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22話 折れた剣 中編

 翌朝になると、僕は幼馴染の声で起こされることになってしまった。


「もう、いつまで寝てるのよ。今日は、湖に行くんでしょ?」


 そう言いながら、彼女は僕の部屋の窓を開けた。朝日が部屋の中へと差し込んでくるのだが――。


「朝っていっても早すぎじゃない? まだ日が昇り始めたばかりに見えるんだけど」


 僕は寝ぼけ眼を擦りながら、窓の外を見て言った。


「楽しいことは長いほうがいいでしょ」


「まぁ、そうだけどさ。ただ単純に、楽しみすぎて早く起きただけだったりして」


「――っ! いいでしょ! 楽しみだったんだから!! それにお弁当だって作らなきゃいけなかったんだからね!」


 どうやら図星だったようだ。そんな彼女は、手作りのお弁当が入った籠を持ち上げて僕に見せてきた。


「うわー、いい匂いがするね。昼食が楽しみだよ」


「フッフッフ、昼食だけじゃないわよ。ま、とりあえず下に行くわよ」


「分かったよ。それじゃあ着替えるから先に下りてて」


 彼女が下りたのを確認してから、僕は急いで身支度を済ませた。そして、階段を下りると居間には、父さんと母さんが朝食を食べている最中だった。


「おはよう」


「おう、息子よ。やっと起きたか」


「あら、おはよう。彼女の作る手料理は本当に美味しいわね」


「まったくだな。息子が羨ましいよ」


「それは、私の料理が美味しくないという訳?」


「最初の頃に比べたらだいぶま……あっ、いや、もちろん美味しいさ」


「ア、ナ、タ、少しお話をしましょうか。あなたは彼女の手料理を堪能してあげてなさいね」


「う、うん」


 父さんは、母さんに引きずられるようにして奥の部屋へと行ってしまった。僕はというと、救いを求める目を向けてくる父さんを見送った後に席へと着いた。


 実際に父さんの言う通り、母さんの料理は独特なのだ。故に、僕の小さい頃は幼馴染の母親――つまり、おばさんが家に来て作ってくれていたのだ。聞いた話によると、おばさんは昔料理人だったらしい。そんな彼女の娘も、技術を継承しているようで、どの料理も絶品なのである。


 その料理が今、目の前のテーブルへと並べられていく。


「はい、どうぞ」


「相変わらず美味しそうだね」


 僕はそう言うと、彼女が作ってくれた朝食をあっという間に平らげた。そして、美味しい物を食べたせいか、ついつい本音が漏れてしまう。


「ああ、毎日でもこんな料理が食べられたらなぁ。母さんの料理じゃなく……あっ!」


 僕は慌てて父さんが引きずり込まれた部屋の扉を見るが、どうやら開く様子はなかった。聞かれずに済んだようだ。


 ホッと胸を撫でおろしたあとに、僕の様子を座って見ていた彼女にお礼の言葉を言う。


「美味しい朝食をありがとう」


「…………」


 反応が返ってこなかった。


「おーい、聞こえてる?」


 彼女の視界の前で手のひらを振っているとようやく反応が返ってくる。


「え? えっと……どういたしまして?」


 どうやら聞こえていたらしい。きっと湖に行ったら何しようかと考えていたに違いない。僕は昨日の時点で、行った後のことを考えていた。それを言葉にする。


「あのさ、湖に行ったら釣りなんてどうかな?」


「釣り……ね。いいわね、それやりましょうよ」


「じゃあ、ちょっと準備してくるから待っててね」


「分かったわ」


 彼女が賛成してくれたので、自分の部屋へと戻って準備を始める。まずは、釣り道具一式。それと昨日父さんと約束したので、鞘に収まった鉄で出来た剣。


「よし、こんなものかな」


 腰に剣を携えて、右手には竿、そして、左手に桶を持ち階段を下りていく。


「おまたせ、それじゃ行こうか」


「ええ、行きましょう」


 僕たちが玄関の扉を開けて外へ出ようとすると、後ろから声をかけられる。


「気を付けていくのよ」


 振り向くとそこには身重の母さんがいた。


「え、えっと父さんは?」


「奥の部屋で頭を冷やしているわよ」


 どうやら父さんは文字通り、頭を冷やされているらしい。


「そ、そうなんだ。それじゃ行ってきます」


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 外へ出ると空は青く澄み渡っていた。そんな空の下で僕は幼馴染の案内で湖へと向かって歩いていく。



 二刻ほど過ぎた頃には、大きな湖へとたどり着くことが出来た。


「はぁー、結構大きいんだね。これなら魚も居そうだよ」


「いっぱい獲れたらわたしが夜ご飯も作ってあげるから頑張って釣るのよ」


「それなら絶対に釣ってみせるよ」


 僕は美味しい晩御飯を夢見て、釣りに勤しんだが……。


「ぷ、あははは。あなたって剣や魔法の腕はあるのに、相変わらず釣りはダメなのね」


「面目ない」


 僕がお昼までに釣り上げたものは、あまりにも小さすぎる魚が一匹のみだった。


「とりあえず、お昼にしましょう。食べ終わった後は、わたしが挑戦してみるわね」


「う、うん」


 彼女は料理だけでなく、釣りもうまいので大物も釣ってしまいそうな予感がする。



「ちょ、ちょっと重いから手伝って!」


 昼食を食べ終えて彼女が挑戦したら早速これである。


「今手伝うよ!」


 僕も釣竿を上げるのを手伝うが重すぎてなかなか上がらない。何度も上げながら糸を巻き上げたのだが、ついに竿のほうが耐えきれなくなって折れてしまった。


「「あっ!」」


 僕たちは二人して尻もちをついてしまった。といっても僕は地面で彼女は僕の上にだったけど。


「ごめんなさい」


「竿ぐらいいいよ。また作ればいいんだし。それよりもさっきのは凄かったね。もしかしたらこの湖の主だったのかもよ」


「確かにあの引きは尋常じゃなかったわ。いつかは釣り上げてみたいわね」


 そう言いながら彼女は立ち上がった。僕はというとそのまま寝転がった。


「なんだかこうやって寝転がっていると気持ちいいよ」


「え? 本当? わたしもやってみようかな」


 彼女も隣で寝転がり始めた。


「あ、本当だ。なんか癒される感じがするわ」


 彼女は目を閉じて水の音に聞き入っていたのだが、いつの間にやら寝てしまっていた。朝早くから、お弁当を作ってくれていたのだから無理もない。僕は彼女が起きるまで見守ることにした。




 やがて日が沈みかけた頃、彼女は目を覚ました。


「あ、あれ? わたし寝てた!?」


「おはよう」


「ごめんなさい。ってもう夕方なの!? 起こしてくれて良かったのに」


「気持ちよさそうに寝てたから、それは悪いなと思ってね。起きたことだしそろそろ帰ろうか」


「ええ」


 僕たちは再び森の中へと入り、家路へと向かう。しかし、その最中に何者かの殺気を感じ取り、僕は剣を抜き身構えた。


「何かくる。気を付けて」


 すると、茂みの中から一匹の狼が飛びかかってきた。僕はすかさず切り伏せた――つもりだったのだが、一刀両断どころかかすり傷ほどしか負わせられずにいた。


「なっ! 木剣ならまだしも鉄製ならこれで終わっているはずなのに」


 体制を立て直そうとしている狼に僕はすかさず追い打ちをかける。


「これならどうだ!!」


 風を纏わせた剣が狼を切り伏せる。今度は切り伏せることに成功したようだ。


「こいつは一体何なんだ」


 僕は亡骸を見つめる。どうみてもただの狼にしか見えないのだが明らかに硬さが違っていた。


「嫌な予感がする。急いで帰ろう」


「分かったわ」


 急いで集落へ向かおうとするも僕らの後方からいくつもの獣の声が聞こえてきた。それも狼だけではなく熊などの声までもだ。これは明らかに何かが可怪しかった。


「クソ、このままじゃまずい。僕が足止めをしておくから、キミはみんなに知らせに行ってくれ」


「分かった! 死なないでね」


「大丈夫だよ。父さんから教わった剣術だけじゃなく、母さんから教わった魔法もあるんだからね!」


 そう言って彼女を安心させた後、後方を振り向いて臨戦態勢を取った。

長くなってしまったので一旦ここで区切ります。折れた剣 後編は9/16の午前8時頃にアップする予定です。

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