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1-5. 州都

 次の日、陽が昇ると同時の出発となったので、朝食は宿屋が準備してくれたパニーノを馬車の中で取った。直ぐに山道に入ったので結構揺れがあるが、皆、気にせず器用に食べていた。昨夜の宴会で打ち解けたので馬車の中は、昨日と違ってすっかり賑やかだった。


 二度目の山越えは魔物が襲ってくることもなく峠を越えて、昼過ぎには州都に繋がる郊外の街に着いていた。遅めの昼食を食堂で取りながら、僕達は食後の珈琲を飲みながら歓談していた。


「へえぇー、グレッグさん達もミックさん達も東地区のギルドで、しばらく討伐クエストですか。」

「アレンはどうするんだい?」


 アンドリューさんの問いに僕は正直に答える。


「僕はまだ何も決めていなかったんですけどね。」


 州都セメキアは、冒険者になって一週間ほど研修で訪れただけで、北、東、南、中央の四地区に分かれていること程度しか僕は知らなかった。研修は州都を貫いて流れるニード川の中洲にある中央地区の本部で行われたので、各地区のギルドも訪れたことはなかった。勢いで村から出て州都に行くことにしたので実はどうするのか全く考えていなかった。


「アレン、東地区がクエスト依頼も多くて冒険者も多いから、落ち着きやすいと思うぜ。」

「ミックさん達は東地区のご出身なんですか?」

「おう、東地区は山に近くて迷宮ダンジョンも多くて魔物が多いからな。」


 ミックさんがアドバイスしてくれたので、僕はそれに乗ることにした。


「なるほど…僕も東地区でまず参加パーティ探しでしょうかね。」

「うん、それが一番だ。」


 グレッグさんが柱に掛かる時計をみて立ち上がって。


「さて、そろそろ出発の時間だな。」


 昼からも整備された街道を走るので、順調に馬車は進み、やがて日が暮れる寸前に馬車が州都の東門に辿り着いた。日が低くなり空が褐色に染まる中で、門番が御者から乗員のリストを手渡されて、馬車の中を確認していく。


「ランクCの方が九人、Dの方がお一人ですね。お疲れさまでした…ん?バルデス村からの便ってことは、ランクBの魔物を倒された方々ですよね?よくご無事で。」


 どうやらギルドにした報告が既に連絡されているようだ。西日に照らされたグレッグさんが門番に答える。


「運よく魔物同士が争ってくれて、その隙を突くことが出来て倒せたよ。」

「それは何より僥倖でしたよね。」


 門を潜り抜け州都の中へと進み、大通りを駆け抜けて、やがて日が完全に落ちた頃、馬車は東地区の停留所に着いた。この地区のギルドは停留所のすぐ傍だったが、残念ながら今日は窓口は終了していたので、まず僕たちは宿を取ることにした。宿屋の規模も大きく値段も若干お高めであったが、六部屋を確保できたので、皆、月末までの滞在を申し込む。全員が受付を済ませると、グレッグさんが皆に声をかける。


「じゃあ部屋に荷物を置いて三十分後くらいで食堂に集合な。州都、到着祝いだな。」

「「おぅ」」

「「はい」」


 昨日に続いて宴会の雰囲気だが、勿論、僕には断る理由はないし、皆も断らない。昨夜と同じようにグレッグさんと食堂の席を押さえて、全員が集まると酒と料理を注文して、宴会が始まる。昨日に引き続きグレッグさんが音頭を取る。


「皆の州都セメキアでの活躍を祈念して乾杯!」

「「乾杯!」」


 既に全員が打ち解けていて色んな話が気軽に飛び交っていた。やがて、アンドリューさんが問いかけてきた。


「アレンの究極技能アルティメットスキルなんだけど、どうな仕掛けなの?」

「…」

「あ、嫌だったら話さなくても全然良いんだけどね。」

「…いえ、皆さんには知ってもらいたいです。」


 個別に話していた皆が一斉に僕に注目してきたので、僕はスキルを皆に見せる。


隠蔽スタッシュ:アルティメット

 附属スキル:状態盗視ステータスピープ技能盗視スキルピープ

 Lv1:ステータス値またはスキルを3個隠蔽

 Lv2:ステータス値またはスキルを7個隠蔽

 Lv3:ステータス値またはスキルを15個隠蔽

 Lv4:ステータス値を全て隠蔽、スキルを15個隠蔽

 Lv5:ステータス値とスキルを全て隠蔽

 Lv6:パーティー内の親愛メンバーのステータス値とスキルを全て隠蔽

 Lv7:???


 まず隠蔽スタッシュの詳細を開いて見せた。隠蔽スタッシュは最初、外れスキルだと思っていた。そもそもステータスやスキルは、他人に見せないのが当たり前だ。


 参加するパーティを探すときや、追加メンバーを募集するときの条件で、最低限の情報を見せる程度だ。そうした場合、隠して中身を低く見せることに、普通は意味が見いだせない。皆も少し微妙な反応をして誰も言葉を発しなかった。


「「…」」


 続いて、究極技能アルティメットスキル附属おまけスキルを見せる。状態盗視ステータスピープ技能盗視スキルピープだ。


状態盗視ステータスピープ:エクストラ、盗賊スキル

 Lv1:パーティー内のメンバーのステータスを常時盗視、相手に察知される

 Lv2:パーティー内のメンバーのステータスを盗視、相手に察知される

 Lv3:パーティー内のメンバーのステータスを察知されず盗視

 Lv4:すべての人のステータスを盗視、相手に察知される

 Lv5:すべての人のステータスを察知されず盗視

 Lv6:パーティー内のメンバーの真のステータスを察知されず盗視

 Lv7:???


技能盗視スキルピープ:エクストラ、盗賊スキル

 Lv1:パーティー内のメンバーのスキルを常時盗視、相手に察知される

 Lv2:パーティー内のメンバーのスキルを盗視、相手に察知される

 Lv3:パーティー内のメンバーのスキルを察知されず盗視

 Lv4:すべての人のスキルを盗視、相手に察知される

 Lv5:すべての人のスキルを察知されず盗視

 Lv6:パーティー内のメンバーの真のスキルを察知されず盗視

 Lv7:???


 これらのスキルを持っていると、スキルがLv3までアップするまでは非常に苦労する。なかなか周りから嫌がられてパーティに入れて貰えない。


 初心者の時点でスキルはLv1から始まる。スキルの「常時透視」は自分も意識せず近づくだけでスキルが発動してしまう。しかも相手にも覗いていることが察知される。パーティに参加すると覗いていることがすぐに気づかれる。だからパーティ参加前にスキルを持っていることを告げないといけない。普通、そんな奴を好き好んでパーティに迎えてくれない。ノルバルトがこのスキルを持っていて非常に苦労したと言っていた。


 僕は幸い隠蔽スタッシュでスキルを隠すことができたので、常時発動を免れることができた。附属スキルは、親スキルに連動してレベルアップするので、Lv3まで隠し通すことが出来たのだ。


 アンドリューさんの隣に座るサマンサさんが微笑みながら呟く。


「おまけの方が便利そうね。」

「レベルが上がっていますが、勝手に覗いたりはしないようにしています。」

「まぁ覗いて貰っても私達は別に構わないわ。」

「…ありがとうございます。今となっては隠蔽スタッシュは、万能者オールラウンダーであることを隠せるので有難いですけどね。」


 僕は続いてもう一つの究極技能アルティメットスキル技能複製スキルコピーを皆に見せるために開く。


技能複製スキルコピー:アルティメット

 附属スキル:技能盗視スキルピープ

 Lv1:相手の了承を得てスキルをコピー

 Lv2:相手の了承無しでスキルをコピー、でも相手に察知される

 Lv3:相手に察知されずスキルをコピー

 Lv4:パーティー内の親愛メンバーにスキルをコピー

 Lv5:???

 Lv6:???

 Lv7:???


「ひゅーこいつは凄いな!」


 隣のテーブルに座るグレッグさんが驚いたように告げる。


「食堂で近くに座るだけでもスキル貰い放題ってこと?」


 グレッグさんの隣のエンマさんが尋ねてくる。


「はい、気付かれることなく頂くことが出来ます。擦れ違う程度では無理ですが、1分ほど同じ場所にいれば、覗いて複製させてもらえます。」


 反対側のウィルさんが呟く。


「高い金払って習得の書を買ってるのが馬鹿らしくなるレベルだよな。」

「…すみません…」

「いやいや、アレンを責めてるわけじゃないよ。」


 僕の隣のメレディスさんが思いつた疑問を口にする。


「最初は、了承して貰わないといけないから大変だったんじゃないの?」

「じいちゃんから戦士ファイタースキルを分けて貰ったんです。それでスキルの経験値を積んでLv3まで育てました。」

「そっかそっか、なるほど、じいちゃんがいたか。」


 昨日の宴会で、じいちゃんは僕の育った孤児院の院長で、ランクAの元冒険者だということは話してあったので、すんなり納得してもらえた。グレッグさんがじいちゃんのことで思うところがあったのか問いかけてきた。


「ランクAの冒険者なら州都に戻ればいい再就職先もあっただろうに、孤児院を立ち上げられたんだよな。いい方だったんだな。」

「ええ、僕も今なら解ります。じいちゃんには感謝しきれませんよ。」


 確かにランクAまで昇り詰めるのは、70万人以上いる冒険者のうち、3,000人足らずの貴重な人材だ。冒険者ギルドの役職者だけに留まらず、様々な業種のギルドも元冒険者をトップの人材として受け入れている。どんなギルドも冒険者との関りが必要であり、ランクAの元冒険者を伝手としてトップに据えることを望んでいる。じいちゃんはそういった道を捨てて、バルデス村に孤児院を設立してくれた。


「じいちゃんは、十三年前にバルデス村で発生した魔物暴走スタンピードで多くの仲間を死なせてしまった責任を取るためだと語っていました。」

「あぁーあの事件の関係者だったのか。」


 グレッグさん達も事件について知っていたようだ。バルデス村には数多の迷宮ダンジョンがあったが、いずれも余り脅威の高くないレベルだった。そのうち三か所が急に瘴気が高まり最大ランクB相当となり、一気に魔物が溢れ出し村を襲った。バルデス魔物暴走スタンピードとして有名な事件として知られている。


「えぇ、僕の両親が一早く異変に気付き、中央のギルドに相談したところ、じいちゃん達が派遣されたそうです。結局、想定以上に魔物が大量発生して、追加の応援部隊が到着するまで、僕の両親や大勢の仲間が盾になって村を守らざるを得なくなったようです。」

「その時にご両親も犠牲になられたのね…」


 サマンサさんが哀悼の意を込めてつぶやく。その時にバルデス村で冒険者をしていた僕の両親とハイマンの父親、宿屋を営んでいたソニアの両親が犠牲者の中に含まれていた。犠牲者が残した孤児達は赤ん坊から成人間際の者を含めると二十人近くもいたが、じいちゃんが中心となって孤児院を設立して全員が引き取ってもらえた。


「えぇ、僕達は宿屋の炊事場の倉庫に隠されて難を逃れたんです。犠牲となった冒険者や村人達が残した孤児達を成人まで育てるのが、事件の対策責任者であった自分に課された使命だと、常々じいちゃんは言っていました。」

「責任感の強い方だったんだな。」

「えぇ…でも三年前に流行り病であっさり亡くなちゃいました。」

「「…」」


 なんか、折角の州都到着祝いの席がしんみりとしてしまった。皆、暫く黙々と酒を飲んでいたが、場の重さに耐え切れず、フランクさんが話題を変えようと聞いてくる。


「ところで、アレン君は最初から、万能者オールラウンダーだったの?」

「いいえ、最初は戦士ファイターでした。ノービス終わるころには技能複製スキルコピーがLv3になっていたので、他の人から魔術師や僧侶の呪文、盗賊のスキルを貰いました。」


 ウィルさんが引き継いで問いかけてくる。


「でも単に貰っただけじゃ使いこなせないよね?」

「はい、一人でこっそり実戦練習しました。」


 アンドリューさんが後を引き継ぐ。


「かなりしっかりこなさないとそこまでレベルアップしないよね。いっぱい努力したんだな。アレン、お前の才能は凄いよ。」

「いえいえ、才能なんてないですよ。僕には当たり前のことをコツコツやる方法しかないですから。大したことをやって来た訳じゃないですよ。」


 グレッグさんが腕組みして告げる。


「当たり前のことをコツコツ努力できるのも立派な才能だ。」

「…」

「アレン、お前は凄い奴だ。」

「…ありがとうございます。」


 皆から褒められて、僕はくすぐったいが、皆から認められていることがとても嬉しかった。こうして僕の州都での新生活は、僥倖な会遇によって順調に滑り出したのだった。

この世界では成人は十五歳からです。毎年、七割ほどの若者が冒険者登録を受けて研修を受けますが、4~5割ほどは1年足らずで別の道に進みます。なんたって魔物と戦う命がけの職業ですから。

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