『鍛冶師』=『ハズレ』? その1
普段は小説を読む側のド素人が暇つぶしに書いてみた作品ですので、読者の皆様も暇つぶし感覚で気ままに読んでいただけたら幸いです。また、本業の方が忙しいときがありますので、感想や評価を読むことはあまりできないかかもしれません。ご理解のほどよろしくお願いします。
―――
「...ン、...ラン、...グラン!」
耳元で叫ぶな、やかましい。
俺は誰かの叫び声で目を覚ました。俺の周りは大人たちで囲まれている。
「...そっか。」
俺は...グランは、転生者だったのか。多分、さっきの天授の儀式とかいうものによって、この世界で生まれる前の記憶を思い出したのだろう。...なんでもっと早く前世の記憶を思い出させてくれなかったのだ、あの女は。そうしたら早いうちからこの世界のことを詳しく調べられたのに。少し腹が立ってきた。
「顔色が良くないぞ。大丈夫か、グラン?」
少しイラついていた様子が顔に出ていたのか、俺の目の前から声をかけられる。その声に反応して顔を上げると
「父上...」
この世界での俺の父親、カルロス=ヘレクレス侯爵だった。前世の記憶がよみがえったことで今の父親との繋がりが薄まるのかなと一瞬思ったが、同じ家で過ごしていた十年間は伊達ではなかったらしい。すぐに父上という言葉が口から出てきた。
「自分は大丈夫です。それよりも何かあったのでしょうか。そちらの方が何か詠唱したところまでは覚えているのですが。」
カルロスを見た際に後ろにいる会長らしき人を確認した俺はそう尋ねた。
「そこまで覚えているなら話は早い。ここにいる教会長が聖魔法『ヘブンズ・ギフト』を唱えた直後にお前の周りを光が包みこんでな。まぁそれはときどき起こることではあるから気にはしてなかったのだが、そのあとが問題だ。光の柱に包まれたお前を中心に空気の流れが生まれ始め、大きな空気の渦ができたのだ。こんな事例は過去に報告されたことがなかったから驚いていたぞ。しかも一向にその渦が小さくなる気配がなかったために皆が慌てだしたのだ。このままではグランが危ない、とな。
しかし神からの恩恵を受けている最中に人間が手を出すのは固く禁じられているから、どうすることもできない。私も含めてグランの行方を見守っていると、徐々に渦の勢いが弱まっていって渦そのものが消えたのだが、そこでお前が倒れていたのだ。そんな状態のグランが中から出てきたのだから先ほどよりも皆心配していたため、大人がここに集まる状況になってしまったのだ。」
「...つまり私のせいでこのようになってしまったのですね。」
「確かにそうだ。だがな、グラン。これは悪いことだけではないぞ。先ほど言ったが光の柱が浮かびあがった時の皆の様子は普通だったのだ。むしろ喜んでいただろう。なぜなら、強力で有用な能力 ― 『スキル』と『職業』というのだがな、それを得た時に発現するのだ。そしておそらく、そのあとに起こった空気の渦もその類であろう。つまりお前は天授の儀式を大成功させたのだ!」
「ほ、本当ですか、父上?」
口では疑っているようなことを言っているが、あながちその仮説は間違っていないと俺は思っている。なんせ転生する際に強力な特殊スキルをもらったらしいからな。
あと多分だけど、スキルと職業のレベルがMaxの状態で受け取ったからというのもあるな。普通ならレベル1のところを最大でもらったら、そりゃあ強力と言えるだろう。
「まあ儀式が終わったばかりでよくわかっていないだろう。教会長よ、申し訳ないが鑑定の者を呼んできてもらえるか。」
「かしこまりました。すぐお呼びいたしますので、しばしお待ちください。」
そう言って、教会長は儀式場をあとにする。少しカルロスと2人で待っていると
「お待たせしました!」
後ろから教会長ともう一人同じ雰囲気をもった男性が歩いてくる。おそらくあの人が特殊スキル『鑑定』を持っている人なのだろう。俺たちのもとへ来ると、軽い自己紹介を行って再度儀式のときと同じ場所に立つように言われる。その指示に従うと、先ほどとは違って鑑定職の方が俺の目の前で中腰の体勢をとった。そのままじっと俺のことを見ている。数秒後、
「グラン様の鑑定が完了しまし...え?」
そんな素っ頓狂な声が聞こえてきた。
「どうした、なにか問題でもあったのか!?」
少し離れたところにいたカルロスが俺のもとまで駆け寄ってくる。
「それが今までに見たことがないようなスキルでして...」
「そのスキルは何という名前なのだ?」
「...『貫通』、と書かれてあります。」
おそらくそれが俺の特殊スキルの名前なのだろう。ルシラがいた場所では確認ができなかったからな。どんな効果なのかとても気になる。
「なんなのだそれは。私も聞いたことがないぞ。グラン、お前も確かめてくれないか?」
「えっと、どうやって確かめるのですか?」
「頭の中で『自分の力が知りたい』と強く意識したら目の前に出てくる。やってみるんだ。」
そんな漠然と言われてもな......とにかく自分の力が知りたいと思えばいいだけだろ。ということは...
『能力開示』
―― いけた。どれどれ、
グラン=ヘレクレス
<ステータス> レベル1
体力 10
筋力 10
敏捷力 10
耐久力 10
魔力 10
<特殊スキル>
「貫通」(レベルMax)
<通常スキル>
なし
<職業>
「鍛冶師」(レベルMax)
「...ほんとですね。特殊スキルの欄に『貫通』と書かれています。」
「どうやら間違いではなさそうだな。『貫通』と言うからには何かを貫くのだろうか...」
いや、その考え方は合ってはいないようだ。「貫通」の詳細を調べてみるとこう書いてある。
特殊スキル:『貫通』
自身が設定したものに対して任意の程度の貫通効果を付与する。
スキルレベルが高いほど、設定数と効果量が増加する。
この内容を見て俺の予想は合っていたことが分かった。俺は前世で死ぬ間際に、ゲームのボスに対して「敵の防御や無効を無視して攻撃出来たら苦労しないのになぁ」とぼやいたのだが、どうやらそれが「力を求めた行為」だと解釈され、俺の思いがこのスキルの発現に至ったのだと俺は考えている。
そうなると相当ヤバいスキルのような気がするのだが、あまり他の人たちはわかってないみたいだ。そりゃそうか。初めて聞いたスキルの内容がすぐにわかる俺の方がどちらかというとおかしいもんな。
「とりあえず、スキルの方に関しては改めて調べることにしよう。ところで職業は何を得たのだ?」
「職業ですか?『鍛冶師』ですね。」
「『鍛冶師』だとぉぉォォオ!?」
「うわっ!?」
びっくりしたぁ。いきなり大声を出されたらビビるわ。別にそんな声を出すほどのことでもない...と思ったが、そういえばルシラが『鍛冶師』のことで何か言ってたような気がする。
「えっと...どうかされましたか、父上?」
「...本当にあの『鍛冶師』なのか?」
「『あの』がどれを指しているのかはわかりませんが、職業欄のところには『鍛冶師』と書かれています。」
「なぜだ! 先ほどの光の柱は嘘だったというのか!? クソッ! ......後で私の部屋に来い。私は先に帰る。帰り道ぐらいわかるだろう。」
そう言ったカルロスの顔は、2年前に彼のお気に入りの額縁の絵を俺が壊してしまった時のそれと全く一緒だった。カルロスはその言葉を述べた後は早足で駆けるように教会を去っていった。
そのあと、同じ空間にいた貴族や市民から様々な言葉が飛び交っていたが、そのなかである言葉を何回も耳にした。
「グラン様は、貴族にとって『ハズレ』の職業を引いてしまわれた」、と。
ルシラも言っていたが、『鍛冶師』が『ハズレ』の職業とはどういう意味なのか。おそらく、その答えを知るにはカルロスのもとに向かわなければならないだろう。正直、怒り心頭なのが分かっている人のところへ向かいたくはないのだが、覚悟を決めて俺のことを悲哀の目で見る奴らを通り過ぎてその場を離れた。
こんなド素人の作品を読んでいただいた読者の皆様、誠にありがとうございます。これを伝えるのは二度目になりますが、筆者自身は暇つぶしとして頭の中で思いついた世界を文章にしてみただけですので、投稿頻度は不定期になります。ご理解いただけるとありがたいです。