第4話 困惑?抜け落ちた危険な記憶
今回から、既出のキャラの視点は<>で表そうと思います。
<大野ソラ(本人視点)>
あれ、俺何してたんだ?
なぜかここは屋上理科室に忘れ物を取りに行ったところまでは覚えているが、そのあと何してたのか全く思い出せない。
さすがに11月に外でうたた寝すると結構寒い。さっさと教室に戻るとするか。
そして、廊下にさしかかったところで教頭に出くわした。
「やーべ」
「大野ソラ君じゃないか、君は一体ここで何をしているのかなあ?」
過去に何度か悪い意味でこの教頭のお世話になっていたせいか、完全に顔と名前を覚えられている。ツルツルの頭に厳つい眉、そして黒スーツ。見た目だけならこの教頭は完全にヤクザだ。
「い、いやあ階段で昼ご飯食べてたんですよ!一人になりたくて」
とりあえず屋上には入っていない。こういう体でいこう。
「ほう」
教頭はさらに表情を険しくすると俺の横を通り、屋上の扉を開ける。
「なんで開いてるんだろうねえ、大野君??」
ニゲラレナイ、考えろ、俺。どうすればこの局面を乗り切れるか?
「なにか言いたいことはあるか大野」
「、、そ、そうです、実は気が付いたら屋上で気を失ってたんですよ。僕も何が何だかわからなくて、」
嘘は言っていない。実際、俺はなんで屋上にいたのか今もわからないのだから。
「そんな言い訳通用するわけなかろう!!!」
まずい、教頭の地雷を踏んでしまった。
「そもそも、授業をほっぽり出して屋上で昼寝とはいい度胸だな。」
「ちょっと待ってください、今何時ですか?」
「、、全く貴様は、、二時半だ。」
「ああなるほど、もう六限ですか。すぐに戻りますね」
「はっはっは、どこへ行こうというのかね?」
あ、いやな予感。ここはさっさと授業に向かいたいのだが。
「よろこべ大野、君を私の部屋に招待してやる!」
俺は観念して教頭の後についていくしかなかった。出てこれたころには授業は終了していた。
学校から帰った俺だったが、思い返してもなんだか違和感がある。なぜ俺は屋上で意識を失ったんだろう?どうやって入ったのかも謎だ。何か、重大なことを忘れているような、、
食事をしている時も、風呂に入っている時も、そしてゲームをしながらも、何か頭に靄がかかっているような気がしている。
「なんだこりゃ」
ふと、携帯のタスクビューに録音アプリがあるのを見つけた。録音アプリなんていつ開いたんだろう?そう思ってみてみた俺は、一番上に今日昼間に記録された新しい音声ファイルを見つける。
何はともあれ、とりあえず聞いてみるか。12時47分作成と表示されているが、俺はちょうどその10分前くらいに教室に忘れ物を取りに行ったはず。記憶がないのはその後だ。
だが、流れてきた音声はさらに俺の頭を悩ませた。
『でもやっぱり君は知りすぎた。光学迷彩も見せちゃったし、ここの記憶は消させてもらうよ~。楽しかったよ、少し遊べて♪
あんたら、まさかとは思うけど来訪者か
どう見ても動くしっぽが生えてるへそ出しルックなお姉さんにいきなり銃を出す女子学生。しかもその銃は明らかに地球で見たことがない。さっきまでの2人の会話から考えても、こりゃもう、宇宙人しか答えはないだろ
ありゃりゃ~、何から何までばれちゃったかあ。こりゃいよいよ君の記憶を消さないとね。確かに私たちは、宇宙から来たんだよー』
どういうことだ、、?聞こえてきたのは佐藤さんと、確かに俺の声。もう一人知らない女の人もその場にいたみたいだが、、何よりその内容。
宇宙人との接触から早一か月、転校生は宇宙人のスパイだった、なんてそんなファンタジーな展開あるのか?いや、宇宙人が来た時点で相当非日常だったか。
録音を何回か繰り返し聞いてなんとなく話がつかめてきた。
つまり、今日の昼休みなぜか知らないが屋上に入った俺はそこで佐藤さんとその仲間に遭遇。二人は実は宇宙人で、がっつり見ちゃいけないものを見た俺は謎のハイテク装置で記憶を消された。こんなところだろう。この録音は2人に気づかれないよう、当時の俺がこっそり記録したということになる。
さて、いよいよ面白いことになってきた。どう考えても俺はヤバい状況だったし、なんならこんな記録を持ってる時点でなおのことヤバくなってるかもしれない。はてどうしたものだろうか?
もちろんこのままなかったことにするという選択肢はない。だって考えてもみろ、宇宙人だぞ?その単語だけで飛び上がりそうだ。向こうが死を振りまくようなエイリアンならかかわるのはごめんだが、文明が進んでるだけでほとんど地球人と変わらなさそうだ。ぜひお近づきになりたい。
とはいえ、下手にコソコソ動き回ると今度こそうっかり殺られかねないし、ここは正面からがっつりと問い詰めるか?
<佐藤ユウナ(神の視点)>
「そういえば、面白いガキだったな」
ソファに寝っ転がったままリリーが言った。ここは佐藤ユウナとリリーの《《拠点》》であり、一時的な自宅だ。
佐藤ユウナ。彼女にとってそれはこの星での仮の名前に過ぎず、この場合は不適切かもしれない。本名スターラ・ユウナ、15歳。星間連合加盟の『海空星』出身で、職業は宇宙解決屋。
「あ~、ソラ君ねー。久しぶりに面白そうな人だったよ。まさかあそこまで気が付くなんてね」
「笑いごとじゃないよ、ユウナ。あんたまた怪しまれないように注意しな?」
「もー、普通にしてれば大丈夫だってばー。今日のはリリーが変装もしないで見つかっちゃったからでしょ!」
「はははは、悪かったよ、今度から気を付けるからさ。」
ユウナとリリーの2人は同じ船のクルーとして同じ任務についている。
すなわち、《《新惑星》》における情報収集、そして諜報。本来ユウナが学校に通う必要はないのだが、彼女が気まぐれに興味をもって望んだこと、かつ一般的な教育機関に通うことでこの星の常識を得られるだろうという実利的な勘定もあってこうなったのだった。
得られた知識はクライアントである星間連合政府にフィードバック、向こうさんからの評価も上がるという寸法だ。
「ところでリリー、今日のミッションは?」
最初に彼女らに持ち込まれた依頼は明らかにこの星の法律にも触れるであろう調査諜報任務だった。
具体的には、ファーストコンタクト後の政府間交渉において平和的に事が進むための工作、そして既知の外野からの横やりの排除。
とはいえ星間連合政府直属の組織がそんなことすれば、発覚した時チキュウとの関係上大問題。そこで、あくまで政府とは《《無関係》》である宇宙解決屋の彼女らが極秘にその役目を果たす。
当然だが、信用がなければこんな仕事回ってくるわけないため、成功の暁にはかなり優遇されリターンも大きいだろう。
宇宙には様々な勢力がある。当然、星間連合が別系統ではぐくまれた《《新発見》》の文明と接触することをよく思わない者たちがいる。
すでにこのチキュウという惑星には宇宙から怪しげな連中が潜入しまくっているのだ。もちろん、まだ地球と星間連合は正式な民間交流を行っていないためユウナたちもそのまがい物の一端なのだが。
「今日はただのお掃除さね。それも結構な数が同業者と聞いているよ。どうやら個人で動いてる輩までいる始末さ」
彼女ら宇宙解決屋は信用が命。それが損なわれた者には美味しい仕事が回ってこなくなる。クライアントからの報酬で仕事をするジョーカーたちは、顧客によって顔見知りの同業者と敵になることも味方になることもあり、とにかくせわしない。
だからこそ、顧客とは関係のない今ある個人的つながりを重視する傾向にある。
「そりゃ大変だー、報酬が期待できそう♪」
「それじゃ、サクッといくか」
リリーとユウナは多機能ジャケットを着こみ、携行型光線銃を腰に入れると玄関から出るのだった。もちろん、光学迷彩を機能させながら。