29話
冒険者ギルドに着いた僕達は、ミルさんを先頭に開け放たれた両開きのドアから冒険者ギルドに入った。
冒険者ギルド内に入ると数名の冒険者が振り返り僕らを見ているが、無視してカウンターに向かい人族で黒髪ポニーテールの受付嬢に話しかける。
「えっと、四人分の冒険者登録お願いします」
「四名様の冒険者登録ですね。でしたらあちらの机でコチラの用紙に記入をお願いします。代筆は必要ですか?」
受付嬢は四枚の紙をカウンターに置く。
「いえ、代筆は結構です」
カウンターに置かれた用紙を受け取り机に移動して三人にも用紙を渡し、名前や出身地、戦闘職などを用紙に記入していく。
シンクさんは文字の読み書きは問題ないが、ラムとライは文字の読み書きを習い始めてまだ一ヶ月も経っていないので、二人が解らない所はシンクさんと僕で教えながら記入させていく。
さっさと自分の用紙の欄を埋め三人の記入が終わるのを待っていると後ろから覗いていたミルさんが話しかけてきた。
「アレン君は剣士で登録?」
そう。僕は剣士で冒険者登録しようと思ってる。少しだけ魔法使いで登録するか迷ったが、魔法が使えるのは出来るだけ隠した方が良い様な気がしたからだ。
全員の用紙の記入が済み、記入した用紙を受付嬢に持っていくと、受付嬢は用紙を別のギルド職員に渡して僕達に話し始めた。
「当アズラール支部にて冒険者登録有難う御座います。これから皆様は当アズラール支部所属の冒険者になられますが、冒険者は何か有っても自己責任となりますのでご注意下さい。例えば私共の依頼で怪我をしたりお仲間が亡くなったとしても冒険者ギルドからの保証などは基本ありません。冒険者同士の争いごとにも冒険者ギルドは基本的に不関与とさせていただいておりますのでご注意下さい。それと皆様にはこちらの誓約書の内容を確認のうえサインをしていただきます」
受付嬢が誓約書と言ってカウンターに置いた用紙の内容は、基本的に常識的なことばかりが書かれていて、気を付けなければいけない事は強制依頼が有るという事くらいだ。
強制依頼について受付嬢に質問すると。
強制依頼とは文字通り冒険者ギルドから強制で受ける依頼で。Dランク以上の冒険者は強制依頼を断ることは出来ない。ただしそれ以下のランクであっても強制依頼に志願した者を冒険者ギルドが承認すればEランク以下の冒険者であっても強制依頼に参加は認められる。
この強制依頼を無視した場合は高額の罰金と数年の冒険者資格の停止。強制依頼が発令してから逃走した場合は全ての冒険者ギルドに手配書が回り、高額の罰金と冒険者資格の剥奪、さらに数年間の強制労働が課せられる。これは志願した冒険者にも適用させる。
強制依頼が何故これほど罰則がキツイのかだが、強制依頼が発令する際は、殆どがスタンビートや厄災級の魔物が現れた場合などで、町や都市が壊滅するほどの被害を受ける可能性がある場合などに発令されるからだ。
四人で内容を確認して誓約書にサインをすると。丁度さっきの職員が冒険者カードを持ってきた。
「では、コチラが皆様の冒険者カードになります。皆様は初めての登録でFランクなのでグリーンカードからのスタートです。ランクは下がFで上がSになり、カードの色はFとEがグリーン、DとCがブルー、Bがシルバー、Aがゴールド、Sがブラックのカードになっております。依頼料はランクが上がる程に高くなりますが、その分上のランクの依頼は難しく大変になり命の危険がある依頼になります。さらにBランクからは一流冒険者として扱われ貴族からの指名依頼が発生します。一般の方は基本DランクやCランクに指名依頼をする事が多いですが、稀にEランクやFランクにも指名依頼が出される事が有ります。ランクを上げるには依頼の成功率や信頼度、実績や冒険者としての人間性などを加味したうえで冒険者ギルドが審査をして、問題がない場合のみランクが上がります。ここまでで質問は有りますか?」
まあ、創造神様が創った世界だから冒険者ギルドのシステムもだいたいは想像通りかな。
「いえ、後から質問するかも知れませんが、今のところは得にありません」
「判りました。では、カードに魔力登録を行います」
受付嬢はカウンターにある小さな箱の上に冒険者カードを置いた。
「カードを上から抑える感じで手を置いて下さい」
言われた通りに手を置くと箱が淡く光り、微妙に魔力を吸い取られた気がしたので、ステータスで魔力を確認すると僅かに魔力が減っていた。
「はい、もう結構です。これでこのカードにはアレン様の魔力が登録されました。こちらがアレン様の冒険者カードになりますので失くさないようにお願いします。冒険者カードは初回作成は無料になりますが、再発行するには銀貨一枚が必要になりますので注意してくださいね。最後に冒険者ギルドではお金を預かることが出来ます。ギルドにお金を預けた場合、この冒険者カードに預けられた金額が記録され何処の冒険者ギルドでもお金を引き出す事が出来ますので、良ければご利用下さい。ではアレン様の冒険者登録は以上になります」
受付嬢から渡されたカードには所属支部、名前、ランクが彫られていて、受付嬢から説明があった通りグリーンのカードだ。
それにしても冒険者カードはキャッシュカードも兼ねているのか。まあ、僕の場合、お金はストレージに入れておくからギルドにお金を預けることはないと思うけどね。
全員の冒険者カードを受け取ったので登録手続きをしてくれた受付嬢に礼を言ってからギルドを出た。
本当は依頼を受けてみたかったが、ラムとライはほぼ身分証代わりに冒険者登録しただけなので、今日は依頼を受けずに明日依頼を受ける事にした。
冒険者ギルドを出るとそろそろ昼なので何が食べたいか聞くと、ライが屋台の串焼きが食べたいと言うので屋台のある広場に移動する。
広場には串焼きの屋台の他に、スープを売る屋台や飲み物を売る屋台などもあったのでラム、ライ、エイヴァさんの三人と、僕、シンクさん、ミルさんの三人に分かれて色々と買って食べることにした。
ラム達が串焼きを買いに行くと言うので小銀貨を五枚渡し、広場の隅を待ち合わせ場所に決めて串焼きを買いに行かせた。
僕達はスープを買いに向かうとスープを売っている屋台は三つあったが、どの屋台も売っていたのはほぼ同じで、固いパンにクズ肉と野菜の入ったスープで味付けは塩のみ。だいぶ期待外れだったが他のスープは売ってなかったので仕方なく一人前二百ルペのスープと一個百ルペのパンを人数分買い、スープが冷めないようにストレージにしまい他の屋台も見てまわる。
他には果実水を売っている店や野菜炒めのような物を売ってる店もあったが、そろそろ待ち合わせ場所向かおうと移動した時に、シンクさんに子供がぶつかってきた。
子供はシンクさんに「ゴメンねー」と軽く謝り僕らから離れようとしたが、ミルさんが子供の腕を掴んだ。
「ちょっと!なんだよ離せ!」
「シンク財布は?」
ミルさんに聞かれたシンクさんがポケットを探ると、子供はミルさんが掴んだ手を振り払おうと暴れだした。
しかしミルさんは子供の腕をがっちり捕まえていて子供はミルさんの手を振り払うことが出来ない。
「財布が無くなっています」
シンクさんが財布が無くなったと答えると子供はさらに暴れて大声で叫んだ。
「助けてー!人攫いだー!」
しかしミルさんは子供の声など関係なしに子供のポケットから財布を取るとシンクさんに財布を見せる。
「これ?」
「あっ!?それ私のです」
「クソっ!」
ミルさんが僕を見るので子供に近づき声をかける。
「あー、君。そんなに暴れても逃げられないよ?それに今素直に謝れば許さないでもないけど。取り敢えず向こうで話さない?」
子供が暴れたり大声を出したせいで周りに野次馬が集まり始めているから取り敢えずこの場所から移動したい。
子供は無言だが暴れるのは辞めたので、エイヴァさん達との待ち合わせ場所まで連れて行くと、待ち合わせ場所には三人が既に待っていた。
「エイヴァさん。悪いけどラム達を連れてあと一人分の串焼きとスープを買ってきてくれないかな」
エイヴァさんに追加で小銀貨を渡して頼むと、エイヴァさんは子供をチラッと見てから「判りました」と言って、ラム達を連れて行った。
「先に言っておくけど逃げたりしたら捕まえて衛兵に突出すからね」
渋々子供が頷いたのを確認してからミルさんに頷くとミルさんは掴んでいた腕を離した。
子供は観念したのか一応逃げる素振りはないので話を聞くことにする。
「スリをしないといけない程お金に困ってたの?」
子供の見た目は僕と同じくらい、十歳前後だろう。だいぶくたびれた服を着ていて少し痩せているがスラムにいる大人よりも恰好はまだまともな見た目だ。
「······」
子供は無言のまま手を握り締め下を向いていて、よく見ると涙を流している。
暫く待ったが何も答えない間にエイヴァさん達が戻ってきたので、ストレージからスープとパンを取り出し、みんなに配り食事をする。
スリの子供にも一緒に食べようと誘ったが、僕達が串焼きやスープを食べている横でただ下を向いたままだ。
どうしようかと考えていると、少し離れた屋台に隠れるようにしてこちらを見ている男がいる事に気がついた。
何か怪しい動きの男なので念の為マップ機能を使い男にマーキングをしておく。
暫くバレないように男を確認していると、どうやら屋台の店主と何やら話している。
「ちょっと飲み物買ってくるね」
「なら私が買ってきましょう」
シンクさんが飲み物を買って来ようとしたので止める。
「シンクさんはこの子を見ていて。それに女子供だけになると変な奴らが絡んで来るかも知れないから。代わりミルさんと飲み物買ってくるよ」
ミルさんと2人で屋台に向かい歩く時に怪しい男がいる事と、その怪しい男が屋台の店主と話をしていたと教えると、ミルさんは目だけを動かして男を確認している。
僕とミルさんが屋台に近づくと屋台の店主が隠れている男に何か話すと、男は完全に屋台の裏に隠れて見えなくなった。
僕は何ともないように屋台に近づくと店主に話しかける。
「おじさん。ここの果実水は何の果物使ってるの?」
「えっと、オレンジだったかな」
「ふーん、試しに一杯貰おうかな。幾ら?」
「一杯百ルペだ···ほらよ」
銅貨を一枚渡し果実水を受け取り飲んでみるが、果実水とは言えない程果実の味がしない、これでは果実水ではなく果実風味の水だ。
「おっちゃん。流石にこれを果実水として売るはやり過ぎじゃないか?全然オレンジの味なんてしないぞ」
「あ"、文句があるなら飲まなきゃいいだろうが!」
「ふーん、あっそ、ならそうするよ」
店主の目の前で木のコップを逆さにして中の液体を捨て、コップを店主の前に置いて屋台から離れた。
代わりに別の屋台で果実水を七つ買いみんなの元に戻る。
みんなに果実水を配り、スリの子供にも果実水を渡そうとしたが受け取らない。
受け取らないものは仕方ないので果実水をストレージにしまい、自分の分の果実水を飲むと、こっちの果実水はしっかりと果物の味と香りがした。
果実水を飲んでる間にさり気なく男の隠れてる屋台を見ると、屋台の店主がこっちを見ている。
「少し移動しましょう」
無言の子供の腕を掴み広場から移動すると、マーキングした男もついてくる。やはり監視か尾行だと確信したが、監視にしろ尾行にしろ、ガストル侯爵の駒にしてはあまりにも幼稚過ぎる。
もしかしたら、監視されてるのは僕達ではなくこのスリの子供かも知れないと思い、歩きながら子供に訊ねてみる。
「君さ、もしかして誰かに監視されてたりする?」
すると子供はビクッと肩を震わせ僕を見ると。
「······」
ほうー、この感じはこの子が監視されてるであってるみたいだ。しかし何のためこんな子供を監視するんだろう?
流石に教えてくれないので解らないが、取り敢えず子供にもマーキングをして様子をみた方が良さそうだ。
「取り敢えずもう帰っていいよ。その代わり次に捕まえた時は衛兵に突き出すからね」
「いいのか?」
「うん、いいよ」
すると子供は何も言わずに広場に戻り、男も子供の後を追うように広場に向かって行った。
スリの子供と別れた後は、監視などがいないか念の為に確認しながら街中を歩き、ついでに買い忘れていたエイヴァさんの短剣を買い替えてから宿に戻ったが、僕達を監視してるような奴らはいなかったので、やはり監視されていたのはスリの男の子だったようだ。




