嵐未だ来ず ー1ー
転校生が来る前の生徒会役員の日常
生徒会室――それぞれの席で担当の書類を処理している生徒会役員達の空気は重かった。
眉間にシワが寄っており、しかめっ面をしているのは生徒会長である大和貴一。
いつもの優雅な笑顔が消えている副会長、和泉聖夜はパソコンの画面とにらめっこしつつ、素早くタイピングしている。
普段からあまり喋らない書記の日向乾の口は頑なに閉じていて、表情が窺えない顔は心なしか青褪めていた。
庶務である双子――因幡大地、大気は会長の顔色を窺うように、チラチラと目を移している。
そして、一人暢気に書類を目で追いながら電卓のキーを叩いている会計――甲斐孝彦。
張り詰めた空気の中、大和が山の様に積み重なっていた最後の書類にサインをし終え、ペンを置いた。
「甲斐、コーヒー」
「はぁー?何で俺がー?」
口を開いた大和は甲斐にコーヒーを要求する。
電卓を叩いている手を止めた甲斐は、視線だけ大和に向けると至極面倒くさそうな顔をした。
「「甲斐先輩空気読んでよー!」」
甲斐の言葉についに双子が一斉に席を立つと甲斐を指差し、眉を吊り上げる。
「だってぇー自分でいれればいいじゃーん?」
「甲斐が入れるコーヒーが美味しいって知ってるからね、僕には紅茶よろしくね」
甲斐は口を尖らせながら不満を口にすると、和泉がにこりといつもの笑みを浮かべ、さり気無く自分の分もお茶を入れるよう言う。
一年の頃庶務をしていた甲斐はよく会長である大和にお茶を入れていた。――嫌々だったが。
その味は大和や和泉も気に入っており、双子や日向も生徒会に入ってからは何度か入れてもらっている。
「うえぇーさっきまでせっせと働きアリの如く働いてた俺を、まだ働かせるつもりなんですかぁー?ひどぉー」
「五月蝿い、さっさと俺にコーヒーだ」
「めんどぉー、しょーがないですねぇー、もぉー」
ブーブーと文句をたれる甲斐に対し、睨みつけてそれを言わせない様にする大和。
甲斐は苦い顔をしながら嫌々席を立つと、猫背の状態でとぼとぼと生徒会室に備え付けられている給湯室へと向かっていった。