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13話 二.五分咲き (改)

 翌朝になり身支度を終えたものの、私はこの後の予定を立てられずにいた。


(せめて、いつ旅立つかさえ分かればいいんだけどなぁ)


 ローブ男が伝えに来てくれないかと願いつつも、外へ出るために部屋の扉を開けた。と、そこで不意打ちを受ける形になってしまった。


「わっ! びっくりした」


 扉を開けると目の前にローブ男が立っていたのだ。


(来てほしいとは思ったけど、こんな登場は流石に望んでないよ)


 私が動揺を隠せないでいると、ローブ男が要件を伝えてくる。


「しばらく滞在することになった……」


「しばらく? なら、前にも聞いたけど戴冠式は見れたりするのかな?」


「ああ……」


「それじゃあ、戴冠式までは宿を延長しておくね」


 ローブ男は静かに頷くと、忽然と姿を消してしまった。急遽決まった休日に、私は思いをはせる。


(戴冠式まで何しようかな。そうだ。靴を買い替えるついでに、買い物を楽しむなんてのもいいよね。よし、それじゃあ早速、靴屋に行ってみようかな)


 靴屋に向かう途中、王都なだけあって素敵な服屋がいくつも見受けられた。


(旅で服も傷んできてるようだし、そろそろ新しいのを買わないといけないかな。破けても困るし、たまにはいいよね)


 店の中へ入ると、私はすぐに久々のおしゃれを満喫した。あと気に入った服をいくつか購入しておいた。


(はー、楽しかったなぁ。よーし、次は素敵な靴を探すぞー!)


 靴屋では服屋と同じように買い物を楽しんだけど、買ったものは耐久性を重視したブーツだった。


(おしゃれで頑丈なブーツがあれば良かったんだけど、楽しめただけで良しとしますか)


 靴を購入した後は、荷物を置くために一度宿へと戻った。そして、再び王都を散策することにした。王都には、おしゃれな噴水があったりと見ているだけでも楽しめる場所がいくつもあったのだけど、私はその中でも一番気になるといっても過言ではないモノを発見してしまった。


 公衆浴場。つまりがお風呂である。


 長旅で風呂に浸かれる機会があまりなかったのもあるけど、私はある好奇心から中へと入ることにした。


 中へ入ると男性用と女性用の入り口に分かれており、更に奥へと進んでいくと脱衣所になっていた。衣服をかごの中へと入れて、入り口で渡された布を巻いて浴場へ入る。すると――。


「ええー、なにこれ!」


 流行の最先端である王都のお風呂が普通のはずがない。と予想をしていたけど、眼前に広がる光景は私の予想を遥かに上回るものだった。


 普通の浴場に、泡のお風呂。そして透明なお酒のお風呂に、ワインのお風呂。より取り見取りのお風呂たち。


(どれから入ろうかな。っと、まずは先に体を洗わないとだね)


 私ははやる気持ちを抑えながら、丁寧に全身を洗い上げていく。


(よし、準備は完璧だね。それじゃあ、初めは泡のお風呂から入ってみようかな)


 入浴した私の体を泡たちが優しく包み込んでいく。


(はぁー、なんだかとろけてしまいそう)


 心なしか肌までつるつるになったような気もしてきたところで、次なるお風呂へと移動する。


(んー、気持ちいいことは、いいんだけどちょっと酔いそうかも。お酒が強い人には合うのかな)


 透明なお酒のお風呂に入ってはみたものの、私にはあいそうになかったので早々に移動する。


(あっ、(ほの)かに香る葡萄の匂い。これいいかも)


 ワインのお風呂に癒しを感じているとだんだんと意識が遠のいてくる。


「なんだか……ねむく……ってまずいまずい」


 慌てて冷水に浸かり、眠気を覚ましたあとは気を取り直して普通のお風呂に浸かることにした。


(やっぱり普通もいいね)


 今までの旅の疲れが流れ出ていくような感覚を覚えながらも、私はひと時の休息を満喫した。そして、ほろ酔い気分で宿へと帰ると、私はすぐさま眠りについてしまった。



 ◇



 戴冠式が行われるまでの数日間は、零れ落ちてしまった日々を取り戻すかのように楽しんでみたものの、心にあいてしまった隙間を埋めることは出来なかった。


 そして戴冠式当日。王都はお祭り一色に染まり、かつてないほどの賑わいを見せていた。


(今日が戴冠式だけど、いつまで滞在するんだろう)


 部屋の扉を開けると、二日目と同じようにローブ男が立っていた。何となく、そんな気がしていたので冷静に話をする。


「おはよう。もしかして、今日旅立つ感じかな?」


「ああ……」


「じゃあ、宿の鍵は返却しておくね。それと、戴冠式は見に行ってもいいんだよね?」


「構わない……」


 そう言うとローブ男は姿を消した。鍵を返却して宿の外へ出てみると、いくつかの出店が出ており、私は匂いに釣られる形でその内の一つへと足を向けた。


「わぁー、美味しそうですね」


「お、いらっしゃい。今、王都で一番人気の焼き菓子だよ。戴冠式の土産にいかがですか?」


「面白い形をしていますね。それを一つ下さい」


「ありがとうございました」


 王冠のような形の焼き菓子を購入した後は、乾物屋さんが言っていた広場を目指して歩くことにした。


「そろそろ戴冠式が始まるらしいぞ」


「そうなのか。だったら急がないとな」


 行き交う人の声が聞こえてきて、まもなく戴冠式が始まるようだった。


 (まずい、私も急がなきゃ!)


 人が流れていく方向へと早歩きで向う。しばらくの間、流れに身を任せていくと、人の川は巨大な壁に開いている穴へと吸い込まれていた。


(すごい高さ、この先が広場になっているのかな)


 広場に流れ出ると、大勢の観客たちが中央にある立派な神殿を囲んでいた。


(何とか間に合ったみたいね)


 遠巻きに神殿を眺めていると二階部分のバルコニーから、王と王子と思わしき人たちが姿を現した。それに伴い、観客たちから一斉に歓喜の声が上がった。


(すごい熱気。王様も王子様もみんなから好かれているんだね)


 熱気に囲まれる中、王子が(ひざまず)くと、王が新たなる王の頭の上へと王冠を被せた、と思う。なぜ確証を得られないのか。それは遠すぎて王子たちの顔すらよく分からないのに、更に小さい王冠なんて視認できなかったためだ。


 だけど、分かっている人には分かっているらしく、またも歓声が巻き起こった。


(みんな、この瞬間を待ち望んでいたんだね)


 新王が立ち上がると、盛り上がっていた歓声は鳴りを潜めた。観客たちがじっと見守る中、新王が腰に下げていた剣と思わしきものを抜き、澄みわたる青空へと掲げる。掲げた物が太陽の光を反射してまぶしく光ったかと思った次の瞬間、太陽は姿を隠してしまった。


(霧? あの新王様が霧を発生させたのかな。でも、何のために霧を出したんだろう)


 疑問に思ていると、すぐにその答えが見つかった。


「きれいな虹。こんなの初めて見た」


 霧の中には白い虹が出ていて、まるで戴冠式を祝福するかのように光り輝いていた。初めてみた光景は、とても美しく神秘的としか言いようがないものだった。


 他の観客たちも見惚(みと)れているらしく、静かな感想のみが聞こえていた。


(旅を続けていけば、こういった光景がまた見れたりするのかな)


 今後の旅路に思いを馳せていると、突如声をかけられた。


「そろそろ行くぞ……」


 そろそろ来るだろうと予測していたので、即座に切り返す。


「りょうかい!」


 私たちが立ち去る中、静まり返っていた人々は我を取り戻したかの如く、一斉に感極まった声を上げていた。


(この国は、これからも人々とともに発展していくんだね。――未来、か。その為にも……)


 歴史的一ページを背にして旅立つ。私の目的の為に――。

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