私は卑しい聖女ですので、お隣の国で奉仕活動いたします
「お父、痛いよう……」
「そうか、困ったな」
西への街道の途中、この辺りまで来ると集落の数も少なくなってきます。
前に親子連れがいますが、お子さんの方に不都合があるようです。
どうやら私の出番ですね。
「もうし、坊っちゃんがおケガでもされましたか?」
「やや、これは……何だ。聖女か」
親御さんは急にぞんざいな口調になりましたが、仕方ありません。
私は卑しき聖女ヒミコですから。
「足をくじいたようだ。銅貨をくれてやるからとっとと治せ」
「おありがとうございます。では坊っちゃん、おみ足を拝見いたします」
「うん、足首が痛いんだ」
「足首ですね」
魔力を流し込む。
ええ、問題ないと思います。
「坊っちゃん、いかがでしょうか?」
「痛くない! お姉ちゃん、ありがとう!」
「坊よ、礼などいいのだ。その女は聖女なのだから」
「そ、そうなの?」
坊ちゃんは戸惑っていらっしゃいます。
聖女を御存知でないようです。
「ほら、急ぐぞ」
「う、うん」
お子さんが手を振ってくれます。
可愛いですね。
でも聖女の何たるかを知れば、挨拶なんかしたくなくなりますよ。
聖女とは贖罪の里に生まれる女性のことで、生まれつき眉間の少し上に赤い印があり、回復や治癒などの魔法を使用できます。
聖女が魔法を使えるのは、かつて神様に逆らった呪いと言われています。
つまり聖女は生まれながらにして罪人なのですね。
これが人々に忌避される理由です。
贖罪の里を離れて他人に治癒魔法を使うなどしていると、いずれ魔法は使えなくなり赤い印は消えます。
それで罪が許されるのです。
聖女には二つの選択肢があります。
罪を抱えたまま里で生きていくか、里を出て罪を贖うか。
里に残るのは楽な生き方です。
罪人として他者の蔑む視線に晒されなくてすみますから。
でも女が全員回復魔法治癒魔法の使い手である里は死亡率が少なく、すぐ人が増えてしまうのです。
里を出る聖女は多く、私もまたその一人なのでした。
里を出た聖女は、ガルヴァ王国の首都ザラキを目指します。
何故と言われても、そういう習慣ですから。
先輩聖女が多いですのでアドバイスももらいやすいですし。
私も例に違わず、王都ザラキに行きました。
『ヒミコ、あんた『業深き者』なんだろう? どうして里を出てきたんだい?』
王都在住の元聖女タルモさんが言いました。
タルモさんは立派に罪を償い、今は里から出てきた聖女を取りまとめて世話してくださる偉大な先輩なのです。
ちなみに『業深き者』とは、里の外でいくら魔法を奉仕しても魔法の力が消えない者を指します。
数十年に一人の割で生まれるとされ、罪を贖うことができませんので通常は里に残るものなのですが、私の考えは違いました。
『はい。逆に私はずっと聖女の魔法を使い続けることができます。死ぬまで奉仕すれば、贖罪の里が許されるんじゃないかと思ったのです』
タルモさんが目を丸くしました。
『……あんたはずっと蔑まれ続けることになるんだよ?』
『はい、頑張ります』
『そうかい、いい子だね』
覚悟の上で王都ザラキに来たつもりでした。
しかしタルモさんに意外なことを言われたのです。
『しかしあんたをザラキに置いとくわけにはいかないんだ』
『えっ? それはどうしてです?』
私が『業深き者』だからだそうです。
タルモさんは聖女を集め、寄付のみで運営する治療院を司っています。
私の力は強過ぎる。
他の聖女が私クラスの魔法を要求されたら潰れてしまうとのことでした。
かといって力を制限したら、どんどん奉仕したい私の目的に合いませんし。
『あんた自身にとってもよくないんだ。特別に力が強く、魔法を失わない聖女なんてものの存在が知られたら、誰に悪用されるかわかったもんじゃない』
『はあ……』
『あんたも危機意識を持つんだ。『業深き者』であることは、滅多な者に話すんじゃないよ』
『わかりました』
でも困りました。
私はどうすればいいんでしょう?
『里に出戻るのが一番いいんだが……まあ肩身が狭いか』
『そうですね』
食い扶持が増えちゃいますものね。
里はなるべく聖女を外に出したいですから。
『西へ行きな』
『えっ?』
『あんた、『業深き者』なら攻撃魔法も使えるんだろう?』
『はい』
『ここに地図がある』
ええと、ミヘバイル王国?
『そんな国があるんですね』
『基本的に狭い世界のあたし達にとっちゃどうでもいいことだからね。ガルヴァ王国の西隣の国だ。しかしほとんど交流がない』
『何故でしょう?』
『隣と言っても西方諸国は遠いからね。それでも昔は交易しようって機運が盛り上がった時代もあったのさ。それで街道が作られた』
『街道があるなら……』
『天災で途切れちまったって聞いたね。地震だったかな? それで魔物避けの効果もなくなっちまって、腕自慢の冒険者かそれとも国の使者が隊列を組んでくらいしか通らないそうな』
『はあ』
『わからないかい? ミヘバイルならガルヴァの聖女の事情なんか知らないってことさ。いや、もちろん学者とかなら知ってるだろうけどね。向こうに行けばタダでケガを治す聖女はバカにされることもなく、大事にされる可能性が高いんじゃないか』
『大事に、ですか?』
驚きです。
今まで考えたこともありませんでした。
自らの免罪のために魔法で奉仕するのが当たり前だと思っていましたから。
『どうせ一生奉仕する気なら、冷たい目で見られない方がいいだろう?』
『それはそうですね』
『確認するけど、魔物狩りに問題はないんだね?』
『はい』
『魔物を捌いて肉として食べることは?』
『得意です』
『魔法で水は出せる?』
『はい』
『夜寝てる間に結界は?』
『張れます』
『ハハッ、パーフェクトだね。あんたの新天地は西にある。三ヶ月以上かかると思うが行っといで』
『あのう、タルモさん?』
『ん? やっぱり怖いかい?』
『いえ、私飛行魔法を使えますので、そんなにかからないと思います』
タルモさんのあんぐり開けた口が見事です。
『……つくづくあんたは旅向きだね。今まで西へ行った聖女はいないんだ。西ならあんたがいくら魔法を使おうとも、障りはないだろうさ』
思う存分奉仕に打ち込めるということですね。
頑張ります!
『わかってると思うけど、ガルヴァ王国領内で飛行魔法を見せるんじゃないよ』
『はい』
普通の聖女にそんなことを要求されたら困ってしまいますものね。
『タルモさん、貴重な御意見ありがとうございました』
……というのがおよそ半月前のことです。
私は街道を西に進んでいますが、まだたまに人に会いますね。
もう少し辛抱して歩きましょう。
◇
あ、ありのまま今起こったことを話すぞ?
空から少女が降りてきたんだ。
そしてドラゴンを魔法一発で倒した。
魔法防御の高いドラゴンが一発で倒せるわけがないだろうって?
事実は奇なのだ。
「あの、大丈夫でしたか? まあ、おケガをなさってますね」
「……ああ、治療はするだけムダだ。あんたの薬を使わずとも……ええええええ?」
ちぎれかけてたオレの左足を瞬時に元通りにした。
骨折も創傷も無数にあり、内臓もやられてたはずなんだが、何これ?
デタラメな威力の回復魔法?
儚げに笑うこの少女は……。
「あ、あなたは天女様でいらっしゃるので?」
「いいえ、私は卑しい聖女でございます」
『卑しい』って『聖女』の修飾語になるんだっけ?
混乱しているオレに自称聖女が話しかけてきた。
「あのう、三つばかり質問をしてよろしいでしょうか」
「何なりと」
「ここはもう、ミヘバイル王国領内でよろしいですか?」
「えっ? ああ、もちろん」
おかしな質問だな。
まるで別の国から来たような。
いや、信じがたい魔法を使う少女だ。
東の国から来たってこともあり得るだろう。
ニッコリする自称聖女。
「よかった。ようやく着きました。街道が途中で途切れていたので迷子になってしまって」
「街道沿いに来たのか。ではガルヴァ王国から?」
「はい」
ええ? 強力な魔物の多い国境を一人で越えてきたのか?
ムチャクチャだ!
「次の質問ですけれども、ドラゴンっておいしいでしょうか?」
「えっ? ……いや、食べたことはないので味はわからんが、古くから食用にされることはあるようだ」
神話とか伝説ではね。
「そうですか。じゃあいただきましょう。あなた様はお腹がおすきではないですか?」
「そう言われると……」
ドラゴンに襲われた興奮が収まると腹が減っているような。
何て手際よくドラゴンを解体して肉にしているんだ。
この少女何者?
いや、卑しい聖女って言ってたか。
卑しいってどういうことだ?
金串に刺したでっかいドラゴン肉を炙って塩をかけてくれた。
「どうぞ、食してくださいませ」
「あ、ありがとう」
「では私も遠慮なく」
頭の中に疑問符が飛び交い過ぎて味がわからない。
「最後の質問なんですけれども」
「ああ、何だろう?」
「私は卑しい聖女ですので、この国で奉仕したいのです。ミヘバイル王国内では、魔法を使って叱られたり目立ったりしないでしょうか?」
「叱られはしないだろうが……」
自在に飛んだりドラゴンを倒したりしたら、どこ行ったって目立つと思うよ。
「ともかく助かった。君のおかげだ」
「いえいえ、卑しい聖女ですので当然のことでございます」
「君はどうしてミヘバイルへ来たんだ?」
「はい、思う存分奉仕をしたいからです」
「いや、君ほどの魔道士をどうしてガルヴァは手放したんだってことを聞きたいんだが」
「手放す?」
あれ、首かしげてるぞ?
本気でわかってないみたいだ。
「君みたいな超絶魔道士がそんじょそこらにいるわけがないだろう?」
「そうなのですか? 確かに故郷の里には私一人でしたが」
里?
つまりド田舎出身で、ガルヴァはこの少女の存在を知らない?
えらいことになってきたぞ。
「君は故郷の里では大事にされなかったのかい?」
「いえ、私は『業深き者』ですので、むしろ厄介者で」
「『業深き者』?」
「あっ、それは内緒なのでした!」
アタフタする少女。
何これ?
わけがわからんなあ。
ここは一つ……。
「オレは君に命を救われた。だから君に協力することにする。君が死ねと言えば死ぬし、秘密にしろといえば秘密にしよう」
「はあ」
「君の置かれている境遇がまるで理解できない。これでは君の力になりようがない。どういうことなんだ? 説明してくれ」
こんな言葉一つで信用されるわけもないか。
あれ、信用して話してくれるみたいだな。
ちょろくないか?
「私もわざわざミヘバイルまで来て働けないのでは困ります。あなた様を信用いたしますのでお助けください」
「わかった。ではまず、卑しい聖女とは何なのか教えてくれ」
「ガルヴァ王国で聖女と言いますと……」
生まれながら全ての女性が回復魔法を使える集落がある?
それはすごい。
しかしそれは罪を得ているからで、奉仕をして許されなければならない?
「……というわけで、卑しい聖女は眉間の少し上に赤い印があるのです。この印が消えるまで奉仕せねばなりません」
「ふむふむ、ガルヴァにはそういう伝承と差別があることは理解した。そして『業深き者』とは?」
「これは内緒にしろと言われているので、他言無用にお願いします」
「わかった」
「『業深き者』は多くの罪を背負い呪われた者のことで、いくら奉仕しても魔法の力が消えないのです。決して許されることなく、生涯罪人として過ごさねばなりません」
「……つまり君のそのバカげた魔法の力は、失われることなくずっと続くと」
「そうです。恥ずかしながら」
何が恥ずかしいものか。
素晴らしい魔法の力を使い放題ということではないか。
「君がミヘバイルへ来てまで奉仕をしようというのは? ガルヴァではダメだったのか?」
「私は呪いのせいで力が大きいものですから、他の聖女も私ほどの力を持っていると思われると迷惑だと。また良からぬことに利用されるかもしれないと」
「なるほど。君の力が良からぬことに利用されるかもしれないのは、ミヘバイルでも同じだとは理解しているかな?」
「えっ? いや、あの、私は本当に思う存分奉仕できればいいのです。そうすれば里の罪も許されるかもしれませんので」
そういう理屈なのか。
いじらしい。
オレが力になってやろうではないか。
「殿下!」
お、ようやく救助隊が来たか。
「御無事で何よりです。しかしドラゴンの生態調査になど出かけてはダメだと、あれほど申したではありませぬか!」
「悪い悪い」
「しかし……あの亡骸はドラゴンのように思えますな」
「ああ。こちらの少女が魔法一発で倒した」
「魔法一発で? まさか!」
「オレも自分で見たのでなければ信じられない。オレ自身も死にかけていたところを回復魔法で救ってもらったのだ」
「そういえば鎧がズタボロでございますな」
「だろう? 驚異的な魔法の使い手だ」
「あのう……」
ん? 聖女殿が何だろう?
「殿下、というのは?」
「申し遅れてすまなかった。オレはこの国の第一王子クレイオス・ミヘバイルという者だ」
「ええええっ! 王子様だったんですか? そそそそそれは大変失礼なことをいたしました。平に平に御容赦くださいっ!」
少女が這いつくばる。
命の恩人にそんな格好されると、こっちが居心地悪いんだが。
「殿下、こちらの魔法少女は?」
「ガルヴァの聖女だそうだ。奇特なことに、ミヘバイルで奉仕をしたいとのことではるばる来たとのこと」
「おお、何と素晴らしい!」
さて、聖女殿に礼をせねばならんな。
「聖女殿、ミヘバイルの首都コトールに専用の奉仕院を建てよう。そこで思う存分奉仕をしていただくのはどうかな?」
「ええっ? そ、そんな大層なものを私のために建てるなんていけません!」
「ではこのドラゴンの亡骸から剥ぎ取った素材で奉仕院を建てればいいかな? 聖女殿の生活費は王家で出すから、好きなようにやってくれ」
「そ、そういうことでありましたら」
「決まりだ。コトールに帰還する」
おお、そうだ。
「聖女殿の名前は」
「ヒミコと申します」
◇
クレイオス殿下の御厚意で『聖女ヒミコの奉仕院』を建てていただきました。
毎日回復魔法による奉仕に精を出していたところ、コトール王都民の皆さんに慕っていただけるようになったのです。
私など卑しい聖女に過ぎませんのに。
ミヘバイル王国の方は大変に優しいです。
その内にボランティアとして働いてくださる方が出始めました。
何と意識の高いことでございましょう。
国の援助で炊き出しを行えるようになり、孤児や貧民の面倒を見られるようになり、さらには教育を与えたり就職を支援したりする大きな組織になりました。
ミヘバイルは素晴らしい国ですね。
「聖女殿」
「ようこそおいでいただきました、クレイオス殿下」
「今日も精が出るな」
「いえいえ、私はやりたいことをやっているだけですので」
殿下には感謝しかありません。
私の我が儘に付き合わせてしまって、お国の予算は大丈夫なのでしょうか?
「いや、それは問題ない」
「何故でしょうか?」
「治安維持にかかる費用が減っているからな」
孤児や住所不定者を奉仕院で引き受けているので、治安が良くなったとのことです。
お役に立てていて嬉しいですね。
「それに貧民街を浄化してくれたろう?」
「私は卑しい聖女ですから、それくらいのことは喜んでさせていただきます」
貧民街には瘴気が充満していました。
これでは犯罪や病気の温床になっても仕方ありません。
私は『業深き者』ですから、浄化は得意です。
いずれ貧民街は再開発され、瘴気の溜まりにくい構造にするそうです。
「孤児の教育や就職支援活動で、長期的に経済規模の拡大が見込まれているんだ。聖女殿がコトールに来てからいいことばかりだぞ?」
「それはそれは。過分な褒め言葉にございます」
「だからオレの妃となってくれ」
「ええっ! ま、またその件でございますか? 私は卑しい聖女でございますから、殿下の妻など恐れ多くてとても……」
何故か最近殿下が求婚してくるのです。
もったいないことではありますけれど、私は罪人でございます。
殿下に相応しかろうはずがありません。
大体貴族の方々が卑しい私を認めるはずなどないではありませんか。
「これを見てくれ」
「はい、何でありましょうか?」
「聖女と贖罪の里に関する調査報告書だ。ようやく上がってきた」
聖女と贖罪の里に関する調査報告書?
どうしてそんなものを?
「簡単に口頭で説明しよう。現在贖罪の里と呼ばれる集落は、昔は聖女の里と呼ばれていたんだ。当時はおそらく『聖女』という言葉あるいは存在に、否定的なニュアンスはなかったと思われる」
「……」
な、何だかクレイオス殿下が怒っていらっしゃいますか?
機嫌が悪そうに思えます。
どうしたんでしょう?
「わかるか聖女殿。贖罪の民の聖女が生まれながらに罪を持つから奉仕せねばならんなどと言うのは嘘っぱちだ」
「ええっ? そうなのですか?」
「ああ。罪人とされたのは約五〇〇年前、当時ガルヴァ王国と争っていた国に聖女の里が与したせいだ。里の女性が魔法を使えるようになるのは、血統と環境の両要素による。罪など全く関係がない」
全然知らないことでした。
クレイオス殿下がパサッと調査報告書を放ります。
「ガルヴァは敵となった聖女の民を憎んだ。しかし聖女の有用性もまた知っていた。それで聖女が回復魔法治癒魔法による奉仕に協力すれば、それ以上の賠償を聖女の民の集落に求めないことを取り決めた」
クレイオス殿下のお顔が苦々しげになります。
「ガルヴァが悪辣なのはここからだ。聖女の不思議な力は罪を得ているからだとの噂を流し、建国神話をでっちあげて、聖女の民を被差別階級に落とした。五〇〇年の時を経て、それがすっかり定着してしまっている」
「そ、そんなこととは……」
では私のやっていることは全てムダなのでしょうか?
いえ、贖罪の民に罪がないならば、そもそも奉仕が必要ないわけで。
あっ、では聖女の奉仕は搾取されている?
というわけでもないですね。
お恵みはいただいてますし。
ええと?
「ちょっとわからなくなってしまいました。私はどうすればいいのでしょうか?」
「聖女殿はオレの妃になってくれればいい」
「またそんなことを……」
「何か問題はあるか? 聖女殿が罪人などではないということは、今説明したろう?」
「……そういえばそうですね。でもお偉い方々の人間関係とか力関係とかがあるのではないでしょうか?」
上流の方々の世界のことはよくは存じませんけれども。
「そちらも問題はない。聖女殿は貴族の間でもすこぶる評判がいいからな」
「何故でしょう?」
「聖女殿の回復魔法は腰痛や肩こりによく効くことが知れ渡っているのだ」
「えっ?」
奉仕院にお貴族様がいらしていたのでしょうか?
失礼はなかったでしょうか?
「父上も納得させた」
「陛下もですか?」
「一人でフラフラ出歩くのは禁止という条件を付けられたが」
「ドラゴンがいる場所をフラフラ出歩くのは危ないですよ? どうしても調査が必要であるなら、私がお供いたします」
「それはオレの求婚を受けてくれるという意味だな?」
「えっ?」
「殿下、聖女様、おめでとうございます!」
「えっ?」
「「「「「「「「うおおおおおおお!」」」」」」」」
「「「「「「「「パチパチパチパチ!」」」」」」」」
大歓迎のようです。
私がクレイオス殿下のような素敵な方の妃でいいんでしょうか?
夢のようです。
「で、ではよろしくお願いいたします」
「うむ、正式に婚約を取り交わそう。聖女殿は歳はいくつなのだ?」
「一五歳にございます」
「では、婚礼の儀は三年後だな」
だそうです。
「あの、殿下」
「何だ? ここから却下は許さんぞ?」
「いえ、そうではなくてですね。私は聖女のお仕事しかできませんが、よろしいのでしょうか?」
クレイオス殿下の妃としては不足なのでは?
「それでいい。聖女殿にしかできぬ仕事だからな」
わあ、自分の奉仕が認められたようで嬉しいです。
微笑むクレイオス殿下に抱きしめられます。
「「「「「「「「うおおおおおおお!」」」」」」」」
「「「「「「「「パチパチパチパチ!」」」」」」」」
「……殿下、恥ずかしいです」
「クレイオスと呼んでくれ、ヒミコ」
名前を呼ばれて顔が熱くなります。
「……クレイオス様」
「うむ、今後ともよろしく頼む。ヒミコ」
鳴りやまぬ祝福の中、私は確かな幸せを感じています。
許されることを求めるのではなく、クレイオス様とともに歩む未来。
里にいた頃は、そんなものがあるとは思いもしませんでした。
クレイオス様、私こそよろしくお願いいたします。
「あのう、クレイオス様。才能のある者には、魔法を教えてもようございますか?」
「えっ? (魔法の才能のあるなしが見ただけでわかるのか。国力が上がるな)むろん構わんぞ」
「わあ、助かります。弟子に奉仕院を任せることができれば、私は瘴気にまみれ魔物の跋扈する地を沃野に変えたいと思います」
「お、おう。(何て有能なんだ我が妃は!)」
聖女ヒミコの今後の活躍に期待してくださる方、↓の★で評価してくださるとありがたいです。