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33話

 アレンはアズラールの街を西に向かって足早に歩いていた。

 マップで確認すると、ミルは一昨日行った創生教会近くのスラム街の辺りで止まっている。


 アレンはそれなりに早歩きをしているつもりだが、なにせまだ八歳の身体ではミルと合流するのにこのままでは一時間以上掛かってしまいそうだ。


 アレンは辺りを見渡すと建物の横にある小さな脇道に入り、マップで創生教会の周りに人が居ないか確認する。

 今いる場所もマップで確認して誰も居ない事を確認してから転移を使って創生教会の陰に転移した。

 アレンは辺りに人が居ないのをもう一度マップで確認してからミルの場所を確認して足早に歩き始めた。



 創生教会から十分ほどにあるスラム街の建物の陰にミルはいた。


「すみません、お待たせしました」


「ん、全然待って無い。アレン君足早いね。後一時間は来ないと思ってた」


「あははは、ま、頑張りました。ところで金貸しのアジトは分かりました?」


「男はあの角にある三階建の建物に入って行った」


「そうですか。うーん、僕の気配感知だと建物には十五人くらいの人が居ると思いますが、合ってます?」


「建物には全部で十七人居るよ。今は三階に六人」


「流石ですね。僕ではそこまで分かりません」


 空を見上げると朱に染まり、後一時間もしないうちにあたりは暗くなるだろう。


 金貸しのアジトは分かったけど、問題はネビルの家族が何処に居るかだが、どっちにしても辺りが暗くなってからだな。



 アレンとミルは建物の陰に隠れながら1時間ほど金貸しのアジトの観察をしていた。金貸しのアジトの一階は酒場になっていて、日が暮れた辺りから酒飲み達が集まって来ている。


 更に三十分ほど観察していると一階の酒場はどうやら売春もしているようで、数名のウエイトレスが酔った男と話をした後に肩を抱かれて階段を登る姿が見える。


 かなりスカートが短いと思っていたけど、なるほどねー、二階は連れ込み宿になってるのか。

 まさか、ネビルの母親が客を取らされたりしてないよな。


 とりあえず一階が酒場で、二階が連れ込み宿。となると三階は事務所とか?

 そうなると、どうにか三階に直接忍込みたいな。


 アレンは周りにある建物の高さを確認すると、少し離れた場所ではあるが金貸しのアジトとほぼ同じ高さの建物を見つけた。


「ミルさん、向こうの建物に移動しましょう」


「?···わかった」



 金貸しのアジトから五十メートルほど離れた場所にある三階建の建物は、スラムの一画だからかボロボロで今にも崩れそうだが、どうにか三階まで上れそうな階段がある。


「ふんふん、どうにかなりそうです」


「ん······?」


「まあ、とりあえず上がってみましょう」


 アレンとミルはボロボロの階段を慎重に上り、崩れた壁を使って屋上に上がった。


「えーと、ミルさんには僕の秘密をだいぶ見せましたが、これからする事はシンクさんも家族もまだ知らない事で、ミルさんと僕だけの秘密です。絶対に誰にも言わないと約束して欲しいです」


「アレン君と私だけの秘密?」


「ええ、しばらくはミルさんと二人だけの秘密です」


「ん、分かった!秘密にする」


「それから、この後に何が起きても声を上げないで下さいね。では手を」


 アレンはミルの手を握り五十メートル先にある、金貸しのアジトの屋上を見つめ、右手を前に向ける。


「ゲート」


 すると身体からかなりの魔力が抜けた感覚の後、目標のアジトの屋上と二人の目の前に扉の様な形をした黒い靄が現れた。


「手を放さないで下さいね」


 アレンがミルの手を引き黒い靄を潜ると、明らかに別の場所と分かる場所に出た。

アレンはミルに振り返ると小声で話し掛ける。


「ミルさん。おーい。」


 ミルの顔の前で手を振るとミルは固まったまま目を見開いてアレンを見ている。

 アレンは苦笑いしたままゲートを消すとミルが戻ってくるのを待つ。


 ミルさんは十数秒で戻ってくると「びっくりした。でも、もう大丈夫。アレン君と二人だけの秘密」と言った。

 顔は相変わらず無表情だけど耳が少し赤くなっている。


「じゃあ、三階に降りますか」


 屋上にからは意外と簡単に三階の出っ張りに降りることができたが、出っ張り部分は十センチほどしかないので、ミルさんと二人壁に引っ付くように立っている。すぐ側にある窓には木材でできた両開きの窓がはめられていて、気配感知では窓の近くには誰も居ないみたいだ。


 木材でできた窓の片側を慎重に引くと中の様子をうかがい、誰も居ないのを確認してから静かに部屋に侵入して、すぐにミルさんも部屋に引き入れ窓を全開に開けておく。


 ミルさんと二人で気配感知を使いどの辺りに人が居るのか当たりつけてからドアに近づいた。


 気配感知では現在三階に居るのは五人で、ドアから出たら左に三人と右に二人。気配の大きさ的には右の二人の気配が弱々しいので、右に居る二人がネビルの家族かな。たぶん監禁されて弱っているのだと思う。ミルさんも同じ結論なのか、人差し指を右に向けている。


 ミルさんがドアをゆっくりと開けて廊下を確認してから右に居る二人の様子を見に行った。僕は左の三人が動いた時の為に待機だ。


 ミルさんは一分ほどで戻ってくると小声で二人の状態を教えてくれた。二人共少し乱暴された形跡はあるが、今は何か薬で眠らされているらしい。


 二人の元まで行くと、三十代の女性と五歳くらいの女のコが薄い敷物の上に寝かされており、二人共顔に殴られた様なアザがある。


「酷いなこんな小さな子まで···」


 親子が眠らされてる部屋の中を見渡すと壁際の机の上に見覚えのある液体と注射器の様な物が置かれていた。


「······アレン君コレって」


「赤黒い液体と薄ピンクの液体。ゲアルギの金庫に入っていたのと同じみたいだね」


 とりあえず液体の入ったフラスコの容器を全部ストレージにしまう。


「ルーム」


 ネビルの家族にサイキックを使いルームに入れておく。


「ネビルの家族を回収できたから外に出ましょう」


 ゲートの出口をマップで確認してからゲートを唱え、ミルさんの手を引きゲートを潜った。



 アレンとミルがゲートから出てくるとそこは辺境伯邸の城壁の側だった。

 ゲートから出るとすぐに出口を消して2人で城壁沿いに歩き右に曲がると数分で辺境伯邸の城門が見えた。


 門番に話し掛けようとしたら、話が通っていたようで門番の一人が辺境伯邸に走って行った。

 しばらく待っているとトマスさんが出迎えに来てくれたのでトマスさんの案内で応接室に通される。すると応接室のソファにはシンクさんとクルタさんが座っていた。


「アレン様お疲れさまです。コチラにお座り下さい。ミルさんもどうぞ」


 シンクさんはソファから立ち上がるとソファを譲ってくれたので、ミルさんと二人でソファに座る。


「それで?アジトは分かったの?」


「あー、はい。アジトは確認してあります」


「ネビルの家族は居ましたか?」


「ええ、居ました。二人は助け出して安全な場所に匿いました。顔や身体に怪我をしていましたが命に関わる様な怪我ではないと思います。しかし安全を取るなら女性の医者か治癒師に見せるべきですけど」


「···やっぱり私が行って潰すべきかしら」


「一応、医者に見せるのは本人に確認してからがいいでしょう。それと、もしもネビル達がファーガス村に付いてきてくれるならウチの女性たちにケアを任せてもよいのですが」


「確かにそうね。私たちは明日にはファーガス村に向けて出発ですものね」


「トマスさん。アジトの場所を教えるので書くものありますか?」


「畏まりました」


 トマスさんがベルを鳴らしてメイドを呼ぶと、書く物を持ってくるようにとメイドに伝える。


「そう言えばネビルはどうしました?」


「アレン様、子供はこの時間は寝ているものです」


「あー、そう言えばもう九時過ぎたくらいですか。確かに子供は寝ている時間ですね」


「······アレン様もまだ八歳では?」


「あはは、そう言えば僕もまだ子供でしたね。ところで辺境伯はどうするか言っていましたか?」


「辺境伯様は必要の無い悪は排除する方針でございます」


「なるほどねー。まあ、その辺は辺境伯にお任せですね。僕の力ではネビルの家族を助けるだけで限界ですから」



 しばらくしてメイドさんが羊皮紙と羽ペンを持ってきてくれたので、スラム街にあった金貸しのアジトの場所を書きトマスさんに渡した。


「では僕たちは宿に戻ります。金貸しの件とネビルたちの証文も良い感じにお願いします」


「ええ、わかりました。旦那様にも伝えておきます」



 宿に戻ると店主に頼み、二人部屋を二部屋取って、シンクさんには一人部屋から2人部屋に移ってもらい、シンクさんとネビルを二人部屋にして、ネビルの母親と妹を二人部屋に寝かせた。二人には悪いと思ったがミルさんに二人の服を脱がしてもらい、顔も含めて全身のアザや怪我はヒールで治しておいた。一応ミルさんが服を脱がせた時に性的な暴行がないか確認はしたらしいが······。



 翌朝、ベットに眠るネビルの母親と妹に薄ピンクの液体を飲ませると数分で目を覚ました。ネビルを室内に招き入れると三人は抱き合って涙を流している。


 しばらくすると三人が落ち着いたので、これまでの経緯を説明して、もしアストラルに居るのが嫌ならファーガス村に来ないか聞いてみると、アストラルにはもう帰れる家が無いとのことで、ファーガス村に住むことになった。


 それと、ネビルの母親に身体にアザや怪我が無いことを聞かれたので、母親にだけは二人を脱がせて治療した事を話して、僕が治癒魔法を使える事は絶対に秘密でと言っておいた。


 宿の食堂でネビルたち親子を紹介して全員で朝食を食べていると、辺境伯の使いと言って馬丁のホセさんが宿にきて、ネビルの父親が書いたという証文と辺境伯の手紙を持ってきた。


 ホセさんに礼を言って証文と手紙を受け取り辺境伯の手紙を読むと、どうやら僕たちが帰った後に警備兵を動かしたらしく「確かに証文はネビルの父親が金を借りた時に書いた物だが、証文の利息部分は後から書き換え偽造された物だ」と書かれていて、実際の利子は十日で一割の利子になっていたとか、まぁそれでもドウェイン王国では違法利息みたいだが。ちなみにその父親は二週間前に女とアズラールから出て行くのを衛兵に目撃されていたらしい。


 証文はネビルの母親、アマンダさんの目の前で燃やして、一応アマンダさんに旦那さんの事も話したが「あんな奴はもう私の旦那なんかじゃありません!」と言っていた。

 まあ、ファーガス村には男が余ってるからそのうち紹介しようかな。


 さて、なんだかんだで当初の予定の三倍の人数になってしまった。まあ、増えたと言ってもファーガス村に女性が増えるのは喜ばしい事だ。


 出発前にジャックさんの部屋に挨拶に行くと、何となくジャックさんが怯えてる気がする。まぁ何となく怯えられてる理由の想像はつくけどね。


「じゃあ、ジャックさん、怪我をしないように頑張って下さい。それと、今度パーティー組む時は今回のような事がないように気を付けて下さいね。ハンナさんもお元気で。一日でも早く脚が良くなるようを願っています」


「あ、ああ、アレン様も怪我には気を付けて」


「本当にアレン様にはお世話になりました」


「じゃあ、二人ともお元気で!」



 宿の前には二台の馬車が並び、一台目の馬車の御者をミルさんが務め、二台目の御者はクルタさんが務める。一応ミルさんの横にシンクさんが座り、クルタさんの横にはテオが乗り、クルタさんがテオに馬車の操縦を教える事になっている。



 ネビルたち親子に必要な物も朝イチで買いに行ってもらったし、もう忘れ物はないかな。


「全員乗ったー?」


「コッチは全員乗ったわよー!」


「コチラも問題なしです!」


「よーし!じゃあエバンス領に向けてしゅっぱーつ!」


 馬車が走り出すと、見送りで宿の前にいるジャックさん、ハンナさん、ホセさんが手を振っているので馬車の後から手を振り返す。


「アレーン!またなー!」


「アレンさまーお元気でー!」


「アレンさまーアズラールへまたのお越しをお待ちしておりまーす!」


「また来まーす!皆さんお元気でー!」



 さあ、家族の待つファーガス村へ!


 

『怠惰だった僕は神の使徒して生きていく』を読んで頂き誠に有難う御座います。


 こんな拙く勢いだけで書いている物を読んで頂いている読者様には感謝しかありません。

 もちろん、出来るだけストーリーを考えながら書いてはいますが、書き始めに決まっていたのは最初と最後だけという、本当に行き当たりばったりで書き始めた小説で・・・。 しかも不定期更新・・・。


 もともとこの小説は、ファンタジー小説を書いてみたい、けど、どうやって書けば・・・?でも書いてみたい・・・。

 みたいな葛藤を繰り返し「あー、練習のつもりで書けば良くね?」的な感じで書き始めた人生で初めての小説なので、頻繁にスランプ?に陥って話が進まなくなったり、話に矛盾があったり、気に入らなくて書き直したり。誤字脱字が多かったり・・・。

 それでも、書き始めたからには完結までは頑張るつもりです。



 さて、話は変わりますが『怠惰だった僕は神の使徒として生きていく』は、今のところ章分けがありません。ただ、章分けをするなら、この第33話までが1章かなぁ、とは思っています。

 章分けをしていない理由は、単に僕の勉強不足が原因で、途中で気が付いた時には、文章の構成や話の流れ的に何処で区切れば良いのか分からなくなってしまいました。

 何度も書き直して章分けするか迷いましたが、すみませんが、この小説は今のところは、このまま進めようかと思っています。


 その代わりと言っては何ですが、この小説の合間に別のファンタジー小説を少しずつですが書き溜めをしています。

 今年中には新作を投稿出来ればなぁ、と思ってたり思ってなかったり・・・。



 最後に、感染者の人数が過去最高に達しているそうで、僕の住む県も人口に対しての感染者の数が常に上位のまま、病床使用率がまた90%を超えたとか・・・。早く終息して欲しいものです。


 皆様もマスクは勿論ですが、アルコール消毒と手洗いうがいを忘れずに。



 メルケイン

 


 

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