37話
この世界でやっとプリンを作ることが出来た夜、アレンはマップでミルの位置を確認すると、ベットからそっと抜け出し、他にミルの周りに人が居ないのを確認してからゲートで移動する。
ゲートから出た場所はノーラさんの宿の裏手にある物置小屋の前。
「ミルさんお待たせしました。結構待ちましたか?」
物置小屋の陰に話し掛けると物置小屋の陰からミルが出て来た。
「大丈夫、殆ど待ってない」
「良かったです。それで、頼んでいた件の目星はつきましたか?」
「うん、とりあえず一人は」
「誰ですか?」
「昼間に東門を、警備してる若い男」
「んー、それなら、自警団の若手の一人ですね。若い男以外にその人の特徴はわかります?」
「んー、左足を引き摺ってた」
「あー、その人なら二回模擬戦をした事があるので僕もわかります。流石に名前は覚えていませんが、二年くらい前にガストル侯爵領から移民してきたEかDランクの元冒険者の男ですね。確か魔物との戦闘で左足を骨折して、後遺症が残ったので冒険者を引退してファーガス村に移民。今年の頭辺りに自警団になった人ですね。その人の何が怪しかったですか?」
「アレン君と村に戻って来た日に、西門を使わないで冊を乗り越えてた。村の外から戻ったのは二時間後」
「まぁー、黒でしょうね。誰かに会って連絡したか、何処かに伝言を残してきたか。まぁそんなところでしょうか」
「ん、私もそう思う」
「わかりました。とりあえずその男は、一旦放置でいいので、他をお願いします。十中八九ほかにも居るはずなので」
「了解。探してみる」
「お願いします。そういえばちゃんとご飯食べてますか?」
「ん、大丈夫。宿の食堂で食べてる。ただ、アレンが作ったご飯の方が美味しい」
「ファーガス村は、まだまだ調味料が足りてないから全体的に薄味ですからねぇ。本当は屋敷に泊めてご馳走したいですが、一緒に居るとミルさんも余計に警戒されそうですからね。今は我慢して下さい。ただ、食事の代わりにスイーツを持ってきましたよ」
ストレージからクーラーボックスを出して中からプリンを取り出す。
「これはプリンと言います。とても柔らかいので初めての食感かも知れませんが、甘く冷たいスイーツです。良かった食べてみて下さい」
木製のスプーンとプリンをミルに渡す。
「甘くて冷たい?」
「ええ、そうです。さっき家族とメイド達にも食べてもらいましたが、まあまあ好評でしたよ」
ミルは受け取ったプリンをスプーンで掬いひと口食べると、眼を見開きアレンを見て、瞬きを数回してから凄い勢いでプリンを食べた始めた。
「ん······プリンなくなった」
ミルが悲しそうに空のカップを見つめているので、自分用に残してある分をクーラーボックスから取り出してミルに渡す。
「今度はゆっくり食べて下さいね。気に入ったのなら近い内にまた作って持って来ますから」
「うん、甘くて、美味しい。何個でも食べたい」
空のカップを受け取り、今度はプリンをゆっくり味わいながら食べてるミルを眺めていたが、そろそろ寝ないと子供体質のアレンには辛くなってきた。
「空のカップは貰いますね。あと、これは、追加の資金です」
ミルから空のカップを受け取り、小金貨を三枚渡す。
「ん、わかった、アレン君おネム?」
「そう、ですね。子供は寝る、時間、みたいです」
ミルはアレンの顔を覗き込みながら頭を撫でる。
「もう、戻ったほうがいい」
「はい、そうしま、す。また明後日きま、すね」
ミルがアレンの頭から手を離して手を振る。
アレンも半分寝ぼけかけた状態でミルに手を振り返し、ゲートを潜り部屋に戻るとベットに倒れ込む様に眠りについた。
翌朝、昨夜久しぶりにスイーツを出したからか朝から母さんとセリナがホットケーキを所望したので、作ったホットケーキと別添えの蜂蜜をケーラさんとケイト姉さんに食堂に運んでもらう。
せっかくなのでミルさん、ユイやラム達にも食べさせてあげようと思い、ホットケーキを焼いてはストレージに保存しておく。
ついでに残りの牛乳、砂糖、卵を鍋に入れて混ぜ合わせ、弱火でかき混ぜながら加熱し、とろみが出たら冷ましてからボウルに移し、この状態でストレージに保存。バニラビーンズも忘れずに加えたので匂いはバニラアイスだ。
「あとは冷やしながら固めるだけだし続きは食べる前でいいよね」
まぁ、氷魔法を家族に話す事は決めているので、話した後にクレープかホットケーキと一緒にバニラアイスを出そうかと思ってる。
キッチンでホットケーキなどを作り終わり従業員用宿舎の食堂に移動すると、丁度これから朝食の準備を始めるところだったので、朝食の準備を止めてもらう。
お皿だけを人数分用意してもらい、そこに屋敷のキッチンで作ってきたホットケーキとカットしたオレンジとアップルを乗せ、最後に蜂蜜をたっぷりかけてからテーブルに運んでもらう。
「先程、屋敷でも食べていた物で、みんなにも食べて貰おうかと作ってきました。どうぞ食べてみて下さい」
大人は少し戸惑っていたが、ホットケーキと蜂蜜の甘い匂いに、最年少のシュリが最初にホットケーキを小さく切って口に運ぶ。
「ふわぁー、あまくておいしいの!」
それを見た他の子供もホットケーキを食べて騒ぎ始め、最後に大人が食べ始めた。
みんながホットケーキを食べているのを眺めていると、ちょうどシンクさんも来たのでシンクさんにも食べて貰う。
「アレン様とても美味しいです」
とシンクさんからの言葉も貰い、全員がホットケーキを食べ終えた頃に母さんたちも来て全員が揃ったので、食器を片付け勉強を始めた。
アレンは予定通りに午前中は読み書きと計算を教え、午後はユリナとテオの蒸留が問題ないことを確認し、統括補佐の二人には、基本的に部門担当で分け。アイラには香水部門、シンクには蒸留酒部門の責任者としてみる事にした。
これでやっと香水と蒸留酒の製造が本格的にスタートする事になった。
それから数日が経ち、今日はアレンとシンクの二人で午後の勉強を教えていた。
アレンたち四人で話し合い、アレンとシンク、サラとアイラが一日交代の週に二回ずつ勉強を教える事になり、午前中を仕事、午後を勉強と変えて、週の頭から四日目まで仕事と勉強、五日目は午前中に仕事だけしてもらい午後は自由、六日目は休日とする事にした。
ちなみに、この世界は一日が二十四時間、一週間が六日、一月が五週間、一年が三百六十日になっている。曜日は火の日から始まり、水、風、土、闇、光、と言う順になる。
なので、仕事が火の日〜闇の日の午前中で、勉強が火の日〜土の日の午後。そして光の日は休日だ。
「アレン様、マーク様が書斎に来るようにと」
「書斎ですね。わかりました」
勉強を教えていたらケイト姉さんが宿舎の食堂に来て、父さんが呼んでいると言われたので、シンクさんにみんなの勉強を任せて書斎に向かう。
宿舎を出て裏庭を横切り屋敷の裏口から屋敷に入ろうとしたら、裏庭の隅にある小屋から「キュル、キュルル」と聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。
その小屋は五年前に作った小屋で、テイマーの才能がある婆ちゃんが、卵から孵して育てたブルーバードと言う二羽の鳥の魔物が飼われていた飼育小屋だが、婆ちゃん達が王都に住むことになりブルーバードは二羽とも婆ちゃんが王都に連れて行ったので、現在は未使用になっている飼育小屋だ。
アレンが小屋に近くと「キュルキュル、キュルルー」と声が大きくなり、ブルーバードが嬉しそうに鳴きながら木製の柵に近づいてきた。
アレンが柵を開き小屋の中に入ると、一羽のブルーバードがアレンの肩に乗る。
「やぁ、君はスカイだね。元気だったかい?」
と、アレンがブルーバードの胸元を指で軽く撫でる。
ストレージからナイフと切り分けていた鹿肉を取り出し、小さく切ってからブルーバードに与える。
ブルーバードは肩に乗ったままアレンの手から鹿肉を直接貰い、嬉しそうに飲み込む。
「スカイだけで来たの?ソアラは婆ちゃんと王都にいるの?」
ブルーバードはアレンの質問に答えることはなく、ただ嬉しそうに首を上下している。
ちなみに、ソアラとはもう一羽のブルーバードで、アレンが三歳の時に祖母のミリアと二羽のブルーバードが卵から還った瞬間に立ち会っていた。その時に祖母ミリアから名前をつけても良いと言われ、転生前の子供時代に好きだった車から名前をつけた。
このブルーバードは頭が良く長距離が飛べる上に、卵から育てたからか二羽共とても人懐こい性格している。大きさは鷹と比べて小さいが、素早さと持久力にとても優れている為、長距離を飛ばす事ができる。しかしブルーバードは希少な魔物で、卵を見つける事は難しく、スカイやソアラの様に人の手で育てられたブルーバードはとても希少だ。
「流石に答えないよね。でもスカイが元気そうで良かったよ」
と笑顔で言って、もう一度スカイの首元を優しく撫でた。
アレンが誰何してドアを開け書斎に入ると、執務机にマークが座り、その隣にサラ、執務机を挟んでギルバートが話をしていた。
「アレン来たな。早速だが婆さんが飼っているブルーバードが親父の手紙を王都から運んできた」
「王都から手紙ですか。確かに小屋にはスカイがいましたね。それにしてもスカイを飛ばすと言う事は緊急ですか?」
「やはりアレンは察しがいいな。その通りだ」
「しかし、それで何故僕が呼ばれたのですか?」
「まぁ、本当はアイクがここで私達の会話に混ざらないといけないのだが、アイクから相続を辞退すると宣言されてな。しかもすでに相続辞退の書面もあるから、このエバンス家の次期当主代理の立場はアレンに移った。なので王都にいる次期当主の代理として会話に参加して貰う。いいな?」
うわぁー、アイク兄さんいつかは相続を辞退するかとは思っていたけど...
「···うーん、しかし僕はまだ八歳ですから役に立つと思えませんが」
「アレンが自分をどう評価しようがこれは決定事項だ」
「そう、ですか···わかりました」
「よし。では、アレンも爺さんからの手紙を呼んで意見を聞かせてくれ」
と言ってマークがアレンに手紙を渡す。
アレンは折り畳まれた手紙をマークから受け取ると、手紙を広げて読み始めた。
お読みいただき有難う御座います。
今週は1話分の投稿しか無理かも知れません。
理由ですが、単純に気にいらなくて書き直したからです。すみません。




