表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/42

27話 つかれた商会長 後編

 ◆ ◇ ◆


 領主邸の一室にて、女の亡骸に縋りつく裕福そうな男の姿があった。


「うう……キサマ何てことをしてくれたんだ! 手下どもだけでなく妻まで手にかけるとは……」


 男は、妻を亡き者にした元凶を睨みつける。その目線の先には、いくつもの返り血を浴びて真っ赤に染まった男が立っていた。手にはごろつきの様な部下から奪い取った剣を持っており、血しぶきで濡れた顔は憎悪に満ちていた。


 その剣が上にあげられて、自身に振り下ろされるのだろうと察したのか、今度は慌てて命乞いを始める。


「ま、まて。金なら前の額でいい。いや、無くてもいい。だから……」


 言い終わる前に凶刃が命乞いをしている最中の男を襲った。肩から左腕が切り落とされると共に男の悲鳴が室内に響き渡る。


「ぎゃああああ……う……うで……うでが……」


 腕を失ってのたうち回る男に対して、血濡れの男は心臓を狙うようにして剣を構えた。と、その時、部屋の扉が開かれると同時に中の惨状を目の当たりにした女性が声をあげる。


「こ、これは……親父何しているんだ!」


 だが、女性の声にも動揺せずに血濡れの男は、対象の心臓を貫く。貫かれた男は、一瞬その現実を受け入れないように呆けた顔をしていたが、顔が激痛で歪んでいく最中(さなか)に声をかけられる。


「無能が……」


 たった一言だけ発せられた言葉を聞いた男は畏怖とも尊敬ともとらえられるような複雑な顔をしたあとに絶命してしまった。


 剣を引き抜いた血濡れ男に女性は、部屋の中へと一歩を踏み出して心配そうに声をかける。


「なあ、親父。もう気が済んだだろ」


 その声掛けにようやく気付いたのか、女性の父親は剣を持ったまま振り向く。だが、その顔は未だに憎悪に染まっていた。


「もう終わったんだ。終わったんだよ。だからさ、剣を置いて帰ろう。お袋も待ってるしさ」


 女性の訴えかけに動じずに、剣を持ったまま歩み寄っていく父親。そして、女性を剣の間合いに捉えるとすかさず、その剣を振り下ろした。だが、女性は警戒をしていたこともあってか間一髪のところで横に跳び、回避することに成功していた。しかし、その代償として横に倒れてしまう。


「親父、正気に戻ってくれよ」


 ぼろぼろの体に鞭を打っていたせいか、女性は立ち上がれず倒れたまま訴えかけた。


 そんな娘を獲物としか思わぬ父親は、空ぶった体制から元の体制へと戻そうとしていると、突如廊下のほうから飛んできた無数の光の矢に貫かれてしまう。そのことにより、父親は手に持っていた剣を床へと落とした後に崩れるようにして倒れてしまった。


「一体なにが……親父! 大丈夫か?」


 娘の呼びかけに父親は微動だにしなかった。


「親父、死んじまったのか? しっかりしろよ!」


 娘が必死に呼びかける中、開いたままの扉からローブを目深く被った男が入ってくる。


「あんたがやったのか? 親父は大丈夫なのか? 頼む、どうなっているのか教えてくれ」


 娘の問いに答えずに、ローブ男は倒れている父親へと歩いていく。そして、横まで辿り着くと、右手に光の剣の様なものを纏わせて父親へと突き刺した。すると、微動だにしていなかった父親がもがき苦しんでいるのかの如くジタバタと手足を動かし始めた。


「やめてくれー」


 娘は追い打ちをかけられている父親を助けるべく大声を出すが、ローブ男はその願いを聞き届けはしなかった。やがて、父親が微動だにしなくなるとローブ男は突き刺すことをやめて誰にも聞こえぬ声で愚痴をこぼす。


「しぶとかったな……これでハズレとはな……」



 ◇



 すっかり朝日が昇ってしまった町中を親父と共に家へと帰るために歩いていた。


「親父、調子はどうだ?」


「どうと言われても、よく分からんのだが……」


「ああ、いやー、領主邸で倒れてたから体調はどうなんだろうと思ってさ」


「そうだな。何故か知らないが昨日の朝よりも体調がいいのは間違いないな」


 親父は、そう言うとにこやかに笑ってみせた。そんな親父の顔や服は、真っ赤に染まってはいなかった。それは、ローブ男があの部屋と共にきれいにしてくれたからだった。


「それより、お前はどうなんだ?」


「ん? あたしは見ての通り、すっかり良くなったよ」


「領主様が前もって呼んでいたお医者様は、凄い腕の持ち主なんだな」


 親父は感心しているが、実際は医者に治して貰った訳ではない。あのローブ男に治療して貰ったのだ。だが、あの夜の出来事を覚えているのは、あたしだけだった。


 どうやら親父は、領主邸での出来事を覚えていないらしい。覚えていたら気に病んでしまいそうなので、ある意味不幸中の幸いだったのかもしれない。豹変していた親父が襲ったのがゴロツキ共と偽領主、あとは夫人だけだったのだが、あの時の出来事は他言することは出来ないだろう。


 それに親父が気にするっていうのもあるが、ローブ男に口止めされている上にあんな事実を知ってしまったら尚更の事だ。親父が豹変していた原因がまさか……。


「――本来の領主様も目覚められたんだよな」


 いつの間にか医者の話から領主の話に変わっていたらしい。


「ああ、ロ、いや、医者のお陰で目覚めてたよ。これからは、この町も以前と同様になるんじゃないか」


 そう、本来の領主も彼のお陰で目覚めたのだ。あのローブ男が言うには、何かしらの毒みたいな物を服用させられたことによって長いこと眠っていたそうだ。


 ただ腑に落ちないのが、目覚めた領主が言ったことだ。領主曰く、眠る前にあの遠縁ですらなかった男には会っていなかったそうだ。つまり、あの代理が刺客を寄こしたか、はたまた別の誰かの仕業かってところだろう。


 ついつい詮索してしまいそうになるが、今はやめておいたほうがいいな。あたしには、あのローブ男の様な力はないのだから。


「そうか、そのお医者様なら母さんも目覚めさせられるかもしれないな」


「ふふふ、親父。今からお袋が起きた時に何て言うか考えておいたほうがいいぞ」


「はっ? それはどういう……お前が手に持っている物と関係しているのか?」


「そうだとしたら?」


 あたしは、そう言うと歩く速度を上げていく。


「ほ、本当か!?」


 親父は後方でうれしそうに声をあげている。きっと後ろではうれし涙を流しているに違いない。




 家へと到着すると、あたしたちはお袋が寝ている部屋へと向かった。


「親父、心の準備はいいな?」


「ああ、いつでも大丈夫だ」


「よし、それじゃ早速使ってみるぞ」


 あたしは手に持っていた小袋から縦長の薬を取り出して、お袋の尻の穴へと突っ込んだ。


 しばらく、二人で見守っていると久方ぶりにお袋が目を覚ます。


「ん、んー。あら、あなたたち、親子揃ってどうしたの?」


「ははは、親父やったな」


「あ、ああ……そうだな」


 そう答えた親父の顔はびしょ濡れになっていた。


「っと、そうだった。お袋目覚めて早々で悪いがこいつを飲んでくれ」


 あたしは、もう一つだけ手に持っていた小瓶を差し出す。


「……これはなにかしら?」


「飲み薬だ。お袋は寝たきりで目を覚まさなかったからさ」


「そうだったの……」


 お袋は差し出された小瓶を受け取ると、少しづつ飲み込んでいく。すると、お袋の顔色もみるみる内に良くなっていった。


「もう大丈夫そうだな。それじゃ、あたしは叔母さんに報告してくるから」


 そう言って、あたしは部屋をあとにした。後方からは父の泣き声が聞こえてくる。


 叔母の家へと向かう道中、流石に夜通しはキツイな。叔母の家に行った後は、商会に行って少しだけ仮眠でもするか。などと考えていると、前方から歩いてくる二つの人影が見えた。片方は最近見たばかりの男――ローブ男である。そしてもう一人は『淡い水色の髪』をした奇麗な女性だった。


 あたしは、ローブ男の前に歩いていき声をかける。


「お客さん、先日は色々と買ってくれて助かったよ。お陰でこちらは大助かりさ。お袋も礼を言っていたよ。本当にありがとうな」


 先日のことは言えないので、こちらが感謝していることを嘘を交えて伝える。彼ならきっと分かってくれるだろう。


「え? 昨日そんなに買い物してたの? 私には外に出るななんて言っていたのに」


 連れの女性には、分からなかったようでローブ男に尋ね始めてしまった。


「そうだ! 干した貝を買ってたりしない?」


「さあな……」


 ローブ男は連れの女性を適当にあしらっているが、こちらがついた嘘で女性を振り回してしまったことに対して申し訳なく思い、ある提案をする。


「あのう、干し貝ならうちの商会にあるのでお安くしましょうか?」


「えっ!? ぜひ、おね……」


「すぐにここをたつから大丈夫だ……」


「そ……そんな……久しぶりの魚介が……」


「な、なんかごめんさい。今度来た時にはお安くします」


「今度……」


「行くぞ……」


 ローブ男は、そう言った後に歩き出そうとする。そんな彼に、まだ誰にも言っていない決意を告げる。


「お客さん、いつでも来てくださいね。あなたを助けるために、あたしも色々と頑張るからさ」


「そうか……楽しみにしている……」


 どうやら彼には意図が伝わったらしく、わずかに口元を緩めながら答えてくれた。そんなあたしたちのやりとりを見ていた女性が察したらしく、声に出す。


「えっ? あっ! もしかして……」


「何をしている? いくぞ……」


「あ、うん。なんかごめんなさい。でも、魚介……」


 歩き始めたローブ男を追うようにして、連れの女性も歩き出す。だが、魚介に未練があるらしく時折、後ろを振り返っていた。


 やがて、二人が見えなくなったあと、無意識の内に独り言を呟いていた。


「まずは商会をデカくしないとな」


 あたしには戦う力はない。だが、その代わりに商才はある。だったら、それを武器にすればいい。そして、ゆくゆくは陰ながら助けるのだ。その為にも――。


「っと、そうだった。まずは叔母のところだった」


 あたしは、一歩を踏み出して歩いていく。そして、その歩みはこれからも続いていくだろう。例え、あたしの寿命が尽きたとしても、子孫か志を継げる者が代わりに歩んでくれると信じて――。

無月の朝はのんびりと『08話 活気あふれるギルド』は9/28(木)の午後17時頃に投稿する予定です。


また、双月の晩に気をつけて『26話 六分咲き』につきましては9/29(金)の午後17時頃を予定しております。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=54762384&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ