7話
夕食後に父さんの書斎に呼ばれ植物紙の作り方を説明したら、明日ギルバートさんたちに植物紙の作りを教えることになった。
翌日の朝食後、僕は薬師の所に白い粉を買いに来た。白い粉と言えば小麦と、そう!重曹だね!あったね魔法の粉重曹。
ハチミツか砂糖があればホットケーキだったのに、くっそ〜、悔しいです!
この魔法の粉重曹をどうやって知ったか?ケーラさんが食べ汚れの付いた洗たく物を洗うのに使ってたよ。良く汚れが落ちるんだってさ。
さて重曹を買って庭に直行。ギルバートさんたちがアイク兄さんとアイラ姉さんに習いながら作業してる。
「お疲れさまです。これが例の白い粉です」と言って重曹を双子の兄姉に渡して使い方を説明した。
アイラ姉さんは「これが例の?」と言って受け取り、アイク兄さんは「紛らわしい言い方すんな」と言いながらも笑っている。
この後も双子の兄姉が従士達に重曹の説明してくれる。
僕が従士達に直接言わないのは僕たちは家族でも貴族としての序列あるから。
家族だけの時は問題ないけど、家族以外の時はこう言うことも気を付けないといけない。
貴族は長男が次期当主で次男は次期当主の予備、三男の僕は予備の予備なので僕の発言順位は家族の中でも下位、そんな僕が兄姉を差し置いて従士に発言するのはあまりよろしくない。
それにしても従士って大変だね、こんな作業もしないといけないんだから。
でも植物紙を作り始めたら村の平民に教えるの従士の役目になるはずだから仕方ないのかな。
従士たちを見ると今は繊維を細かくしている段階。やはり大人の男性と子供では作業速度の違いが良く分かる。大人の男性は力が強いので細かくするのが早い。
うーん、将来を考えたら女性や子供でも作業できるように何か道具とかを作った方が良いかな?一応頭の隅に覚えておこう。
順調に作業は進み、重曹を入れて煮ていた物を見てみるとだいぶ白くなったかもしれない。
紙漉きはアイラ姉さんが手本を見せた後、従士たちが順番に紙漉きで紙を作った。
アイラ姉さん以外は表面にばらつきはあったが、最初に子供だけで作った物よりも品質が良くなり紙もだいぶ白い物になっている。まだ乾燥待ちだけど父さんにも見てもらったら、父さんは満足そうに頷き僕らを見て「素晴らしい、良くやった」と言った。
乾燥した植物紙は日本の画用紙にぼちぼち近くはなったかなー、て出来栄えだったので「この厚さの植物紙は絵を描く紙として使うと良さそうですね。書き物にはもう少し薄くした方が良さそうです」と父さんには言っておいた。
まぁ、あとは父さんと従士のみんなに頑張ってもらおう。
数日後、さて今日はカーラさんの所に蒸留器が出来てるかを確認する日だ。
午前中の日課を済ませ昼食を食べてから鍛冶屋に向かう。
途中で林の巣箱を確認すると、とうとう巣箱の一つに蜂が出入りしていた。
あまりに嬉しかったので屋敷に戻り兄妹全員と何故か母さんも連れて林の巣箱へ。
「うぉー、マジか、マジだな、おおー」
「へー、ホントに入ってるわ、凄いわね」
「やった〜、はちさんハチミツたくさんおねがいします!」
「セリナは気が早いわね。でも沢山取れるといいわね」
「木の側で屋根付の中型巣箱に巣を作りましたね。同型を少し増やしますか」
「そうね、それが良さそう」
「早めに作った方が良くないか、確か分蜂だっけ?時期はずしたら蜂が入らないんだろ?」
「確か蜂が巣箱に入るなら三月末くらいまでと言っていたわよね」
「そうです、蜂が入るとしたら後ニ〜三週間程度までですかね」
「よし、なら今から作ろうぜ」
「賛成!」
「セリナもはちさんのおうちつくる〜!」
「あ、僕は寄る所があるので後から行きまよ」
「あら、そうなの?」
「すぐ戻りますから先に作ってて下さい」
「分かったわ、じゃあセリナは母さんとお家作りましょう」
「うんっ!」
林で家族と別れカーラさんのいる鍛冶屋に着き中に入ると、見慣れない冒険者風の男とカーラさんがカウンター越しに話をしているようだ。
話の邪魔をしては悪いと思い店にある品物を見て待つ。
しばらくして冒険者風の男が店から出て行ったのでカーラさんに話しかける。
「カーラさんこんにちは、頼んでたの出来てますか?」
「よう、坊っちゃんいらっしゃい。一応出来てるぜ。ちょっと待ってくれ今持ってくるから」
そう言うと、カーラさんはカウンターの向こうにある部屋に入り、すぐに横幅1メートル程の蒸留器をカウンター横にある台の上にドスンっと置いた。
「一応完成したが、これ以上は小さくは作れなかった」
台に置かれた蒸留器を見てみると図に書いた物がそのまま大きくなった感じの完成度だった。
「凄いです、僕の注文通りの出来ですよ。それに大きさも問題ありません」
「そうか、問題無いなら良かった。それじゃあ残り料金は一万八千ルペだが一万五千ルペでいいぞ」
ルペはこの世界共通の貨幣の単位で下から銅貨、小銀貨、銀貨、金貨、大金貨がある。
日本の価値に合わせと、銅貨が一枚百円、銅貨十枚で小銀貨になり千円、小銀貨十枚で銀貨になり一万円、銀貨十枚で金貨になり十万円、金貨十枚で大金貨になり百万円。
一応、神銀貨という貨幣もあるらしいが民間で使うところは商会やギルドなど大口の取引をするところくらいで、一般ではほぼ使われることは無いらしい。ちなみに神銀貨は大金貨百枚分の価値があり、神銀貨一枚で日本円換算で一億円の価値になる。
蒸留器の値段は前金合わせてニ万ハ千ルペ。えっ?安くない?
職人が一週間掛けた仕事が日本円でニ万ハ千円て、この世界の物価が安いのかファーガス村の物価が安いのか······。
両方安そうだな、それでも拘束時間と値段が釣り合わなくない?しかもただでさえ安いのに割引くのは、ちょっといただけないなー。
僕はポケットに手を入れストレージから銀貨をニ枚取り出してカウンターに置いた。
「値引きは結構です。腕の良い職人には真っ当対価が必要だと思いますから、あと釣りもいいので代わりに明日まで蒸留器を預かってもらえますか」
「お、おう、分かったよ、坊っちゃん」
「あと、僕の名前はアレンです」
「あ、あぁ、分かったアレン様だな」
「はい。それでは、明日は実験するので、また昼後に来ますね。では明日」
「あ、ああ、明日」
よし、これで実験が成功すれば香水が作れるぞ。···あっ、先にアルコール作らなきゃ。
明日必要な物は消毒用に使ってる安いお酒、容器も出来れば小瓶、あとは空いたワインボトルでいいからニ〜三本、かな?とりあえずこんなもんだろ。
遅れて屋敷の庭に着いたらみんなで楽しそうに巣箱を作ってた。さっそく僕も巣箱作りに混じり巣箱を作る。
······後から来た僕が先に作り終わってしまった。母さん達に驚かれた。
何か自分でも早過ぎな気がしてステータスを見ると木工職人LV1が生えてた。
名前:アレン・エバンス
ドウェイン王国エバンス男爵家三男
性別:男
年齢:7歳
体力:48
魔力:2112
知力:68
瞬発力:29
幸運度:31
スキル
火魔法:LV4
水魔法:LV4
風魔法:LV4
土魔法:LV4
氷魔法:LV1
雷魔法:LV1
光魔法:LV1
闇魔法:LV1
時空魔法:LV1
重力魔法:LV1
治癒魔法:LV1
剣術:LV4
槍術:LV2
格闘術:LV2
木工職人:LV1
調理師:LV5
気配察知
魔力感知
魔法制御
唱和破棄
省略唱和
多重唱和
無唱和
固有スキル
鑑定眼、ストレージ、ワールドマップ
称号
神の使徒
加護
創造神レキエルの加護
魔法神エリエルの加護
武神カリエルの加護
何か久々にステータスを見たな。木工職人が増えた以外で上がったのは基本値と剣術くらいだね。
さて、みんなはまだ巣箱作ってるし他に何か······。
そうだ!竹馬を作ろう。簡単に作れるしね。こう切って、こう並べて縄で縛って固定したらできた!···いや、早すぎない?
まっ、いっか、とりあえず遊んでみよー!
いやー、竹馬は子供の時以来だなぁ。つか、今も子供だったわ。
久しぶりだから乗れるかな?おっ!乗れるじゃ〜ん
おおー、何か身体に精神が引っ張られてるのか思ってた以上に楽しいな!
あっ、セリナがガン見してる。ま、元々セリナ用に作ったからな。
はいっ、最初は掴んでるから乗ってみな、そうそうここ掴んで、ここに足ね、自分で立ってみる?じゃあ身体を少し前傾させて、そう、そんな感じ、離すよー。
おおー、上手い上手い!おっ、もう竹馬で走ってるよ。やっぱり子供は覚えるのが早いよね。
はいはい作るから、服引っ張るのヤメてね、僕よりお姉さんなんだから、えっ、分かってるよちゃんと二人分作るから、ちょっと待ってね······。はいどうぞ、転ばない様にねー。ふぅ、子供の相手は疲れぜ······。あっはい、母さんの分もね。
みんな楽しそうで作った甲斐あったねー。ただ、巣箱を最後まで作ってから遊んで欲しかったかなー。ま、続きは僕が作るか早いし。
夕食の時、みんなが楽しそうに竹馬の話しをするので、父さんが寂しそうにしていた。···そんな目で僕を見ないでよ。
翌日の昼食後、ケイト姉さんに頼んで小瓶に空きボトル、消毒用の安いお酒を準備して貰った。それを袋に詰めて持ちカーラさんの所に向かう。
今日も昨日の冒険者風の男が来てるな。流石に気になったので中に入ったら商品を見ながら何を喋っているのか耳をすませる。
「なぁ、どうしても作っちゃくれねーのか?それなりに出すって言ってるのに」
「しつこいな、何度も同じことを言わせるな。オレはヤツらと関わりたく無いと言っている」
「だから俺が発注してるから別に関わっちゃいねーだろが」
「どーせお前が買ってもヤツらに渡すのは目に見えてる。とにかくお前は客じゃないんだから帰ってくれ」
「くっ、あまりだだコネると知らねーぞ。良く考えとけっ!明日また来るからなっ!」
冒険者風の男は店のドアを蹴り飛ばして出て行った。
「こんにちは。何かトラブルですか?」
「いらっしゃい、······ぼっちゃ、じゃ無かった、アレン様」
「別に敬称は無くていいですよ。それで何があったんですか?」
「気にしなくていいさ、大した事じゃないから」
「そうですか。···ならいいですけど」
「ところであの装置試すんだろ?」
「はい、そのつもりで来てますからね」
「よし、なら店閉めるから少し待ってくれ」
カーラさんはカウンターの横を通り抜け店の外に出てすぐに戻りドアに鍵を掛けて戻って来た。
「いいぜ、蒸留器は奥にあるから着いて来な」
カーラさんを追いかけて部屋に入り部屋を見た後に少し違和感を感じたが、とりあえずまぁいいかと必要な事を伝えためにカーラさんの後ろから声を掛ける。
「あの、カーラさん」
「ん?なんだい」
「何処か換気の良い場所有ります?これから実験するの換気の悪い室内は避けたいんで」
「なら丁度いい、店の裏に行こうか、そこに蒸留器置いてるからな、こっちだ」
そう言うとカーラさんは歩き出し、最初の部屋から隣部屋に入って奥に有ったドア開けた。
「ほら、あの倉庫に置いある」
ドアから出ると裏庭の様な場所で、目の前に車が一台入るくらいの倉庫があった。
カーラさんは倉庫の観音開きのドアをニ枚共手前に引いて、置いてあった石で両方固定すると僕を見た。
「これならどーだい?」
倉庫の真ん中に台に置かれた蒸留器がある
「十分です。じゃあ準備しますね」
さっそく蒸留器から出てる管を冷やす為の水を水魔法でためる。
この蒸留器は簡素に作ったので構造は単純。容器の上から管が出ていて管は隣の箱の中を通りさらに隣の容器に繋がってる。問題は熱する方の容器の密閉具合かな。カーラさんに説明する時に一番苦労したのが密閉の説明。だって酸素とは?から説明しなきゃいけなかったからね。ちゃんと容器が密閉状態になってればいいけど。じゃないと圧力が足りなくなって失敗する事になるかも。
「よし、構造の説明はこの前に話した通りなので飛ばして、早速やってみましょう。まずは試しに普通の水で試します」
「ああ」
加熱用の容器に水を入れて蓋を閉め、容器を火魔法で温めていく。
暫く温めているとやはり蓋の所から少し蒸気が漏れていたがそのまま温め続けていく。
「やっぱりここから漏れてますね」
「完全に密閉されて無いってことかい?」
「そうなりますね、やっぱりパッキンが必要かな」
「パッキンて何だ?」
「パッキンはこの隙間を塞ぐ樹脂とかで作る部品?ですかね」
「樹脂って木の汁の?」
「まぁ、木の汁ではありますが、ゴムの木があれば······」
「ゴムの木ってあれだろ、木の汁が固まるやつ」
「えっ、ゴムの木あるんですか?」
「ああ、この裏にも数本生えてたはずだ」
「ホントですかっ!ちょっと後で連れてって下さい」
「ああ、分かった」
あるのかよゴム、確かにゴムの木って熱帯地方にあったからあっても不思議じゃないのかな?