2話
「あぁ、タバコ残って無いか、買いに行くの面倒臭いから辞める?辞めれる気がしないもんなぁ、確か飲み物も無かったし、タバコとついでに買いに行こう」
仕方ないので一応着替えてから近所のコンビニへ向かう、近所でも流石に部屋着でコンビニは抵抗がある。
実家の自分の部屋からコソコソと外に出た。
最近親とは週に、2、3の会話をする程度だ。親の顔を見るのもトイレに行く時か風呂入る時にすれ違う時くらい。
食事は一日一回、家族が食べ終わった後にキッチンで食べる。
一人で食べてるとたまに父親がテーブルの正面に来て何か喋ってる時があるが、目の前でイヤホンを耳入れて無視して食事を摂る。たぶんたまには外にーとか、仕事をなんちゃらーとか言っていたが···。
まぁ話すことも無いし話しも合わないから無視している。面倒だし。
親に会わず外に出れたので、あとはできるだけ近所の人にも会わない様にしたいところ。
田舎の嫌なところ。近所にやたらと親戚とかが住んでいて、誰々の兄弟とか誰々の子供だとか。おかげでちょっと外に出て誰かに顔を見られただけで、親がオレ行動を知っていたりする。ホント嫌になる。
「実家出たいけど行く所が無いしなぁ、ここに戻って5年かぁ」
あの時に、派遣とはいえ切られなければこんな所に戻って来なくても良かったのに······。
派遣を切られ、仕方無く実家に戻り、最初は次の仕事を求め職安で探したが不況と言う事でなかなか見つからない。
仕事が見つからないので職安に行くのもだんだんと面倒になり、部屋に籠もる様になった。
求人誌やネットで仕事を探すが、やりたい事もないので仕事も見つからない無い。次第に仕事自体を探すのが面倒になり探すのを止めた。
それからは何もかもが面倒に思える様になった。人と会う事、友達との付き合い、親戚付き合い、親との会話、とにかく全てが面倒だった。
あぁ〜、イライラするなぁ、早くタバコ吸いたい。
コンビニに入り女性の店員がレジ打ちをしてるのを横に見て、まずは飲み物を取りに行く。いつも買う紙パックのコーヒー飲料を手に取りそのままお菓子の置いてる棚に移動、チョコと適当にスナック菓子を取り手に持ったまま空いてるレジに向かう。
レジに居るのはコンビニに入る時に見た女性の店員。パッと見た感じだと高校生くらいだろうか?バイトかな?
店員の子にタバコの番号を伝え棚から一つ取って貰い他の物と一緒に会計してもらう。
釣りを受け取り財布に小銭を入れようとしたら店に入ってきた男がぶつかってきて、その拍子に小銭を床にばら撒くと店員の子が慌ててレジカウンターから出て来て一緒に小銭を拾い集め笑顔で拾った小銭を渡してくれた。
一瞬ドキリとした。別にこの子がカワイイとかでは無くただ···。
ただ久しぶりに生で人の笑顔を見た気がしただけ···。
もし引き籠もらずにいたらこんな笑顔をもっと沢山見られたのでは?と思ってしまった······ただ、それだけ。
慌て店員の子に「ありがとう」と礼を言うと、また笑顔見せくれた。
画面越しじゃ無い笑顔はいつ以来だろうか?派遣切られる前だから5、6年前か?
だいぶ忘れていたけど悪くないな。
少し気分が良いままコンビニから出た直後に後ろから悲鳴が聞こえた。
振り返ると店員の子がレジカウンターの中でさっきオレにぶつかって来た男にナイフを突き付けられているのを見て、無意識のうちにまたコンビニの店内に戻り男に声を上げた。
「おいっ!何やってんだお前!」
するとナイフを持った男はオレに見せる様にナイフを向けた。
「うるせー!テメーは黙ってろ!」
その一瞬の隙に店員の子が防犯ブザーを鳴らした。
店内にけたたましく防犯ブザーの音が鳴り響く。
ナイフを持った男は店員の子に激怒したらしく、店員の子にナイフを向けた。
オレはカウンターに足を乗せそのままカウンターを飛び越え、店員の子にナイフを向ける男に体当たりを敢行。
ナイフを持った男の腕を両手で掴みナイフを取りあげようとしたが、逆に腹を蹴られて後ろに倒れてしまった。
ナイフを持った男は一瞬だけオレを見たあと店員の子にナイフを刺そうと奇声をあげた。
「テメーのせいだー!」
確実に男のナイフが店員の子に刺さると思った。
『ーー運命の分岐が発生···選択中···決定されました』
オレは気が付くと店員の子を庇う様に背中を刺された。
男は背中からナイフを抜こうとしたが根元まで刺さったナイフが抜け無かったのかナイフを諦めて金も奪わず逃げて行く。
急いで男を追いかけようとしたが身体に力が入らずそのまま倒れてしまった。
次第に霞む視界で最後に見たのは、店員の子の笑顔ではなく恐怖で泣き崩れた顔だった。
もう一度笑顔が見たいと思いながらオレの意識は消えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
気が付くとソファーに横になっていた。
助かったのかと思ったが、あの怪我で病院のベットではなくソファーに寝かされているのも変だ、夢だったのかと安堵しそうになったが、この部屋もソファーも見た事が無い。
とりあえずソファーから立ちあがり部屋を見渡すがソファー以外何もない。
······此処は何処だろうか?
部屋はよくあるワンルームタイプの部屋だが窓は見当たらないがドアはある。
試しにドアを開けると隣の部屋にもソファーが置いてあり、側にはローテーブルとパイプ椅子が置かれ、ローテーブルの上には地元で見慣れた焼酎と靑いグラスが置いてある。
寝かされていた部屋を出て隣の部屋のソファに近づくと、いつの間にか腰まである白髪を後ろに束ねた西洋風の四十代に見える男がソファーに座っていた。
白髪の男は無言でオレを見つめたままパイプ椅子に右手を向けた。
座れと言われているのか。何となく、そんな気がしてパイプ椅子に座る。
白髪の男はオレの地元産焼酎を、靑いグラスに丸い氷を入れてロックで飲んでいる。
オレはただ黙ったまま白髪の男が喋るのを待つ···。ように見えるかも知れないが、ただの人見知りで話し掛けられないだけだったりするが······。
白髪の男は青いグラスをローテーブルに置くとやっと話し出した。
『······君も飲むかい?』
酒が嫌いではないが、オレは酒の雰囲気を楽しむ派だ。この訳の分からない状況でとても飲む気にはなれないので首を横に振る。
『そうかい?残念だ。素晴らしい酒なのだがね』
「そう、ですね、それは良かったです。オレの地元の焼酎です」
『そうだね知っているよ。君の記憶から作ったお酒だからね。ところで君はここが何処か知ってるかい』
「······いえ、まったく分かりません」
『そうだよね。ここは天界と言われている場所だね』
「···と言う事は、僕はやっぱりあの男に殺されたのですね」
『そう聞いてるよ。君はその強盗に背中から心臓を刺されて死んだらしいよ。しかも女の子を庇って死んだらしいね』
「はぁ、そうですか」
『どうしたんだい、他人を命をかけて守るなんてなかなか出来ることじゃないと思うけど?』
「いえ、その···。刺された事とあの子の笑顔しか覚えて無いので、命をかけたとか、それで自分が死んだとか実感無くて···。庇ったのもいつの間にか身体が動いていて、気付いた時には刺されたかも?くらいな感じで」
『いや君は最後に良い行いをしたと思うよ。実際に君が最後にあの行動を取らなければあの子は死んでいたらしいからね。それに本当の運命は、君はあの子が刺された後に刺されて死ぬはずだった。君達2人はそういう運命だった。でも死んだのは君だけ。君があの子の未来を変えた訳だ、素晴らしいじゃないか』
「あの店員の子も死ぬ運命だったってことですか?」
『そうだね、地球の神が言うには本当なら死ぬはずだった。でもあの子は君の運命に巻き込まれて死ぬ運命から外ずれたのさ』
「え〜と、どう言うことでしょう?」
『つまり君は選ばなければならない、本当の死を意識した時だけ現れる運命を変える力、自分の死か、相手の死か、身近な者の死か、誰の死かは君の行動で決まるという事さ。しかし君が余りにも怠惰で人と関わる事をしなかったから、地球の神も君が運命を変える力を持っているとは君が死ぬまで気付かなかった様でね。地球の神は全く君に興味が無かったらしいよ。しかも本当は地球の神にも気づかれずに輪廻に還るはずだった。しかし君は選んだ、それで地球の神は君が輪廻に還る前に気付いて輪廻に還さず魂を私の世界に送った。君は輪廻に還る運命から外れここに来た』
「地球の神ですか···。失礼かも知れませんが貴方もやはり神ですよね?」
『そう、僕も神さ。地球の神とは兄弟みたいな感じだよ。名前はレキエルと呼ばれてるかな』
「やっぱり神なんですね。ところで僕は何故天界に呼ばれたのでしょうか?」
『呼んだのは君をスカウトする為さ。そして怠惰だった君があの子を救ったことに対する地球の神から与えられた慈悲でもある。いいかい?』
「は、はい」
『まぁ、単刀直入に言うと私の使徒になって貰えないかな?』
「···使徒ですか」
『そう使徒。君には女の子を助けた時の様に運命を変えて欲しい、選んで欲しいんだ』
「······運命をですか」
『そう、あまり難しいく考え無くても大丈夫さ気楽に考えて』
「気楽に、うーん」
『そう気楽に、運命を選ぶ、それだけさ、難しいことは無い。誰でもがしていることだ。どうだろうか?やってもらえないかな?だめなら君の魂を輪廻に還すしかないけど』
「······輪廻に還ると僕の自我は消えるのですよね」
『そう、やっぱり地球出身の子は良く知ってるね。そう、輪廻に還ると君の自我は消えるね』
「もし僕が使徒になったら僕は僕のままでいられますか?」
『大丈夫だよ、使徒になっても自我は君のままさ。使徒と言っても私が神託した事をやって貰えれば後は自由で構わない。ただしあまりハメを外して私の信仰を減らしたりするのは極力やめてくれよ』
「それなら······分かりました。使徒を引き受けます」
『良かった。じゃあ契約だ。君は私の使徒になる。契約期間は私が良いと言うまでだ。代わりに神々からは君に加護を与える。それといくつかのスキルも与えよう。 【∂√∌∑】
よしっこれで契約は完了だよ』
「使徒と言っても······何も変わらないんですね」
『まぁ、神も使徒も器がないとただの精神体だからね、器がなければ違いにも気付けないよ。だから君にはこの世界、惑星アグレで生身の器に転生してもらう。注意としては使徒は神と違って生身の器が死ねば使徒としての君も死ぬ。器は君の肉体だから人の時と何も変わらない。だから君は人間として生きていく事になる』
「分かりました死なないよう気をつけます。あと転生と言うことは赤ん坊からですか?」
『今回の器は、人のまだ生まれる前の赤子だ。なので赤子として生まれる。とにかく子供の時には死なない様に気をつけること。私の加護を与えるから病気で死ぬ事はないよ。それから転生先は男爵家だったはずだ。他に質問はあるかな?』
「使徒だとやはり戦闘があるのですか?その場合、僕はどの程度強くなれば良いのでしょうか?」
『そうだね、間違いなく戦闘をすることになる。最初は君が成人するまでに、最低でも勇者と同等以上になって欲しいかな、でなければ、きっと選ぶことになる』
「ゆ、勇者と同等以上ですか······勇者がいるならやっぱり魔王とかも居たりします?」
『もちろんさ、流石地球出身は詳しいね。他にも悪魔もいれば天使もいる。亜神や神獣もいるね。それと女神と呼ばれ下級神』
「やはり魔王は勇者が?なら僕の相手は悪魔辺りですかね?」
『地球出身には説明が楽でいいよ···。と言いたいところなんだけど、たぶん君が考えてる相手とは少し違うかな。君は先程上げた一部の物以外殆どが討伐対象だよ。私の使徒君』
「は?一部以外の殆ど?いや、だって勇者や天使、それに神獣に亜神に女神とか言いいましたよね?流石にこの辺は違いますよね?」
『落ち着いて、ちゃんと説明するから。まず私は創造神レキエルだ。この世界を生み出したのが私。でだ、その中にある惑星アグレ。この惑星の管理を女神に任せていた訳だ。ここまでは良いかな?』
「はい」
『よし、まぁ早い話し、バカな女神が離反した訳。オーケー?』
「お、おーけー」
『後は単純さ。女神側に付いた物がほとんどなんだけど、一部は女神に反発したり監禁されたり封印されたり操られてたりだね。ねっ、単純でしょ』
「た、単純ってどこがですか」
『実際に単純だよ?女神をこのままにしておくと近い未来に惑星アグレは消滅する運命。それも今ところ確定な未来。しかし君はたった一人かも知れないがあの子の未来を変えただろ?それに期待してるのさ。ホントは私や他の神が下界に干渉したい所なんだけど、今の時代には神の依代として耐えられる器がいないんだよね。数人はいたけども、探し出した時には既に女神の影響にある者が殺した後か傀儡だよ。だから干渉は無理。他に質問は?』
「転生したあと僕から創造神様に連絡するにはどうすれば良いでしょうか?」
『そうだねー。確実なのは教会の本部と大きな街や都市に古くからある教会の神像に触れる事だ。稀に普通の教会にも神像がある場合もある。他だと上位神官や巫女の持つ神託の指輪かな。寝る時に指に嵌めて寝れば夢の中で話すことが出来る。ただ問題は夢の中だから記憶に残りにくいところだけど、それでも、神託の指輪はできるだけ早めに手に入れてくれると助かるかな。他の方法もあるけどその内ね』
「了解しました」
『じゃあ転生してもらうよ。次に意識が戻ったら君は自分の強さなどをステータスで確認が出来るようになってる。では、君の最初の使命は女神に操られた勇者の討伐、出来れば魔王も倒し生き残ること。君には期待してるよ』
創造神が僕に向かって手を振ると僕は部屋から消えた。
使徒を送り出した神はグラスに入った焼酎で口を湿らせた。
『さてどうなるかな、彼には頑張ってもらいたい所だけど···。まぁ、彼が駄目ならアグレは廃棄かなー』