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20話 種

 私は、ここ最近夢見が悪かった。彼を失ったあの日のことばかり夢に見てしまうからだ。その夢とは――。


 馬車に矢をいる三人の男たち。

 荷台に隠れる私。

 勇敢にたった一人で三人に切りかかっていく彼。

 足を射られてしまった彼に慌てて駆け寄る私。

 そして、手を伸ばすと炎に遮られて燃えていく彼。

 そこで、私は絶叫して現実へと引き戻される。


 この夢を見てしまう原因は、今私がやっていることが関係していると思う。


「また失敗か」


 宿場町にて宿をとった後、町の外で魔法の練習をしているのだが、うまく出来ずにいた。


 ローレルにあんなに啖呵(たんか)を切ったのに、あれから失敗続きで無力感に苛まれているのだ。そう、あの日と同じ無力感を……。


「落ち着いてやってみろ……」


 後方から声が聞こえてきた。振り向いて見るといつの間にか、ローブ男が見守っていたようだ。


 そういえば、ローブ男と出会った日も、こんな風に見守ってくれていたんだっけ。私は、彼との出会いを振り返ってみる――。



 ◇



 私は、気づけば森の中にいた。そして目の前には、あの時のローブを目深く被った男性が立っていた。


「もしかして助けてくれたの?」


「ついでだ……」


「ついで……それでもありがとうございます」


 私は深々と頭を下げた。


「あの時居た連れはどうした?」


 彼の問いに、まだ癒えぬ心の傷が開いていく。


「襲撃者に襲われて……な……亡くなり……ました……」


「そうか……」


「はい……」


「そこへ案内してくれ……」


「え!?」


 私の驚きの声に、反応せずに彼は黙って私を見つめ続けた。

 亡骸を弔ってくれるつもりなのかな。と思い、案内することに決めて返事をする。


「分かりました。案内します」


 案内する為に歩き出そうとすると、彼に制止される。


「まて、ここが何処だか分かっているのか? それと移動はこれを使う……」


「あっ! え? 馬!?」


 彼の指摘で、今どこにいるのかさえ分かっていないことに気づいた後に、追い打ちをかけるかの如く、いつの間にか居た馬二頭を見せつけられた。


 とりあえず、馬は気にしないことにして、彼が持っていた地図で場所を伝えると先導して、逆にそこまで案内してくれた。


 そのお陰で、朝日が昇り始める頃には、あの人が最後にいた場所へと辿り着く事が出来た。


「ここか……」


「はい……」


 彼の遺灰は風で舞ってしまったのか、地面の上に少量を残すのみの状態になってしまっていた。


 そんな彼の遺灰が突如光を帯びたかと思うと、人の形になっていく。


「え? うそ!?」


 私の前には、ここで命を失ってしまった愛しの彼の姿があった。ただ、半透明であるのだけれど。


「一時的に仮初の命を与えた。正確には意識体というべきだが……会話だけは出来るだろう……」


 どうやら、ローブの彼が何かをしてくれた様だ。その言葉に、赤髪の彼が頷いた後に言葉を発した。


「先日ぶりかな。リアナ約束を守れなくてごめん」


「う、ううぅぅ」


 もう聞くことが出来ないと思っていた彼の声が聞けたことにより、抑えていた感情が溢れ出す。


「こっちこそ見てるだけしか出来なくてごめんなさい。私が戦うことさえ出来ていればこんなことには……」


「いや、俺がもっと強ければこんなことには……」


 暫しの間、お互いに沈黙し合ってしまったが、さきに彼の方から口を開いた。


「リアナ、俺のことは忘れて欲しい。もう君と歩んではいけないのだから」


「いや! そんなの絶対にいや!! こんな奇跡を起こせるのならどうにかならないの?」


 私は、藁にも(すが)る思いでローブの男性に尋ねてみた。


「出来るが……」


「「えっ!?」」


 私と半透明の彼とでローブの男性を期待のまなざしで見つめる。


「これだけの遺灰ではどうなるか分からない……」


「それでもお願いします」


「俺からもお願いします」


「勘違いしていそうだから先に訂正しておくが、先ほどのどうなるか分からないと言ったのは何百年先になるか分からないという意味だ……」


「……えっと、どういうことですか?」


 私が口を開く前に彼が尋ねてくれた。そして私たちは、ローブの男性から彼と歩める希望への詳細を聞き出した。


「なるほど。つまり俺が少量の遺灰のせいで何百年先に転生するか分からない訳か」


「そして、私は再会出来る前に寿命を迎えないように不老長寿の薬を飲んで待つ訳ね」


「ああ、そうだ……」


「それなら私は、その道を選択するわ」


「本当にいいのか? 一人っきりで待つことになるんだぞ?」


「ええ、大丈夫。彼と歩める未来が来るのなら何年だって待って見せます」


「リアナがその道を選択するというのなら、俺もその道を選びます!」


「分かった……それでは、始めるぞ」


「待って、少しだけ時間を貰ってもいいかな?」


「まだ猶予があるから構わない……」


「ありがとう」



 私たちは、生まれ故郷の村へと戻ってきた。数日ぶりだというのに何年も離れていたような気がしたが懐かしむ時間はなかった。


 父と母に別れの挨拶をした後に、彼の家の前にはあの時買ったお土産の剣と一通の手紙を置いてきた。そして、今は村の外れにきていた。


「よし、こんなものかな。後は、この花を植えるだけね」


 私は、今立てた棒の周りに、村へ帰る途中に取ってきた花を数株ほど地面に植えた。あの時行った彼との思い出の花畑の物である。


「リアナ、これは一体なに?」


 彼が、先ほど立てた棒について尋ねてきた。


「今はお墓だけど、再会の目印にと思って。ただ棒だといつか朽ちてしまいそうだから、花なら咲き乱れてくれるんじゃないかと思って植えてみたんだけど」


「なるほど、この花もあの花畑のようになってくれるといいね」


「そうなるといいなぁ」


「そろそろ時間だ……」


 私たちを見守ってくれていたローブの男性が暫しの別れの時を告げた。


 愛しい赤髪の彼が転生する為に光の粒子へと帰っていく――。


「またね」


「ええ、また来世で会いましょう」



 ◇



「――聞いているのか?」


「え? ええ、落ち着いてやってみればいいんだよね」


 私の焦りはいつの間にか消えていて、心はすっかり落ち着きを取り戻していた。


 深呼吸をした後に、再度魔法を使用してみる。魔導書に書いてあったことを頭の中に繊細に思い浮かべていく。そして、自分の中の魔力を使うことを意識する。すると、目の前に小さな火が出てきた。


「やった! 成功した!!」


 故郷を出発するときに師事を乞おうとしたら、『俺は、教えるのが好きじゃない……』と言っていたのに、的確な助言をくれるなんて、実は教えるのが上手いんじゃないかな。などと考えている間に私の喜ぶ姿を確認した後、ローブ男はいずこかへ去っていった。


「さてと、今はコツを忘れないうちにもう少し練習しないとね」


 私は、その後も日が暮れるまで練習を続けたが、一度も失敗することはなかった。そのお陰で夜は、あの悪夢を見ることもなく心地の良い眠りにつくことが出来そうだった。

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