杖が七色に光り輝きながら浮いていた。


 その浮遊する杖は、少女の身長よりも長く、杖の先端中央部にはトカゲを模した金属板のような物が付いていた。また、その左右には竜の翼を模しているような金属板が結合していた。



 皆がその美しい姿に見惚れている中、巫女が告げる。


「さあ、あなたが受け取ってください」


「私がですか?」


 巫女に促された少女が聞き返した。


「ええ、次代を担うのはあなたですからね」


 巫女はそう言うとニコリと微笑んだあとに幼き竜を受け取る。


「分かりました」


 少女は力強く頷くと、輝く杖を両手で握りしめる。すると、杖の翼部分が発光していき、そこから七色に輝く光のカーテンが伸びていった。


「綺麗な光……」


 少女は見惚れながらも、光輝く美しい杖を皆に見えるように掲げてみせた。その光と対をなすような夜空には二つの月が微かな光を放っていた。



 ◆ ◆ ◆



 研究室のような場所に、いくつもの檻に入れられた大トカゲたちがいた。そこへ研究者らしき男がやってくる。


「おやおや、今度のは活きがいいですね」


 男はうれしそうな顔をしながら檻の中のトカゲを見つめた。


「トカゲになって楽しかったですか? そんな訳はないだろ……ですか。ふむ、そんなあなたたちに素晴らしい提案をして差し上げましょう」


 トカゲたちが一斉に男を見つめる。


「どうです? 人間に戻ってみませんか? いますぐ戻せ……ですか。そんなに慌てないでくださいよ。では、まずはあなたからに致しますね」


 男は一匹のトカゲに注射をした。しばらくするとトカゲは眠りにつく。


「さて、今のうちに運び出すとしますか」


 男がパンと手を叩くと、どこからともなく助手らしき者たちが現れて、眠りについているトカゲが台の上に置かれ拘束されていく。


「さて、それでは……。おや? もう、起きてしまいましたか。人間なら丸一日は寝ている代物だったのですが、素晴らしい抵抗力ですね」


 トカゲが拘束を振り解こうと暴れ始める。


「おやおや、人間に戻りたかったのではないですか?」


 その言葉に反応してトカゲは暴れるのをやめた。


「今度は早くしてくれですか。分かりました。ですが、先に対価をもらいましょうか」


 そう言って男はトカゲの尻尾を切除し始めた。トカゲは再び暴れ始める。


「まったく少しは落ち着いてください。でないと、人間に戻すのをやめてしまうかもしれませんよ」


 男は意地悪な笑みを浮かべながらも切除をしている手を休めはしなかった。そんな男を、檻の中のトカゲたちは恐慌しながらも見つめ続けた。

無月の朝はのんびりと『10話』は、10/27(金)の午後17時頃に投稿する予定です。

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