26話
スベラニの町でシンクさん達を救出した僕達は、新たにエイヴァさんにラムとライの姉弟を加え総勢九人となった。
シンクさん達を救出した次の日にスベラニの町を出発。無事辺境伯領に入ることができた。途中に何度かマップを開きギゼルを確認したが、僕たちを追って来ることはなくスベラニの町に留まったままだった。ゲアルギにギゼルの事を聞いた時も、最初はギゼルも捕まえるか迷ったがワールドマップに登録済みなので泳がせてみることにした。きっと侯爵と連絡を取るだろう。
辺境伯領に入ってからは村や町に泊まったり野営をしながら順調進み、辺境伯領の領都アズラールまで後一日の所まで来ることができた。スベラニの町を出て十四日、ファーガス村からだと合計二十日掛かったことになる。
途中何度か魔物の襲撃などもあったが、まぁ辺境伯領に入ってからは順調に進んだと言っていい。
今は領都アズラールに入る前の最後の野営中で、夕食も食べ終わり途中の村で買った茶葉を使ったお茶を飲みなが明日からの予定の話をしている。
「じゃあ、明日は辺境伯の屋敷に全員泊まるんですね」
「ええ、そうなるわね···ラムちゃん顔が引きつってるわよ」
「だって!辺境伯様のお屋敷ですよ?」
「大丈夫よ。私と一緒なんだから」
「な、なぁ、やっぱオレ達も泊まるのか?その、辺境伯様の屋敷には」
「ジャックちゃん達は嫌なら宿屋でも構わないわ。まぁ旅の仲間ではあるけど、アレンちゃんの同行者ではないものね」
「そっか、ならオレは明日領都で部屋を取ったら、冒険者ギルドに行って冒険者登録しに行くよ」
「えっ?先に冒険者登録しちゃうんですか?僕も一緒に冒険者ギルドに行こうと思ってたのに」
「まぁ本当は一緒に行くつもりだったけど、金もだいぶ減ったから一日でも早く冒険者ギルドに慣れて明後日から依頼を受けたいんだ。アレンは明日行けるか分からないだろ?」
「むー、確かに明日は無理ですね。先に済まさないといけない用事があるので」
「まっ、先に依頼を受けて感想でも教えてやるよ」
「···はぁ。残念ですが仕方無いですね。でもジャックさんの武器はそれで大丈夫なんですか?だいぶ刃こぼれしてるみたいですが」
「んー、確かにだいぶ刃こぼれが目立つようになったかなぁ。でも金が厳しいから数日はこのままかな。まっ、暫くは討伐じゃなく雑用依頼を受けるしかないかな」
「その方が良いです。そうだ!領都でシンクさんの武器を買い替えるので、鋳造の剣なら後で格安で渡せますよ」
「そりゃ助かるけど、いいのか?普通に売って金にした方が······いや、ありがたくアレンの提案を請けることにするわ。変な意地でいざって時に武器が駄目になったらカッコ悪いしな」
「そうして下さい。シンクさんも良いですよね?」
「勿論です。鋳造の剣ですが手に入れてからは手入れを欠かしてはいないので暫くは切れ味も大丈夫でしょう」
「だってさ。できるだけ早く渡せるようにしますね。宿屋が決まったら忘れずに場所を教えて下さいよ」
「ああ、宿屋の場所はちゃんと知らせるさ」
翌朝、シンクさんに起こされた僕がテントを出ると子供以外はすでに起きていた。顔を洗いシンクさんと素振りと軽く打ち合いをしていると、ラムとライが起きてきたので朝食を済ませると、領都アズラールに向かった。
スベラニの町を出発した後しばらくは整備されて無い道だったり魔物が出たりしたが、大きな街道に出てからは馬車も走らせ易くなり魔物も殆ど出なくなった。流石に整備された街道と言っても土の道なのでたまに凹凸もあったが、領都アズラールに近づくとそれなりに整備されておりすれ違う馬車や人の数もだいぶ増えてきた。
馬車から人の観察をしていると前方に壁が見えた。なかなか大きなその壁は高さが八メートルもあるそうで、この壁が領都アズラール全てを囲んでいるそうだ。
城壁を見ながらクルタさんとミルさんに領都アズラールの情報などを聞いている間に僕たちは馬車用の列の最後尾に並んだ。
並んだ列の長さは百メートル程あるようで、城門を潜るまで時間が掛かるかな?と思っていたが、クルタさんが近くに居た警備兵に話しかけると、馬車は警備兵の誘導で列を離れ城門に近づいて行く。
警備兵は城門の側に居た別の警備兵に話をすると僕達の馬車に戻って来て「通って下さい」と言って持ち場に戻って行った。警備兵の言葉を聞いたミルさんは馬車を操りそのまま城門を通過させた。
城門から領都に入った馬車は大通りを暫く進みクルタさんの知り合いの宿屋前まで行くと停車した。此処でジャックさんハンナさんの二人を降ろす。
「アレン、いや、アレン様、ここまでありがとう。お陰でハンナと二人無事アズラールに着けたよ」
「アレン様、本当にありがとうございました」
二人は礼を口にするとジャックさんは笑いハンナさんはお辞儀をした。
「いえ、旅の仲間ができて楽しかったです。僕も明後日か明々後日には冒険者ギルドに向かうつもりなので、その時にまた会いましょう」
「ああ、分った。じゃあその時にな」
そう言うとジャックさん達は宿屋に入って行ったので、僕たちも馬車に乗り込むと辺境伯の屋敷に向かう。
辺境伯の屋敷は領都の北東にある貴族や富裕層が多く住む場所の先にあった。
塀には鉄の門があり、側には門番が門を挟む形で二人た立っている。
馬車は門の前で門番に止められるがクルタさんが話すとすぐに門を開き、敷地に入るとやはり辺境伯なだけあり、サッカー場二面程の敷地を塀が囲い広い庭と大きな屋敷があった。
馬車は門から真っ直ぐに屋敷に向かうと屋敷前がロータリーになっていて、ロータリーの真ん中には色々と沢山の花が咲いている。
馬車はロータリーを時計回りに進み屋敷前に横付けして停車した。
「さぁ、着いたわよ。みんな降りて」
クルタさんが真っ先に馬車から降りて僕らを呼んだ。
馬車から全員が降りると屋敷の前には、いつの間にか見るからに執事の老齢の男性と平服の若い男性、それに三人のメイドが立っていた。若い男性は僕たちが馬車から降りたのを確認すると、御者席に座り馬車を屋敷の裏側に進ませていったので馬丁なのだろう。
馬車を見送っているとクルタさんが老齢の男性に近づいたので、僕も挨拶しようと近づくが先に男性から挨拶してきた。
「ようこそおいで下さいました。私はクラウド辺境伯家に仕えております執事のトマスと申します」
執事のトマスさんは見た目60代の老人だが、見た目の年齢をカンジさせない綺麗なお辞儀をして自己紹介をした。
「初めましてエバンス領の領主マーク・エバンス男爵の三男で、アレン・エバンスと言います」
「当主のイアン・クラウド様は只今面会の準備中で御座います。暫く時間が掛かるとのことなので、先に客室にご案内致します」
トマスさんに案内され辺境伯の屋敷に入ると、大きな玄関ホールで中央の階段から左右に階段が続き二階に上がれる作りになっている。
僕たちは中央の階段から右に続く階段を上がり、廊下の先にある部屋に案内された。
部屋に入ると広いリビングと大きな窓に寝室がが三部屋あり、三部屋の寝室の内二部屋は従者用の寝室になっていて一部屋にシングルベットが二台ずつ置いてある。
一応今はシンクさんとラムとライは僕の従者扱い、エイヴァさんも護衛扱いなので、ベットと人数的に合う。トマスさんはクルタさんとミルさんを別の部屋へと案内に向かったので僕たち五人で使え、ということだろう。
取り敢えず従者用の寝室はシンクさんとライ、エイヴァさんとラムで使ってもらう。僕の寝室のベットはダブルサイズなので一人だけ広いベットだけど、そこは主人扱いなので許してもらう。
寝室を決め全員でリビングのソファーに座っていると、付いて来ていたメイドが人数分のお茶を用意してくれたので、お茶を飲みながら話をしていると執事のトマスさんが部屋に戻ってきた。
「旦那様の準備が整いましたので、客間にご案内致します」
僕は一人で部屋を出るとトマスさんの案内で一階の客間に向かった。
客間に入ると先にクルタさんがソファーに座っていたのでクルタさんの隣に座ると、すぐに辺境伯が客間に入ってきた。
辺境伯はクルタさんと同じ銀髪を短くした髪型で身長は百八十後半くらい、見た目は四十代後半くらいに見える。僕はソファーから急いで立ち上がると会釈してから自己紹介をする。
「お初にお目に掛かります。エバンス領、領主マーク・エバンス男爵の三男で、アレン・エバンスと申します」
「宜しく。私はイアン・クラウドです。君のことは兄から聞いていますよ。取り敢えず座りましょうか」
辺境伯がソファーに座ったので僕も座る。メイドが辺境伯のお茶を置き客間を出るのを待って、父さんから預かっていた封筒を辺境伯の前に置いた。
「この手紙は父からの手紙になります」
辺境伯は封筒を手に取り封を開け手紙を読む。読んでいる途中にチラッと僕を見たが、何も言わずに最後まで手紙を読むと折畳んで封筒に戻し、僕を見てニコッと笑った。
「兄から聞いていたよりも良い取引になりそうだね」
う〜ん、父さんからは辺境伯への礼状だと聞かされていたが、他にも手紙に何か書かれていたみたいだ。
「この手紙には礼の言葉と君が香水などの開発者だと書かれているね。それから契約は君に一任するそうだよ」
ん?香水の契約はクルタさんと済ませた筈だが······。
「一任とは?」
「あれ?エバンス男爵からは聞いてないのかな。手紙には蒸留酒という酒や、その原料についても君が責任者だから任せてある。とあるけど?」
あれ?父さんからは蒸留酒に関して作るのを任せるとは言われてたけど、契約もだったのかぁ。
「蒸留酒ですか。確かに、そんな事言われた気もしますが······」
「なら問題ないね。ただ私は蒸留酒を知らない。今は蒸留酒を持っているかな?」
「あー、はい、一応持ってきてはいます。試飲されますか?」
「そうだね味見したいかな」
飲んでみたいと言うのでメイドさんに頼んでグラスや果物のジュース、水も持ってきてもらい、最初は注意をしてから蒸留酒をそのままで飲んでもらい次にオレンジジュースで割って飲んでもらった。
辺境伯もクルタさんも蒸留酒を初めて飲むのでアルコールの強さに驚いていたが、二人とも蒸留酒が気に入ったようで売り出せば絶対に売れるだろう、と言われ、香水の契約とほぼ同じ条件で契約しないか?と提案された。
香水の時もそうだったが、辺境伯にあまり得の無い契約だと思う。それを辺境伯に聞くと、目先の利益より僕との縁と最優先買い付けの権利があれば問題ないらしい。
「貴族は新しい物が好きですからね。香水と蒸留酒を知った貴族はこぞって買い付けようとするはず。そこで最優先で私が買い付けます。フフフッ」
あー、政治の材料にしたい訳ね。特に貴族の女性には需要があるはずだもんなぁ。
「あっ!ただ一つだけ条件と言うか。契約書には明記しませんから決めるのはクラウド辺境伯なのですが、エバンス領の西隣には直接卸すのはヤメて欲しいです」
「あー、勿論ですよ。色々と聞いています。それにカインさんには兄と私もお世話になりましたからね」
へー、爺ちゃん本当に顔が広いな。クルタさんと同じで辺境伯領で冒険者をしていた時の知り合いなのかな。
「それと、僕としてはしっかりと熟成させたウイスキーを売り出したいので、数年は作った蒸留酒の半分しか売りに出せません」
「熟成ですか。それをすると蒸留酒の味が変わるのですか?」
「変わります。むしろ貴族や酒好きなら熟成された蒸留酒、ウイスキーの方が人気が出ると思います」
「そうですか。なら、蒸留酒はその辺りも含めて契約を詰めましょう。それと香水も新作の試作品があるとありましたね」
「はい、あれから三つの香りの試作品を作りました」
収納カバンから母さんに相談して名前をつけた試作品の香水を出しながら説明していった。
香水の説明と香りを嗅いだ辺境伯は取り敢えず香水はこの四種類の香りを、初めに身内だけに使わせてお茶会やパーティに出席させ他貴族に売り込むことにしたようだ。




