1-1. 追放
主人公が戦士という珍しい?設定のナーロッパファンタジーで追放ものに挑戦してみました。微妙にアレンジしていますがベースとなるRPGイメージはウィザードリィです。ほぼゲーム実装可能なレベルまでステータスなどの設定を詰めています。もし興味を示す方がおられたら公開も考えてみます。
「おい、アレン!お前は今日限りでこのパーティから追放だ!」
宿屋の食堂の丸い食卓を囲んでいる「隠された探求者達」パーティメンバーの前で、リーダーのノルバルトが僕に宣告した。
「…ノ、ノルバルト、何で急に!?…い、いったいどうして僕が追放されなきゃいけないの?」
一日かけた討伐クエストを終えて宿屋に帰ってきて、夕食前の反省会の場で、いきなり伝えられた宣告に戸惑った僕は、思わず右斜め向かいに座るノルバルトを見つめて、その理由を問いただした。
盗賊特有の軽装姿の彼は腕を組んで黙ったまま、睨み返してきた。
ほんの束の間、視線を交えあっていたが、僕はその眼光の鋭さに堪えきれなくなり、やがて食卓を囲む他のメンバーに視線を移した。
ノルバルトの左、左斜め向かいに座る黒いローブを纏った魔術師姿の男はアレンに厳しい視線を返して、ノルバルトに同意を示すべく黙ったまま頷いた。
「…ハイマン…」
「…」
ノルバルトの左隣り、僕の右横、と言っても少し離れた位置に座っているソニアはというと、僕が向けた視線を避け目を合すこともなく頷き、同意を示した。
「…ソ、ソニアも?」
「…」
「…ぼ、僕達は幼馴染だろ?」
「…」
彼女も魔術師であり、濃茶色のローブを纏っている。僕とハイマンと彼女は、幼馴染で人生の半分以上を過ごしてきた間柄であったが、僕を庇うつもりは無いらしい。僕と向き合うこともなく無言で同意を示していた。
最後に僕の左隣、ソニアと同じく少し距離を取って座っているパメラに視線を移す。祭服を着た僧侶姿の彼女は、先ほどから彼ら達4人だけで回し見していた手元の羊皮紙をコツコツと叩いて、追放の理由を告げはじめた。
「今日の討伐クエストで得られたみんなの経験値が少なすぎるのよ。アレン、貴方が足を引っ張ているとしか考えられないわ。」
「そ、それは…」
「この間、応援で参加した別のパーティで教えてもらったの。今日と同じようなクエストで得られる経験値は少なくても30,000ほどだって。
でも今日、私達が得られた経験値は20,000とちょっと…」
アレン:3,989
ノルバルト:4,017
ハイマン:4,022
ソニア:4,094
パメラ:4,103
パメラは先ほどメンバー全員で確認しあった各々のステータスから獲得経験値だけをメモしていた。いつもはステータスを確認しあうだけなのだが、今日に限って彼女は羊皮紙にメモを取っていたのだ。僕を睨みつけていたノルバルトが、パメラの後を引き継ぐ。
「そうだ。得られる経験値が多少上下することはあるが、いくら何でも三分の一が失われるのはあり得ないだろ?」
「…た、確かに…」
「俺らの魔法や攻撃は確かに魔物たちに効いている。今日のクエストでもキチンと静止やダメージを与えていた。となると最後に止めを刺しているお前がしくじっているとしか考えられない。」
「…え?」
「本来、戦士で一番活躍して最も多い経験値を得ているはずのお前が最下位だなんて有り得ない!」
「…い、いや、それは…」
「ここ半年ほど、ランクDに上がったあたりから、俺達パーティは伸び悩んでいる。お前がちゃんと出来ていないから経験値を取り零しているんだ!」
「…そ、そんなことは…」
やがて、今まで黙っていたハイマンが、灰色の瞳を険しく僕に向けて、絞り出すように問いかける。
「アレン、前々から四人でいろいろ話し合った結論だよ。もし違うというならお前の口からしっかりと説明して欲しい。」
「…」
今までこちらに視線を向けること無かったソニアまで、その青い瞳で訴えるように僕を見つめていた。四人から注目を集める形になった僕は、只管この状況をどうしようかと考える。
(うまく説明なんかできる訳がない、この場でうまく説明できるくらいならとっくに説明できていたはずだ…)
「…」
(でも説明できなければ追放されてしまう。でも仮に説明できたとしても、その結果、怒られて、責められて、嫌われて、追放されるに決まっている…)
「…」
(…結果が同じなら何も言わない方が良いのか…)
「…」
五人の間に長い沈黙が漂った後、堪えきれなくなったか、ノルバルトが結論を出した。
「アレン!やっぱりお前は俺達の足手纏いだ!だからパーティから出ていけ!」
僕はパーティから追い出されてしまった。パーティ共有財産は渡さないなど、細々としたことを一方的に告げられ、四人前の食事を注文したところで…
「以上だ!アレン、あばよ!」
最後にノルバルトは冷たく言い放って、追いやるように手を振った。
「…わ、わかったよ…」
成す術を無くした、僕は一人だけ自分の部屋に戻った。
半年間の研修クエストを終えて、幼馴染三人とパメラを加えて結成してから二年、ノルバルトが加わり五人となって二年半を過ごしてきた「隠された探求者達」パーティを追われることになった。
宿屋のこの部屋もパーティで借りているので、月が替わる明後日には出ていかないといけない。今日のクエストを妙に急いでいたのは、月が替わると代金を払って無駄になる部屋を取る必要があるからだ。だから今月中に彼らは結論を出したかったのだろう。
夕食抜きとなったので、お腹は空いているはずだが、余りの出来事に食欲は全く感じなかった。
(…荷物をまとめないと…)
そう思ったが、とてもその様な気分になれず、訓練用の剣を取り中庭に向かった。
(何故こんなことになってしまったのだろう?)
(何が悪かったんだろう…)
本来、クエストがあった日は。夕食後そのまま二度目の反省会という呼び名の酒盛りに付き合い、基礎鍛錬をすることは無かった。しかし、今夜は時間を持て余して仕方ないので、中庭で鍛錬の素振りを繰り返しながら、昨日からの出来事を思い出していく。
確かに昨日、討伐クエストをギルドで探している時から違和感を感じていた。いつもはクエストの難易度などを気せず、報酬の良さげなクエストを選んでいるノルバルトが、やけに受付嬢に注文を付けていた。
「もうちょっと難易度が高いの無いかなぁ?」
「貴方方のランクでは少し難易度が上がりますが大丈夫でしょうか?」
「構わなねえよ、連携の良さでカバーするから。」
「では、こちらのアークデーモン討伐は如何でしょうか?」
「おっ、ちょうどいい按配かな…」
「五体のポイズンフロッグを従えている奴です。」
「ばっちりだな!そのクエストの手配を頼む!」
「ではこちら手配しますね。」
「距離的にも日帰りできるよな。序に往復の辻馬車の手配も頼むわ。」
「わかりました。」
そのときは、何がばっちりなんだろう?と気にはなったが、振り返ったノルバルトから準備の指示を出されて直ぐに忘れてしまった。
昨日は、ポーションの買い出しや武器の確認を手分けして慌ただしく行った。やけに急ぐなとは感じたが、以前にもこのようなことはあったので、この時は可怪しいとは感じなかった。
そして今日、今朝一番の辻馬車で一時間ほど揺られてクエストの場所へ向かった。目的地の村に着き、山の麓まで歩いて進み小一時間ほど森の中を探し回って、目的のアークデーモン達を見つけて戦闘が始まった。
馬車の中で粗方の作戦、戦闘方針は決めてあったので皆、慌てることはない。
前衛に戦士である僕と盗賊のノルバルトが出る。後衛にハイマンとソニアの魔術師二人と僧侶パメラが控える態勢である。
魔物側もアークデーモンが一番奥に控え、ポイズンフロッグがVの字状に展開する。
全ての敵にパメラが静止魔法Lv4を掛け、先頭のポイズンフロッグをハイマンが火炎魔法Lv4で倒す。空いた隙間を僕が駆け抜け、動きの止まったアークデーモンにダメージを与えていく。
ハイマンとソニアは、アークデーモンが唱える魔法攻撃に防御を行いながら、止まっているフロッグ達に魔法攻撃を掛ける。ノルバルトも順にフロッグにダメージを与えて倒していくといった作戦だ。
前衛の二人が攻撃を受けたら即座にパメラが回復魔法と解毒魔法を掛ける。
もし傍から第三者が見るとほぼ皆、作戦通りに何も問題なく作戦を進められていると思うだろう。しかし、実際は微妙に異変が生じていた。
まず、パメラの静止魔法の効きが甘い。
スキルレベルとステータス値は十分にあっても速度と正確性に欠け能力を使いこなせていないため100%の効果が発揮されいない。
パメラの静止魔法Lv4は、本来、全ての敵の動きを止める。
しかし、静止効果が甘いとアークデーモンは呪文を詠唱して魔法攻撃を行ってくる。攻撃を食らうと一気に全員が大ダメージを負うことになり、パメラの回復魔法では追い付かなくなる。
そこで僕はパメラの静止魔法Lv4に重ねるように静止魔法Lv5(敵単体を気絶させる)を掛ける。
ほぼ同時に魔法を無詠唱で発動しているので、パメラが静止を掛けたようにしか見えないだろう。
先頭のポイズンフロッグは、ハイマンの火炎魔法を食らっているが、微妙にまだ動けるので急所に中るのを避けており、魔法効果も不十分なので、六割程度ほどしか削れないだろう。
そこで僕はハイマンの魔法の軌道に合わせて、同じく火炎魔法を無詠唱で発動する。フロッグは二人からの魔法を食らって絶命した。その横を僕は摺り抜けてアークデーモンに斬りかかる。
気絶しているアークデーモンは僕の剣で大ダメージを食らい一気に瀕死となる。余裕が出来た僕は、アークデーモンにダメージを与える振りをしながら、ポイズンフロッグ達が毒攻撃を行う直前に静止魔法、気絶を掛けていく。
しかし、ほぼ同時に左右の端の二体がノルバルトとソニアに向けて毒攻撃を行おうとしたため、ソニアに向かっていた奴だけしか対処できなかった。ノルバルトは毒液を避けれると思ったのだが、油断していたのか、彼は左腕に毒液を浴びてしまった。間髪をいれずパメラが解毒魔法を掛けるのだが、如何せん詠唱が遅いうえに正確性にも欠けるので十分に治療が出来ないだろう。仕方なく僕は解毒魔法を無詠唱発動してノルバルトを治療する。
ノルバルトが二体目のポイズンフロッグを倒したので、僕はアークデーモンに止めを刺して、残っているポイズンフロッグを順に剣で倒していった。
結局、彼らはランクDの冒険者であり、仮に持てる力を全て発揮できたとしても討伐ランクCのアークデーモンのを倒すには力不足であった。同ランクのポイズンフロッグを一対一でたっぷり時間をかけて倒すのが関の山である。更に各人が七割程度の効果しか出せてないとなると、この魔物群を討伐するのは到底不可能あり、良くて瀕死状態で撤退、普通ならば全滅、全員あの世行きである。
しかし、彼らは討伐を成功させた。アレンが本来、戦士が使えるはずもない魔術師と僧侶の呪文スキルを駆使して攻撃して防御したからだ。
敵に与えたダメージやスキルの発動成功によって得られる経験値は、アレンにより多く獲得されることになる。この日、アレンが獲得した本当の経験値は13,000強であったのだ。ノルバルトの言う「失われた三分の一の経験値」はアレンのあるスキルによって隠されていたのであった。
一時間ほど剣技型の素振りを終えて、汗ばんだ体を上着を脱いで拭き取りながら、自分のステータスを呼び出す。
職業:戦士
レベル:48(Dランク)
経験値:819,529(+3,989)
体力:2,613/11,069(+55)
魔力:256/1,147(+6)
筋力:10,294(+50)
知力:2,049(+10)
速度:8,195(+40)
正確性:7,376(+36)
回復力:1,229(+6)
技能:
戦士スキル:切断Lv4、殴打Lv4、防壁Lv4、気合Lv3、威嚇Lv2
部屋に戻ろうと裏口から二階に上がる階段のところで、食堂からノルバルトの笑い声が聞こえてきた。酒盛りでも一人黙々としているか、程々(ほどほど)にしてはなどと水を指すアレンを追い出したことですっかり盛り上がっているようだ。それを聞いて暗鬱とした気持ちを感じながら
技能隠蔽、通称、へそくりスキルの解除を発動させる。
職業:万能者
レベル:83(Bランク)
経験値:4,689,289(+13,011)
体力:18,375/66,822(+185)
魔力:17,339/62,133(+172)
筋力:62,133(+172)
知力:59,788(+166)
速度:57,444(+159)
正確性:57,444(+159)
回復力:7,503(+21)
技能:
戦士スキル:切断Lv6、殴打Lv6、防壁Lv6、気合Lv5、威嚇Lv4、挑発Lv3
魔術師スキル:火炎Lv6、水流Lv6、照光Lv6、疾風Lv5、硬化Lv4、霹靂Lv4、
断熱Lv3、氷雪Lv3、光撃Lv3
僧侶スキル:回復Lv6、防御Lv6、強化Lv6、停止Lv5、迅速Lv5、解毒Lv4、攪乱Lv4
盗賊スキル:探査Lv6、座標Lv6、感知Lv6、状態盗視Lv4、技能盗視Lv4
賢者スキル:無詠唱Lv4
究極スキル:隠蔽Lv6、技能複製Lv4
アレンは有触れたDランクの戦士ではなく、19歳という年齢には夙成すぎるBランクの万能者であった。
ざくっとした獲得経験値イメージです。
アークデーモン(討伐ランクC)獲得経験値:5,000
ポイズンフロッグ(討伐ランクD)獲得経験値:3,000
スキル発動経験値:1,000✕5
群討伐ボーナス:1,000✕5
これで合計30,000ですが、アレンの呪文発動が正確なため+αが加算されています。