12話
ギルバートさんとアルさんが屋敷に入ってしばらくすると、ケイト姉さんが屋敷から出て村の中央に走って行き、その後からケーラさんと母さんも庭に出てきた。母さんは稽古中の僕らに稽古の中止と待機を命じた。
流石に子供でも何かあると感じアイク兄さんが母さんに何かあったのか尋ねるが「みんなが揃ったら父さんが話します」とだけ言われた。
数分待っているとザックさんたち従士五人と自警団の面々、爺ちゃんの時代に仕えていた引退した元従士二人も庭に集まる。数分後最後に父さんたちが庭にやってきて全員を確認し、一度ジェダさんを見てから話を始めた。
「まず、アルの次男のウセルが死んだ。死んでいた場所はリネスの町とファーガス村の中間辺りの森の中だ」
リネスの町は侯爵領の東端にありファーガス村から馬車で三時間、歩きだと七時間くらいにある町で、ファーガス村から人が住んでいる場所で一番近いのがリネスの町になる。
そしてウセルさんはアルさんとノーラさんの次男、ジェダさんの兄で、ウセルさんは定期的にリネスの町に行き配達や宿屋の仕入れをしていた人だ。
ジェダさんは下向き、アルさんは黙ったままジェダさんを見ていた。
「昨日帰る予定のウセルが帰らないので、アルが猟の足を伸ばしてみたら道に荒れた場所を見つけた、そこから痕跡を追跡してウセルを発見したらしい。そしてウセルはリネスからの仕入れをしたはずだが荷物が残って無かった、それに痕跡は十数人以上はあったそうだ。数人なら強盗の類いかもしれなかったが、十数人以上だと盗賊の可能性が高い。それを踏まえ村の体制を警備体制から戦火体制に引き上げまず斥候を出す。まずはギルバートは防衛の指揮を、それからザックはアルと村から斥候に出す者を選んで斥候に出せ、リネス方面には三人以上を絶対に出しておけよ。アイクとアレンは私と一緒にいろ、それからシンクとジェダはギルバートの指示に従って動け。サラとアイラはセリナを守ってくれ。ケビンたち残りの自警団は村から戦闘に参加できる志願者を集めろ。今何も言われなかった者は武装していつでも戦えるようにして待機」
盗賊か、最後に来たのは三年くらい前だったはず、あの時はセリナと変わらない歳だったから屋敷にいる間に終わってた。確か爺ちゃんと引退した従士、それとたまたま屋敷に遊びに来てた母さんの弟のライアスおじさんが村の男数人を連れて蹴散らしたって話だったな。
ただあの時の盗賊は十人も居なかったはずだから前回よりも盗賊の規模が大きいようだ。
とにかく準備するために一度屋敷に戻り訓練着から戦闘用の服に着替える。戦闘着はドウェイン王国の貴族は子供でも持っている物で『貴族は民を守り戦うから貴族である、民を守り戦えぬ者は貴族にあらず』とか言った何代か前の王様がいたとかで今では貴族の習わし的な感じで基本貴族は全員が持っている。勿論こういう時や爺ちゃんも参加した戦争で貴族はこの戦闘着を着て戦ったそうだ。
まあ、いわゆる軍服みたいな感じの物で男性用と女性用で若干デザインが異なる。
戦闘着に着替え上から防具を着けて腰に剣を差し短剣を太腿に装備する、腰のポーチにポーションを入れたらあとは玄関でブーツを履いて準備は終わりだ。
アイク兄さんも側で着替えて防具を付け両手剣を背負う、母さんやアイラ姉さんたちも別の部屋で準備しているはずだ。
とりあえずアイク兄さんとリビングで待機していると戦闘着を着たアイラ姉さんが来た。今回は万が一の室内戦闘を考えてか腰にレイピアと太腿に短剣を装備している。
次にセリナと来た母さんはアイラ姉さんと同様の装備で、セリナは戦闘着だけを着ている。最後に来た父さんは戦闘着の上に金属製の防具と腰にロングソードを装備している。
父さんが来たので玄関で母さんたちに送られて僕ら三人は庭で待機していたギルバートさんや他の従士たち村の入口に向かった。
村の入口には自警団や数人の志願者たちが防衛の為に準備を始めていた。カーラさんも弓とショートソードを装備して村の外を見つめている。
今集まっているのは十数人くらいか、二十人はいないか。
村の入口近くに設置にテントに父さんが入ると僕とアイク兄さんも付いて行く、中にはテーブルとイスが置いてありテーブルの上にはファーガス村からリネスの町までの地図が置いてある。
ただ地図と言ってもファーガス村からリネスの町までの道程、町と村の中間あたりに✕印、あと川や崖の場所などが書いてある爺ちゃんの時代から何十年かけて作成した手書きした地図だ。
ギルバートさんとアルさんはその地図を見ながら盗賊がいそうな場所を予想していて、父さんは二人の予想を聞いている。
二十分くらいたった頃、斥候に出ていた一人が戻って来て報告だけするとまた直ぐに出て行った。そのあとも二人戻って来たが同じ様に直ぐに出て行く。斥候は六人いるらしく近くを探った斥候が報告に来たようだ。父さんたちはその斥候からの情報を聞いて地図に印を付けている。
しばらく父さんの横に立っていたけど、「盗賊が村に来るなら暗くなってからだと思うから今の内に仮眠してなさい」と言われたのでテントの端で少し寝ることにした。
〜〜〜
アイク兄さんに揺さぶられて目を覚ました。
「ん、アイク兄さんおはよ」
「起きたか?思いの外ぐっすりと寝ていたな、緊張して無いのか?オレは緊張して寝れなかったのに。とりあえず父さんが呼んでるぞ、飯だってさ」
辺りを見渡すとテーブルの上の蝋燭がテント内を照らしている、確かに仮眠のつもりが結構寝ていたらしい。
何だろうか、僕ってこんなに緊張しなかったっけ?前世では上がり症で人と話すのすら緊張するタイプだったけど······。
アイク兄さんとテントを出ると外は完全に日が落ちていて準備していた篝火には火が灯されている。
父さんたちは手にパンとコップを持って立ったまま食事をしているようだ。
アイク兄さんと父さんの所に向い軽く現状を教えて貰っているとシンクさんが食事を持ってきてくれた。
父さんが言うには、斥候が盗賊らしき集団が道の北側にある森の中に二、三日前までいたであろう場所を発見した。痕跡を追跡したが森から道に出たあと複数に別れたらしくまだ盗賊自体は発見出来ていないそうだ。
しかし盗賊の痕跡は、ウセルさんが見つかった場所よりも村側に新しい痕跡があるそうなので、確実に村には来るだろうと父さんが言った。
食事を取ってから一時間程たった頃、斥候に出ていたアルさんの長男でダインさんが走って戻ってきた。
他にも斥候が二人戻り三人から話を聞くと、道にあった複数の痕跡を手分けして追跡したら十数人の盗賊を三ヶ所で確認、少し様子を見てから報告に戻ろうとしたら動き出したので追跡、そしてここから三十分程の場所で合流した盗賊らしき集団は五十〜六十人程になり村に向かって来ている、と分かった。
マジか、戦力差がこっちの約三倍はあるじゃないか?まともに戦うと確実に死者が出そうだけど······どうするのかな?
「マーク様どうされますか?」
ギルバートさんが父さんに指示を仰ぐと父さんは地図を見ながら悩んでいる様だったが、数分考えた後に地図の一点を指差した。
「ここではその人数を防げないから人数を減らす。作戦はこの辺りまで馬で数人で行き奴らの要求を私が聞きに行く、盗賊と分かったら手前に配置した魔法と弓が得意な者たちで攻撃して一緒にここに戻る。ザックは護衛として私と一緒に来てくれ。アルとダインそれにシンクの3人は手前で待機して合図したら弓で狙え、どこでもいい、動けなくするだけでいいから、とにかく多く当てろ。最後にアレンとカーラ、二人はアルたちよりも手前で待機。アレンの攻撃魔法でみんなが撤退する時間を稼いでくれ、この村で一番魔法速度が早いのがアレンだ、大きくなくていいから連射可能な攻撃魔法を優先して使え、カーラは弓で攻撃の後アレンの護衛を頼む。この作戦の肝はアレンたちの支援だからな任せたぞ。ギルバートは私たちが撤退してきて防衛陣地入ったら直ぐに封鎖出来るようにしていて欲しい。アイクたちも何時でも戦える様に待機だ。さぁ動くぞ」
全員が一斉に動き出し準備をして馬に跨がる、父さんとザックさんは一人、シンクさんの後ろにダインさん、僕はカーラさんが操る馬の後ろに乗る。僕たちが馬の準備をしている間にアルさんは馬に乗らず先行して向ったようだ。
初めての実戦だ、しかもいきなりの対人戦で、これから人を殺すかも知れないのに全然緊張しない······。なんか変な感覚だ。でも、もしかしたら武神様の加護のお陰かもしれない。
だとしたら武神様に感謝だな。
馬で五分程走り父さんがまず僕とカーラさんに隠れて待機を命じて、残りの五人で先に進んで行く。五人は約百メートル先で止まるとアルさんだけが隠れたようだ。
どの魔法で攻撃するか考えながらカーラさんと待っていると道の先に集団が見えた。カーラさんは盗賊の集団を見て「いかにも盗賊ってのもいるが、どっちかって言ったらスラムのチンピラの集団に見えるな」とカーラさんが言うので目を凝らして見るが僕には分からない。
「そうなんですか?ならどっかの食詰めが盗賊に落ちたのかも知れませんね」
「そうかもしれないが、盗賊にしては武装が微妙だし、うーん、やっぱ、なんか違和感しかない集団だな」
そう言われて、さっきより少し近づいた集団をもう一度よく目を凝らしてみる。うーん言われてみればそう見えなくもない気がするけど······。盗賊やスラムのチンピラに会った事ないから分かんないんだよなぁ。
でもカーラさんが言うのならそうなのだろう、カーラさん人生経験長いからね。どっちみちその辺りは父さん達が調べるはずだけど、一応、頭は生きたまま確保したいところだな。
集団がだいぶ近づいて来た。どの魔法を使うかだけど火魔法はすぐ側が森で火事になったら危険だから却下で、とにかく動けなくするならハンマー系の打撃より殺傷力のある魔法がいいか。それに手数を考えるとタメの少ないカッター系かな。水魔法のカッターで視認させて、視認しづらい風魔法のカッターを混ぜて連射した方が効果高そうだな。あとは違うのも考えとくか。
父さんとザックさんがシンクさん達から離れ集団に向かって行く。弓の射程を考えてかシンクさんたちの三十メートル程前で二人は馬に跨ったまま止まった。
集団はそのままで父さん達の数メートル前で止まり、父さんが盗賊と何か話しているが流石にここまでは聞こえない。
「盗賊のようだな、金や女を差し出せと言っているな」
「えっ!聞こえるの?」
「いや、唇の動きで分かる」
へー、すごー、僕も加護で出来るようにならないかな?
「なら殺して奪うさ、差し出さなかったことを後悔するんだな。と言ってるな。ん!始まるぞ!」
父さん達が馬を反転させて走り出しシンクさん達に合図を出したので、馬に乗ったままのシンクさんとダインさんが弓で矢を射る。アルさんも木の陰から矢を射っている。
それを見たカーラさんが馬を道の真ん中に移動させ弓を構えた。
父さんとザックさんがシンクさん達の横を通り過ぎるとアルさんは森の中から村に向け走り出し、シンクさんも弓を肩に掛けて馬を反転させシンクさんの操縦する馬の後ろにダインさんが飛び乗る。
見た感じ盗賊は7、8人が動けなくなったようだ。
カーラさんは弓を構え狙いを定めている、僕も盗賊に手の平を向けて父さん達が通り過ぎるのを待つ。
シンクさん達に追いつきそうだった馬の前足にカーラさんの矢が刺さり馬が転倒した。シンクさん達はぎりぎり追いつかれず僕らの横を通過した。
シンクさん達が通過した直後もう一本の矢を放ったカーラさんは弓矢をアイテムボックスに仕舞うと馬を反転んさせた。
「アレン頼んだよ!」
そう言ってカーラさんが馬を走らした直後に魔法を放った。
「任せて下さい」
右手でカーラさんの腰紐を掴み左手を集団に向け、盗賊の下半身や馬の足を狙って無唱和でウォーターカッターとエアーカッターを連射した。
しかし数が多い、流石に追いつかれそうなので、ある程度打撃を与えたら僕とカーラさんの逃走時間を稼ぐ霧を発生させる。
「ウォーターミスト」
魔力を強めに込めたウォーターミストは一気に盗賊たちを覆った。今のウォーターミストは使った場所から円形に百メートルは広がったはずで、盗賊たちの視界は一メートルくらしか無いはずだ。
もちろん術者の僕には薄っすら霧が掛かったように見えるだけでほぼ視界に影響はがない。魔法が術者に悪影響があるなら雷魔法なんかは一生使えないよね。ただ、馬を操作してるカーラさんの視界は盗賊たちと同じなので霧の外までは僕がナビをする必要がある。
僕たちが霧を抜け村に入ると村の入口が封鎖された。後ろを見ると村から五百メートル先に幅百メートルに渡って真っ白な霧が発生している。
「アレンさっき事故るかと思ったよ」
「すみません、ちょっと魔力込め過ぎました」
僕たちは馬を降りてテントの近くに馬を繋ぎ、父さん達と合流した。




