18話
辺境伯領に向かう出発当日になった。朝食の後に父さんから「食料と資金それと辺境伯への手紙が入っているから失くさないようにな」と肩掛けバックを渡された。
この肩掛けバックは、爺ちゃんたちが戦争に参加した際に行方不明になったハーフエルフで父さんの生みの親であるイリアさんの物だ。
最初は婆ちゃんが預かっていたそうだが、父さんが冒険者になった時に婆ちゃんから父さんに渡されたそうだ。
この肩掛けバックは内部に空間拡張と重量軽減の付加が施された収納バックで、入れられる物の大きさこそ制限はあるが、百キロまで持ち運びができるバックだそうだ。
収納バックから物を出し入れする時はバックの中に手を入れると分かるそうで、試しに手を入れてみるとマジックバック内に何が入っているのかが頭の中に浮かぶ。
ただし、収納バック内の時間経過は外と変わらないそうなので生肉や生魚など生の物を入れる時などは忘れない様に注意が必要になる。
他にも時間が緩やかに進む収納系のバックなどもあるらしいが父さんはまだ見たことがないらしい。
他にも、父さんと母さんから旅の注意点などを聞いているとクルタさん達が屋敷前に着いたので屋敷前に移動することにする。
屋敷前には幌馬車が止まっていて、御者席にはフードを被った女性が座っていて、クルタさんとシンクさんは馬車の横に立っていたので近付いて挨拶をする。
「おはようございます。しばらくの間よろしくお願いします」
「ええ、よろしくねーアレンちゃん」
「よろしくお願いします」
二人から返事は返ってきたので御者席の女性に目を向けると、クルタさんに「人見知りする子なの。後で紹介するわね」と言われた。
馬車に乗り込む際に父さんと母さんから今回の目的と日程などの確認をされたあと、両親に見送られて僕は辺境伯領へと出発した。
馬車は村内では徒歩くらいの速度で進んでいたが、村から出て周りに人がいなくなると速度を上げた。
田舎だからかまだ道が整備されていないので馬車の速度が上げるとかなり上下左右に揺れる。
しかし今日の目的地は少し距離があるエバンス男爵領とグスタフ男爵領の境辺りまで行きたいらしく、速度は落とせないので目的の場所までは休憩以外は我慢して欲しいと言われた。
激しい揺れに耐えながら馬車を走らせ、村を出て一時間弱が過ぎた辺りで馬を休憩させることになった。
馬車を開けた場所に停めると御者の女性が馬を馬具から外している。自己紹介ついでに手伝おうかと女性に近づき声をかけてみる。
「あのー、僕はアレンと言います。手伝いましょうか?」
そう声をかけるが女性はフードを被ったまま「いい、大丈夫」て言って一人で馬の世話をしている。
仕方なく離れた場所にいるクルタさんに女性の名前を尋ねると、女性の名前はミルと言う名前でたぶん年齢は十六歳くらいで知り合ってからは二年弱の付き合いだそうだ。
とりあえずクルタさんには最低限のことだけを尋ねて他は聞かなかった。プライベートな情報を本人以外からあまり聞くのもね。
三十分ほどの休憩後馬車に乗り込むと青白い顔をしたシンクさんがヨロヨロと馬車に乗り込んで来た。
どうもシンクさんは馬車酔いらしく、一人離れた所で休んでいたがあまり体調は良くなっていないようだ。
乗り物で酔うのは、三半規管、目、身体からの情報などで脳が混乱して起こるとかを前ネットで見た気がするので、最近覚えた状態異常を治す魔法を試してみることにした。
馬車の出発を少し待ってもらいシンクさんを連れて馬車から見えない場所に移動して、治癒魔法のキュアーを使ってみる。
もちろんシンクさんにも治癒魔法のことは今回の同行が決まった時点で話をしてある。
シンクさんも僕のことに関してのは他言無用と父さんが命令していたので、治癒魔法のことを誰かに話される心配はたぶん無いはずだ。
馬車酔いが状態異常ならキュアーで良くなるはずと思い試してみると、顔に赤みが出た気がするのでシンクさんに聞くと「だいぶ楽なりました」と言われたので馬車に戻る。乗り物酔いは状態異常を回復させるキュアーで治ることが分かった。
ついでに効果があるか分からないが昔テレビで知った乗り物酔いに効くツボもシンクさんに教えておいた。
馬車は休憩を挟みながら順調に進む。
途中動物や魔物に全く出会わないのでクルタさんに聞いてみると、襲ってくるような動物や魔物はだいたいが夜行性。普通は森でもない開けた街道なんかには滅多に現れないそうで、逆に夜はかなりの頻度で魔物に出会うとのことだった。
ただし、ごく稀に何らかの理由で興奮状態になった動物や魔物が現れる場合があるそうで、その場合はかなり危険らしい。
休憩のたびにシンクさんにキュアーを使い、どうにか日が沈む前にエバンス男爵領とグスタフ男爵領の境くらいにある野営場所に到着した。
野営場所に馬車が停車すると、すぐに限界近いシンクさん連れ出しクルタさんたちから見えない場所に向かい、キュアーを掛けてから水魔法でコップに水を満たしシンクさんに渡す。
「ふぅー、ありがとうございます」
「大丈夫ですか?」
「はい、もう大丈夫です。本当にすみません」
「いえ、僕は気にしてないので、でもシンクさんがこんなに馬車に弱いとは思いませんでした」
「本当に情けないです。馬は平気なのですが」
「あー、なら馬車に慣れるまでは、御者席にでも座って遠くを見た方が良さそうな気がします」
「遠くをですか···。分かりました、そうしてみます」
「まあ、試してみて駄目なら御者をしてみるのも良いかもしれませんよ」
ついでに二人で薪を拾いながら戻ろうとすると生き物の気配を感じた。
木に隠れながら少し離れた気配の方に向かうとゴブリンが三匹ギャーギャー騒いでいる。
なるほど、確かに森には普通に魔物がいるんだな。
「野営地とそれほど離れてないから討伐した方が良いよね」
「そうですね、私が先に出ますからアレン様は後から来て下さい」
そう言うとシンクさんは腰の剣を抜き、僕に小声で「行きます」と、隠れていた草の陰から飛び出した。僕も剣を抜いてシンクさんの後を追う。
シンクさんはギャーギャー騒いでいるゴブリンに体当たりをして一匹弾き飛ばすと、そのゴブリンは後方にいたゴブリン巻き込み転倒した。
シンクさんは転んだ二匹のゴブリンをチラッと見てから立っているゴブリンに斬り掛かる。
僕はそれを見てから転んで動けないゴブリンの頭を二匹とも狙撃で撃ち抜いてからシンクさんを見ると、ちょうどゴブリンがシンクさんに首から上を切り飛ばされた所だった。
へー、シンクさんもアイク兄さんたちみたいな戦い方も出来るんだなーと感心。やっぱ模擬戦だけだと分からないね。
「終わりましたね」
「流石アレン様です。私が一匹狩る間に二匹とは、やはり魔法ありではかないませんね。とりあえず私が魔石を取り出しますので警戒を頼みます」
シンクさんは苦笑いして話すと、解体用のナイフを使ってゴブリンの魔石を取り出した。
ゴブリンは使える素材がほぼ無いので、回収するのは心臓近くにあるパチンコ玉ほどの大きさの魔石だ。
ちなみにゴブリンの魔石は小さいためそのままでは利用できないが、砕いて粉状にすることで錬金などの材料に使える。なので安価だが冒険者ギルドでも買い取りをしている。
魔石を取り出したゴブリンの死体はゾンビ化する可能性があるので纏めて焼却処分にした。
ゴブリンの死体を処理したあとは、薪を拾いながら野営地に戻りクルタさんたちにもゴブリンを討伐したことを伝えておいた。
シンクさんと拾ってきた薪で焚き火の準備をした後は四人で焚き火を囲み、ケーラさんが準備してくれた重曹を使って焼いたパンと干し肉を食べながら今日の見張りと今後の話をする。
「とりあえず今日の見張りは体調の良くないシンクちゃんを先に休ませたいから、前半に私とミルちゃん、後半にアレンちゃんとシンクちゃんでいいかしら?」
「僕もシンクさんは先に休ませたいのでそれで構いません」
「私はどっちでもいい」
「すみません気を使わせてしまって、明日は今日みたいにならないようにします」
「早めになれて貰えれば助かるわね。まぁ明日からは馬車の速度も落とす予定だから、今日みたいに揺れることは無いと思うわよ」
「はい、それでシンクさんには馬車に慣れるまで御者席座ってもらおうと思ってます。風にあたって遠くを見るだけでもだいぶ違うと思うので」
「確かにそうね、遠くを見て風にあたるだけでもだいぶ違うわ。いいかしらミル」
「別に構わない」
「ありがとうございます。御者もいつでも代わるので」
「いらない、あなたは彼の護衛」
「···確かに、そうですね、分かりました」
「まっ、とにかく明日は移動距離が短いから早めにメリト村に着いてゆっくり休みましょう。メリト村の次のイルバニの町までは何か起こらないは限りのんびりね」
「イルバニの町からはのんびりじゃないんですか?」
「イルバニの町から次のカルド村は少し距離があるから今日みたいに進むか、ゆっくり行って途中野営してバルドの街に行くか、まぁみんなの体調次第かしら」
「了解です。辺境伯領に入るまであと村や町は幾つあるんですか?」
「う〜ん、泊まる予定の所は明日行く予定のメリト村を入れると五ヶ所ね。ザルガット男爵領のスベラニ村が辺境伯領に入る前の最後の村になるわ。だから予定通りに進めば辺境伯領に入るのは六日後か七日後ってところかしら」
「分かりました。ところで辺境伯領の領都アズドラルには冒険者ギルドはありますよね?」
「勿論あるわよ。何?行きたいの?」
「はい、せっかくだから冒険者登録しようと思ってます。この歳だと不味いですかね?」
「別に不味くはないわよ。なら、その時はミルに連れて行って貰うといいわ。ミルもアズドラル冒険者ギルド所属の冒険者だから、いいわよねミル」
「ん、構わない」
「だって、良かったわね。ただし他の用を済ませてからにしてちょうだいね」
「勿論です。辺境伯へのお礼と奴隷の購入が今回の目的ですから」
「そう。ならいいわ」
それから少しだけ他の話をしてシンクさんと馬車の荷台で横になった。
夜中に起こされ見張りを交代。
五時間程眠れたようで、たぶん今は深夜一時くらいだと思う。シンクさんと焚き火の側で時折話をしながら火に薪をくべる。
辺りは真っ暗で焚き火の明かりで目視出来る範囲は十数メートルくらい。気配察知に反応は無い。一応マップで確認すると五百メートル以上離れて辺りに数匹の魔物が確認できる。しかし暫くマップを見ていたが魔物は近寄って来ないのでとりあえず放置する。
やることがないので何となくシンクさんのステータスを見てみると、僕のステータスから消えた生活魔法を持っている。
そういえば僕の生活魔法はいつ消えたっけ?なんかいつの間にか無くなってたけど。
確か最初に気付いたのはセリナに水魔法教えた辺りだったか、色々と魔法を覚え加護が増えた後くらいじゃなかったかな?
試しにクルタさん見てみる。たぶんクルタさんなら持ってそうだし···。
やっぱり生活魔法持ってるなぁ、それと身体強化に話術や交渉術もある。うん、何か戦う商人って感じのスキルだな。まぁそれはいいや。いや身体強化は欲しいからあとでそれとなく聞いてみよう。
あー違くて、生活魔法だ。何で僕のは消えたのだろうか。んー、分からん。
気分転換に朝食用のスープを作る。焚き火の横に簡単な竈を作り鍋に水を入れて火にかける。まな板を平らな石の上に置いて、干し肉をある程度細かくしてから鍋に入れて暫く煮込む。それから玉ねぎ、キャベツ、トマトを切って鍋に投入、最後にハーブを入れたら塩で味付けをして野菜が柔らかくなるまで煮れば完成。簡単なスープ。あと人参とセロリがあればなぁ。
スープを作っていたらクルタさんたちが起きてきた。もう少し煮込みたかったけどまぁいいか、深皿にスープを入れてパンと一緒に渡して食べて貰う。
みんな美味しそうに食べてくれるから作った甲斐あったかな。
スープは昼の分も残る量を作ったはずだったが全部無くなった。一番食べたのはミルさんだった。
食べてる時は少しだけ嬉しそうに見えたから食べることが好きなのかも知れないな。




