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02話 紅の花 中編 (改)

 翌朝になり目を覚ますと、一番最初に目に映ったのは隣の寝具でまだ寝ている彼の姿だった。どうやら、今日は私が先に起きたらしい。


 結婚したら毎日こんな感じに彼の寝顔が見れるのかな。などと思い近寄って彼の顔を眺める。父のような凛々しい顔立ちではなく端正な顔立ち。その顔は一つ年上だというのに、まだあどけなさを残していた。


 彼の寝顔を見ていたら、ちょっとだけ悪戯をしたくなった。なので実行してみる。


 彼の顔へと距離を詰めていき、彼の額に口づけをする。すると、そこで思いもしなかったことが起きてしまった。彼の目が見開いたのだ。紅い瞳が見つめてくる。


「あっ!」

「えっ?」


 私と彼はほぼ同時位に何が起きているのかを理解し声を出した。慌てて距離を戻し挨拶をする。


「お、おはよう。ゆっくり休めたみたいだね」


「おはよう。目覚めと共に鼓動は早くなってしまったけどね」


 顔が赤くなりながらも彼は笑って見せた。私の顔はもしかしたら彼以上に真っ赤なのだろうか。顔だけでなく全身に熱を感じた。



 朝食を終えた後は、彼の要望で武器屋へと向かうことになった。年が離れている彼の弟の為に剣を買ってあげようということになったからだ。そんな彼の弟は将来騎士になるのが夢らしく、毎日剣の練習をしていた。


 武器屋に入ると元気がいい女性の声が聞こえてくる。


「いらっしゃーい」


 声の主は、小柄なピンク髪の少女だった。余りにも幼いその見た目から察するにお店の手伝いでもしているのだろう。


 彼と二人で店内を見て回っていると、樽の中に乱雑に入れられた、いくつかの剣が目についた。彼も気になったらしく、手に取って確認し始める。


 鞘に入っているその剣たちは、他の展示されている品々よりも比較的安価な品だった。何故だろうと思っているとその答えが少女の口から告げられる。


「おっ! お兄さんが持っている剣、結構いい出来だと思わない? それ私が作ったんだよね」


 どうやら、お試しで彼女が作ったものらしい。幼いのに剣を作ってみるなんて感心してしまう。


「うん、この中で一番いい出来だと思うよ」


「そうでしょ! その樽に入ってるのは親方の弟子である私たちが作った物なんだけどさ、その中でも頭一つくらい飛びぬけてる出来だったりしない? 親方もそんな感じのこと言ってくれてたんだけどさ」


 どうやら彼女は手伝いではなく弟子だったらしい。それにしてもこの年齢で弟子入りしているとは恐れ入ってしまう。


「そうだね。他に展示されている品々とも引けを取らないと思うよ。それじゃ、これを貰おうかな」


「そこまで言ってくれるなんて凄くうれしいよ! あ、そうだ。買ってくれるお礼にさ、お兄さんの腰に差している剣、研ぎ直してあげるよ」


 少女は会計を終えると、彼から剣を受け取り奥へと入っていった。しばらくすると、彼女は戻ってきて研ぎなおした剣を彼に渡した。


 彼は早速研ぎなおされた剣身を確認していた。その間に気になっていたことを少女に確認する。


「あのー、失礼ですけど年齢を聞いてもよろしいですか?」


「えっ? ああー、私の見た目がこんなだから子供じゃないかと思ったんでしょ」


「はい……そうです……」


「わたしの年齢はね……」


 どうやら彼女の年齢は私と同じ年齢だったようだ。


 子供だと思ってごめんなさい……。


「まいどありー」


 彼女の元気な声と共に武器屋を後にする。その後は、幌馬車を引き連れて家具屋へと購入した物を受け取りに行った。


「これで全部だね」


「そうだね。さて、この後はどうする? もう少し買い物でもする?」


「うーん、雲行きも怪しいしそろそろ出発したほうがいいかも」


「了解! それじゃ、このまま出発するよ」


「うん」


 馬車が動き出す直前に誰かに見られている気がしたので辺りを見回すが特にこちらを見ている者はいなかった。


「どうしたの?」


「いや、なんでもないよ」


 彼は「まだ滞在してたいんじゃないの?」と言ってくれたけど「大丈夫だよ」と答えて出発を促した。


 さっきのは気のせいなのだろう……あれ? そういえば、ローブの男性が轢かれそうになっていた時も視線を感じたような……あれも気のせいだったのかな……。




 町を出てから、だいぶ経過しても私たちのお尻は痛くはなっていなかった。それは、もちろんクッションのおかげである。彼と「クッションを買ってよかったね」などと話していたら宿場町が見えてくる。


「なんだろう?」


 彼が宿場町の異変に気付いた。私も目を凝らして宿場町の黒い点を見つめる。近づくに連れてその黒い点の正体が分かった。それは武装した集団だったのだ。


「猛獣でも出たのかな?」


 不安を漏らすと、彼がそっと私の頭に手を置いてくれた。


「例え猛獣が出ても、無傷で君を守るから安心して」


 そう言いながら彼は微笑んだ。私の頭に置かれた温もりからは、彼の優しさが伝わってくるようで不安は和らいでいく。


 宿場町に到着してからは、やたらと武装した集団に見られていた。猛獣が付近に出たのではなく賊なのかもしれない。私たちは用心しながらも眠りについた。


 翌朝になり、二人きりの旅路も今日で終わりかと少し寂しく思いながらも彼と共に宿場町を後にする。


「なんだか、あっという間だったね」


「そうだね。もう少し時間の流れが遅くてもいいのにと思ったよ」


 彼は笑顔でそう言った。その笑顔は曇り空とは打って変わって一切の曇りがなかった。むしろ、眩しくさえ感じられるほどだった。



 旅の思い出を彼と語らっていると、村へと続く道と森林へと向かう分かれ道の手前まで来ていることに気が付いた。


「もうこの旅も終わっちゃうね」


 彼の顔を見つめがら言うと、徐々にその顔は緊張の走ったものへと変わっていく。


「まずいかもしれない……」


 彼が先を見据えながら言ったので、その目線を追うようにして前を向く。そこには、三人の男が立っていて今にもボウガンや弓矢を放とうとしているところだった。


「クッ! キミは荷台に隠れて身を守るんだ!!」


 彼は叫ぶや否や、御者席から飛び降りて駆け出す。私は慌てながら荷台に隠れて外の様子を窺う。


 先ほどの矢は彼には当たらなかったものの、馬車を引いていた馬の頭には突き刺さっていた。それも三本の矢が的確に刺さっていた。このことから先に足をつぶそうとしたのは明白だった。


「ごめんなさい。守ってあげられなくて……」


 ここまで頑張ってくれた馬に向かって呟いた後に、彼の状況を再度確認する。


 彼は走りながら剣を抜いていて、矢を弾いたり避けたりして間合いを詰めていた。心の中で応援しながらも、静かに行く末を見守る。


 彼はある程度まで近づくと、ボウガンの矢を装填していて無防備だった男に向かって手にしている剣を投げた。その剣は、男の心臓に突き刺さったのだろうか。刺された男はなすすべもなく背中から地面に倒れた。


 彼はすぐに剣を引き抜き、次なる獲物を定める。弓矢から剣に持ち替えようとしている男に一気に詰め寄り、その首を()ね飛ばす。


 そこへ最後の一人が切りかかるが、その切っ先は彼に届くことはなかった。何故なら、彼の剣によってその凶刃は防がれたからだ。


 だが、その攻防が行われたあとすぐに、彼の顔が苦痛で歪む。よく見ると、右足に矢が突き刺さっており、そこから赤い血が流れ始めている。


 その矢を放ったであろうボウガンを持った男が上半身を起き上がらせながら笑っているように見えた。


 初めの一人が生きてたんだ……。どうしよう私も何かしないと……。


 高速で思考を巡らしている間に、ボウガンを持っている男は絶命してしまったらしく横たわったあとにぴくりともしなくなっていた。


 だが、形勢は逆転してしまったままだ。立って防いでいる彼が片膝をつきそうになってしまう。


 慌て荷台から出ようとすると何かが手に触れる。それは、彼の弟にと買っておいた剣だった。


 剣を抱えながら、外へ出るとそこには座り込んでいる彼の姿と、横たわる男の姿があった。


 勝ったんだ。よかった……本当によかったよ……。


 彼は歩み寄る私に向かって手を振ってみせた。その光景をみたことで目から熱いものが零れ落ちる。


 だがしかし、彼は何かを見つめたあとに声をあげる。


「リアナ、こっちに来ちゃだめだ! 逃げるんだ!!」


 何が起きてるのか分からない。だけど、彼は何かを見たあとに叫んだ。


 だから彼が見つめていた先を見据える。そこは宿場町のある方角で私たちがきた道でもあった。そんな方角には、いつ来たのか分からない集団が立っていた。


「いつの間にあんな集団が……。そうだ、彼は……」


 すぐさま彼の方を向きなおすと、彼を囲うようにして火柱が上がっていた。


 なに!? これは一体何だっていうの? 彼はどうなってしまうの?


 最悪の答えと向き合わずに彼へと駆け出す。


 だが、その間にも炎は内側へと迫っていく。抱えていた剣を投げ出して私は更に加速する。


 あと数歩というところで、彼の紅い髪が……体が……紅く……紅く……燃え上がっていく……。


「イヤァァァァァァァァァァァ」


 私は叫びながら彼の姿が消えていくのを見ていることしかできなかった。


 やがて炎は収まり、彼がいたであろう場所には、骨すら残っておらずただ焼け焦げた跡と灰が残るのみだった。


 その場で泣き崩れていると、後ろから男たちの声が近づいてくる。しかし、私には逃げる気力も戦う意思も残ってはいなかった。

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