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10話

 今まで朝のランニングを5キロ前後を目標に走っていたが、今日からは最低でも五キロ以上として少しずつでも距離を伸ばし、目標を"十歳までには十キロの距離をある程度余裕を残して走れる"にした。


 ランニングが終わり少し休憩した後木剣で素振りをする。素振りも回数を増やしていく予定だけど、体力や身体の負担を考えながら増やす予定。



 今日の剣術も兄たちとの模擬戦だが、まだ体重が軽いのでそれなりに打ち合うことは出来ても、アイク兄さんみたいな力で押してくるタイプの人と模擬戦をやると最終的にだいたい力負けしてしまう。


 僕が模擬戦で対戦しやすいのがアイラ姉さんやシンクさんで、最近はこの3人で模擬戦をすることが多い。アイク兄さんは同じタイプのジェダさんと模擬戦が増えている。


 ジェダさんは狩人のアルさんの3男で父親のアルさんには弓の才能が皆無と言われているらしい。そしてシンクさんと同じ今年成人した15歳。


 みんなの戦闘スタイルは、僕が魔法がメインの魔法剣士タイプ、アイラ姉さんは剣メインの魔法剣士タイプで、シンクさんは弓も使う遊撃手タイプの剣士、アイク兄さんとジェダさんはゴリゴリの前衛の戦士タイプ。

 なので、もしこの五人でパーティーを組んだ場合のポジションは、前衛にアイク兄さんとジェダさん、二人の後ろ中衛にアイラ姉さんと遊撃手でシンクさん、後衛は僕かな。ただ、魔法戦ならシンクさんを司令塔にして後ろに下げ、僕が中衛に入ってもいいかもしれない。


 模擬戦終わり休憩しながら汗を拭いていると、剣術を指導してくれている従士長のギルバートさんに話しかけられた。


「アレン様、だいぶ良く剣が振れるようになりましたな、そろそろ実戦にも興味が出てきましたかな?」


「実戦ですか?もちろん興味はありますが」


「そうですか、興味があるなら私がマーク様には口添え致しますよ」


「でも最近、まだ早いと言われたばかりで許可出ないと思いますよ?」


「そうなのですか、マーク様は過保護ですな。私とカイン様はアレン様の歳で冒険者になりましたけどね」


「えっ、二人は僕の歳で冒険者だったんですか?!凄いですね!」


「そうでもありません。ギルドのある町なら子供でも結構登録して雑用やら何やらをやっていると思いますよ。まぁ私たちはニ人でゴブリン討伐ばかりやっていましたが、ワハハハッ」


「僕も将来のために早く冒険者にはなりたいとは思っています」


「なら実戦を見るだけでもいいので早くから経験した方が良いですな」


「確かにそうなのですが」


「カイン様からも特に三男のアレン様は鍛えるように言われていますからな。私が近い内にマーク様に話してみましょう」



 それから二日後に父さんから四月の誕生日がきて八歳になったら条件付きで実戦に出て良いと許可が出た。







 今日は四月末。実戦の許可が出てほぼ一ヶ月が経過したが魔物が現れないので僕の初実戦はまだだ。ちなみに誕生日に父さんから出された条件が、村の近くに魔物が現れた場合なので、魔物が現れないため結局はいつもの日々を送っている。

 あとワールドマップを確認したところ、そろそろワッツさんが王都に着く、今はまだ王都手前の町にいるようだ。ワッツさんに出した手紙はどうなったかな?ワッツさんはまだ行商人だから王都に向いながら商売をしてるので移動速度が遅いから手紙の方が先に王都に着いてるかもしれない。

 次ワッツさんがファーガス村に来るのは早くて5ヶ月後、王家に献上するリバーシを爺ちゃんに渡した後、その時に手紙に書いた物がいくつかでも見付かってくれれば。



 ワッツさんが西のルートからファーガス村に持ってくる物は、基本が小麦粉や保存の効く物がメインで、残りがエール酒と砂糖が少々、エール酒と砂糖が少ないのはガストル侯爵領の関税がクソ高いから。

 関税のせいで高くなってしまった物でも生活に必要と判断した物は基本エバンス家で一度買い取り、適正価格になるように値を下げてから村の店には卸している。でないと高すぎて村の人が買えないから。

 西ルートだけでは赤字なのでもちろん別の行商人はいて、こちらは東ルートで、塩、布地など雑貨、エール酒、ワインをメインに干し肉など塩を使った保存食を多めに持ってくるのが行商人のクルタさんで、クラウド辺境伯領から他の男爵領を通りファーガス村まで来ている。



 そして僕は久しぶりに行商に来たクルタさんに会うために宿屋に来ている。

 この宿屋は一階が食堂で夜は酒場。ファーガス村の、宿、食堂、酒場、は今のところここの一軒しか無い。

 この宿を経営してるのが狩人アルさんの奥さんでノーラさん。そしてジェダさんは自警団所属だけど基本は宿の手伝いをしている。


「こんにちは」


「あら、アレン様じゃないかい、久しぶりだね」


「お久しぶりです、ノーラさん」


「最近ジェダと剣の稽古をしてるそうだね、聞いてるよ」


「ええ、相手をしてくれるので助かってます」


「ジェダは体力バカだから相手するの疲れるでしょ」


「いえ、ホント良い訓練相手で助かってますよ」


「そうかい?それならいいけど。それで?ジェダに用かい?」


「いえ、今日は行商人のクルタさんに会いに来ました。いますか?」


「いるよ、ほら、あそこで飯食ってるのがそうだよ」


 ノーラさんが指差したのはキッチン近くのカウンター席に座り、食事をしてる露出多めの女性の格好をした大柄な男性だ。


「あの、あの人がですか?あれ?」


 あれ?確か爺ちゃんの話だと冒険者時代に仲の良かった元冒険者で、爺ちゃんたちがこの土地を賜ってすぐから行商に来てくれてる、て話だったけど······。

 えぇー、そっちの人なのかー。爺ちゃん一言教えといてよ、動揺しちゃったじゃないか!

 

「あはは······そりゃあみんな似たような反応するわよねー。クルタさーん、客だよ!男爵様の息子さんだから変なことするじゃ無いよ!」


 ノーラさんに呼ばれ男性?が振り返る。


「あら、じゃあカインちゃんの所のお孫さんね」


「あ、はい、えっとアレンです」


「そう、アレンちゃんね、私に何か用かしら?あっ、アレンちゃんご飯食べた?私これからなのよ、ノーラちゃん、アレンちゃんにも同じのお願いね。もち私に付けといて」


「はいよっ、ジェダー!アレン様にも日替わりだよー」


「はいよー!」


 よく分からない内に進むなぁ、つかジェダさん料理作ってるのか、まぁとりあえずクルタさんの隣りに座るか。


「隣り失礼しますね」


「どうぞ、アレンちゃん大きくなったわねー、私ねアレンちゃんが生れてすぐの頃に眠ってるアレンちゃん抱っこしたことがあるのよ。堪らなかったわー、ねぇ抱っこしていい?」


「コラッ!クルタさんやめなっ! アレン様日替わりだよ。二人とも話すなら飯食ってからにしな」


「ありがとうノーラさん、クルタさんご馳走になります」


「めしあがれ、じゃノーラちゃんに怒られちゃうから食べてからお話しましょうか」


 やっぱ屋敷以外で食べるとこんな感じだよな、少し前まで屋敷で食べてた料理と変わらない。シンプルで素材の味が生きてる感じ?まぁ、全部食べるけど。



「ふぅ、ごちそうさまでした」


「ふふっ、じゃあ、用件を聞こうかしら?」


「はい、では商売の話をしましょう」


「あら、どんな商売の話かしら?」


 肩に斜め掛けにしてきたカバンから十二cmくらいのポーションの瓶を取り出しクルタさんの前に置く。


「これを買って貰えませんか?そして何処で手に入れたかも内緒にして欲しいのです」


「ふーん、黄色いポーションね。初めて見るわ」


「いえ、ポーションの空き瓶を使ってますが中身は別物です」


「あらそうなのね、中身は何かしら?」


「試しに蓋を開けて匂いを嗅いでみて下さい」


 クルタさんは瓶を手に取り、一度僕を見てから蓋を開け瓶を鼻に近づける。


「ああ、瓶から少し顔を離して嗅いで下さいね」


「あら、いい匂いね、これはオレンジかしら?」


 今クルタさんに渡して匂いを嗅いで貰ったのは、オレンジの皮を使って作った香水。カーラさんと試行錯誤してどうにかクルタさんが来る前に間に合った物だ。なのでまだオレンジの香りがする香水しか出来てないが······。


 蒸留酒も売り出そうか考えたのだが、まだ手持ちの資金が少なく、エール酒を購入しても蒸留酒を作れる量が少すぎる。

 なので少量でも売れる香水から先に売りに出し、香水が売れたらその資金をエール酒やワインの購入費に充てようと思ってクルタさんに会いに来たのだ。


 なぜ香水の売り先をクルタさんにしたのか?

 それは行商人二人のルートの関係からで、本当ならすでに面識のあるワッツさんに話しを持っていくのが早いのだが、ワッツさんは王都からガストル侯爵領を通って行き来してるから、あまり任せたくない。


 なぜ行き来してたら駄目なのか?


 それはワッツさんからはエール酒やワインが侯爵領の高い関税のせいで量が買えないからってのも大きいし、香水は貴族や富裕層の嗜好品とみられ高い関税を付けられることは目に見えている。ガストル侯爵を儲けさせる気はない。

 それとエバンス家で香水を作ってるのをガストル侯爵に知られ難くするためと、単純に嫌いだから。


 クルタさんの場合は西ルートで辺境伯領から来ているし通ってくる領はどこも関税が常識内だ。それと辺境伯領には特産にワインがあり、エール酒を作る工房もあるから仕入れがしやすく値段が安い、と言うのも大きな理由。

 あとは商人の信頼性だけど今の所は正直どちらも似たような感じ、かな?ワッツさんは父さん繋がり、クルタさんは爺ちゃん繋がりで僕的には信頼性が変わらないので条件の良いクルタさんに話を持って来た。


「それは香水と言うもので名前の通り香る液体です。使い方を見せますね」


 そう言ってカバンからもう一つ瓶を取り出し、蓋を開けて蓋に付いた香水を手首と首元に付け、瓶の蓋を閉じてからから手首同士を軽く擦り付ける。


「こんな感じで使います。クルタさんにもやってみましょう。手首を出してもらえますか?」


 今度はクルタさんに自分がした順に香水を付けてあげた。


「それで手首を擦り付けると体温で香りが良くなります」


 クルタさんが手首を擦り付けてから手首の香りを嗅ぐ。


「何これ!これ凄いわね。私から爽やかな香りがするわ!」


「そうです。これは女性の為に作った物です。身体にも害は無く少しなら間違って飲んでも大丈夫なように作ってあります。これを付ければ匂いに男性が寄ってくるでしょう」


「買う!買うわ!何本あるの?全部買うわよ。素晴らしい物よ、これは!」


「あ、あの、クルタさん声が大きいです」


「あっ、あらゴメンなさい。香水が良い物だからつい興奮しちゃったわ。テヘッ」


「············」


「ちょっと!アレンちゃん大丈夫?」


「······ハッ、僕はどうなってました?」


「突然白目になって後ろに倒れそうになってたわよ」


 ホントだ、クルタさんに背中を支えられてる。


「······もう大丈夫です」


「そっ?ならいいけど。それより商売の話しましょう」


「そ、そうですね。えっと、まずはさっき言ったように出処はまだ秘密でお願いします。これは絶対です。変に嗅ぎ回られるのは嫌なので、特にこの領地の隣りには」


「ああ、なるほど。ガストル侯爵ね。確かに何かしてきそうね。ま、それは分かったわ。でもまだ秘密ってことはいつかは公表するのよね?」


「ええ、勿論です。ただ今は立場が弱すぎるので」


「じゃあ、まず。香水はもちろん売っていいのよね?私だけが使っても構わないけど、売り出してしっかりと利益が欲しいのよね?」


「勿論利益が欲しいので売って下さい。ただし、問題は特許をまだ取って無いことです。それと、まだ家族にも話して無いのも問題なんですが」


「え?そうなの。カインちゃんも知らないの?」


「お祖父様にもまだですね」


「話さないの?」


「うーん、迷ってます」


「とりあえず私がマークちゃんとサラちゃんに話してみましょうか?何だったら私がアレンちゃんの代理で特許の登録してもいいわよ。信用してくれるなら、だけどね」


「そう···ですね。クルタさんはお祖父様からの付き合いですから信用はしてますが父さん達に余裕があるかが問題で······。うーん、···分かりました。まず先に僕からある程度話しておきますから一時間後くらいに屋敷に来てもらえますか?」


「一時間後ね、問題無いわ。私に任せてー、絶対悪いようにはしないから」


「すみません。では一時間後に屋敷で」



 宿屋を出てクルタさんと別れた僕は、屋敷に戻り書斎で父さんに香水を見せ香水を作る課程で作った蒸留器と蒸留酒の説明もすることになった。

 勿論何故作ったのかも話したし計画してた予定も話した。

 それでも僕の計画を眉間を抑えながら聞き終わると父さんは肩から大きくため息をした。


 説明が終わった頃にクルタさんが屋敷に着いたらしく、すぐに客間に移動して、僕、父さん、母さん、クルタさん、の四人で話しが行われ、母さんとクルタさんの猛プッシュにより父さんは首を縦に動かすしかなくなった。

 話し合いの結果、とりあえず香水はクルタさんが辺境伯領で代理特許を取り、クルタさんの伝手を隠れ蓑にして販売することになった。

 ちなみにクルタさんの伝手は辺境伯。

 クルタさんはあのなりで辺境伯の兄らしく辺境伯を継ぐのが嫌で家を飛び出し冒険者をやっていたそうだ。そして冒険者時代に爺ちゃんたちのパーティと度々一緒にクエストを受けたり、ギルドの酒場で爺ちゃんやギルバートさんと一緒に騒いだ仲だそうだ。

 それと、父さんのことも赤ちゃんの時から知っているそうで、父さんもクルタさんに抱っこされたことがあるそうだ。


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