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30話 退屈な守り人 中編

 あれからおいらは蝶を追いかけ続けたがなかなか捕まえられないでいた。


 せっかくの珍しい蝶なのに、止まるのは高い木ばかり。おいらがやっとの思いで登ると蝶は、小馬鹿にしたように飛んでいってしまう。それの繰り返しだった。


「あ~あ、こんなことなら網を持ってくればよかった。それさえあれば、わざわざ登らなくても簡単に捕まえられたのに」


 そう口に出した時に、おいらは気づいてしまった。なければそれに代わるものを使えばいいということに。


「もう追いかけっこは終わりだよ」


 おいらは木の幹に止まっている蝶に宣言した。そして、木の精霊を呼び出して早速捕獲を試みる。


 蝶が止まっている箇所を覆うように木の皮が伸びていき、あっという間にこぶ状になる。その中には、もちろん逃げ遅れた蝶が入っている。そのこぶを幹から切り離して拾い上げる。


 切り離されたこぶを今度は四角く変形させて、更に細かい網目を作る。虫かごの完成である。


「よし、出来たっと。協力ありがとうね」


 呼び出した精霊にお礼を言うと姿が消えていく。


 おいらが今使ったこの便利な力を、外では精霊魔法って呼んでいるらしい。魔法じゃないのにさ。ただ精霊を呼び出して、力を使わせてもらっているだけなのにね。


 虫かごの中を覗くと先ほどまで逃げ回っていた蝶が、観念したように虫かごの底に立っていた。この蝶を早速、同僚に自慢しに行こうと思った矢先に何やら話し声が聞こえてくる。


 声のする方へと向かっていくと、そこには大きな男たちが六人程いた。始めてみるが、あれが人間と言うもののようだ。精霊曰く、おいらたちは人間でいうところの子供と同じくらいの大きさらしいので、あれは大人に違いない。早速声をかけてみる。


「こんなところまで観光にでも来たの? 残念だけど、ここにあるのは退屈だけだよ」


「うお!? なんでこんなところにガキがいやがるんだ?」


「いや、まて、ガキの耳をよく見てみろ!」


「ん? 耳が尖ってる……ということは森人か!」


 おいらの問いかけに答えないので再度尋ねてみる。


「ねえ、キミたちは何しに来たの? もしかして言葉が通じなかったりするの?」


「ああ、すまんすまん。森人を見るのは初めてだったもんで興奮してしまってな」


「なんだ、そうだったのか」


「んで、何しに来たかだったな。俺たちはこう見えても精霊の研究家でな。精霊について調べにきたんだ」


 こう見えてもと言われても、おいらは人間の恰好などに興味がないので、そこは聞き流すがその後については追及する。


「精霊は基本、人間には見えないはずだよね? それなのに研究してるの?」


「う……うむ、その通り俺達には精霊を見ることができない。だが、世の中には見ることが出来るやつもいてだな……」


「あっ! それってエルフって言われてる人たちだよね。おいらたちの仲間と人間の間に生まれた者たちの子孫で身長が人間くらいらしいね。それに魔力まであるものもいるんだって? うらやましいなー」


 掟が出来るはるか前には人との交流があったらしく、その時代には人間との間に子供を成す者もいたらしい。その子孫たちは、耳がおいらたちみたいに尖っているらしいが、寿命は人間と同じくらいとのこと。きっと人間の血が濃くなったためだろう。


 あれ? そういえば人間がいるってことは、おいらもしかして掟を破ってたりするのかな? まあ、戻れば問題ないか。などと考えていると男が相槌を打ってきた。


「お……おう、それだそれ! そいつと共に研究していてな。そうだよな?」


 そう言った男は、他の男たちに同意を求めた。


「ああ、そのとおりだ」


「そうそう」


 などと皆で頷き合っている。


「そっか、それじゃ研究頑張ってね。おいらはこの蝶を見せに行かないといけないからさ」


 おいらは手に持った蝶を見せたあとに元来た道へと戻ろうとした。が、男たちに呼び止められた。


「ま、まってくれ。その研究のためにぜひ精霊の卵とやらを見せて欲しいんだが」


「精霊の卵が見たいの?」


「ああ、そうだ。ぜひ見せてほしいんだ」


「んー、長老にばれたら怒られそうなんだけどなぁ」


「そこを何とか」


 他の男たちも縋るように頼み込んでくる。


「あっ! それなら食べ物持ってない? 聞いてる話だと外の世界は美味しい食べ物が多いんだよね」


「食べ物か……」


 皆が一斉に何かないかと荷物をあさり始めた。


 しばらくすると、おいらの目の前にいくつかの乾物が並んだ。


「何だか聞いていた物と違うんだけど……」


 がっかりしていると男たちが必死に説得し始めた。


「すまない。旅路の為にこんな物しかなかったんだ。頼むよ。ほら、この干し肉なんてうまいぞー」


「あんまり興味がそそられないんだけど」


「なら、こっちの干し貝なんてどうだ? 海辺でしか取れないものだぞ? こんな森の中では絶対に味わえないものだ」


「海!? 海だって? たしかしょっぱい水のことをそう呼ぶんだよね」


「ああ、そのとおりだ。そこで取れたものだ。しょっぱさも合ってうまいぞー。ほれ、こっちのは魚の干物だ。焼いて食べたらうまいぞ」


「さかな……分かったよ。見せてあげるよ」


「ほ、本当か? ありがとう、これでやっと研究が出来るぞ」


「あっ! でも、今すぐは流石に無理だよ。明日の朝ならおいらも行くからついでに見せてあげられるよ」


「それで構わない。明日だな。ここで待っていればいいのか?」


「うん。明日になったらここまで迎えに行くよ」


 そう言って、おいらは彼らと別れて自宅へと戻った。もちろんお土産を貰ってね。




 翌朝になり、おいらは約束通り彼らを迎えに行った。


「お待たせー、それじゃ早速行こうか」


 声をかけた後に歩き出すと後方から声がしてくる。


「ま、まてまて、まってくれ」


 声は聞こえども付いて来る気配がないので、彼らのもとへと戻る。


「なんで付いてこないの?」


「いやいや、付いていこうにも気づけば、同じところに行ってしまうんだよ」


 彼の言葉を聞いて、結界を通り抜けようとするものは、元の場所へと反転する仕組みになっていると長老が言っていた言葉を思い出す。


「あー、そうだった。仕方ないなぁ。おいらにしっかり掴まりながら歩いてきてよ」


 おいらの指示の元、彼らと連結する。


「こう……でいいのか?」


「おれ……恥ずかしいんだけど……」


「俺もだ……」


 何人かが恥ずかしがっている中、おいらは後ろを振り返って確認する。おいらの両肩には男の両手がのっており、その男の両肩にはまた別の男の両手がのっている。それが後ろまで続いている。


「うん、大丈夫そうだね。それじゃ出発するよ!」


「お、おう……」


 長い列は結界を抜けて進んでいく。やがて、目的の場所――精霊のゆりかごの前へとたどり着いた。


「ここが卵のある場所だよ」


「この中に精霊の卵があるのか」


「そうだよ。人間に見えるか分からないけどね」


「ああ、それなら見えるらしいから問題ないはずだ」


「そうなんだ……あっ、しまった! 蝶に餌をやり忘れてた!! 悪いけど先に中に入ってて。同僚がいるはずだけどおいらに案内してもらったと言えば大丈夫だと思うからさ。そうそう、卵を盗もうとしたらだめだからね。その時はおいらも全力で止めないといけないからさ」


「……そんなことはしないから大丈夫だ」


「ならいいけどさ。それじゃおいらは一度家へと戻るよ。また後でね」


 そう言った後、おいらは慌てて家へと向かう。

『29話 退屈な守り人 後編』は10/8(日)の午前8時頃に投稿する予定です。

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