09話 一分咲き (改)
久々のリアナ目線のお話です。
「はぁ~、やっと町に着いた」
私たちは、いくつもの町や村などを渡り歩いて教会がある町へと到着したばかりだった。
辺りを見回して、近くにいたはずのローブ男を探してみる。しかし、前回の町同様にいつの間にか姿を消していた。
「また消えてるし……。うーん、この後どうしようかな」
ローブ男が町に着いたら宿を取っておくように言っていたけど、まだ日が昇ったばかりだった。せっかくなので、先に町の散策と買い出しでもしようかなと思い歩くことにする。
しばらく歩いているとお店の人が声をかけてくる。
「そこのお嬢さん、焼き菓子でも買っていかないかい? 」
いい匂いがすると思ったら焼き菓子のお店だったらしい。この町では、どんな焼き菓子が売っているのか気になるので覗いてみることにする。
「わー、色々ありますね。それじゃ、これとこれとこれを下さい」
私は、拳位の大きさで切り株状の層になった焼き菓子と、貝殻形の焼き菓子、それと長方形の焼き菓子を買うことにした。
「はいよ、まいどありー」
紙袋に入れられた品物を受け取り、再度散策を開始する。
◇
色々なお店を見た後に宿屋を探し始めたのだけど、いつの間にか路地裏へと迷い込んでいた。
袋を抱えながらキョロキョロと辺りを見回していると、男の人に声をかけられる。
「何かお困りですか?」
声のほうを向くと、夫婦と息子さんらしき三人が立っていた。
「すみません。道に迷ってしまったようで……。この辺りに宿屋ってないですか?」
私は、善意に甘える形で宿の場所を尋ねてみた。
「ここは町の北側の方で教会しかないですよ。宿は反対側の南にありますよ」
父親らしき人が教えてくれた。
「反対側だったんですね。教えて下さり、ありがとうございます」
私は、お礼を言った後に一礼をした。そこで、あることを思いつく。
「あっ、そうだ!」
前の町に立ち寄った時に買っておいた飴がまだ残っていることを思い出したので、腰の袋から取り出す。
「旅の道中で買った物だけれど、よかったらどうぞ」
紙に包まれた飴玉を数個ほど少年に向かって差し出す。
「飴玉かな?」
少年が聞いてきたので、私は頷いた後に続けて言う。
「美味しいよ」
そう答えたときに、あの甘美を思い出して思わず笑顔になってしまった。
「お姉さん、ありがとう。早速いただくね」
少年は早速、飴玉の紙を剥がして一つ頬張った。
「甘くて美味しいよ!」
「そうでしょ? 私の今のところの一押しなんだよ」
今度は私の意志で笑って見せた。すると、少年も釣られるように笑顔を見せてくれた。
そのあとは、手を振り三人と別れて、教えてもらった宿屋へと向かった。
◇
宿を取り、部屋で本を読みながら寛いでいると、外はいつの間にか夕暮れ時となっていた。
「もうこんなに時間がたっていたんだ」
窓を見つめていると、ふと視線があることに気づいたので、部屋の扉の方を振り向く。すると、そこには、いつ入ったのかも分からないローブ男が立っていた。
「今日は外に出るな……」
ローブ男が警告してきたので返事をする。
「分かった」
私が返事をするや否や、彼はすぐに姿を消してしまった。
彼が姿を消してからも、しばらくは読書を続けていたのだけど、外が気になったので読むのを中断し窓の外を覗いてみる。すると、外はすっかり闇夜に覆われていたのだけれど、何故かやけに明るい場所があり、空には二つの月が顔を出していた。
また誰かが救われているのだろうか。
しばらくの間、明るい場所を眺めていたけど、やがてその場所も闇に覆われたので私は寝具へと横になる。
「そういえば、ローブ男と出会ってからそこそこの時間が経ってるけど、未だに名前すら知らないなぁ……。どうせ、聞いても教えて貰えないんだろうけど……」
私は改めてローブ男について何も知らないんだなと感じながらも、疲れのせいか瞼が閉じていく。
二つの月を見たせいだろうか。目を閉じると、光に包まれ消えていく彼の姿がはっきりと浮かんできた。
「――あいたいなぁ」
涙と共に言葉が零れた。
◇
暖かな日差しとともに小鳥の囀りが聞こえてくる。
「う、う~ん。……あさ?」
どうやら、彼への思いにはせている間にいつの間にか寝てしまっていたらしい。
完全に目が覚めた後は、身支度を整えて食堂にて朝食を済ませた。そして、一度部屋へと戻るために立ち上がると、目の前にローブ男が現れた。
「出発するぞ……」
前ぶりもなく彼が告げるので、私は慌てて鍵を返却し宿を出た。
宿の外へ出ると何やら町の中がお祭りの如く騒がしくなっていた。
「聖人様が現れたぞ」
「今日はお祝いだー」
「そういや、あの神父どこ行ったんだ?」
などなどの声が聞こえてきた。
『聖人様ってなんだろう?』と思っているとローブ男が急かしてくる。
「いくぞ……」
「えっ? ちょっとまってー」
私はローブ男を追いかけるようにして町を出て、再び目的地へと向けて旅立った。