30話
翌日。僕、シンクさん、ミルさんの三人は朝食を食べた後、朝早くから冒険者ギルドに向かっている。
理由は初依頼を受ける為でもあるが、ジャックさんが依頼に出かける前に約束したシンクさんが使っていた鋳造品の剣を渡そうと思っているからだ。
考えると昨日宿に届ければ良かったのだが完全に忘れていたので、朝ならギルド行けばジャックさんにも会えるだろうと、確実に会えそうな朝早くにギルドに向かっている。
ギルドに向かう途中に昨日の広場を横切ったので、ついでに朝から営業してる屋台で昼食用に串焼きとパン、それと果実水を買ってストレージに仕舞う。本当はスープも買いたいところだが、昨日食べた味なら自分で作った方がいい。
冒険者ギルドに到着すると依頼の貼られている掲示板に向かうが、掲示板の前はかなり混雑していた。少しでも条件の良い依頼を受ける為に奪い合いの状態になっているみたいなので、僕らは混雑が落ち着くのを待ってから依頼を探すことにした。
掲示板から離れた場所で混雑を眺めているとミルさんに肩を叩かれた。
「どうしました?」
「向こうにジャックがいる」
ミルさんの目線を追うとジャックさんが知らない男二人と一緒にギルドに入って来たところだった。
ちょうど良いと思い僕がジャックさんのところに向かおうとするとミルさんに待ったをかけられた。
「どうして止めるんです?」
「ジャックといる二人は悪い噂がある奴ら」
「悪い噂ですか?」
「そう。奴らと組んだ冒険者はロクな目に合わない」
「ロクな目に合わないですか···例えば?」
「知ってるのは、一緒に依頼に行った冒険者が行方不明とか、借金で奴隷落ちしたとか」
「そうですか···ジャックさんが彼らと一緒にいるということは、その噂を知らずにパーティーを組んでいるかも知れませんね」
ジャックさんを見ると、一緒に居る二人の男たちと楽しげに話をしながら掲示板に向かって歩いて行く。
どうしようかと考えていると、ジャックが振り向いた時に僕らに気づいたようで、男たちと一緒に僕らのところに向かってきた。
「よう!二日ぶりだな。冒険者登録しに来たのか?」
「いえ、僕らは昨日冒険者登録しましたよ。ジャックさんは昨日から依頼を受けてるんですか?」
「ああ、昨日オレは婆さんの代わりに雑草を刈ってドブさらいもしたな。アレンは昨日冒険者登録したなら今日が初依頼か?」
「そうですね、掲示板前が落ち着くのを待っていました。それと、約束の剣も持ってきましたよ」
「ホントか!」
収納バックから鋳造品の剣を取り出してジャックさんに渡すと、ジャックさんは鞘から剣を抜こうとしたので慌てて止める。
「ちょっと!こんなに人がいる場所で剣を抜くのは危ないですよ」
「あっ!そ、そうだな。悪い、つい嬉しくて」
ジャックさんは半分まで抜いた剣を鞘に戻し片手で持つと、逆の手でポケットから小銀貨を五枚取り出し掌に乗せて僕に見せる。
「済まないが今はコレでいいだろうか?今はこれだけしか手持ちが無いんだ」
「ああ、確かに格安で譲る約束はしましたが、今すぐに払えとは言ってませんよ?確かジャックさんは当面このアズラールで冒険者をすると言いましたよね?なら今度僕がアズラールに来た時に払ってくれれば構いません。そのお金はハンナさんの為に使って下さい」
「······分った。次にアレンがアズラールに来た時は利子のかわりにオレが飯を奢ってやるよ」
「まあ、楽しみにしてますよ」
「ああ、楽しみにしててくれ!剣があれば討伐依頼も受けれるから収入も増えるしな!まあ、ただランクが低いからまだゴブリン討伐くらいしか受けれないけどな。ハハハハッ」
「なあ、オレ達には紹介してくれないのか?」
「そうだぜ、オレたちパーティーだろ?オレたちにも紹介してくれよ」
ジャックさんと話をしていると、ジャックさんの後ろに居る男たちが話に割って入ってきた。
最初に話しかけてきた男は目の細い小柄な男で髪は青、装備は皮製の防具を着ていて剣は見当たらないが弓を持っている。後から話しかけてきた男は中肉中背で最初の男と同じような青い髪で、皮の胸当てにマント姿、手には杖を持っている。
「ああ、そうだな。昨日話したが彼らがアズラールまで馬車で一緒に旅をした仲間だ。彼がアレンで、従者のシンク、彼女はミルだ」
ジャックさんが僕らを男たちに紹介したので、一応軽く会釈しておく。
「そして彼らは昨日ギルドで知り合ってパーティーを組むことになったジムとキャルだ」
「あ、オレ達は兄弟でオレが兄のジムでコイツが弟のキャルだ。宜しくな」
弓装備の小柄なほうが兄のジムで、杖持ちの方が弟のキャルらしい。
なかなか愛想が良くいい感じの奴らに見えるが、さっきから弟の方がチラチラと収納バックを見てニヤついている。
「ところで、さっき聞こえたが今日が初依頼なんだろ?もし良ければ安全の為にもオレ達が護衛代わりに一緒に依頼受けようか?」
兄のジムが聞いてくるが、ジムもチラチラと収納バックに目がいっている。
さて、どうするか···。この兄弟の噂が本当でロクでもない奴らなら、多分この兄弟は父さんの収納バックを狙ってるのだろう。さっきから兄弟揃ってチラチラ見てるしな。本当は明後日にはアズラールを発つので面倒だから誘いを断るのが楽だけど、そうするとジャックさんがどうなるか不安だ。どうにかしてジャックさんにはこの兄弟とのパーティーを解除してもらうのが一番だけど···。
うーん、取り敢えず今日はジャックさんたちと同じ依頼を受けて、どこかのタイミングでジャックさんに兄弟の噂を話した方がいいかな。それに兄弟が収納バックを奪うような素振りをしたらジャックさんも兄弟の噂を信じるだろうしな。
「うーん、そうですね。なら、二パーティー合同で何か簡単そうな依頼を受けますか」
「おっ、ならオレ達が依頼を見繕ってくるよ」
兄弟が掲示板に向かって行ったがジャックさんは僕らとその場に残った。
以外に早くジャックさんに兄弟の噂を教えるタイミングができたので、兄弟が戻って来る前にさっさと教えることにしよう。
「ジャックさん。ちょっと話があるんですが」
「ん、話か?」
兄弟が掲示板に居るのを確認してミルさんから聞いた兄弟の噂をジャックさんに話した。
「マジかよ!」
「シー!声が大きいですよ。一応兄弟の噂を信じるか信じないかはジャックさん次第ですけど···」
「昨日初めてあの兄弟と話した時に、凄く親切に色々と説明してくれたりして悪い奴らには見えなかったんだよなぁ。でも、もし兄弟の噂が本当ならパーティーからは抜けるしかないだろうな。何かあってハンナを不幸にはできないからな」
「その方がいいでしょうね。ちなみに、あの兄弟は僕が収納バックから剣を出した後からチラチラと収納バックを見てニヤついてますよ」
「···そうか」
「まあ、まだあの兄弟の噂が本当か判りませんけどね。···と言っても僕は噂通りだと思ってますが···。あ、兄弟が戻ってきます」
兄弟が戻って来たので何食わぬ顔で兄弟を出迎えると、兄弟は一枚の依頼票を見せてきた。
「この依頼でどうだ?ゴブリン集落の討伐だ。まあ、少し数が多いから大変かも知れないが、二パーティーなら余裕だろ」
渡された依頼票を見るとゴブリンの小規模集落の討伐依頼で、ここから徒歩で約三時間の距離にある集落からの依頼のようだ。集落に住む狩人が確認したところ、コロニーには約二十匹前後のゴブリンが確認されたようで上位種は確認されていないみたいだ。ちなみに依頼の報酬は銀貨二枚になっている。
んー、少し報酬が安いか。多分報酬が安いせいで残っていた依頼だろう。
まあ、でも基本的集落は貧乏なので集落の人たちにはこれ以上の報酬は出せないだろう。むしろだいぶ無理をして報酬を出しているはず。
「分かりました。この依頼を受けましょう。ちなみに移動はどうするんですか?」
「移動の手段はこれからギルドと交渉だな。まあ報酬が安くて誰も受けない依頼だから馬車くらい出してくれるだろ」
全員でカウンターに向かい依頼を受注したが、パーティーで依頼を受けることになったのでパーティー登録が必要だと言われた。渡された用紙に僕、シンクさん、ミルさんの名前を書いたが、パーティー登録するにはパーティー名が必要らしいが何もパーティー名を考えていない。
兄弟の方は既にパーティー名があり"青の双剣"というパーティー名らしいが二人とも後衛職じゃなかったかな?
色々と考えてみたがしっくりくる名前が思い浮かばなかったので、今回だけの臨時パーティーなのだからと適当に"NO NAME(仮)"とパーティー名を書いて用紙を提出したが、受付嬢に読めないと言われたのでノーネームと書き直した。
ちなみにこの世界は中途半端にローマ字や英語が使われている。使うローマ字はランクを表すF〜A、Sのローマ字だけなのでこの世界の住人はF〜A、Sをランクを表す記号としか思ってない。
なのでNO NAMEと書いてもこの世界の人は読めないし意味も解らない。
まあ、臨時だがパーティーを組んだのはちょっと嬉しかったりする。
成人してエバンス家を出たら冒険者をメインに活動するつもりなので、将来パーティーを組んだ時の為にも次はちゃんとパーティー名を考えよう。
取り敢えずパーティー名の登録と依頼の受注をした僕らは、冒険者ギルドから貸し出された荷馬車で依頼の出された集落に向かった。
馬車の御者も冒険者ギルドから出してくれたようで、僕たちは荷馬車に全員が乗り、お互いの戦闘スタイルなどを話した後は目的の集落まで武器の手入れなどをして過ごした。
昼前に集落に到着すると集落の狩人がゴブリンの集落近くまで案内してくれる事になったので、狩人の案内でゴブリンの集落に向かう。
狩人の話ではゴブリンの集落は狩人達の集落から約三十分の距離にあり集落からそれなりに近いせいで結構な被害が出ているそうだ。畑の作物に家畜の豚や山羊、さらには数日前に女性も一人攫われたそうだ。
ゴブリンの集落に向かう途中に斥候らしきゴブリンを三匹倒し討伐した証明に左耳と魔石を取る。
ゴブリンの死体はそのままにしておくとゾンビ化するので処理したいところだが、集落から近いので後で戻ってきて処理する事にしてそのままゴブリンの集落に向かう。
ゴブリンの集落手前で狩人には戻ってもらう。
青の双剣にはノーネームの三人とジャックさんは前衛だと言ってあるので、青の双剣の前に陣取り草木に隠れながらゆっくりと集落に近づく。
「よし、ここまで近づけば弓の射程内だ。ゴブリンの数もぱっと見た感じ狩人の情報通りだな。あとは馬車で話し合った通り最初にキャルが魔法で攻撃するから、それを合図に前衛は攻撃を仕掛けてくれ。オレもそのタイミングで弓で攻撃するからな」
「わかった」
数秒後、キャルのファイアーボールが一番近いゴブリンに当たるのを合図に僕たち前衛は隠れていた草木からゴブリンに向かって走り出した。




