22話
殆ど寝れなかった夜を過ごした翌日、一度部屋に戻り着替えをしてからクルタさんとミルさんの三人で食堂に向かった。
丸テーブルの席を確保してジャックさん達が来るのを待っていると、知らない子供がミルさんに近づき何か小声で話した後に折り畳まれた羊皮紙を渡して宿屋から出て行った。
ミルさんが「アレン君宛みたい」と言ったので、折り畳まれた羊皮紙をミルさんから受け取り羊皮紙を広げ書かれた内容を読むと『従者は預かってる子供をお前一人で追え』と書かれていた。
読んだ直後にマップを開き宿屋の周りを確認すると、さっきの子供だと思う表示が宿屋の裏に回り込むように動いていた。
クルタさんに「少し出てきます」と言って急いで宿屋を出て子供の後を追って走る。
宿屋から出てマップで子供だと思う表示を追いかけると、前方にさっきの子供だと思う男の子が道を曲がり建物で見えなくなる所だったので、急いで追いかけ子供が見えなくなった建物を曲がった瞬間にガンッ衝撃が襲う。
「がぁぁ!?」
何かで顔を殴打されたらしく気付いたら仰向けに倒れていて、急いで起き上がろうとするが、脳が揺れていて起き上がろうとしても足に力が入らず前のめりに倒れてしまった。
すると何処からか現れた数人に抑えられ、何か針のような物を刺された痛みの後に意識が薄れていった。
〜〜〜
ミルはアレンが急に飛び出した時に落とした羊皮紙を拾い内容を読むと羊皮紙をクルタに渡す。
羊皮紙の内容を読んだクルタがすぐさま宿屋から飛び出そうとしたが、ミルはクルタを止めた。クルタの表情が憤怒の顔になっているが「追跡は、私が向いてる」と言ってクルタを残し宿屋を出てアレンを追う。
クルタに自分が向いていると言ったのは、クルタが大柄で特徴的な格好をしているのもあるが、ミルがアレンと同じ気配察知と魔力感知を持っているからだ。
ミルは初めてアレンに会った時に魔力感知でアレンの駄々漏れの魔力を感じとても驚いた。屋敷の中から感じるもの凄い魔力にどんな人物かと御者席から見ていると、どう見ても十才に満たない子供が魔力駄々漏れで屋敷から出てきた。
アレンの周りには魔力感知を持っている人がいないのか、アレンの魔力量の凄さに気付いていないのか知らないが、こんな子供が自分の魔力量を遥かに凌駕しているのだから驚くなと言われても魔力感知がある人なら驚かないはずは無い。
一緒に旅を始め休憩中に一緒に狩りをした時、アレンに魔力が駄々漏れだと話しておいたら、次の休憩には魔力が人並みに感じるようになっていた。ただミルはアレンの過剰な魔力を数十時間感じ取ったことでアレンの魔力波長を完全に記憶していた。
宿屋を出てアレンの魔力を探す。
まだ朝が早いので街に出ている人が少ないのが幸いしてアレンの魔力をすぐに感知出来た。
アレンの魔力を宿屋の裏の方角から感じ取れたので宿屋の裏に回り込もうとしたが、急にアレンの魔力反応が大きくなったのに一瞬驚いて硬直してしまった。しかし魔力反応が大きかったのは数秒の事で、今度はアレンの魔力が急に感知出来なくなった。
ミルは急いでアレンの魔力を感じた辺りに走って向かい建物を曲がる。すると百数十m先に袋を乗せた馬が遠ざかって行くのが見えたが、目の前には覆面をした男が背中を向け、さっき羊皮紙を持って来た子供を袋に入れようとしている所だった。
ミルにはこの袋に見覚えがあった。袋は魔力を遮断出来る魔物素材で作られていて裏稼業の人間が誰かを誘拐する時に使う袋だ。
ミルは右手を背中に回し腰にある短剣を抜くと背中を向けていた覆面男の首筋に短剣を当て「お前何をしている?」と声をかける。
しかし覆面男は無言のまま振り向きざまに左腕で短剣を弾き右手に持った剣を回転しながら横に振る。
ミルは短剣が弾かれた衝撃を反動に変え同じく回転しながしゃがみ覆面男の剣を躱す。躱した勢いのまま裏拳の要領で覆面男の左腿の内側を短剣で斬りつけた。覆面男が剣を振り切った格好で「ぐぅあぁ!」と声を出すが、ミルは覆面男の声を無視して勢い良く立ち上がる様にしながら覆面男の右腕の脇下辺りを下から斬りつけ、返しで逆手に持った短剣を右肩を刺して覆面男から離れる。
覆面男が膝立ちになり右肩を抑えて踞っている。取り敢えず袋に入れられそうになっていた子供を、袋ごと引きずり覆面男から離しておく。そして覆面男の首筋にもう一度短剣を当てた。
「まだやる気?お前では私に勝てない、さっきの子供を袋に詰めて何処に連れて行こうとした?それにもう一人子供がいたはず」
覆面男は無言のまま傷を抑えて踞っているだけで何も言わない、ミルは男の覆面を剥ぎ取りもう一度同じことを聞くが、男はだんまりですぐに男から情報を得るのは無理と判断した。
取り敢えず子供を袋から出してあげて宿屋からクルタを連れて来るように頼んで駄賃に銅貨を渡す。
しばらくするとクルタとジャックが来たので、クルタに簡単に説明をしてから馬が向かった方に走り出した。馬の背に同じ袋が載せられていたから。
道に残る馬の蹄の後を追いかけると、表通りの道から一本中に入った倉庫に中に入ったようで、倉庫の中からはアレンの魔力が感じられた。なかなか大きな倉庫で周りを見ると他にも倉庫がある。それに表通りには商店や商会が並んでいるので、この倉庫は何処かの商人所有の倉庫だろうと予想した。
ミルは倉庫の前で周りに人がいない事を確認してから、倉庫の木造で作られた両開きの扉を開けようとしたが、扉は内側から閂で閉められているのか開かなかった。倉庫を見上げると二階に窓があるので、隣りの家の屋根に塀を使って登れば倉庫の二階にある窓から倉庫内に侵入できそうだ。
「入れそう、たぶんアレン君はこの中」
そういって塀に手をかけた。
〜〜〜
アレンは気が付くと後ろ手に縛られたまま上から垂れたロープで吊るされているようで、近くには他にも子供が縛られた状態で転がされている。
見張りなのか子供の側にはイスに座った男が居るが、どうやら男は居眠りをしているようだ。
どうにか体を振って周りを見てみると、木で出来た広い空間に袋や木箱など色々な物が置かれているのでたぶん何処かの倉庫だろう。
あー、顔が痛い、右目が腫れて開かないから殴られた時に目の近くに当たったようだ。顔がボクサーみたいになっていそうだ。気配察知だと転がってる子供以外に人が居そうだ。ならマップで···。あー二階に人がいるのか?表示が重なりまくって判らないが、まぁ取り敢えずいるって事でいいだろう。
さて、ストレージからナイフ出し手首を縛っている縄を切る···良し、これで手は自由になったのでエアーカッターで吊るしてるロープを切ればいいね。
「エアーカッター」
縛られた両足で上手いこと着地して、縛られた両足のロープが切るとまずは視界を確保する為に右目にヒールを二回掛けて治し、縛られていたせいで痛む手首と足首にもヒールを掛けておく。
剣など装備していた武器は全て取られてしまっているので、さっきストレージから取り出したナイフを持ち直してから一階の索敵をする。まずはイスで寝ている男に近づき改良型のエレクトを男に使う。まぁいわゆるスタンガンだ。
強めの電気を受けた男はグギィと声を出してイスから崩れ落ち床に転がった。縛られていた紐を使い男の手足を縛ると、側に転がる子供達をどうするか考えたが取り敢えず子供はまだそのままにして周りを確認する。どうやら一階には見張りの男一人だったようなので階段で二階に上がることにした。
階段を使い静かに二階に上がると一階と変わらない空間があったが、一つ違うとしたら縛られた男達が転がっていて側には何故かミルさんが立っていた。
「あれ?ミルさん?どうしてこんな所に?」
「ん、助けにきた、大丈夫?」
「あー、はい、大丈夫です。この男たちはミルさんが?」
「そう、攫った子供を売る話をしてたから」
「なるほど、だから子供達が縛られて転がってるのか。あー、じゃあこいつ等あの男に雇われただけかもなぁ」
「んー、分からないけどアレン君渡せば、大金だって笑ってた、それとアレン君の剣そこにあるよ」
「あーホントだ、有り難う御座います。取られた武器も全部ありますね。さてこいつらと子供たちどうしましょうかね」
「アレン君、ここにいて、衛兵呼んで来る」
ミルさんが衛兵を呼んでくるそうなので、待ってる間に何かないか探してから捕まえた男達を尋問してみるか。まぁ何も話さないと思うけど。子供たちはまだ眠ってるから縄だけ切っておくかな。
倉庫内を家捜しの後、リーダーらしき男を尋問してみたけど、思った以上に衛兵が来るが早く、殆ど情報を聞き出すことはできなかった。
取り敢えずミルさんが連れて来てくれた衛兵に僕の身分や事情を説明したので、後は任せて宿屋に帰ることにしたが、帰ろうとした時に倉庫の持ち主の商人が現れイチャもんをつけてきた。
「私の倉庫にこの様な輩の男たちがいる訳が無い、それに攫われた子供がこの倉庫いるのはおかしい、聞くとこの女とガキは何処ぞ商人と行動していると言うではありませんか、きっと私はこいつらに嵌められてるのです」
まぁこんな事を言っているけど間違いなく攫った子供を違法奴隷として売ってる商人で男達とグルなんだろうなぁ。しかも僕を狙ったことをこいつが知らないとは思えない。金で依頼されたか、関係者か。ただ証拠がないのがなぁ······。
まぁ何にしても、取り敢えずクルタさんが心配してると思うから一度宿屋に戻ることにした。
クルタさん達の部屋にミルさんと一緒に戻ったらシンクさん以外全員揃っていた。
部屋に入るなりクルタさんにハグされて骨が折れるかと思ったが心配を掛けたので我慢した。
朝子供が羊皮紙を持って来てから三時間弱経ってしまい昼前になっている。予定では朝からスベラニの町に行くはずだったが、予定外の事で出発が遅れたのでどうするか聞かれたが、マップでシンクさんの位置を確認すると、まだスベラニの町に居るので急いで向かう事にした。
本当は倉庫の持ち主や誘拐犯たちの尋問結果も衛兵から聞き出したいが一旦あきらめる。シンクさんがマップに表示されるという事はシンクさんがまだ生きているという事なので、シンクさんを最優先で追うことにした。もう昼前だがスベラニの町までは馬車で六時間の距離なので、完全に暗くなる前にはスベラニの門を潜れるはず。僕達は宿屋を引き払い急いでバルドの街を出発してスベラニの町に向かった。
スベラニの町は辺境伯領の手前にあり、簡易な柵で囲まれた人口五百人程の町で、町としては規模が小さく人口も少ない方だ。
僕達が町に着いたのは日が暮れ辺りが完全に暗くなった頃。遅い時間という事もあり宿屋を三件回りどうにか取れたのは四人部屋を一部屋。勿論料金は五人分取られたが。
宿屋の食堂で先に食事をしてから、女性が先に部屋に行き身体を拭いたら男性陣を呼ぶという事になったのだか、クルタさんはどっちだ?と思いクルタさんを見ると、「気持ちは女よ?でも仕方無いから男性陣と一緒かしら」と言ったが、クルタさん以外で協議の結果、最初に部屋に行くのはクルタさんだけとなった。
朝早くにミルさんと一緒のベットで目を覚ました僕は、ミルさんを起こさない様に静かにベットから出ると、宿屋の裏から外に出た。宿屋の裏庭でマップを開きシンクさんの位置を確認したら、まだ人のいない早朝の町を走った。
マップではシンクさんが拉致されてスベラニの町に来てからは、ずっと同じ場所に表示が出てるので建物とかに監禁されてるはず。なので、まずは建物の確認と、出来れば無事を確認したい。いけそうならシンクさんの救出までしてしまいたいが······。
宿屋からマップを見ながら十分くらい走り、シンクさんの表示がある建物の側に身を隠し建物を観察してみる。
結構大きな屋敷だ、屋敷の前には門番が二人、マップで屋敷にある表示を見ると重なっているから人数は分からないが、かなりの人がいるらしい事は分かる。
さて、どうするか。やっぱ隠密で行くのが一番だよな。流石に正面からは無理だろうし。マップで見る限り屋敷の裏には人がいないから、そこから壁を越えるか。
マップを開いたまま屋敷の裏に回り込もうとして来た道を少し戻ったら、マップの表示にミルさんが近づいて来ているのが分かったので、少し悩んだが来た道を戻り自分からミルさんに近づいた。
「おはようございます、ミルさん」
「ん、散歩?」
「まぁそんな感じですね。ミルさんは?」
「アレン君探してた」
「そうですか。なら、もう戻る所なので一緒に戻りますか」
「分った、でもいいの?」
「何がですか?」
「この先にシンクの、魔力あるよ?」
あー、そうだった、ミルさんも魔力感知のスキル持ってたな。しかも僕よりも魔力の波長を見分け方が上手いの忘れていた。昨日も僕の魔力追って来たくらいだからシンクさんの魔力にも気付くよな、どうしようかな?いっそ手伝っ貰う?けどそうなると僕の能力を晒す可能性が高いからなぁ。う〜ん。
でも今はシンクさん助けるのが先だよな、バレたらバレたで何とかなるだろ、うん。
「あー、実は僕もあの屋敷にシンクさんがいる事に気が付いて見に来てました」
「だと思った、助けるなら手伝う」
「分かりました。お願いします。じゃあ、向こうでどうするか話しましょう」
それから僕らは建物の陰に移動してシンクさんをどうやって助け出すかを話し始めた。




