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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
妖蔓延る世界のお話。対校戦編
99/210

“蛇”

「状況は?」

「実験段階の危妖を十体、他にも雑多な妖を送り込みましたが、碌に成果を得られておりません」

「そうか」


男が立ち上がり、部下に檄を飛ばす。


「彼の地で、“樹”の脈動を感知した。それにより、我らが悲願はついに達成される」


諸手を挙げ、男は語る。


「目標は樹だ!それを目指し、各々動く様!」


この場にあった、役百の影が一斉に消える。


「…行くぞ、向こうへ」


「もっと遠くへ!!」


「この次元を越えた、“先”に!」


「…お前はそこに居るのだろう?」


“鳴渡”よ。


──────────────────────────


「だぁ〜っ!上手くいかねぇ〜!」


辺りには根が露出した木が倒れ、地面は液状化している。


「もーちょい使い勝手が良ければな〜」


座り込み、頭を掻きながら思案する。

ああでも無いこうでも無いと頭の中を行ったり来たり。


「『地面を液状化して相手を拘束する』とか考えたはいいけど無理に等しいよな…」


地面に音を流し込み、土や岩を細かい粒子にして、まるで液体の様にし、相手の動きを封じる…と、字面だけを見れば簡単だが、無論地面を水にしたことはないし、なった所を見た事があるわけでも無い。


「…親父はどうやって金稼いでたんかな」


音の力は親父譲り、と言われた事がある。

親父も他の音の術士みたいに人殺して金貰ってたんだろうか?

…少し不快な所はあるが、それで家が保ってたんなら仕方ないか。

殺すのも流石に悪人だけだろうし、流石に見境なく殺す様な人じゃなかった筈だ。


「…お袋は…話題すら聞かねぇし」


 不思議な事に、全くと言っていいほどお袋の事は聞かない。

何か秘匿する様な事があるんだろうか。

正直、お袋の名前だってろくに覚えてないし。…親父もだけど。


技の空想も上手くいかず、途方に暮れる鳴渡。

幾つもの木々を倒し、それでもなお思う“何処か違う”。


「う〜ん…何が違うのかも分からねぇ…」


既に十の木を倒し、感覚は掴めている。

幸い、ここは地盤が硬い。柔らかい所などの練習も出来るだろう。


兎に角、がむしゃらにやるしか無い。

凛や龍笠、白園達との間にある実力の差を消すんだ。


「っ!『振動、強』!」


片方の手の指を地に刺し音を流し込む。

地面が大きく揺れ、木が生える地がまるで水の様に波を打つ。


「音砲ぉっ!」


空いている手を媒介に、音の力を押し出す。

轟音と共に、木に穴が空く。


息が切れる。

音砲の衝撃で十米程後ろに下がっている。

地面へと音の振動を流し込んでいた方の掌は、爪が割れ、小指、中指の関節が逆方向に曲がっている。

音砲を放った方の腕は肉が剥がれている。


せいぜい、反動技の域を出ない使う意味の無い技。

これなら、普通に二本の腕で音砲を打った方が負傷も少ない。

だが、それでは面白く無い。


凛は、あの破壊力を唱と流星の力があるとはいえ使いこなしていた。

龍笠だって、親譲りの鱗でどんな一撃だって受け止められる。

白園なら、もっと効率よく術が使える。

夢方だったら、搦め手を責める事が上手くできる。


結局、才能には勝てないのか?

凡人はどんなに苦労しても思い通りには行かないと?


「…やってやる」


この術を完成させ、天才共に一矢報いてやる。

凡人様が天才様を下ろしてやる。


黙に貰った薬を飲み干し、早速思いついた物を片端から試す。


“左右の力に強弱をつける事ができるか”。

“出来たとして、それにどれほど霊力を持っていかれるか”。

“また、その霊力を使うだけの効果があるか”。


「…」


ふぅ、と息を吐き、霊力を練り直す。

そもそも、音砲だって莫大な量を持っていくのに、更にそこに足されるからたまったもんじゃ無い。


両の手を地に沿え、指を突き刺す。

左に多く霊力を込め、右との差異を作る。


「『振動、強』っ!」


音を立て、木が地に沈んでいく。

右との違いは、右は幹の中腹まで沈んでいるのに対し、霊力を多く込めた左はあわや葉につく勢いで沈んでいった事。


「…霊力を込めれば込めるほど範囲が広くなるが…今回は失敗だな」


下を見ると、自らも液状化した地面に埋まっていた。

それに、所詮幅が増えただけで、半球状になっている様だ。

こんな様じゃ、凛は愚か風間だって一瞬で抜け出せる。


「球状じゃダメだ、筒状にしないと…」


目指すは、水筒みたいな筒。

とびきり深く作らなければ、一瞬で抜けられる。

妖だって、捉える事ができるかもしれない。

…てか、そっちが本題か。


「…まだ時間はあるか」


太陽は高く、辺りを燦々と照らしている。


──────────────────────────


「いやぁ〜、御苦労さん。これお駄賃ね」

「要らんわ!あまり歳も変わらんだろ!」

「…貰えるものは貰っといた方が良い」


凡そ十体の危妖を打ち倒し、なお余力のある学長達。


「のう、秋元」

「はい、何です?楠さん」


蓮学学長、楠が何かに気づく。

その様は、怨敵を見つけた様な、苦虫を噛み潰した様な、そんな顔だった。


その顔を見、秋元もまた気を引き締めなおす。


「“これ”知っておるか?」

「…えぇ、よく知ってますよ」


楠が指した先にあったのは、脈打つ心臓の様なもの。

それは確かに、今もまだ生命活動を行なっている様に、動き続けていた。


「わしの勘違いで無ければ、これは禁術だった筈。どうして危妖が待っておる?」

「…昔、と言っても凡そ三十年くらい前ですかね。とある事件がありまして、その時“これ”に似た物が盗まれましてね」


「盗んだ奴らは、“蛇”と呼ばれている組織らしいです」

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