表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/42

24話 五分咲き

 私たちは、木々が生い茂る森の中を歩いていたのだが、突然前を歩いていたローブ男が立ち止まり、こちらに振り向く。


「急用が出来た……」


「え? 急用?」


「一人で集落へ向かってくれ……」


「集落へ向かってくれと言われても道もないんだから分からないよ」


 私はそう言ったあとに辺りを見渡す。周りには草木が生えており、獣道すらないようだった。すると、ローブ男の手が私の目の前に伸びてくる。その手には何かが握りしめられている。


「これを使え……」


 私は両手で彼の手の中にあった物を受け取った。それはコンパスだった。


「今いる場所も分からないのにこれじゃ進めないよ」


「すでに場所は指示してくれるはずだ……」


 私は、もう一度コンパスを確認する。よく見ると片方の針が仄かに光を発していた。どうやら、この光っている針の方向へと進めばいいようだ。


「この光の方向へ目指せばいいんだね」


 ローブ男は黙ったままコクリと頷いた。そして、またしても彼の手が伸びてくる。


「これも持っておけ……」


 またも、彼から受け取りそれを眺める。それは、私の前腕ぜんわんくらいの長さの金属らしき物で出来た杖だった。先端には丸い輪っかが付いており、その中央部には宝石のような物が備わっていた。


「これは杖?」


「今のお前なら使いこなせるはずだ……」


「使いこなせると言われても」


「魔力を流せば展開する……」


 魔力を流せばいいらしいので、早速魔力を杖へと流すことを意識する。すると、私が握っている柄の中央部と上下の部分が分かれて、その間を埋めるようにして光が伸びていく。

 先端の輪も同じように光の輪になって広がっていく。その上下左右の四か所には元の金属部分が見受けられた。


「な、なにこれ……すごい……」


 短杖は、瞬く間に光り輝く長杖へと姿を変えてしまった。


「出来たみたい」


 そう言いながらローブ男がいた場所を見るがそこには誰もいなかった。既に行ってしまったようだ。

 試しは済んだので、杖への魔力を止めると杖が元の形へと戻っていく。


「わっ! 元に戻った。これ面白い……かも」


 元に戻った杖を手に持ちながら、森を進もうとしたが辺りは暗くなり始めていた。早速修行の成果を試す時が来たようだ。と言ってもただ明かりを点けるだけだけど。


 頭の中に使用したい内容を思い浮かべて、魔力を使うということを意識する。すると、私の肩の上に小さな光源がふよふよと漂い始めた。


「うん、これで明るくなったね」


 私が一歩踏み出すと、光源も付いてくる。しかし、ローブ男が使うものとは何かが違うような気がした。何かと聞かれたら答えられないのだけれど、何かが違う気がするのだ。


「何が違うんだろう……まぁ、考えてても仕方ないし、とりあえず明るければ問題ないよね」


 再び歩き出すと、近くで獣の鳴き声が聞こえてきた。私は杖を展開して身構える。すると、一匹の狼が木々の合間から姿を現した。鋭い牙を覗かせながらこちらの様子をうかがっている。


 牽制のつもりで狼目掛けて風の刃を飛ばした。のだが、想定よりも威力が大きかったらしく狼を真っ二つにしてしまった。


「あれ? 前に試した時にはこんなに威力は高くなかったんだけど……もしかしてこの杖のせい?」


 両手で持っていた杖を見つめる。変形した神秘的な杖がそうだと言わんばかりに光輝いていた。


 これは、慣れないといけないなと思いながら杖を元に戻そうとした時、目の前を新手の狼が横切っていく。慌てて身構えようとするが、私には目もくれずに狼はそのまま何処かへと走り去ってしまった。


「何だったのだろう……」


 しばらく様子を見るが、近くに獣の気配を感じなかったので杖を元に戻す。訝しげながらも、再度コンパスの指し示す方角へ足を進めていく。


 道中、遠くで獣の雄たけびが度々聞こえてくるので用心しながら歩いていたのだが――。


「う、うわー! こっちに来るな!」


 今度は、近くから人の声が聞こえてきた。獣に襲われているのだろうか。その声は酷く怯えているようだった。ローブ男が助けに行っているかも、という考えが一瞬頭の中を過ったが、万が一があるかもしれないと思い直して、声のした方を目指して駆け出した。



 その場所へと到着すると、腰を抜かしながらも果物ナイフらしき物を前へと突き出している少年と、対峙するように立っている大きな熊がいた。


 私はすかさず風の刃を放つ。調整をしている場合ではないので、先ほどと同威力のものだ。刃は熊の首を目掛けて飛んでいき、その対象物を跳ね飛ばす。首から上を失った体は、崩れるようにして倒れた。


 安全なことを確認した後、私は少年に歩み寄り声をかける。


「もう大丈夫だよ」


 少年は驚きの表情のまま硬直していたが、私の声を聞いたことによりこちらへと顔を動かした後、口を開く。


「助けて頂いてありがとうございます。ところで、今さっきのは魔法ですか?」


「そうだよ」


「そっか。あれが本物の魔法……か。初めて見たけどかっこ良かったです!」


「どういたしまして」


 私はそう言いながら微笑みかけた。


「あっ! もちろん、お姉さんはかわいいですよ」


 照れるでもなく、真っ直ぐ私の顔を見つめながら少年は感想を述べてきた。そんな様子に逆にこちらが気恥ずかしくなってしまった。


「あ、ありがとう」


 少年は立ち上がると、辺りを見回した後に少し困った顔をして尋ねてくる。


「あのう、一つお尋ねしてもいいですか?」


「なにかな?」


「ここってどこですか?」


 今現在いるところは森の中であり、正直言って何処かは私にも分からない。ただ分かるのは集落への道のみ。なので、こう答えることにする。


「もしかして迷子かな? 今集落へと向かっているんだけど良かったら一緒に行く?」


「ありがとうございます。ぜひ、お願いします」


 私は少年と共にコンパスを片手に森の中を突き進んでいく。その間もやはり遠くのほうで獣の声が聞こえてくることが度々あった。その度に少年は、おびえた様子で辺りをキョロキョロと見まわしながらも私の後をついてきていた。


「そういえば、そのコンパスって結構ありふれているんですか?」


 少年は恐怖を紛らわせるように問いかけてきた。


「んー、どうだろう。私が知る中ではこれ以外見たことがないかな」


「そうなんですか」


 少年は何かを考えこむような様子で、しばらく黙った後、再度口を開く。


「お姉さんは、もしかして魔法使いだったりしますか?」


「え? 私はただの村人だけど……でも魔法が使えるから魔法つかいっていうものなのかな?」


「村人だったんですか」


「ええ、ちょっと旅をすることになってるんだけどね」


「そう……ですか……」


 少年は何かを察したのか、またしても押し黙ってしまった。そのまま時間は過ぎていき、やがて集落の明かりらしきものが見えてきた。


「あ、集落が見えてきたよ。ってなんだか慌ただしい感じがするね」


 見えてきた集落には武装した人々が集まって何やら話し合っていた。もしかしたら、この子の捜索をしようとしていたのかもしれない。


「お家の人たちが心配してるみたいだよ」


「お家の人……」


 その言葉に反応して少年は暗い顔をしてしまった。私は慌てて取り繕う。


「大丈夫だよ。みんな心配しているだけだよ」


「…………」


 少年は何だか複雑な顔をし始めてしまったので、困りながらも二人で集落へと入っていった。


「お、旅の人たちか。獣に襲われなかったか?」


「え? あ、はい。襲われましたが何とかやりすごしました」


「そうか。それは良かった。何でも獣の群れが近くまで来ているそうだ。しばらくはここで休んでいくといい」


「ありがとうございます」


 集落の人と会話している最中も少年は何かを考えこんでいる様子で押し黙っていた。気まずさのあまり思考を巡らせて、ある疑問を口にする。


「ねえ、キミはなんであの時果物ナイフを持っていたの?」


「あ、これですか?」


 少年はほとんど装飾のない果物ナイフを手に持ち、私に見せてくれた。


「これは、僕と同じくらいの子から護身用にってもらったものなんですよ」


「護身用で果物ナイフ?」


「あはは、やっぱりおかしいですよね。僕もそう思ってました。なんで短剣とかじゃなくて果物ナイフなんだろうって」


「そのナイフをみせてくれ……」


 この声は、と思い後ろを振り向く。すると、やはりそこにはローブ男が立っていた。


「あれ? もう急用は終わったの?」


「ああ……」


「あ、紹介するね。この人旅の同行者なんだ」


「ど、どうも。あ、ナイフを見たいんでしたっけ? どうぞ」


 少年はローブ男に軽く頭を下げると、ナイフを手渡した。ローブ男はナイフを受け取ると嘗め回すように観察する。


 ローブ男が興味を示したナイフを改めてじっくりと観察する。刃先は銀色で、薄っすらと模様みたいなものが見える。そして、柄部分も金属で出来ていたが、どう見てもただの果物ナイフにしか思えなかった。


 もしかして、ローブ男は果物ナイフを集めるのが趣味だったりしてなどと冗談めいたことを考えてる間に少年にナイフが返却された。


「なるほど……」


 そう言葉を漏らしたローブ男は、心なしか喜んでいる様に感じられた。やっぱり果物ナイフが趣味なのかもしれない。


 そんなやりとりをする私たちとは別に、集落の入り口付近に集まっていた人たちにも動きがあったようだ。


 声が聞こえてくる入り口を見る。そこには茶髪の少年が私と同じように光源を漂わせており、仄かに輝く剣を女の子に見せようとしているところだった。


「あれは!?」


 私たちのすぐ横にいた男の子が、茶髪の少年に向かって走り出した。どうやらあの少年は友達だったらしい。なにやら嬉しそうに剣を持つ少年と話をしていた。


 良かった。やはりあの子は、ここの集落の子だったみたい。


 ほっと胸を撫でおろしながら、少年たちを眺めていたのだが、突如、私の視界は眩い光に襲われてしまった。それは、少年が触れた剣が光を放ったからだ。


「キャ! 何が起こったの……?」


「……」


 私の問いにローブ男は答えることはなかった。やがて光が収束していき、元の光程度まで戻ると茶髪の少年は、大人たちに囲まれており、そこには森で出会った男の子の姿はなかった。


 家にでも帰ったのかなと思い特に気にも留めず、私の思考は先ほどの光のことへと向かっていく。


「ねえ、さっきの光って……」


 そう問いかけながら、ローブ男の顔を窺うと僅かに口元が緩んでいた。それはまるで、子供が新しい玩具を見つけたようなそんな笑みだ。フードで隠された瞳はよく見えないが、きっと輝いているに違いない。


 そんな表情を想像してしまった私は吹き出しそうになってしまった。その事を見透かしたかの如く、感情のこもってない声がかけられる。


「もう行くぞ……」


「え? ここで休んでいくんじゃないの? ちょ、ちょっとまってよ。もしかしてさっき笑いそうになったこと怒ってたりする?」


「……」


 私の声にも反応せずに、ローブ男は足を進めていく。それに追いつくように私も速足で集落を後にする。


(……本当に怒ってないよね?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=54762384&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ