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25話 つかれた商会長 前編

「最近何だか親父の様子がおかしい!」


 あたしは、叔母に向かって最近不振に思っていることを口走った。


「それは色々あったから仕方ないさ」


 叔母は困った顔をしながら顔に手を添えて少しだけ考え込む。そして再び口を開く。


「商会のこともあるし。それに……」


 あたしのことを気遣ったような表情をして言葉を濁す。


「お袋が未だに目を覚まさないことも要因だって? 確かにそうなんだけどさ。今までのとはなんか違うだよ」


 そう、あたしのお袋は先月からずっと目を覚まさないのだ。その原因となったのが商会の負債だ。負債をするほど商才がなかったという訳ではない。

 代々受け継いできた商会は、そもそも借金なんてものはなかった。それどころか順風満帆だったのだ。


 それが何故負債をかかえることになってしまったのか。それは、領主のせいだ。と言っても本当の領主ではない。二月程前に、遠縁と名乗る奴らが代理と言って、領主の座を奪い取ってしまったのだ。


 本来の領主は、体調を崩したとかいう理由で床に臥せているらしい。だが、それは嘘だと思う。何故なら、あの自称領主共は、変わったとたんにやりたい放題だったからだ。


 その一端で、あたしたちの商会もありえない負債を負わせられてしまった。と言っても本当の借金という訳ではない。無理難題な税金を吹っ掛けられただけだからだ。


「違うってどんな風に違うんだい?」


 叔母が心配そうな表情を浮かべて尋ねてくる。


「何か時々うつろな表情をしてぶつくさ言ってるんだよ。それに凄い形相をしてる時もあるんだ」


「それは……」


 叔母が出かかった言葉を一度飲み込み、再度発する。


「あんな風になってしまったらね。恨みもするだろうさ」


「あいつらのせい……確かにそうかもしれないんだけどさ……」


 あたしは当時のことを思い出し、腸が煮えかえるのを必死に堪えた。



 あの時、無理難題な税金を吹っ掛けにきたあの忌々しい偽領主が、お袋に剣を突き刺す様子が今でも目に焼き付いているのだ。


 商会に来たあいつ等が要求だけして去っていく最中、お袋が代理に縋りつく。するとゴミでも見るような目でお袋を睨んだ後に蹴り飛ばし、その際に柱へと頭をぶつけてしまったお袋はぐったりしてしまう。だが、それで終わりではなかった。


 よりにもよってあの代理の男は、護衛が持っていた剣を奪って意識のないお袋の腹にその剣を突き刺したのだ。挙句の果てに、こうなりたくなかったら期日までに払うんだなと言う始末だ。


 あたしだって憎いさ。だけど、あの時に今にも飛び掛かりそうになっていたあたしを必死に抑えながら泣いていた親父が、虚ろな表情だけでなく凄まじい形相でブツブツいうものかね。


 いや、やっぱり何かがおかしい。


「そんなに心配なら、気持ちが落ち着けるお茶でも持ってきてやろうかね。それで少しは楽になるとは思うんだけど」


「本当かい? 叔母さん助かるよ」


 叔母は扉へと向かって歩き出した。そんな叔母を見送るために後をついていく。すると、家の扉が開いて親父が顔を覗かせる。


「ああ、来てたのか。いつもすまないな」


「いいってことよ。それより、かわいい娘にあまり心配をかけさせるんじゃないよ」


「ああ……」


 叔母は、ポンと親父の肩を叩いた後に外へと出て行った。そんな叔母に対して親父は気が抜けたような返事をしていた。


「なあ、親父本当に大丈夫か? 少し休んだほうがいいんじゃないか?」


「あ? ああ……大丈夫だ。金なら何とか確保できそうだよ」


 そう答える親父の顔は顔面蒼白だった。今にも倒れてしまえそうに思えるほどだ。


「いや、金じゃなくて親父のほうさ。顔色悪すぎるぞ。少し寝て来いよ」


「そうか? それじゃあ母さんの様子を見てから少し寝てくるよ。何かあれば起こしてくれ」


「ああ、分かったよ」


 そう言うと親父は奥の部屋へと行ってしまった。少し経った後に親父の様子を見に行ったが、疲れがたまっていたのだろうか。涙の跡があるものの静かに寝息を立てて眠っていた。その隣のベッドでは、お袋が静かに眠っていた。


 あの騒動後、一命は取り留めたものの頭の打ちどころが悪かったのか未だに目を覚まさないのだ。


 再度、親父の顔を確認する。やはり涙跡がある。お袋を見て泣いていたのだろうか。そんな親父があの深夜に見せた顔をするだろうか。


「あー、やっぱり、一人で考え込んでも分からないわ」


 寝ている親父を観察しながら、愚痴を零しているとふいに後ろから声をかけられる。


「何が分からないのさ」


 あたしは素早く後ろを振り返る。そこには帰ったはずの叔母がいた。


「調子はどうだい?」


「ああ、ぐっすり眠っているみたいだ」


「そうかい。それはよかったよ。そうそう、例の物はテーブルの上に置いておいたよ。ついでに茶菓子も持ってきたから向こうで寛ごうか」


「お、早速いただくよ」


 あたしと叔母は居間へと戻り、叔母が持ってきてくれた茶を早速頂く。心が安らぐ匂いと共に、何とも優しい味が口の中に広がっていく。この微かな甘味は花によるものだろうか。などと考えていると叔母がニコニコと笑いながら話しかけてくる。


「どうだい、安らぐだろう。まぁ、答えを聞かなくてもあんたの顔を見りゃ分かるんだけどね」


 どうやら呆けた顔をしていたようだ。あたしは、慌てて体裁を整えて感想を述べる。


「あ、うん。これなら親父も癒されること間違いないな!」


「そうだろうさ。何たってこの私のお墨付きだからね」


「そりゃ、そうだわ」


 思わず二人で見つめ合って笑ってしまった。


 実は、叔母も商会の一員で主に商品管理や新商品と成り得るものを掘り出しているのだ。故に、その目利きは一級品なのである。勿論、あたしも商会の一員であり、叔母には劣るがそれ相応の見る目だってある。


 いつかは、叔母を追い抜いて商会を更に発展させてみせるさ。まぁ、目下の問題としてあの税をどうにかしなければならないのだが。


「いっそ、この町を出るのもありかもしれないな……」


 考えていたことが無意識の内に声に出てしまっていた――そんなことは出来ないと分かってはいるのにだ。


「それもいいかもしれないわね。私たちがいればどこでだってやっていけるものね。でも、それは出来ないとあんただって分かってはいるんでしょう?」


「いや、ごめん。つい口走っただけだ。流石に今のお袋を連れていくわけにはいかないよ」


 一命を取り留めたとはいえ、まだ傷が癒えぬどころか未だに目覚めないのだ。そんなお袋を連れて旅路に出ることなんてあたしには出来ない。親父なんて特にそうだろう。


「あーあ、あいつ等がいなければなぁ」


「今だけならいないわよ」


「何処か行ってるのか?」


「何でも息子を連れて新しい領土を広げに行ったらしいわよ。どうせ難癖付けて略奪じみたことを企んでいるんでしょうけど」


「はぁー。どこまで欲深いんだか。いっそそのまま帰ってこなければいいんだけどな。っとそうだ! あたしはそろそろ商会に顔を出してくるよ。親父とお袋を頼んだよ」


「こっちは任せときなさい」


 あたしは叔母に両親を任せることにして、商会のある大通りへと向けて歩いてく。

『24話 つかれた商会長 中編』は9/27(水)の午前8時頃に投稿する予定です。

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