36話
「えっとー、一日一人で一セットですかい?ワシでも作れないのに?」
ナグリはアレンに疑う様な眼差しを向ける。
「はい、その将棋は移動中の揺れる馬車の中で二日で作った物です。なので普通に作れば二日で三セットは作れるかと思いますよ」
ナグリは疑う様な眼差しはそのままだ。
「なるほど。だ、そうだが?ナグリの所では二日で三セットは無理なんだな?」
マークが軽く煽る感じでナグリに言うと、ナグリはムッとした顔をする。
「領主様の息子さんに失礼かと思いやすが、本当に一人だけで、二日で三セットも作れるんですかい?正直言って信じられやせんなぁ······まぁいいですがね。とりあえず、もし、ワシらの工房で二日で三セットを作るなら、二人で手分けすれば作れない事もありやせんかね。ただ、うちの工房は長男と次男の三人でやってやすが、次男はまだ見習いでやすから、長男と二人で作るとなると樽の生産を止めなきゃいけやせんがね」
「んー、今日までの分で完成品の樽は幾つあるんだ?」
「今日の分を入れれば領主様から依頼のあった数の半分でやすね」
「なら、将棋を十セット作るまでは樽の製作を止めても構わないから、先に将棋を作ってもえるか」
「了解しやした。それなら、まず試作で一セット作るのに二日は貰いやすぜ。んで、試作を上手く作れたら注文品を作り始めやすから、十セットなら余裕をみて一週間でお作りいたしやしょう。それと、こいつを見本で持って行きやすが構いやせんか?」
「ああ、持って行って構わない。それと、完成してる分の樽は従士に取りに向かわせるから、その時に将棋の見積り書を従士に渡してくれ」
「分かりやした」
「では、それで頼む」
ナグリさんが応接室から出て行くと父さんは僕を見て「アレン、明日までに将棋を一セット作れないかな?」と寂しそうに言ってきた。
ナグリさんが見本で父さんの将棋を持って行ってしまったので、結局は僕も一セット作らされることになった。
夕方までにはだいぶ時間があるし、前回将棋を作った時に駒の形に加工した物が残っているので今日中に作ってしまおう。
部屋で文字を駒に彫り込む作業を黙々と終わらせ、後は魔物の皮で軽くヤスリ掛け作業をすれば終わり、というところでセリナがアナを連れて部屋に入ってきた。
「アレンお兄ちゃん、何やってるの?お母さんがおフロにお湯を入れてほしいって!」
他の貴族屋敷と違いうち風呂のにはまだお湯の魔道具が無いので、アレンが居る時は風呂にお湯を溜めるのはアレンの役目だ。
「あー、忘れてたよ」
お風呂にお湯を溜め部屋に戻ってくると、まだセリナが部屋に居て、後はヤスリを掛けるだけの駒を手に取って眺めていた。後はヤスリ掛けだけだし、せっかくだからセリナにも少しだけ手伝って貰う。
「セリナに手伝って欲しい事があるけど、手伝ってくれる?」
「うん!何するの?」
「まずこれが駒、こっちがヤスリね。このヤスリを使って、これと同じ様に駒の表面をサラサラにしたいけど出来る?」
セリナに完成した将棋の駒を触らせる。
「んー···うん!できる!」
「よし!じゃあ、教えるから一緒にやろうね」
将棋は夕食前に完成したので、夕食後に手伝ってくれたセリナから父さんに将棋を渡してもらったら、父さんがとても喜んで受け取っていた。
翌日、朝食を済ませてから保管庫にある香水の入った箱をみんなでクルタさんの馬車に積み込む。
木で作られた箱には一箱につき十本の香水が入っていて、今回は二百本の香水の注文なので全部で二十箱ある。
馬車に香水の入った箱を積み終えるが、今回蒸留酒がないので馬車にはまだまだ空きスペースが多い。しかし、次にクルタさんが香水と蒸留酒を受け取りに来た時には、馬車の大半を埋める事がきっと出来るはずだ。
「よし、これで最後ね。じゃあこれが代金よ。利益が増えたら、その分は次に来た時に渡すわね」
「わかりました。辺境伯にもよろしくお伝え下さい」
「ええ、伝えておくわね。じゃあアレンちゃん私は行くけどミルちゃんの事よろしくね」
「はい、任せて下さい」
クルタさんが香水の初出荷品を載せて、辺境伯領の領都アズラールに向けて出発した。次にクルタさんがファーガス村に来るのは二ヶ月〜三ヶ月後の予定だ。
ちなみにシンクさんはパーティーを抜けたが、ミルさんとはアズラールからパーティーを組んだままだ。
ミルさんが僕に懐いているというか、僕がミルさんを気に入った、というか、よく分からないけど。
とりあえず、ミルさんとはたまに転移で辺境伯領に移動して他の町や村にも行ってみようと思っているが、今は他の要件を頼んでいるので、進捗状況を聞きく為に後から会うつもりだ。
さて、今日からは香水と蒸留酒の生産が始まるが、まだ材料をそれほど用意出来ている訳ではないので、しばらくの間は午後のみの稼働とした。
クルタさんを見送った後、従業員宿舎の食堂で全員が一度集まってから班分けと予定を話す。
蒸留酒班のリーダーにユリナさんを置き。テオ、ユイ、ライ、ネビル、の五人。
香水班のリーダーにはアマンダさん、試作主任に母さんを置いて。エイヴァさん、ラム、シュリちゃん、の四人。母さんは殆ど趣味みたいなものなので人数には含めていない。
両方の統括はもちろん僕で、補佐には今日付けで自警団から従士見習いになったシンクさんと、何故かアイラ姉さんも補佐に付くことになった。
シンクさんは僕から父さんに頼んだが、アイラ姉さんはよく分からない。しかし父さんが決めた?だろうから別に嫌はないけど。
そして、何もない午前中は、せっかくなので全員+セリナを含め、文字の読み書きと四則演算、それと生活魔法を含む下級魔法を教える。
魔法は僕か母さんが教え、読み書きと計算は僕、母さん、シンクさん、の誰か余裕のある人が教える。
「えー、一度自己紹介してるので分かると思いますが、こちらがエバンス家の長女でアイラ・エバンスです。僕の姉ですね。そして、まぁ、みんな知ってるシンクさんですね。この香水と蒸留酒事業の統括が僕で二人には統括補佐をしてもらうことになりました」
「えーっと、よろしくね」
「よろしくお願いします」
「はいっ!」
「では、午前中は読み書き、計算、魔法の勉強ですが、魔法は一定以上の読み書き計算が出来るようになってから教え始めます。全員分の石板がありますから、文字書きと計算は石板でお願いしますね。ではさっそく始めますが、せっかくなのでアイラ姉さんも教える側に回って下さいね」
「えっ?!わ、私が勉強を教えるの?」
「もちろんです。統括補佐ですよ?教わる側ではなく、教える側になってもらわないと」
「そうよ。アイラは統括補佐でしょ?それに人に教える事も勉強よ」
そんな訳で最初は三人で勉強を教える予定だったが、アイラ姉さんを含めた四人で勉強を教える事にした。
午前中の勉強が終わり昼食を食べていると姉さんがぐったりしながら昼食を食べている。
「なんだ?アイラは酷く疲れているようだが、統括補佐はそんなに大変なのか?」
と事情を知らない父さんがアイラ姉さんに話し掛けると、母さんか笑っている。
「だってー、アレンに統括補佐だから勉強を教える側になれって言われて···しかも母さんもアレンに賛成するし。···私ね、初めてアイクとセリナ以外に勉強を教えたの。凄く疲れたわ」
「へー、いい事じゃないか。統括補佐にしたのは、そういった人にものを教えたり、指示したしたりといった事を学んでもらう為だからね。アレンと母さんの判断は間違ってないよ」
「やっぱり父さんも同じように言うのね。ハァー···教えるのがこんなに大変だとは思わなかったわ」
「人に教えるのは良い経験になるはずだよ。そうだねー、まずアイラは人に教えたり指示する事の練習と思えばいいよ。間違って教えたり指示したとしても母さんとアレンがカバーしてくれるさ、もちろん父さんもね」
午後、今日と明日は全員に香水と蒸留酒の作り方を教える予定で、今日と明日は全員で行動する。
香水の生成には小型の蒸留器を加熱する必要があるが、大半が火魔法を使えないので、アズラールに旅立つ前にカーラさんと作ったアルコールランプを使う。
全員で蒸留所の二階にある研究所に移動して、最初に僕が香水を作ってみせ、アマンダさん、エイヴァさん、アイラ姉さん、シンクさんの順に香水を夕方まで繰り返し作ってもらった。
香水班は、しばらくアマンダさんとエイヴァさんの二人がメインで作るのが基本となるので、最初は二人に香水の作り方をマスターして欲しい。そして二人が香水の作り方をマスターしたら子供達に教えてもらう。
アイラ姉さんとシンクさんに香水の作り方を教えたのは、二人は統括補佐なの色々と理解して作れるようになっておかないと、何か問題発生した時の対処や指示が出来ないからだ。なので二人には蒸留酒の作り方もマスターしてもらう。
翌日の午後、蒸留酒の作り方を教える日だ。今日も全員で蒸留所に移動して、昨日と同じように最初は僕が蒸留してみせる。そしたら、ユリナさん、テオ、アイラ姉さん、シンクさんの順に、四人に蒸留を繰り返し作ってもらった。
蒸留酒はユリナさんとテオがメインで作るので二人に先に覚えてもらい、子供達に教えてもらう。
しばらく四人が蒸留を繰り返すのをみてから、母さんに監督を替わってもらう。
監督を替わってもらった理由は作ってもらっている蒸留酒用樽の状態を確認する為と、エールとワインが入っていた樽を再利用出来ないか。それに熟成させる為の貯蔵庫の確保。
本来のウイスキー樽はオーク材を使っているが、流石にこの世界にあるか分からないので、今回蒸留酒に使う樽は、エール樽とワイン樽と同じ木材から作られた樽だ。
はっきり言って僕も専門家ではないので、実際に作って貯蔵してみないとウイスキーの味がどうなるか分からないが、今回はエール樽とワイン樽に使う二種類の木材で作られた樽に蒸留酒を入れ、若いまま蒸留酒として売る物と熟成させる物、再利用したエール樽とワイン樽に蒸留酒を入れ熟成させる物、樽の内側を焦がして蒸留酒を熟成させバーボンウイスキーにする物の五つに分けてみることにする。なので、酒樽の内側を火魔法で焦がした樽も用意した。
樽の確認と状態を確かめてから、熟成、貯蔵する場所を確保する為に、一階の貯蔵庫の地下に地下室を作り、地下型の貯蔵庫も作る。
「いやー、それにしても魔法ってホント凄いよなぁ」
一人喋りながら土魔法のクレイクリエイトで地下室を作っていく。広さ的には、だいたい二十五メートルプールくらいの広さだ。
「ちょっと小さいかな?まぁ、とりあえずはこんなもんにしとくか。別に後から広げても問題ないしな」
クレイクリエイトで土を圧縮して頑丈に作っているが、一応、念の為に転移でボアを狩った森に行き、補強用の木材も取ってきて、地下室が崩れない様にしっかりと補強していく。
地下室作りに夢中になり過ぎて、気付けば既に夕食時間を少し過ぎている。
急いで戻ると、母さん達の姿はなく気配感知を使うと従業員宿舎の食堂に集まっているみたいだ。
「ヤバっ、ちょっと、調子に乗って時間忘れてたな」
急いで従業員宿舎の食堂に向かうと、ユリナさん達が揃っていた。
「あー、ユリナさん、テオ、ゴメンね。ちょっと他の作業してたら夕食の時間過ぎてたみたい」
「あ、いえ、大丈夫です。サラ様が時間を知らせてくれましたから」
「そっかー、良かった。蒸留はどうでした?うまく作れそうですか?」
「はい、少し火の調整が難しいですが、大丈夫だと思います。一応蒸留した物をサラ様に味見して頂き、たぶんオッケーと言われました。たぶんと言ったのは最終確認はアレン様がするからと」
「あー、了解です。確かにそうですね。じゃあ、明日、僕が確認しますね」
「はい、よろしくお願いします!」
屋敷に戻ると、僕以外は全員揃っていて、すでに食事を始めていた。
「すみません。遅くなりました」
と、一言謝ってから席について食事を始めようとしたら母さんが話し掛けてきた。
「アレン、何処に行ってたの?探したけど居なかったわよ」
「えっと、母さんに言った場所とは違う場所で作業をしてました」
「まったく、私に任せっきりだったじゃない。最終的な確認はアレンがするのでしょ、統括なんだから」
「はい、すいません。明日ちゃんと確認します」
アレク兄さんが、僕が母さんに注意されるのを見てニヤニヤしている。
ムカついたので、この後に作るスイーツをアレク兄さんの分だけ少し小さな容器にする事に決めた。
ちゃっちゃと昼食を食べて、手伝おうとしたケーラさん達を断り、今回は一人でキッチンに向かう。
みんなはゆっくりとティータイム中だ。
牛乳、卵、砂糖で作った卵液にバニラビーンズを入れてから陶器のカップに流し入れて蒸す。
蒸してる間に二カ月前に作った鉄のクーラーボックスをストレージから出してキッチンに置く。
「さてさて、ようやく君の出番がきましたねー」
クーラーボックスの中に魔法で凍結寸前の零度近い水を入れ、カーラさんに作ってもらった薄い鉄板に脚が付いた物を入れ蓋をして冷やしておく。
蒸し上がった物をクーラーボックスの中に入れた鉄板の上に並べ蓋をして冷やす。
鉄板には冷気が循環するように小さな穴が沢山空いていて、アレン的には蒸し器の冷却版の様な冷蔵庫の様な考えで用意した鉄板だ。クーラーボックスを断面で見ると。
クーラーボックスの底→冷水→鉄板→冷やす物→蓋、になる。
数分後、やはり冷水ではなかなか冷えないので、面倒くさくなったアレンは冷水を魔法で凍らせて、容器の周りにも氷を置いて急速に冷やした。
うーん、やっぱ、家族には、氷魔法は使える事を話した方がいいかもなぁ。 色々とやりたい事もあるし、作りたい物もある。近いうちにまずは父さんと母さんに話すか。
アレンはアズラールで魔法神に会ってアドバイスを貰ってから、魔法の使い方、考え方が変わったせいか、やりたい事、試したい事が増えた。
その為に、今の魔法を制限された様な生活を変えたいと、アズラールからファーガス村への帰りの馬車の中で考えていた。
氷でしっかりと冷えたカップを取り出し、次のカップを冷やす。このクーラーボックスでは、十〜十二個冷やすのが限界だろう。やはりクーラーボックスではなく大きな冷蔵庫の様な物を作る必要があるな。
完成した物をトレーに乗せケーラさんを呼び運んでもらう。
全員がリビングで紅茶を飲みながら寛いでいたので、そのまま作ったスイーツをケーラさんに配膳してもらった。
「お待たせしました。このスイーツはプリンといいます。では、新作のスイーツを食べてみて下さい」
今回作ったプリンは、セリナも食べるので、少し苦いカラメルは無しにして、牛乳はこっそりとアズラールに転移して買ってきた。
「ふわぁぁぁ、あまーい!おいしー!」
「うん、これはプルプルしてて初めての食感だけど、優しい甘さでとても美味しいね」
「本当ね、冷たくて、甘くて、とても美味しいわ」
良かった、プリンはみんなに受け入れてもらえたみたいだ。みんな美味しそうに食べている。
正直言うと味には自信あったけど、みんなが食べた事のないであろう食感が不安だった。
しかし、一人だけ既に空になった自分のカップと周りを比べて不満そうな顔をしている。
「アイク兄さんはあまり美味しくなかった?」
アイク兄さんは今度はムッとした顔をしてカップをテーブルに置く。
「ちげーよ!何でオレのカップだけみんなよりもだいぶ小さいんだよ!」
すると、僕が何か言う前に、母さんが「フフフっ」と笑う。
「たぶん、アレンはさっき私が注意したのをアイクに笑われたから仕返ししてるんじゃないの?」
あら、母さんにはバレてる。まぁ、確かにかなり露骨にカップの大きさが違うからなぁ。
「なっ!?アレンお前ガキかよっ!」
いや、ガキですが?まだ八歳です。
「アイク!アレンはまだ子供ですよ。何当たり前の事を言ってるの。まぁいいじゃない、これくらいのかわいい仕返しくらいは兄として弟を笑って許したら?」
「そうですよ?かわいい弟のちょっとした仕返しですから。でも、まぁ、何か可哀相になってきたので、食べかけですが僕の分を半分あげますよ」
アレンがプリンを半分食べたカップをアイクの前に置く。
「ま、まぁ、確かに?兄として弟のこれくらいの仕返しは許してやらないとな」
アイクがアレンからもらったプリンを食べるとマークとサラが笑う。
「ウフフっ。はぁー、何か二人ともまだまだ子供で母さんは安心したわ」
「確かにね。最近はみんな急に大人になった気がしていたからね」
「そうよ。子供らしいのはセリナだけよ?最近はセリナ以外は全然甘えてくれなくなっちゃたし。まぁ、アレンは小さい頃から殆ど甘えてくれないけど」
んー、確かに本当なら子供が甘えるような時期でも殆ど母さんに甘えてなかったかな?それに普通の子供なら、今の歳でもまだまだ甘えるのが当たり前なんだろう。記憶でも地球にいた子供の時は小学校4年生くらいまで母親に甘えていた記憶がある。
でもさ、いくらこの世界の母親とはいえ、生まれた時から三十代後半のオッサンの記憶があると、なかなか死んだ時とほぼ同世代の人に甘えるのは厳しいものがあるよなぁ。それに、地球時代と今の年齢足したら今の母さんよりも年上だし。
まぁ、でも、母さんに寂しい思いをさせているなら、もう少しは子供っぽい事をするようにしようかなぁ。
『怠惰だった僕は神の使徒して生きていく』を読んで下さり有難う御座います!
良ければブックマークも宜しくお願いします。
さて、どうにか今週2話分の投稿が出来ました。しかし今週3話分は厳しそうなので、続きの投稿は来週になりそうです。
それと、今日赤紫蘇ジュースを作りました。1年ぶりに作りましたがなかなか上手く作れたかなぁ、と思います。結構簡単に作れるので、赤紫蘇が手に入れば皆さんも作ってみては?
メルケイン




