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21話 折れた剣 前編

 森の中にあるのどかな集落に元気な声が響き渡る。


「セイッ! トウ! ヤァー!」


 僕の放つ連撃が父さんを襲う。が呆気なく弾かれた上に木剣まで飛ばされてしまった。


「ま、参りました。やっぱり父さんはすごいや」


「コラ! 稽古中は師匠と呼べといつも言っているだろう」


「はい、師匠!」


「今日は、ここまでにする。じゃあな、俺は一足先に帰る。お前は……ゆっくり来いよ」


「ありがとうございました!」


 僕は師匠に一礼した後に、先ほど父さんがチラッとだけ見た少女の方に目をやる。


「おつかれさま、今日もすごかったわね」


 そう言いながら、少女は手拭いを差し出してきた。この赤毛の少女は、僕の幼馴染である。年齢は僕と同じ十二歳なだけではなく、生まれた日付まで一緒なのだ。


「いつもありがとう」


 差し出された手拭いを受け取ると、汗まみれの顔や体を拭う。すると、いつもの様に筒に入った飲み物が目の前に出てくる。


「はい、どうぞ。まだ冷たいはずよ」


「あ、本当だ。まだ冷たい。早速いただくよ」


 僕は火照った体を冷ますために、筒に入った飲料を一気に飲み干す。体の節々にその冷気が染み渡っていくのが感じられた。


「はぁ、生き返ったよ」


 そう言いながら僕は緑の絨毯の上へと寝そべった。それを見た彼女も僕の横へと座り込む。そこへ穏やかな風が流れ込んでくる。


「あ~、涼しい。このまま寝ようかな」


「暖かいとはいえ、汗びっしょりで寝たら風邪ひくわよ。寝るならちゃんと着替えてからでなきゃ」


「冗談だよ。冗談。少し休憩するだけだよ」


「ならいいけど」


 同じ年齢とはいえ、どうも彼女は僕の姉のような素振りを見せる時がある。このことを面倒見がいいというのかもしれないけどね。僕としては姉よりかも……。


「そういえば、おばさんはどう? もうすぐ生まれそう?」


 彼女は、寝転がっている僕の顔を覗き込むようにして尋ねてきた。


「んー、まだなはずだよ」


「そうなんだ。生まれたらお兄さんになるのか。それなら私はお姉さんになるわね」


「んっ!? あぁ……まぁ……そう言ってもいいんじゃないかな」


 多分彼女が言うには、僕が弟みたいなものなので、その弟は彼女にとっても弟という意味なのだろう。一瞬、勘違いをしてドキッとしたのは秘密にしておく。


「あっ、そうだ。この間、お父さんたちと森へ出かけたときに湖を見かけたんだけど今度二人で行ってみない?」


「へぇー、あの森に湖なんかあったんだ。それならさ、今度と言わずに明日行ってみようよ。もちろん父さんたちに聞いてからになるけどさ」


「明日か。うん、分かった。明日はお弁当を作っていくわね」


「いいね。それじゃあ、そろそろ帰ろうか」


 そう言って僕は起き上がった。


「え? もう帰るの?」


「だって、承諾してもらえたらお弁当作るんでしょ?」


「そうだけど……」


「ほら、行くよ」


 僕は座り込んだままの彼女に手を差し伸べた。すると、彼女は渋々と僕の手を掴んで立ち上がる。


「もう少し――な」


「え? 何か言った?」


「何でもないわよ。それより帰って湖に行っていいか聞くんでしょ。早く行きましょ」


 立ち上がった彼女は、僕の左手を引っ張るようにして急かし始めた。


「分かったよ。だからそんなに引っ張らないで」


 僕は彼女と手をつないだまま、集落の外れにある草原を後にした。



 少し歩くと、僕たちが生まれ育った集落が見えてきた。


 この集落、実は父さんたちが森を切り開いて作ったものなのだ。元々は未開の地だったのだが、父さんが自然の中で暮らしたいと言い始めて切り開き始めたらしい。その時に、父さんを慕っていた人たちも一緒にきたとのこと。もちろん、母さんも一緒だ。


 そんな父さんたちだが、どうも何処かのお城のある町から来たらしい。詳しく聞こうとすると父さんははぐらかすが、母さんについては何とか聞くことが出来た。どうやら何処かのお嬢様だったようだ。


「あれ? なんだか入口の方が騒がしいみたい」


「あっ、本当だ。何やってるんだろう」


 彼女が言った集落の入り口を見ると、豪華な馬車が止まっており、何やら父さんたちと口論を繰り広げている人物がいた。


「父さんどうしたの?」


「ああ、お前たちか。変な虫が来ただけだ。気にするな」


「変な虫とはなんだ。私はここの領主になるものだぞ」


「だから何度も言っているように、ここは俺たちが切り開いた、俺たちの土地だ。お前の物ではない!」


 父さんと自称領主はお互いに睨みあい始めた。その自称領主の横に立っていた少年が、僕たちに気づいて歩み寄ってくる。


「お前かわいいな。俺の女になれ」


 そう言うと憎たらしい顔の少年は、幼馴染の手を強引に掴んだ。


「嫌に決まってるでしょ! 放しなさいよ!」


 彼女は、掴まれた腕をぶんぶんと振り回し始めが、その少年は一向に放そうとしなかった。

 僕は持っていた木剣を握りしめて、彼のほほをかすめるように突いた。彼の体は驚きのあまり硬直してしまった。そこに追い打ちをかけるように言葉を浴びせる。


「彼女を放せ!」


 僕の言葉を聞いた彼は、手を離した後に腰を抜かしてしまった。そして、先ほど木剣が真横を通ったであろうほほを撫でようとしていた。そのほほからは血が流れ始めている。


 かすめてはいなかったはずなのにと思いながら、前へと突き出していた木剣を見ると、風をまとっているのに気が付いた。どうやら、無意識のうちに、魔法で風を纏わせてしまっていたらしい。


 風を解除して、木剣を腰にたずさえると、腰を抜かしていた彼が、部下であろう大人たちに起こされようとしていた。


「俺の顔に傷を付けやがって。キサマの顔、覚えたからな」


 そう言いながら、彼は部下とともに二つある馬車の内の一つに入ってしまった。


「ありがとう、助かったわ」


「いえいえ、どう致しまして」


 彼女が掴まれていた部分を払いのけながらお礼を言ったのでこちらも返した。


「ふっ、やるじゃないか。っという訳でさっさと帰るんだな」


 父さんが僕の真似をして、自称領主に同じことをした。ただし、魔法は纏ってはいなかったけど。


「キサマたち覚えていろよ!」


 息子と似たようなことを言ったあと、自称領主は息子とは別の馬車に乗り込んだ。そして、そそくさと帰っていく。


「はぁ、まったく、困ったやつらだ。あれでは、まるで姉さんみたいではないか。いや、姉さんは結婚して丸くなったか……というよりかは調教……目覚め……」


「父さん、何をぶつぶつ言っているの?」


「いや、なに、気にするな。お前にはまだ早すぎる」


「まぁ、いいや。それより、あいつらまた来るんじゃないの? 覚えてろとか言ってたし」


「ああ、あの手の者はまた来るだろうな。――仕方ない、兄さんに連絡を取って手を打っておくか……」


「父さん?」


「ま、とりあえずこちらで何とかしておくからお前たちは心配するな」


「分かったよ」


「分かりました」


 僕と幼馴染は同時に返答した。そこで解散となって見守っていた集落の人たちも戻っていき、僕らも三人で母の待つ家へと帰っていくことにした。


「ただいま、母さん」


「おばさん、お邪魔します」


「今帰ったぞ。んでだ早速で悪いんだが話があるんだが……」


 父さんが先ほどの話をしようとしたので、先に僕らの用件だけ聞いてもらうことにする。


「ごめん父さん、先に僕らの話からいいかな?」


「ん? ああ、構わないぞ」


「ありがとう。明日なんだけど森の中にある湖に僕ら二人だけで行ってもいいかな?」


「なんだ、あの湖を見つけたのか。まぁいいだろう、念のために武器は忘れるなよ。もちろん木剣じゃなくて鉄のやつだぞ」


「あらあら、あの湖ね。私たちもあなたが生まれる前はよく行っていたわね。気を付けていくのよ。魔法まで使えるようになったあなたなら平気でしょうけど」


 どうやら、僕が生まれる前はよく行っていたようだ。生まれてからは一度も行った記憶はないけど……。


「いやいや、母さんほどには及ばないよ」


「あ、そろそろ、私帰るわね。また明日ね」


「送っていくよ。すぐ近くだけど、念のためね」


「ありがとう」


 彼女を見送るために外へ出ようとすると家の中では、父さんが母さんに先ほどの話をし始めていた。


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