秋夜の十万文字ぐらいになりそうな初恋
周平視点
「で、どうなったわけ」
「昼食をお高めのにしてそれだけ奢ってもらったよ」
「ただなら買ってもらえばよかったんじゃね?」
「服のサイズを聞かれてお店に入店したらサイズの服を全部とか言われて、普通の常識を持つ女子高生が喜ぶと思う?」
「・・・ドン引きだな」
「秋夜姉さんも眞子ちゃんを可愛がりたいのか彼氏さんの暴走を止めないし、昼食代だけにもっていった私を褒めてほしいよ」
「よしよし湊はよくやったな」
頭を撫でてやると嬉しそうに目を細める湊。
やはり秋夜姉さんのいう甘え方の違いがわからない。ほぼ毎日同じように甘えられて気づけというのは難易度高すぎないか。
「周平違うこと考えているよね。撫でるときは集中」
「へいへい」
俺の方はほぼ読まれているけどな。
「・・・人様の頭の上でイチャつくのは止めてもらえませんか」
「眞子さんも人の彼女の膝枕を独占しないでもらえませんか」
「私はいいんです、情報過多で処理能力がガタ落ちなんです。脳を休めないと熱暴走を起こしてシャットダウンしますよ。いいんですか?」
「この短期間で悪い方向に眞子さんも成長したなぁ」
「最初の頃の腐の目線で見てくれた眞子ちゃんはどこにいったんだろうね」
「その腐の脳内フォルダの容量を軽くオーバーしていく周平君達がおかしいんですからね」
フフフと暗い笑いをする眞子さん。
今の俺達は湊が俺にぴったりと寄り添い、その湊の膝を枕にして眞子さんが横になっている状態だ。
湊から昼食はいらないと連絡が来たので二度寝して昼に起きた俺と友人、ついでに爺さんの分のラーメンを作って食べた。男共だけなら手抜きで十分。
午後から勉強会をすると連絡の中にもあったのでテレビを見て待っていたら、湊が白く燃え尽きた眞子さんを支えながら帰ってきた。
魂の抜けかかった眞子さんの状態に勉強会は中止。
眞子さんは湊にしがみついて離れず、湊は湊で戻って来てから俺に甘えてくるし現場は混迷を極めた感じになる。
友人は面倒くさそうだと感じ取り、勉強しないでいいとわかったらすぐに自分の部屋に逃げ込んだ。爺さんは湊に縋りつく眞子さんを観賞しようとして秋夜姉さんに掴まり、再びの監獄(倉)行きになる。
しばらく経って眞子さんも落ち着き、今の状態になった。
「しかし秋夜姉さんに彼氏が出来るとはな~。昨晩のは冗談だと思っていたんだが」
「周平君は知らなかったんですか?」
姉貴分の恋愛事情にしみじみとすると眞子さんが聞いてくる。
「まったく知らなかったね。荒れてた頃の秋夜姉さんを止めた化け物みたいな人がいるってのは親連中から聞いたけど、その人が彼氏だとは」
「私も去年、周平の体のことで秋夜姉さんに相談したときに紹介されたしね。人体に詳しい人だって会わせてもらって、しばらくしてから彼氏だって紹介されたときには驚いたなぁ」
秋夜姉さんなら愉快犯だししそうだ。
「その内緒にされてたことに怒らないんです?その昨日の道場で知らなくていじけたから」
眞子さんが聞いてくるがその二つは別物なんだよな。
「それは俺が秋夜姉さんの実力を引き出せなかったことに情けなくて拗ねてただけ。彼氏さんのことは・・・身内の恋愛事情なんて知りたいと思う?」
「・・・嫌ですね。両親が告白した場面とか話しだしたりしたら、たぶん寝込みます」
嫌そうな顔をする眞子さん。わかるよね、血は繋がってないとはいえ姉と思っている人が惚気始めたら間違いなく精神が死ぬ。友人は知っていただろうが俺に教えなかったのは人としての最後の情けだろう。俺でも教えない。男には冗談ですまないこともあるのだ。
「私、パパママの付き合い始めてからの事知ってるし、周平ママから馴れ初めを聞いたけど」
「それ以上言うのは止めような湊。俺の心が二、三日死ぬ」
「湊ちゃん人には聞いてはいけないことがあるの。周平君の為にそのことは生涯口にしてはダメだよ」
初めて眞子さんと気持ちが一致したな。
二人の迫力に湊も気圧されて頷く。親と仲が良すぎるとこういう恐ろしい爆弾が作られるのか、あとで話し合おう。湊ならわかってくれるはずだ。
「話がズレたな。あー秋夜姉さんの彼氏さんだけどそんなに凄い人だったの?」
「私が燃え尽きて戻ってきたのでわかってもらえませんか」
「いやさすがにわからないです」
無理、俺には湊のような人の心を読むこと出来ないもの。
「周平限定だからね」
「だからなんで読める」
眞子さんは脳の休憩に入りたいらしいので湊が話してくれた。
昼食中に秋夜姉さんと彼氏さんの血と暴力と策謀の出会いから付き合うまでの経緯、そしてその後の交際の間の話を惚気ながら聞かされたらしい。
あの秋夜姉さんから。
「え、あの秋夜姉さんが?惚気話?嘘?槍ジジイが空から降ってこねぇ?」
「ええ、本一冊分になりそうなバイオレンスな恋愛話を聞かせてもらいました。秋夜姉さんの手下が一人一人いなくなっていくところはホラーでしょうか」
「そこは彼氏さんの補足では部下に捕まえさせて歩きで数時間かかる山中に置いてきたって、秋夜姉さんをバックに悪さしていたみたいだから、反省しなかったら次は他国に行く船に乗り込ませるって脅して」
「閑名家の資産が殆ど乗っ取られたとか」
「予想以上にあって苦労したって」
「二人の対決なんて人類なんですかって感じです」
「室外機を片手で投げてくる女は驚いたって、殺した方が人類の為にいいかもと少し考えたとか」
「・・・俺は何の話を聞いているのかな?」
なぜ惚気話が、ホラー気味になって、閑名家の経済ピンチの話になり、最後はアニメ映画のラストバトルみたいになってんの。
「そして初めて全力で戦って自分を負かした男に秋夜姉さんが惚れたと」
「ああ、ラストで恋愛にいくんだな」
「でもそこはドロドロのハーレムの世界でした」
「惚気がねぇ・・・」
そりゃあ眞子さんが情報過多になるわ。
「秋夜姉さんがハーレム入りか」
「周平は嫌?」
「いや本人がそれでいいならそこまでは、秋夜姉さんならどこにいっても自分で居場所は作るだろうしな」
「秋夜姉さんなら彼氏だけ奪って逃げそうですけど」
眞子さんがまだ寝たまま言ってくる。目に力が入ってきたな。
「おいおい、人を勝手に略奪女にするなよ」
会話に入りながら秋夜姉さんが部屋に入ってきた。その手にはお盆を持っている。
「ほら濡らしたタオルだ頭に乗せとけ。アイスコーヒーとオレンジジュースだ適当に選んで飲めよ」
眞子さんの額にタオルを載せて飲み物を置いていく秋夜姉さん。そして俺達の前に座る。
「ハーレムの連中もいい奴ばかりだから俺には不満はねえよ。俺の相手もちゃんとしてくれるしな」
「でも普通の人が」
眞子さんはハーレムに納得してないようだ。奪ってもというのはそうしてでも一対一の付き合いが普通が正しいと思ってるのだろう。
「ありがとうな眞子。でもな彼氏のおかげで俺は閑名家から出ていけるんだよ。力が強すぎる閑名家の者はな、世に出したらもめ事を起こす可能性があるから家に閉じ込められるんだよ。俺なんて下手すると病死扱いだったな」
からから秋夜姉さんは笑うが内容が重すぎる。ほら眞子さんの目が泳いでいるじゃないか。
「まあ病死は冗談としても。外に出るのは無理だったな。条件があって俺は自分より強いやつのところにしか行けなかったんだよ。俺を押さえつけられることができる奴の所にしかな」
そこは俺と湊も教えてもらった。秋夜姉さんが荒れた時だ。自分に未来が無いと知った若い秋夜姉さんの悔しさはどのくらいものだっだのだろうか。子供だった俺達には何もできなかった。
「んでイラついて暴れてたら、彼氏がやって来てな。もう完璧にボコボコ。閑名家も滅ぶ寸前まで追い詰められたんだよ。そこまでされて閑名家全員一致で俺は彼氏の所に行けれるようになったわけだ。俺も惚れたし、ハーレムは彼氏がイイ男だからいいんだよ」
「あのね眞子ちゃん」
湊が眞子さんに声を掛ける。
「秋夜姉さんはあれで幸せなんだよ。愛する男以外は全て些事、誰かに似てないかな?」
眞子さんが湊を見つめる。そして秋夜姉さんを見た。
「わかりました。ハーレムは納得いきませんけど折り合いをつけます」
「おう、眞子はやっぱりいい女だな、俺の嫁になるか?」
「一緒にハーレム入りはごめんです」
場の雰囲気が和らいだ。
秋夜姉さん、眞子さんを少し試していたよな。なんとなくだけどそれを湊が正解の方に導いたよな気がする。女性は女性で何とかするのだろう。男の俺にはわからないことだ。
「あ~そろそろ子供達が来るな」
ちらりと時計を見る秋夜姉さん。
そこでイタズラを思いついた悪い笑みをする。
「さっき言ったよな。力を持った閑名家の者は家から出られないって、でも力があるなら勝手に出ていけばいいと思わないか。とくに俺なんか」
秋夜姉さんが眞子さんに質問する。
「たしかにそうですね。ならなぜ?」
「子供教室の時に教えるよ」
答えを知っている俺は何も言わない。湊も言わない。
だって秋夜姉さんが言うなよ言うなよと視線を送っているからだ。
眞子さんよ安らかに驚愕してくれ、南無~。
秋夜「彼氏がプレゼントだってよ」
湊&眞子「いらない!」
秋夜「そういうと思ったからちょっと足が早い高級菓子セットだそうだ」
湊&眞子「うぐぐ菓子に罪はないし」
槍ジジイまで書くつもりだったのに!秋夜の彼氏のせいで進まなかった・・・。どうしよう格闘シーン書くの苦手なのに( TДT)
実は荒れていた若い秋夜に彼氏をけしかけたのは子供の友人です。姉を助けるために行動してます。ハーレム入りも予想済み。でも姉ののろけ話は聞きません。心が死にますから(;・∀・)




