38話
アレンの祖母ミリアの飼っている鳥の魔物、ブルーバードのスカイが運んできた祖父カインからの手紙には王都での出来事が書かれていた。
ジョージ王が毒で亡くなった事、前王アトラス、ジョージ王の第二王妃で亡くなったエレナ妃の息子である第三王子ゼクシア他、複数の王族たちが幽閉された事、宰相を始め大臣や官僚が女神派と貴族派に一新された事、第一王子と第一王女が属する女神派対第二王子が属する貴族派で王位を争い始めた事、第二王女が供回りや護衛騎士数名と失踪した事、貴族派を先導しているのがガストル侯爵である事、王立学園と騎士学院が封鎖され学園からカイル他複数の生徒たちが戻っていない事、カインの屋敷を含め他の王族派や中立派の屋敷が監視されている事、複数の王族派貴族の所在が判らなくなっている事、など。
とにかくびっしりと王都での異常や出来事が書かれている。
アレンは手紙を読み進めながら、自分でも分かるくらいに顔を歪めていた。
祖父からの手紙を読み終えたアレンは手紙を畳みマークに返す。
「アレンも事態を把握したな?」
と聞かれたので「はい」と答える。
「よし。じゃあ、まずはこの手紙が本当に爺さんが書いて送ってきたかだが、筆跡は間違いなく爺さんのもんだな、それは間違いない。手紙を運んで来たのも間違いなく婆さんのブルーバードだ。ここまでは間違いない。しかし問題は手紙の内容だ。正直に言って信じたくないんだが···爺さんが冗談でもこんな内容の手紙を寄越すはずがない。皆もそう考えているでいいな?」
マークが書斎にいる全員の顔を見るのでアレンは頷く。
「と言うことはだ。限り無く王位をめぐる内戦に発展する可能性が高いということだ。そうなると、エバンス家は元々は王族派だったが今は中立派だ。間違いなく女神派と貴族派のどちらに付くか迫られる事になるだろう。しかし我がエバンス家はどちらにも付くつもりはない。理由は色々とある。まず貴族派だが、貴族派にもしも付くとなるとガストル侯爵の下に付くと言う事だ。···あり得ない。ただでさえガストル侯爵には数々の嫌がらせを受けてきたのだ。領民と家族を不幸にする未来しか見えない。そして女神派、女神派になるといつかは治癒魔法を使えるアレンを女神教会に差し出せと言ってくるのは間違いない。まだアレンが治癒魔法を使える事はバレていないと思うが···。とにかく、どちらの派閥を選んでもエバンス家には悲劇しかない」
「では父さんはどうするつもりなのですか?」
とアレンが問うとマークは腕を組みしばらく考えてから話し出す。
「爺さんからの手紙から分かる様に貴族派も女神派も、どうやら王族派は粛清して中立派を取り込むつもりのようだ。しかし我らエバンス家は取り込まれてもろくな目に遭わないだろう。なら、エバンス家が取る道は二つしかない。王族派を復権させるかドウェイン王国を出るかだと、私は考えている。皆はどう思う?」
確かに父さんの言う通り、貴族派と女神派のどちらに付いてもエバンス家はろくな目に遭わないだろう。
しかし、王族派を復権させるのはとても難しい。
まず王族派を名乗るなら旗印になる王族の存在が絶対に不可欠だが、王都にいる爺ちゃんの手紙には、ジョージ王は亡くなり、第一王子と第一王女は女神派、第二王子は貴族派とある。
第三王子は王族派のようだが幽閉されている上に、小さい頃から身体が弱く半分寝たきり状態らしいし、第二王女はまだ五歳と幼い上に行方不明とある。
この様な状態になっている王族の誰を王族派の旗印にできるだろうか。第一王子、第二王子、第一王女は論外だし。
第三王子は居場所の特定、救出、身体の治療、と問題が多いし、第二王女は何処にいるか検討もつかない。
先代王のアトラス大公も幽閉され軟禁状態だと、現状で王族派で旗印にできそうなのはジョージ王の弟であるエルトラント公爵だけらしい。
ただ、エルトラント公爵は王都の西に領地を持ち自領地から滅多に王都に来る事は無いらしく、爺ちゃんもエルトラント公爵がどうなったか把握していないと手紙に書いてあった。
パトリック・ドウェイン・エルトラント公爵の治めるエルトラント公爵領は、王都の西、ガストル侯爵領の北に位置する場所にあり、領地の西はローゼンダルク帝国に隣接している。
その為、エルトラント公爵はローゼンダルク帝国と交渉や睨みを効かせる為に自領から滅多に動かないそうだ。
「ふむ。私はマーク様の言う通りですな。女神派は絶対に信用出来ませんし、ガストル侯爵率いる貴族派と上手くいくはずがありませんしな」
「そうね。私もあなたの言う通りだと思うわ」
最初にギルバート、次にサラがマークを肯定した。
「うーん。しかし、そうなると王族派の旗印が必要不可欠です。それに幽閉されたり失踪していない王族派はどれくらい居るのですか?王族派を復権させるにも有力な王族派や数が揃わなくては話にもならない気がするのですが······」
「そうだな、アレンの言う通りだ。しかしエバンス家にある選択肢は、さっきも話した通り二つだけだ。どうにかして王族派を復権させ貴族派と女神派の力を削るか、爺さんたちが一から開拓したこの領地を捨てるかだ」
「···そうですか、わかりました。なら僕は父さんがどちらを選択しても反対はしません。ただ領民への説明は必要でしょう」
「勿論だ。どっちを選んでも領民を巻き込むのは避けられないからな。しかし、王族派の復権を目指すなら領民への説明はギリギリまではしない。混乱させるだけだし、間者に我らが王族派の復権を狙っていると知られたく無いからな」
「そうですな、それが宜しいでしょう」
「それで、貴方はどちらを選ぶの?」
サラの質問の後、少しの間部屋が静まり返るが、腕を組み天井を見上げていたマークが一度全員を見回してから答える。
「···エバンス家は、貴族派と女神派には中立派を装ったまま、王族派として王族派の復権を目指し動く事にする。その為、王族には王族派の旗印になって貰う必要があるが、その辺の判断は男爵でしかない私からは何も言えない。これから他の王族派と連絡を取り合ってから決める事になるだろう。なのでまずは、ジョージ陛下の弟であるエルトラント公爵と連絡を取るか、前王であるアトラス大公と仲の良いクラウド辺境伯と連絡を取るか。ただ問題は、この領地の地理的にどうやって他派閥に知られない様に王族派の二人と連絡を取り合うかだ。まず西は貴族派の筆頭が治める場所だ。そんな場所を連絡路に使う訳にはいかない。そして東の四男爵は女神派の勢力だ、なので東も連絡路に使えない。そうなるとエルトラント領には、北からガストル侯爵領の端を抜け山を越え伯爵領を経由して入るルートと、隣国のロマニス王国からローゼンダルク帝国を経由するルート。クラウド辺境伯領には未開の森からのルートしかない」
まず、山越ルートは現実的じゃない。確かエペレス山は標高が三千メートル超え、山の中腹辺りから一年中雪が積もっている。しかも、ワイバーンやホワイトライガーの様なAランククラスの魔物、他にもハーピーなどのBランククラス以上で群れを作っている魔物が多数いるとされていて、山を越えるのは無謀に近い。
そうなると一番遠回りのルートだが、まだロマニス王国に入りローゼンダルクからエルトラントへ入るルートの方が強力な魔物に遭遇することはないだろうが問題はロマニス王国の治安だろう。
ロマニス王国は今から三十年程前に、軍事クーデターで当時の王族が全て処刑され、その時に軍を指揮していた総帥が新しく王になった。
軍事クーデター前のロマニス王国は民主制に近い議会制を採用しており、民衆に選ばれた議員が議会で話し合い採決したものを王が了承するという流れの国だったが、軍事クーデター後は王族と一緒に議員たちも全員が捕まり処刑された。
そのせいで政をまともに行える者は殆どいなくなり、軍事しか知らない新しい王のやりたい放題の国になる。
総帥が新しく王になった事で、税金が上がり、賄賂が横行し、冒険者ギルドに退去命令が出た。するとあっと言う間に治安が悪くなっていった。
ロマニス王国の現在の王は総帥の息子だが、総帥の時代よりも国の情勢も治安も更に悪化していると言われている。
正直ガストル侯爵の領を通るのが1番安全な気がするが、機密文書を持って通るとなると···。
そして、クラウド辺境伯領に向かう為に未開の森を通るルートもかなり危険だ。森の浅瀬ならゴブリンやオーク、それに狼など、ランク的にはEやDランクの魔物や魔獣が出るだけだが、少し未開の森の奥地に入るとブルーベアーやオーガと言った単体でもCやBランククラスに遭遇する事になる。ゴブリンやオークなどの集団を作る魔物や魔獣が集落を作っている可能性もかなり高い為、未開の森を通るなら、高い戦闘能力が必要になる。つまり、どちらに向かう使者も大きな危険を伴うのだ。
こうなっては流石に自分の使える魔法を話しておいた方がいいか。
どうせいつかは絶対に話すつもりだったのだ。なら今話して方がいいかも知れない。
「あの、家族と信用ができる人物にだけに話したいことがあるのですが」
「わかった···話してみろ」
マークがチラッとギルバートを見てからアレンに頷く。
「えっと、じつは僕が使える魔法は四属性魔法と治癒魔法以外にも使える魔法があります」
「他にも使えるだと!?」
マークが勢いよく椅子から立ち上がり、ギルバートが驚いた顔をする。しかしサラには驚いた様子はない。
「はい。隠していてすみません」
と言ってアレンが頭を下げると、サラがマークの隣からアレンの前に移動して屈むと、アレンの両肩を掴み姿勢を戻す。
「いいのよ。子供なら親や兄妹に対しても話せないことなんて、一つや二つはあるものよ。いえ、違うわね。親や兄妹だから話せないことかしら。私だってまだ両親にナイショにしていることがあるくらいだしね」
そう言ってサラは微笑みながらアレンの頭をなでる。
「そうだな。まぁ私も爺さんと婆さんに話していないことはあるな。だからアレンも気にしなくていい。それに、魔法はただでさえ三〜四種属使えると驚かれてしまうからな、話すのが不安になるのもわかる」
「ですな。しかし馬車でアレン様から五属性持ちと聞いた時にも大変驚きましたが六属性持ちですかぁ、凄まじい魔法の才能をお持ちですな」
「本当ね。でも私はアレンが他の属性を持っていると思っていたわよ」
「本当か?私は全然わからなかったな」
「フフフ、何属性持ちか予想もあるわよ」
「何属性だと思っているんだ?」
「たぶん。アレンの六つ目の属性は氷ね。どう?アレン。当たってるわよね?」
「そうですね。間違ってはいません」
「ん?間違ってはいない?どういうこと?」
「えっと、確かに氷魔法は使えます。···違うのは、僕が使える魔法は六種類ではありません。全部で十二種類の魔法が使えます」
「な!?」「え!?」「は?!」
マークは再び椅子から立ち上がり、サラは目を大きく開き、ギルバートは顎が外れんばかりに口を開けて、全員がアレンをあ然と見つめている。
あー、これはまだ固有スキルや加護のことを言うのは止めておいた方が良さそうだ。




