23話
ミルさんがシンクさんの救出を手伝ってくれることになったが、情報がなければ作戦は立てられないので、まずは日中に情報を集め、夜になったら作戦を考えることになった。
宿に戻り朝食済ませた後、町で屋敷のことを調べて判ったことは。
あの大きな屋敷はスベラニの町に十年程前に出店したゲアルギ商会の会長デニス・ゲアルギ準男爵の屋敷だそうだ。
この商会はスベラニの町に出店した時点から町一番の規模の店だったのだが、ここ数年は特に羽振りが良いようで出店数も増やし続けている。
最近バルドの街やイルバニの町にも何店か出店し色々手広くやっており、持ち店には奴隷売買の店もあり多数の種族を揃えているとか。
それに合わせて追加情報があり、最近他の男爵領でも失踪が増えているらしく、スベラニの住民が失踪にはゲアルギ商会が関与していると騒いだ事があったらしいが、証拠が無く調べられていないらしい。
それから屋敷の使用人は、夜になると屋敷の敷地内にある別棟で休むようだ。
調べた結果はこの程度の情報しかなかったが、なかなか怪しさ満点の商会である。
屋敷の情報が少なかったが仕方ない。
クルタさんにはシンクさんの居場所を把握してるのはナイショだ。有力そうな情報があったので今夜ミルさんと確認しに行くと言ってある。
それと、ミルさんとはお互いの能力を全てではないがある程度共有する事にした。僕には鑑定があるので本当は聞く必要はないが、お互い理解している方が良いだろうから。
それと人物鑑定は基本使わないようにしているが、今回はシンクさんの救出に必要だと自分に言い訳をしてミルさんに鑑定を使い、その上でミルさんの能力を聞くことにした。
淡々と自分の能力を話し出したミルさんは、子供の頃に村の人たちから奴隷として売られ、約二年前まで暗殺ギルドに所属していたから暗殺や忍び込むのが得意とか、短剣や弓が得意とか、気配や魔力の感知、容量は小さいがアイテムボックスを使えるとか、淡々と能力や得意なことを話した。
まさか軽く生立ちまで話すとは思わなかったので驚いていてしまったが、ミルさんが把握してる能力は判った。そこまで話して良かったのかと聞くと、「なんとなく、話しても良いと思った」と言われたので「そうですか」としか返せなかったが、たぶん信用されている?ということだろうか。
取り敢えず僕からはシンクさんを救出するのに必要そうな、基本四属性の他に、治癒魔法、雷魔法、時空魔法も話して、ストレージは容量が多いアイテムボックスとして話しておいた。
名前:ミル
ローゼンダルク獣王国
性別:女
年齢:17歳
体力:128
魔力:255
知力:43
瞬発力:89
幸運度:8
スキル
闇魔法:LV1
水魔法:LV3
短剣術:LV7
剣術:LV2
格闘術:LV6
弓術:LV6
暗殺術:LV7
隠密術:LV8
身体強化
気配感知
魔力感知
魔法制御
生活魔法
固有スキル
影渡り、アイテムボックス(小)
称号
暗殺者
加護
月の女神アイリスの恩恵
ミルさんが自分で把握してないのは、闇魔法、固有スキルの影渡り、称号の暗殺者、女神の恩恵かな。まぁ普通は自分のステータス見れないから仕方が無いか。色々気になるステータスだけど、ミルさんは魔族か魔族の血が混じってるのかも知れないな。だって闇魔法は魔族や悪魔が使える魔法って言われているから。
ただ勘違いしてはいけないのが、魔族=悪、とは思っていない。
古い本にも書かれていたが、魔王の幹部は確かに魔族だったそうだが、魔王の部下には人間の方が多かったと書かれていた。
魔族=悪と認定してるのは人間の国や教会で、魔王と魔族を一括にして悪とする事で人間の敵を作り、宗教や民心の掌握に利用していると思っている。
結果、魔族は人間たちに捕まったり討伐されたりして、殆どが存在していないと聞いている。いったい見た目が変わらない魔族をどうやって探し出したのか···。まぁそのことは今はいいか。
取り敢えずミルさんが把握してない能力は今回は使えないので、ミルさんが把握している能力と、僕の教えた能力を使ってゲアルギ準男爵の屋敷にいるシンクさんを救出することになった。
屋敷にはみんなが寝静まって日付を越えてから向かい、シンクさんを救出した後はゲアルギ商会の会長デニス・ゲアルギ準男爵を逆に拉致して尋問をしてから始末する事にした。
日付を越えた深夜に宿屋を抜け出した僕らは、ゲアルギ準男爵の屋敷近くに隠れている。今回の救出作戦は実は僕は必要無いかな?と思うくらいミルさんの能力に頼る事になっている。
僕のやる事はゲアルギ準男爵を時空魔法のルームを使って拉致すること、もしシンクさんが動けない状態になっていた場合はルームを使って連れ帰ること。なので一応僕も屋敷には潜入することになっている。
「じゃあ、少し待ってて」
「気をつけて下さいね」
「ん、確認したら合図する」
ミルさんはそう言うと屋敷裏の二メートル程ある壁を鍵爪を使って乗り越えて行った。
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ミルは鉤爪の付いたロープを使い壁を越え屋敷の裏庭に降り立つと、裏庭に出入りする為のドアに近づく。ドアが開くか試したがカギか掛かっている為に開かなかったので、一度屋敷から距離を取り他の侵入口を探した後、もう一度ドアに近づき懐から針金状の棒を二本取り出して、二本共カギ穴に差し込むと少し動かして捻ると簡単にカギを開けた。
音が鳴らない様にそっとドアを開き屋敷に入りドアを閉める。
入った先のキッチンには気配察知と魔力感知で誰もいないのは分かっているが、一応目視でキッチン内を確認してから隣の食堂に移動して一つだけあるドアから玄関ホール出た。
ミルの感知では一階には誰も居なく、二階に数人と地下に数人で、シンクの魔力は地下から感知している。
玄関ホールから見える一階の部屋は四箇所で、一箇所は食堂とキッチンになっているので他の部屋を探す。
応接間から順に、使用人用の部屋、倉庫を探し最後の倉庫で人が一人通れる地下室への隠し階段を見つけた。
隠し階段から地下室に降りると真ん中の通路を挟んで牢屋が六つあり、左側の牢屋には女と子供が合わせて三人、右側の牢屋には男が合わせて二人いた。男二人の内一人はシンクで、右側の一番奥の牢屋にシンクが縛られた状態で床に転がっている。シンクを牢屋の外から見た感じでは呼吸をしてはいるが意識は無い様だ。一応他の人達も牢屋の外から確認すると全員シンクと同じ状態のようだ。
シンクを確認したミルはキッチンまで戻り裏庭に出入りするドアを開くとアレンに合図を送った。
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ミルさんがゲアルギ準男爵屋敷に向かったので、裏庭が見える場所に移動して十分程合図を待っていると、ミルさんが屋敷裏のドアを開けて合図を送ってきた。
ストレージから出した板に乗りサイキックで板を操ると屋敷の裏庭に降りた。すぐに板をストレージにしまうと、屋敷のドアを開けたまま手招きしているミルさんの所に向かう。
「地下室に見つけた」
「分かりました案内お願いします」
「ん、こっちついて来て」
ミルさんの後ろを静かについて行くと、キッチンから食堂と玄関ホールを通り抜け、倉庫になっている部屋に入る。すると倉庫には地下室に降りる階段があった。
「ここから地下室に行ける」
「分かりました」
ミルさんが人一人通ることのできる階段を先に降り、僕は後ろからついて行くと通路の両側に牢屋が並んでいた。左側の手前に女性が一人、真ん中の牢屋には十歳前後の男女、右側は手前に三十歳前半に見える男性、そして一番奥の牢屋にはシンクさんがいた。牢屋を開けようとしたが当たり前のようにカギが掛かっているので、地下室内に牢屋のカギが無いか探すが何処にもカギが見当たらない。
「カギが見当たらないですね」
「ん、私が開ける······開いたよ」
ミルさんはそう言うと針金のような物を二本使い、あっという間に牢屋のカギを開け牢屋の扉を少し開いて見せた。
僕はミルさんにお礼を言ってから牢屋の中に入りシンクさんに近づくと、シンクさんは床に縄で縛られた状態で横たわっており、呼吸をしているが意識が無いようだ。縛っていた縄を切って名前を呼びながら身体を揺するが、シンクさんは起きる気配が無い。
「起きないですね」
「たぶん、薬で寝てる」
「そうかも知れないですね。他の牢屋の人も同じ感じかも知れませんね」
「ん、たぶんそう。他も助ける?」
「まぁ見殺しには出来ないですかね。すみませんが他の牢屋も開けて貰えますか」
「ん、わかった」
ミルさんが他の牢屋を開けている間にシンクさんの身体を確認すると、顔が腫れ背中には火傷やムチで叩かれた跡があるのでヒールで治しておく。
ミルさんが他の牢屋を開けたと報告に来たので、他の人達の状態も確認してみると、右側の手前にいた男の人の怪我が酷かったので取り敢えずヒールで治したが、後で何て言って誤魔化すか。
女性と子供は怪我は無かったので揺すって起こそうとしたが起きなかった。仕方がないのでシンクさんと縛られたままの人達を、サイキックで浮かせてルーム内に入れた。
「後でルームをどうやって誤魔化すか頭痛いですけど。取り敢えずこれで連れ出せます」
「ルーム便利。私もルームが欲しい」
「まぁ便利ですけど、最初の魔力消費がヤバいですよ?」
「消費魔力は?」
「ルームは最初の作成で魔力500消費しますね」
「なら無理、そんな魔力無い」
「時空魔法はどれも魔力消費がヤバいんで。さて、みんなが起きるかも知れないんで、さっさとゲアルギ準男爵を拉致りますか」
「ん、たぶん二階の三人の誰か」
「了解です。なら二階に向かいましょう」
ミルさんはコッチと言って先に階段を上がる。僕もすぐ後ろについて行き倉庫を出ると、ミルさんの先導で玄関ホールにある階段を静かに上がった。
階段を上がると二階はL字型の廊下になっていて、廊下からは左側に二部屋、奥に二部屋あり、下には吹き抜けの玄関ホールが見える。
気配察知と魔力感知で部屋を確認しなが廊下を歩くと、階段から二番目の部屋に二人分の魔力反応があり、ミルさんが静かにドアを開け部屋を覗くと首を横に振った。たぶん家族の部屋だったのだろう、ドアを閉めたミルさんが僕の耳元で違うと言った。なら一番奥の部屋だろうと二人で廊下を移動して一番奥の部屋の前に向かう。もう一度ミルさんがドアの隙間から確認すると、今度は僕を見て首を縦に動かしたので静かに部屋入った。
部屋には机と椅子、それとダブルサイズのベットの横に金庫がありベットには男が寝ているのが分かる。ゆっくりとベットに近づき五十代に見える男に鑑定を使うとデニス・ゲアルギとあったので、町で聞いたゲアルギ商会の会長の名前と同じだから間違いなさそうだ。
ゲアルギ準男爵と確認出来たので手を身体に軽く触れて雷魔法のエレクトを少し強め発動する。
「エレクト」
ゲアルギ準男爵にエレクトを使った瞬間に「ウッ」と、うめき声が出たが多分大丈夫だろう。ゲアルギ準男爵の意識が無いのを確認してから縄で両手足を縛り、口に猿轡してからシンクさん達とは別に作成したルームに放り込んだ。部屋の中に情報や誘拐の証拠になりそうな物は無いかを探し、金庫をストレージにしまうと窓からサイキックを使い屋敷の外に出た。
ゲアルギ準男爵の屋敷から宿屋に戻る途中でミルさんがルーム内の人が起きないか聞いてきたのでルームの説明をする。
「まぁ、大丈夫です。ルーム内の時間は遅く出来るので。検証した感じだとルーム内の一時間を約十時間程度に引き伸ばすことができます、今は最大に設定してるので多分起きないと思います」
「そっか、ならいい」
僕はミルさんと宿屋の部屋に戻るとクルタさん達にバレない様にベットに入り、起きてからの事を考えていたらいつの間にか眠っていた。




