20話
翌朝、少し早く起きて宿屋の主人に許可を貰い、シンクさんと裏庭で素振りと軽い打ち合いをした。それから身体を拭いて食堂に向かうと、朝食は目玉焼きとサラダ、それに何と胡椒の効いたベーコンだった。
ヤバい胡椒の効いたベーコンが旨すぎ!燻製はされてないベーコンだから記憶の物よりは劣るけど、それでもとても美味しく感じた。
この宿屋最高かよ、高い胡椒使って宿泊代と合わせて六千ルペとか、なんと良心的な宿屋なんだ。儲けあるか逆に心配になるよ?一食分の値段倍でも払うよ?
朝食を最高の気分で終えた僕はチップを主人に渡して、帰りもこの宿屋に泊まろうと決め、気持ち良く宿屋を出た。
ただ、目的の店が開いてなくて胡椒とニンニクが買えず最悪の気分になった。
まぁ目的の胡椒とニンニクば買えなかったけど、分けて貰ったニンニクはストレージに入れたから村でも栽培してみよう。それに帰りもイルバニの町は通るし買えるはずだ。
ん?···誰かに見られてる?何処だろう?
「シンクさん今誰かに見られてる感じしない?」
「えっ?···すみません私には分かりません」
「そうですか、昨日より分かりにくいですが何処からか誰かが見てる感じがします」
シンクさんと何気ない感じで辺りを見回してみるが何処から見られているかが分からない。気配的にも分らないから結構遠い所から見ているかも知れない。
「どうしたの?二人して店の前でキョロキョロして、ほら馬車に乗って。行くわよ」
クルタさんも気付いていないようなので「何でもありません」と言って馬車に乗り込むと、馬車はイルバニの町の中を次の目的地に向けて走り出した。
次の目的地はグスタフ男爵領からザルガット男爵領に入って少し進んだ所にあるカルド村の予定らしい。今まではファーガス村からほぼ道を東に真っ直ぐ進んだが、イルバニの町からカルド村に向かうには少しだけ北東方面に向かう必要がある。
イルバニの町からカルド村ではなくバルドの街ならび東にほぼ真っ直ぐに行けば良いのだが途中に野営が必要で、イルバニの町からカルド村なら初日みたいに馬車を飛ばせば野営の必要が無い。
一応クルタさんは僕たちの事を考えてできるだけ野営しないルートを選択しているらしく、いつもはカルド村には寄らないそうだ。
なので僕とシンクさんに野営回避でカルド村か野営が必要なバルドの街次のルートを決めて良いと言われた。
シンクさんと軽く相談した結果は野営してもいいので東に真っ直ぐなルートを選んだ。クルタさんがそのルートならいつも通りね、と言ってミルさんに野営ポイントに向かうように指示を出した。
シンクさんと東に真っ直ぐなルートを選んだのは馬車のスピードを上げないで済むからで、あの揺れはできる限り遠慮したい。そんな訳で馬車は東に向かって普通の速度で進んで行く。
馬車は順調に東に向っていた。
途中何度か前方から他の馬車がきて、道を譲ったり讓られたりしながも馬車は順調に進みザルガット男爵領の検問所に辿り着いた。
この検問所を通過すればザルガット男爵領だ。馬車はゆっくりと検問所に並び十分程で僕たちの番になった。
現れた二人の兵士は一人が馬車に乗り込んでくると関税対象の品がないかクルタさんに質問しながら荷物を調べている。
僕は最初クルタさんと兵士のやり取りを見ていたが、途中冒険者風の男が一人小太りの兵士に近づくのが気になりその二人に意識を向けた。
すると、男に何か耳打ちされた兵士は僕を見てからニヤリど笑う。
小太りの兵士は冒険者風の男に何を聞かされたか分からないが、クルタさんたちが馬車から降りたタイミングで話し掛けてきた。
「お前たちは何処から来た?とにかく全員馬車からおりろ!」
「ん?ファーガス村からよ。それと何で全員馬車から降りなければならないのかしら。四人分の通行税なら今払うわよ」
クルタさんがそう言って小銀貨を四枚渡そうとするが、その兵士は小銀貨を受け取ろうとせずに一人荷台に座る僕を見た。
今馬車に乗っているのは御者席のミルさんと荷台の僕だけ。クルタさんはもう一人の兵士の対応、シンクさんは御者席から降り荷台の後ろで警護していた。つまりこの小太りの兵士は僕とミルさんに馬車から降りろと命令したようだ。
「それは僕に対して命令か?」
「命令に決まってるだろうが!ごちゃごちゃうるさいぞお前!」
この小太りの兵士は隣りの男にいったいなにを吹き込まれたのか。強気の態度だ。
「ガキ!さっさと降りろ!」
ふーん、明らかに僕に絡む気だ。ホント何を吹き込まれたのか。あー、面倒くさい。
つか、これもう、僕に絡む気マンマンならいっそ煽ってしまうかなー。
僕が馬車から降りると、すぐにシンクさんが小太りの兵士との間に入った。
「で?こんな子供をわざわざ馬車から降ろした理由は何かな。あっ、賄賂なら一ルペも払わないから」
「フンッ、生意気なガキだ。まぁいい。とにかくお前らを捕縛する。悪く思うなよ、これは貴族様からの命令なんでな。おい囲め!」
小太りの兵士が指示を出すと全部で九人の剣や槍を構えた兵士たちに囲まれた。
「ここはザルガット領管轄の検問所で、あなた達もザルガット男爵の兵士だよな?なら捕縛命令をした貴族とはザルガット男爵か?」
「お前らが知る必要はない!」
僕らを捕まえろと指示を出したのがザルガット男爵なのか、または別の貴族なのか。どちらにしても貴族がその指示を出したのなら誰かは知らないが貴族に植物紙や蒸留酒などの情報が漏れた可能性が高い。
そうなるとこの状況はたぶん情報や製造方法を得ようとして僕を狙ってるのかもしれない。
こうなると小太りの兵士と一緒にいる冒険者風の男がここ数日に感じた視線の奴かも知れない。
「貴族からの指示っぽいのは分かったけど、僕は三男とはいえ貴族籍だ。それを知っても僕らを捕まえる気か?」
「お前が貴族の三男だろうが知らねぇよ!命令通りにすれば大金が入るんだ!」
大金ねー。いったい幾ら払うと言われたのやら。どーやらコイツらが僕を捕まえる事は確定らしい。
「つまり金ですか」
どんどん兵士たちの囲みが狭まってくる。
「仕方ない、シンクさんは左の奴らをおねがいします」
「了解です。殺しますか?」
「一応生かす方向で、特に冒険者風の男と小太りの男は生かして、逆にその貴族の情報を聞きたいですから」
はぁ、疲れた。結局、僕らは誰も怪我一つすることなく兵士たちを制圧した。
つかコイツら弱すぎ。よくこれで僕らを捕まようと思ったものだ。特に小太りの兵士は腹パン一発だった。しかもこの小太りは僕たちを捕まえようとした隊の隊長だったらしい。それと···。
「そこにずっと隠れてる兵士!」
「は、はい!」
そう、この兵士だけ僕たちを包囲するのに加わらず一人小屋に隠れていた。
「君もコイツらの同僚でしょ?」
「はい!自分はこの検問の管理を任されている部隊の一人であります」
聞くとこの兵士は最近この部隊の配属になったらしく、配属初日に部隊の先輩が賄賂を要求するのを見て何度か指摘したら、次の日から一人だけ雑用に回されるようになったそうだ。
「ふーん、で、部隊の馬を世話していたら騒ぎが聞こえてきたから、隠れて様子を見ていたと」
「はい!その通りであります」
「ま、君がコイツらの仲間かそうではないかは一旦置いといて。残ってる兵士は君一人だろ?」
「ハッ、私一人ですが、しばらくしたら巡回で数人の兵士が回ってきますので······」
と話していたらちょうど馬に乗った兵士が近づいて来ている。
「彼らが巡回の兵士です。私がこの状況を説明して応援の兵士を呼びに行ってもらいます。少々お待ちください」
その兵士が巡回の兵士に向かって走って行く。
「あの兵士はシンクさんと同じ歳くらいですかね」
「そうですね。見た感じそれくらいに見えますから、今年からの新兵でしょう」
「雰囲気的にはコイツらとは違うようには感じるわね。きっと兵士になったばかりで汚れてないのかも知れないわ。まだ正義感があるから先輩兵士にハブられていたのかしら」
「まぁ今のところはそうみえますかね」
それにしても、流石にこの状況はザルガット男爵には会わない訳にはいかなくなったな。
「この後ですが、応援の兵士たちが来たらコイツらはその兵士たちに任せて僕たちは先に進みましょうか。今日はどっちみち野営して、明日ザルガット男爵の屋敷に向かいます」
二時間後、応援に現れた兵士たちに身元を証明するエバンス男爵家の記章入りの短剣を見せ、縛って転がしている兵士たちの説明をした。
この僕たちを捕まえようとした兵士たち。
小太りの兵士で隊長の男とその取り巻きの兵士たちは、過剰に賄賂を請求する事は他の兵士たちも知っており、かなり横暴な振る舞いも当然のようにしていたようだ。
少し前に、そのことを注意をした兵士がいたらしが、注意をした兵士が数日後に行方不明者になったそうで、その欠員の補充で入ってきたのがハブられていたらしい若い兵士だったらしい。···本当かは知らんけど。
それと、いつの間にか居なくなっていた冒険者風の男。名前は知らないが、たまに来て酒や金を渡していたのを見たことがあるそうだが、ハブられていたからその程度のことしか分からないそうだ。
まぁ一緒に居た男はワールドマップに登録したので何処にいるかは分かってるけど。
とりあえず兵士たちに話を聞いたあと、少し青い顔した応援に来た部隊の隊長に正規の通行税を払い、僕たちは先に進むことにした。もしかしたらこの隊長も賄賂などを受け取っているかも知れないが、絡んでこなかったので今はどうでもいい。
検問所のいざこざせいで遅れて到着した野営地には、僕たちが兵士たちと揉めていたのを見ていた人が何人かいて、内容を知りたいのか数人話し掛けてきた人もいたが、基本関わらない様にしている人が多く数人チラチラとコチラを伺っていたが絡んでくることはなかったので無視した。
少し遅れて摂った夕食は、野営地に向かってる時に狩った鹿の肉と野菜で作った肉野菜炒めと残り少なくなったパン。
余った鹿の肉は内臓は穴へ埋め、残りは干し肉を齧っていた商人に売った。
見張りは初日と同じ前半にクルタさんとミルさん、後半に僕とシンクさんとなったので前半の二人に見張りを任せ馬車で眠った。
翌朝、昨日の残しておいた肉野菜炒めを四人で食べていると、昨日話をしに来た若い二十代前半にくらいの男が近づいてきた。
「おはよう、今日は雲行きが怪しいな。一雨くるかも」
「おはようございます。そうですね、あまりいい天気とは言えませんね」
「四人は何処まで行くんだ?オレは辺境伯領に行くんだけど、もし辺境伯領に向かうならこの空だ、オレたちも一緒に乗せて行ってくれないかな?それに二人だと野営の時に大変でさ」
僕は男からクルタさんに顔を向けてどうするか尋ねると、クルタさんは顔を少し朱くして「別に構わないかしら、まぁ好みだし」と言って、ミルさんは「皆が良いなら構わない」と返ってきた。シンクさんは少し渋そうな顔で「アレン様が決めて構いません」と言われたので、まず男の名前を聞くことにした。
「まぁ一緒行くかどうかは一旦置いといて名前教えて貰えますか?僕はアレンといいます」
「ああ、そうか、まだ名乗ってなかった。オレはジャックで向こうで座ってるのがハンナ。二人で旅をしてるよ。えっと、アレン様と呼べばいいのかな?確か検問所で貴族だと聞こえたけど」
そう言われて離れた場所に座っているハンナさんと言う女性を見ると、ジャックさんと同じくらいの歳の女性で、側には松葉杖が置いてある。足が悪いのかも知れないな。
「いえ、アレンで良いですよ。貴族と言っても男爵家の三男、まだこの歳なんで貴族籍ではありますけど準貴族なんで敬称とか敬語とか気にしてないですよ。それで二人は辺境伯領の何処に向かっているんです?僕たちは辺境伯領のアズラールに向かっているのですが」
「本当か!?オレ達もアズラールに行きたい。信用してくれるか分からないけど、オレたち逃げて来たんだよガストル侯爵領から。どうにかここまで来たけど、ハンナは足が悪くて見張りをするのも難しいんだ、野営では基本オレが一人見張りをしてるんだけどちょっと辛くて。それに移動も思ってる以上に進めなくて、どうにか此処まで来たけど···。はっきり言ってしまうとハンナを馬車に乗せてやりたいんだ、オレたちは金が無いから馬や馬車を用意出来ないから···頼めないかな?」
「なるほど。ただ侯爵領から逃げて辺境伯領に向かうのは何故ですか?北には公爵領があって北東に伯爵領、南にはロマニス王国だってありますよ。逃げるならそっちの方が辺境伯領よりはずっと近いはずですが?」
「いや、まずロマニス王国は絶対に無い。オレたちは幼い頃に両親たちとロマニス王国から侯爵領に逃げて来た難民だからな。それと公爵領と伯爵領に行かないのは、数年前から検問が厳しくなって、結構な額の賄賂がないと検問を抜けるのが厳しいと情報屋から聞いたからだ。だからオレ達はエペレス山の麓からスバルト男爵領を通ってやっとここまで来た」
ふ〜ん、検問が厳しくなってるのか。それにレビンさんの手紙では最近物価が上昇し始めたとあったしな。何かロクでも無い事を考えてるのかな、ガストル侯爵。まぁこれだけじゃ分からんけど。
とりあえずジャックさんたちをどうするか?だな。二人は格好もだいぶくたびれた服を着ていて苦労してる様ではあるなぁ。ただ問題は誰か貴族の間者である可能性があることかなー、鑑定では変なスキルは無いけど。
ジャックさんの言うことが本当ならだいぶ苦労してそうだしなー、んーもちろん信用はできないけど一旦同行は許してみるかな、あまり疑心暗鬼になり過ぎるのも何だし。
「分かりました。良いですよ」
「本当か!ありがとう!助かるよ!」
ジャックさんはそう言うと深く頭を下げた。




